世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちは魔神の核にたった1人で立ち向かうミドネイトの後ろ姿を見ていた。リュミエがノイトとミドネイトを交互に見ながら尋ねてくる。
「ねぇノイトくん、私も行った方が良いかな?流石に1人であれは......。」
「大丈夫。あの人、最強だから。」
「......最強......?」
ノイトは普段“絶対”や“最高”などの言葉を滅多に使わない。そんなノイトが“最強”と言ったのだ。間違いないだろう。ラルカは念のため[漢字]拳銃[/漢字][ふりがな]ハンドガン[/ふりがな]を構えたままで待機している。
「ノイト。各所に散っていたやつらも直に駆けつけてくる。あまり情けない姿を見せるなよ?」
「ん〜、まぁ、程々に?」
「......ハァ......まったく。体力が残っていないなら私が肩でも貸してやるから、さっさと立て。」
疲れていたノイトはやや甘えモードだったため銃を降ろしたラルカに体重を預けたまま笑みを浮かべた。
「ノイト......?」
「ごめんね、こうしてると落ち着くから......。」
「[小文字]ん......そんなことしてるとリーリャに妬かれるぞォ?[/小文字]」
「あ、デレた。」
「......疲れているなら休んでろ。」
メルクがスティレットをノイトに向ける。
「あんまりイチャついてると捌いちゃうよ?」
「あっ、怖っ......。」
少し調子が戻ったようだ。カメリアがメルクを抑え込んでいるが、あまり浮かれているとノイトがコンビーフになってしまうだろう。
「ノイトくん、あれ......。」
リュミエの声で振り向いたノイトの視界に映ったのは魔神の核が再び周囲の魔力を集中させている様子。ミドネイトは手元に現れた魔法の杖を手に取ってその先を魔神の核へと向けた。魔神の核の背後の時空間が歪んだように見え、ミドネイトが僅かに目を細める。
「ノイトくん、何が起こってるの......?」
「んん......水に絵の具垂らした感じだよ。外から変なものが入ってきたのかも。」
「?......ゲデニス、どういうこと?」
リュミエに名前を呼ばれたゲデニスが白い炎の姿でリュミエの隣に現れ、ノイトの記憶を読み取った。
[大文字][太字][明朝体]「......なるほど、私たちよりも上位存在が居て別レイヤーに居るわけか。......なぜお前はそんなメタ的な視点を持っているのだ?」[/明朝体][/太字][/大文字]
「[漢字]想像力[/漢字][ふりがな]イマジネーション[/ふりがな]が変な方向ばかりに鍛えられてるもんでね。」
ゲデニスの軽い説明を聞いてメルクたちが前に出てくる。
「取り敢えず、あれが面倒なやつだってことはよく分かったよ。それで、どうするの?私たちの攻撃が効くか怪しいんじゃない?」
[太字][明朝体]『あの魔神の核は僕たちに影響を感じさせないように今も何かしてるのか?早めに片を付けておいた方が良さそうだね。』[/明朝体][/太字]
「ルミナスたちが来る前になんとかしないと被害が増えちゃう。」
3人は武器を手にミドネイトの後に続こうとしたが、それをノイトが止めた。
「スト〜ップ!大丈夫だから。」
「でも......。」
「良いから見てて。」
ミドネイトが杖を翳すと微細な文字のようなものが浮かびあがり、同時に魔神の核の周囲を囲うように同じものが浮かび上がる。蒼い文字の羅列が魔神の核を中心に回転し始め、辺りが一瞬光で満たされた。次の瞬間にはもう既に魔神の核は容器のようなものの中に封印されている。
「はい、終わったよ〜。」
「え、早くない?」「もう終わった!?」「......。」
「早いね。」
「まぁこのくらいなら。」
先程までの緊張感は何だったのか。ミドネイトは魔神の核が入った容器を引き寄せて手に持つ。
「ん〜、これって本当に魔神の核かな?前にレイクに見せてもらったやつは完全な球体に近かったけど......これ、欠片っぽいね。」
「欠片?」
「うん。ほら、割れてるように見えるでしょ。」
ミドネイトが見せた欠片を見ると確か割れたような模様がある。形も歪んでいた。
「それじゃあ、魔神の核じゃないものが魔神の核になってた......?」
「そういうことだろうね。さっきの干渉から推し量るに、世界のレイヤーが違うんじゃないかな。」
「ノイトくん、もう疲れてるでしょ。今日はもう休んで良いよ。私も疲れたし......。」
「あ、そうだった......。お父さん、みんな疲れてるから今日はもう休ませても?」
「あぁ、良いよ。そうだね、今日はノービリアにでも行こうか。」
故郷の名前を聞いてメルクが首を傾げる。
「え......今からレミステラに向かって、さらにノービリアまで行くんですか?」
「あー、いや、僕はマギノシティに[漢字]転送地点[/漢字][ふりがな]ランドマーク[/ふりがな]付けてあるからすぐにヴェルグランド大陸まで行けるんだよ。」
つまり[[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]]ですぐ近くまで行くことができるということだ。ノイトやメルクは使えないためすぐに思いつかなかったようである。
「それじゃあ、私リーリャたち呼んでくる。」
「あ、その必要はないよ。すぐに来るから。」
ミドネイトが時計塔がある方を見ると、リーリャとルミナスとシルイ、それからフィゼリアがこちらに向かってきていた。リーリャはノイトのことを見ながら走ってきている。
「リーリャ......!無事で良かっ...」
リーリャは座ったままで動けないノイトに抱きついて倒れた。
「......?リーリャ......どうしたの............?」
リーリャは何も答えない。しかし腕に入っている力はどんどん強くなっていってる。
「......っ、ふぅ............はぁ......。」
「......リーリャ?」
「......ノイト、話すことあるから来て。」
「え、あぁー、はい。」
リーリャは体力が残っておらずまともに歩くのも難しい状態のノイトの腕を引っ張って少し離れた場所まで移動した。
建物の影。リーリャはノイトの腕から手を離す。当のノイトは体力が残っていなかったためその場に崩れ落ちた。
「リーリャ......?」
「ノイト......なんで?」
「なんでって.......何のこと?」
「ノイトの前世の名前。ラルカも言ってたんだけど。私以外にも言ってたの?」
「あぁ〜、ラルカは前世でよく話してたんだよ。世宥って言うんだけど......。」
「......ラルカだけ?知ってるの。」
「......メルも、だよ。」
「......メルクも前世で?」
「実際には会ったことないんだけどね。一応同じクラスに在籍はしてたよ。」
「......なんで会ったことないの?」
「メル、前世で入院してたんだよ。持病らしいけど。」
「............そっか。他には居ない?」
「もしかしたら、だけどリュミエも。ゲデニスの能力で知ってるかも。」
「多いんだね。」
「うん......。」
しばらくの間の沈黙。その後にリーリャのため息があったかと思えば。
「ねぇ、ノイト。ノイトってなんでそんなにスゴいの?」
「......え?」
リーリャはしゃがんでノイトと目線の高さを合わせている。じっとノイトを見つめているリーリャの目にもう怒りはない。
「あんまりスゴいっていう感覚はないんだけど......?」
「ノイトはスゴいよ。だってさ、あんなに大きな魔神に向かって立ち向かえるし、いつも冷静だし、すごく論理的で理性的なんだもん。」
「......それは前世からのクセだからなぁ......。」
「そっか。......ノイトはずっと同じ?」
「......今は、みんなが居るでしょ。そこは変わってる。それ以外は同じ。」
「分かった。ありがと。」
リーリャが立ち上がって手を差し伸べた。
「ごめんね、疲れてるのに。」
「いや、気にしなくて良いよ。リーリャもスゴかったよ。あの魔法。」
「ん......そういうところだよ。」
「何が?」
「ノイトって褒められたときにすぐに他の人のこと褒めるじゃん。それがなんか、認めようとしてないように見えるの。」
「そっか......あんまり自惚れたくないだけなんだけどねぇ......?」
「謙遜は褒めてくれた人への冒涜だよ!」
(名言っぽいから少し余韻を残しておこう......。)
ノイトという人間は。まったく。立ち上がったノイトはリーリャと並んでメルクたちの元へと戻っていった。
気がつけばイグとアテル、フィルマリーとリオールとユリムとユリメラも合流しているようだ。
「あ、ノイトくんやっと帰ってきた......2人で何してたの?」
「ちょっとお話してた。」
そこでリュミエがニヤニヤしながらからかってくる。
「え〜、ホントに?キスでもしてたんじゃないのぉ?」
ノイトは呆れたような表情を浮かべたが、リーリャはそうは行かなかった。
「別に今はしてない!」
「え......今“は”......?」
「あ......。」
全員がノイトとリーリャを見る。ノイトは何も言わないが否定していない。リーリャは顔を赤くして慌てている。
「嘘!? いつ?いつしたの!?」
「あぁ〜待って!さっきのなし!!」
「無理があるでしょ!いつ?」
[太字][明朝体]「お兄ちゃん......!リーリャ様とき、キスを......!?」[/明朝体][/太字]
メルクとカメリアとシルイは純粋な好奇心でリーリャに問い詰めてきている。リュミエは頬を膨らませてノイトをじっと見つめている。ラルカは黙ってノイトをジト目で[漢字][打消し][小文字]睨んで[/小文字][/打消し][/漢字][ふりがな][大文字]見つめて[/大文字][/ふりがな]いる。ルミナスは赤くなった顔を両手で覆って慌てている。
ノイトにとってはこの状況でポーカーフェイスを貫き通しているレイクやエルクス、あるいはずっと安定の微笑みを浮かべ続けているミドネイトのような反応が1番嬉しかった。
[太字][明朝体]「レイク......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「はい。ルミナス様、いかがなさいましたか?」[/大文字]
[太字][明朝体]「レイクは誰かとその......キスしたことはありますか?」[/明朝体][/太字]
レイクの脳裏に浮かんだのは1人の女性のシルエット。今は亡きその女性との思い出を思い返しているのか、レイクの目には安らぎが宿っていた。
[大文字]「えぇ。昔の話ですが。」[/大文字]
[太字][明朝体]「レイクも......!私は......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「焦る必要はございません。ルミナス様なら、いずれ素敵な殿方が現れますよ。」[/大文字]
[太字][明朝体]「そ、そーですかぁ?[小文字]ん、えへへ......。[/小文字]」[/明朝体][/太字]
リーリャが問い詰めてくる3人から逃げてノイトに飛びついてきた。
「ノイト〜!ノイトも何か言ってよぉ!!」
「えぇ......今頭があんまり働いてないから墓穴を掘ることになると思うんだけど......。」
「むぅ......。」
「ねぇ!いつしたの!? いつ!?」
「ハァ......。お父さん、ノービリアに行くならさっさと行っちゃおう。ただでさえずっと戦ってて理性が削れて行ってて深夜テンションの女子たちを寝かしつけないと僕が休めない。」
「あはは。」
「あはは、じゃなくて!」
「分かった。それじゃあ行こうか。」
[中央寄せ]エリア〚ヴェルグランド大陸/霊峰の町・ノービリア〛[/中央寄せ]
ミドネイトが杖を翳すとあっという間にノービリアに到着した。
「え...?もう着いたの?」
目を丸くするメルクだったが、ミドネイトは一瞬のうちにマギノシティに[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]し、その直後にノービリアまで[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]したのだった。
「こんな深夜にこんな大勢で押しかけちゃって大丈夫かな?」
「大丈夫。あんまり混んでないし、そもそも人が全然来ないからむしろ大歓迎でしょ!」
「メル、失礼。」
ノイトは歩き出したミドネイトに続いて宿へと入っていく。
「夜分遅くにすみません。今夜この人数で泊まれる部屋は空いてますか?」
宿屋の女将はこんな時間にこんな大人数で居ることにびっくりしていたが、ノイトとリーリャとメルクの顔には見覚えがあったためすぐに安心を覚えた。
「はい、襖を外せば全員入れますよ。ご案内致します。」
「ありがとうございます。」
(あれ、朱羅ってこの町でタブー視されてたりしないかな?......まぁ、この数だと紛れるかもしれないけど......。)
宿屋の女将が全員分の寝間着と布団を運んできてくれる。
「夜分遅くまでお疲れ様でした。明日の朝食は東の広間に用意しておきますので。どうぞごゆっくり。」
女将の後ろ姿が見えなくなったところでメルクが寝間着を手に取って声を張り上げた。
「男子組!私たちが寝間着に着替えてる間あっち行ってて!」
「あぁ、うん。元からそのつもりだけど。」
男子組はノイト、ミドネイト、レイク、イグ、リオール、エルクス、ザルヤ、フェノルの8人。
(あ、布団持ってきてないのに閉められちゃった......。)
フェノルは着替えるつもりがないのか座って魔術書を読み始めた。
「男子組も寝間着に着替えちゃいましょうか。」
──数分後。閉め切られた襖の向こうから朱羅のはしゃぐ声が聞こえる。ザルヤが呆れながら声をかけた。
「お〜い、女子たち〜?まだ着替え終わんねぇのか〜?」
「もうちょっと待って!朱羅のサイズがその...」
「やめんか!恥ずかしい!!」
ここに居る男子組は全員呆れている。
(今何時だと思ってるんだか......。)
「お待たせ〜!」
ようやく布団を確保できた男子組はすぐに寝るつもりだった。だがしかし。
「ノイト!隣で寝たい!!」
「ダメ!私も!!」
「ずるい!私も隣が良い!!」
温度差など気にしない女子組には絡まれた。そのとき、部屋の中を冷気がよぎった。よく見るとラルカが無詠唱で魔法を使っていたようだ。
「夜分遅くに騒がしいぞ。頭を冷やせ。」
「「「はーい......。」」」
(無詠唱......ラルカ、ってやっぱり奥の手を見せない感じがあって良いね。こういうときも頼りになるし。)
そんなことを考えているノイトにアテルが無言でくっついてきた。
「ちょっとラルカ!あの子は放っといても良いの!? 私たちはダメだったのに!!」
「知るか。アレは性別の概念がないだろう。」
スライムであるため性別の概念がないアテルはノイトにコアラのようにしがみついてそのまま寝落ちした。
「ん?ちょっと、アテル〜?......もう、しょうがないなぁ......。」
「ずる〜い......私も甘えた〜い!」
「リュミエはそういう妄想いつでも出来るでしょ。」
「ちょっと?今私の幻惑の能力のことを妄想って言ったように聞こえたんだけど?」
「気の所為じゃない。」
「今肯定した!? その文末でそのイントネーションは肯定だよね!?」
「ほら、もう遅いしさっさと寝た寝た。」
メルクがノイトの袖をつまみながら部屋の外と指差す。ノイトは頷いて部屋の外に出た。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん?メルク様?どちらへ向かうのですか?」[/明朝体][/太字]
「ちょっとだけ話すことがあってね。すぐ戻るよ。」
障子を閉めてすぐ近くの縁側に座ったメルクはノイトに話しかける。
「それで、話って何?」
「......今までメルに前世のこと黙ってたことと、メルクの我が儘の件。」
「ん......それじゃあ前世のことが先だね。なんで黙ってたの?」
「面倒だったから。」
「......それってまさか私がヤキモチ焼いたり迂闊に口をすべらせちゃったりするかもしれないと思ってるのが原因?」
「そうだね。」
「肯定しないでよ、悲しくなるじゃん。」
「すみませんでした。」
「急にかしこまんないで!あぁ......もう、ずっとノイトくんのペースに乗せられてばっかり......。」
「リードされるのはヤダ?」
「私は......どちらかと言えばノイトくんのガード崩したい方だし......。どうせリードしてくれるならエスコートの方が良い。」
「(-_-)」
「......ノ・イ・ト・くん?」
「“おはよう、朝だよ!一緒に起きよう!”」
「違う、そうじゃないでしょ。」
「まぁ良いや、この話はこれで終わりね。」
「もぉ......しょうがないなぁ。それじゃあ、私の我が儘一つ聞いて。」
「良識の範囲内でね。」
「チェッ......こういうときでしかノイトくん言う事聞いてくれないのに......。」
「良識の範囲外で言おうとしてたの?」
「当然でしょ。」
「なんでよ......。で、ちなみに何言おうとしてたの?」
メルクはノイトのその言葉を聞いてニヤニヤしながら自分の寝間着の襟の部分を軽く引っ張って胸元を煽った。外が暑いわけではないため意図的なものだろう。その一方でノイトはものすごく嫌そうな表情を浮かべていた。
「......言ったほうが良い?」
「いや、言わないで良い。嫌な予感しかしない。」
「そう。で、どうするの?」
「別の内容でお願いします。」
「ん〜、それじゃあさっきのアレ。ノイトくんとリーリャがいつキスしたのか教えて。」
「またそれか......懲りないねぇ。」
「だって気になるんだもん。教えて?良いよね?」
「まぁ、良いか。事実だし。」
「やった〜!」
メルクは目をキラキラさせてノイトの方へと身を乗り出す。
「“全能の魔神”倒した後にノルティーク王城で祝宴開いてもらったでしょ?」
「あぁ〜、あのときね。」
「そこでリーリャと連弾した後にこっそり時間を止めて......。」
「へぇ〜?ふぅ〜ん?つまり二人っきりの世界でロマンチックに......?」
「あんまりそういう表現はしないで思い出すと恥ずかしいから............。」
「............ノイトのガードが、崩れた......?」
メルクのニヤニヤが止まらない。ただでさえ気になっていたことを教えてもらったのに、さらにノイトが珍しく恥ずかしがっている。メルクがノイトに絡む理由の大半はガードをからかってガードを崩したいからであるため、メルクにとってこれほど嬉しいことはそうそうない。
「ふふっ......ノイトくんっ!」
「............何?」
「そうやって照れてるノイトくん、かわいいと思うよっ!」
「ん......、もう良いから。ほら、話も終わったからさっさと戻るよ。」
(......どのみち修羅場は覚悟だな............。)
ノイトは立ち上がって部屋に戻る。メルクもまだ赤みが抜けない頬に夜風を感じながら立ち上がってノイトと並んで部屋へ戻った。ちなみにノイトはこの間もずっとコアラのようにしがみついて眠っているアテルを抱えたままである。
ノイトたちは魔神の核にたった1人で立ち向かうミドネイトの後ろ姿を見ていた。リュミエがノイトとミドネイトを交互に見ながら尋ねてくる。
「ねぇノイトくん、私も行った方が良いかな?流石に1人であれは......。」
「大丈夫。あの人、最強だから。」
「......最強......?」
ノイトは普段“絶対”や“最高”などの言葉を滅多に使わない。そんなノイトが“最強”と言ったのだ。間違いないだろう。ラルカは念のため[漢字]拳銃[/漢字][ふりがな]ハンドガン[/ふりがな]を構えたままで待機している。
「ノイト。各所に散っていたやつらも直に駆けつけてくる。あまり情けない姿を見せるなよ?」
「ん〜、まぁ、程々に?」
「......ハァ......まったく。体力が残っていないなら私が肩でも貸してやるから、さっさと立て。」
疲れていたノイトはやや甘えモードだったため銃を降ろしたラルカに体重を預けたまま笑みを浮かべた。
「ノイト......?」
「ごめんね、こうしてると落ち着くから......。」
「[小文字]ん......そんなことしてるとリーリャに妬かれるぞォ?[/小文字]」
「あ、デレた。」
「......疲れているなら休んでろ。」
メルクがスティレットをノイトに向ける。
「あんまりイチャついてると捌いちゃうよ?」
「あっ、怖っ......。」
少し調子が戻ったようだ。カメリアがメルクを抑え込んでいるが、あまり浮かれているとノイトがコンビーフになってしまうだろう。
「ノイトくん、あれ......。」
リュミエの声で振り向いたノイトの視界に映ったのは魔神の核が再び周囲の魔力を集中させている様子。ミドネイトは手元に現れた魔法の杖を手に取ってその先を魔神の核へと向けた。魔神の核の背後の時空間が歪んだように見え、ミドネイトが僅かに目を細める。
「ノイトくん、何が起こってるの......?」
「んん......水に絵の具垂らした感じだよ。外から変なものが入ってきたのかも。」
「?......ゲデニス、どういうこと?」
リュミエに名前を呼ばれたゲデニスが白い炎の姿でリュミエの隣に現れ、ノイトの記憶を読み取った。
[大文字][太字][明朝体]「......なるほど、私たちよりも上位存在が居て別レイヤーに居るわけか。......なぜお前はそんなメタ的な視点を持っているのだ?」[/明朝体][/太字][/大文字]
「[漢字]想像力[/漢字][ふりがな]イマジネーション[/ふりがな]が変な方向ばかりに鍛えられてるもんでね。」
ゲデニスの軽い説明を聞いてメルクたちが前に出てくる。
「取り敢えず、あれが面倒なやつだってことはよく分かったよ。それで、どうするの?私たちの攻撃が効くか怪しいんじゃない?」
[太字][明朝体]『あの魔神の核は僕たちに影響を感じさせないように今も何かしてるのか?早めに片を付けておいた方が良さそうだね。』[/明朝体][/太字]
「ルミナスたちが来る前になんとかしないと被害が増えちゃう。」
3人は武器を手にミドネイトの後に続こうとしたが、それをノイトが止めた。
「スト〜ップ!大丈夫だから。」
「でも......。」
「良いから見てて。」
ミドネイトが杖を翳すと微細な文字のようなものが浮かびあがり、同時に魔神の核の周囲を囲うように同じものが浮かび上がる。蒼い文字の羅列が魔神の核を中心に回転し始め、辺りが一瞬光で満たされた。次の瞬間にはもう既に魔神の核は容器のようなものの中に封印されている。
「はい、終わったよ〜。」
「え、早くない?」「もう終わった!?」「......。」
「早いね。」
「まぁこのくらいなら。」
先程までの緊張感は何だったのか。ミドネイトは魔神の核が入った容器を引き寄せて手に持つ。
「ん〜、これって本当に魔神の核かな?前にレイクに見せてもらったやつは完全な球体に近かったけど......これ、欠片っぽいね。」
「欠片?」
「うん。ほら、割れてるように見えるでしょ。」
ミドネイトが見せた欠片を見ると確か割れたような模様がある。形も歪んでいた。
「それじゃあ、魔神の核じゃないものが魔神の核になってた......?」
「そういうことだろうね。さっきの干渉から推し量るに、世界のレイヤーが違うんじゃないかな。」
「ノイトくん、もう疲れてるでしょ。今日はもう休んで良いよ。私も疲れたし......。」
「あ、そうだった......。お父さん、みんな疲れてるから今日はもう休ませても?」
「あぁ、良いよ。そうだね、今日はノービリアにでも行こうか。」
故郷の名前を聞いてメルクが首を傾げる。
「え......今からレミステラに向かって、さらにノービリアまで行くんですか?」
「あー、いや、僕はマギノシティに[漢字]転送地点[/漢字][ふりがな]ランドマーク[/ふりがな]付けてあるからすぐにヴェルグランド大陸まで行けるんだよ。」
つまり[[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]]ですぐ近くまで行くことができるということだ。ノイトやメルクは使えないためすぐに思いつかなかったようである。
「それじゃあ、私リーリャたち呼んでくる。」
「あ、その必要はないよ。すぐに来るから。」
ミドネイトが時計塔がある方を見ると、リーリャとルミナスとシルイ、それからフィゼリアがこちらに向かってきていた。リーリャはノイトのことを見ながら走ってきている。
「リーリャ......!無事で良かっ...」
リーリャは座ったままで動けないノイトに抱きついて倒れた。
「......?リーリャ......どうしたの............?」
リーリャは何も答えない。しかし腕に入っている力はどんどん強くなっていってる。
「......っ、ふぅ............はぁ......。」
「......リーリャ?」
「......ノイト、話すことあるから来て。」
「え、あぁー、はい。」
リーリャは体力が残っておらずまともに歩くのも難しい状態のノイトの腕を引っ張って少し離れた場所まで移動した。
建物の影。リーリャはノイトの腕から手を離す。当のノイトは体力が残っていなかったためその場に崩れ落ちた。
「リーリャ......?」
「ノイト......なんで?」
「なんでって.......何のこと?」
「ノイトの前世の名前。ラルカも言ってたんだけど。私以外にも言ってたの?」
「あぁ〜、ラルカは前世でよく話してたんだよ。世宥って言うんだけど......。」
「......ラルカだけ?知ってるの。」
「......メルも、だよ。」
「......メルクも前世で?」
「実際には会ったことないんだけどね。一応同じクラスに在籍はしてたよ。」
「......なんで会ったことないの?」
「メル、前世で入院してたんだよ。持病らしいけど。」
「............そっか。他には居ない?」
「もしかしたら、だけどリュミエも。ゲデニスの能力で知ってるかも。」
「多いんだね。」
「うん......。」
しばらくの間の沈黙。その後にリーリャのため息があったかと思えば。
「ねぇ、ノイト。ノイトってなんでそんなにスゴいの?」
「......え?」
リーリャはしゃがんでノイトと目線の高さを合わせている。じっとノイトを見つめているリーリャの目にもう怒りはない。
「あんまりスゴいっていう感覚はないんだけど......?」
「ノイトはスゴいよ。だってさ、あんなに大きな魔神に向かって立ち向かえるし、いつも冷静だし、すごく論理的で理性的なんだもん。」
「......それは前世からのクセだからなぁ......。」
「そっか。......ノイトはずっと同じ?」
「......今は、みんなが居るでしょ。そこは変わってる。それ以外は同じ。」
「分かった。ありがと。」
リーリャが立ち上がって手を差し伸べた。
「ごめんね、疲れてるのに。」
「いや、気にしなくて良いよ。リーリャもスゴかったよ。あの魔法。」
「ん......そういうところだよ。」
「何が?」
「ノイトって褒められたときにすぐに他の人のこと褒めるじゃん。それがなんか、認めようとしてないように見えるの。」
「そっか......あんまり自惚れたくないだけなんだけどねぇ......?」
「謙遜は褒めてくれた人への冒涜だよ!」
(名言っぽいから少し余韻を残しておこう......。)
ノイトという人間は。まったく。立ち上がったノイトはリーリャと並んでメルクたちの元へと戻っていった。
気がつけばイグとアテル、フィルマリーとリオールとユリムとユリメラも合流しているようだ。
「あ、ノイトくんやっと帰ってきた......2人で何してたの?」
「ちょっとお話してた。」
そこでリュミエがニヤニヤしながらからかってくる。
「え〜、ホントに?キスでもしてたんじゃないのぉ?」
ノイトは呆れたような表情を浮かべたが、リーリャはそうは行かなかった。
「別に今はしてない!」
「え......今“は”......?」
「あ......。」
全員がノイトとリーリャを見る。ノイトは何も言わないが否定していない。リーリャは顔を赤くして慌てている。
「嘘!? いつ?いつしたの!?」
「あぁ〜待って!さっきのなし!!」
「無理があるでしょ!いつ?」
[太字][明朝体]「お兄ちゃん......!リーリャ様とき、キスを......!?」[/明朝体][/太字]
メルクとカメリアとシルイは純粋な好奇心でリーリャに問い詰めてきている。リュミエは頬を膨らませてノイトをじっと見つめている。ラルカは黙ってノイトをジト目で[漢字][打消し][小文字]睨んで[/小文字][/打消し][/漢字][ふりがな][大文字]見つめて[/大文字][/ふりがな]いる。ルミナスは赤くなった顔を両手で覆って慌てている。
ノイトにとってはこの状況でポーカーフェイスを貫き通しているレイクやエルクス、あるいはずっと安定の微笑みを浮かべ続けているミドネイトのような反応が1番嬉しかった。
[太字][明朝体]「レイク......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「はい。ルミナス様、いかがなさいましたか?」[/大文字]
[太字][明朝体]「レイクは誰かとその......キスしたことはありますか?」[/明朝体][/太字]
レイクの脳裏に浮かんだのは1人の女性のシルエット。今は亡きその女性との思い出を思い返しているのか、レイクの目には安らぎが宿っていた。
[大文字]「えぇ。昔の話ですが。」[/大文字]
[太字][明朝体]「レイクも......!私は......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「焦る必要はございません。ルミナス様なら、いずれ素敵な殿方が現れますよ。」[/大文字]
[太字][明朝体]「そ、そーですかぁ?[小文字]ん、えへへ......。[/小文字]」[/明朝体][/太字]
リーリャが問い詰めてくる3人から逃げてノイトに飛びついてきた。
「ノイト〜!ノイトも何か言ってよぉ!!」
「えぇ......今頭があんまり働いてないから墓穴を掘ることになると思うんだけど......。」
「むぅ......。」
「ねぇ!いつしたの!? いつ!?」
「ハァ......。お父さん、ノービリアに行くならさっさと行っちゃおう。ただでさえずっと戦ってて理性が削れて行ってて深夜テンションの女子たちを寝かしつけないと僕が休めない。」
「あはは。」
「あはは、じゃなくて!」
「分かった。それじゃあ行こうか。」
[中央寄せ]エリア〚ヴェルグランド大陸/霊峰の町・ノービリア〛[/中央寄せ]
ミドネイトが杖を翳すとあっという間にノービリアに到着した。
「え...?もう着いたの?」
目を丸くするメルクだったが、ミドネイトは一瞬のうちにマギノシティに[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]し、その直後にノービリアまで[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]したのだった。
「こんな深夜にこんな大勢で押しかけちゃって大丈夫かな?」
「大丈夫。あんまり混んでないし、そもそも人が全然来ないからむしろ大歓迎でしょ!」
「メル、失礼。」
ノイトは歩き出したミドネイトに続いて宿へと入っていく。
「夜分遅くにすみません。今夜この人数で泊まれる部屋は空いてますか?」
宿屋の女将はこんな時間にこんな大人数で居ることにびっくりしていたが、ノイトとリーリャとメルクの顔には見覚えがあったためすぐに安心を覚えた。
「はい、襖を外せば全員入れますよ。ご案内致します。」
「ありがとうございます。」
(あれ、朱羅ってこの町でタブー視されてたりしないかな?......まぁ、この数だと紛れるかもしれないけど......。)
宿屋の女将が全員分の寝間着と布団を運んできてくれる。
「夜分遅くまでお疲れ様でした。明日の朝食は東の広間に用意しておきますので。どうぞごゆっくり。」
女将の後ろ姿が見えなくなったところでメルクが寝間着を手に取って声を張り上げた。
「男子組!私たちが寝間着に着替えてる間あっち行ってて!」
「あぁ、うん。元からそのつもりだけど。」
男子組はノイト、ミドネイト、レイク、イグ、リオール、エルクス、ザルヤ、フェノルの8人。
(あ、布団持ってきてないのに閉められちゃった......。)
フェノルは着替えるつもりがないのか座って魔術書を読み始めた。
「男子組も寝間着に着替えちゃいましょうか。」
──数分後。閉め切られた襖の向こうから朱羅のはしゃぐ声が聞こえる。ザルヤが呆れながら声をかけた。
「お〜い、女子たち〜?まだ着替え終わんねぇのか〜?」
「もうちょっと待って!朱羅のサイズがその...」
「やめんか!恥ずかしい!!」
ここに居る男子組は全員呆れている。
(今何時だと思ってるんだか......。)
「お待たせ〜!」
ようやく布団を確保できた男子組はすぐに寝るつもりだった。だがしかし。
「ノイト!隣で寝たい!!」
「ダメ!私も!!」
「ずるい!私も隣が良い!!」
温度差など気にしない女子組には絡まれた。そのとき、部屋の中を冷気がよぎった。よく見るとラルカが無詠唱で魔法を使っていたようだ。
「夜分遅くに騒がしいぞ。頭を冷やせ。」
「「「はーい......。」」」
(無詠唱......ラルカ、ってやっぱり奥の手を見せない感じがあって良いね。こういうときも頼りになるし。)
そんなことを考えているノイトにアテルが無言でくっついてきた。
「ちょっとラルカ!あの子は放っといても良いの!? 私たちはダメだったのに!!」
「知るか。アレは性別の概念がないだろう。」
スライムであるため性別の概念がないアテルはノイトにコアラのようにしがみついてそのまま寝落ちした。
「ん?ちょっと、アテル〜?......もう、しょうがないなぁ......。」
「ずる〜い......私も甘えた〜い!」
「リュミエはそういう妄想いつでも出来るでしょ。」
「ちょっと?今私の幻惑の能力のことを妄想って言ったように聞こえたんだけど?」
「気の所為じゃない。」
「今肯定した!? その文末でそのイントネーションは肯定だよね!?」
「ほら、もう遅いしさっさと寝た寝た。」
メルクがノイトの袖をつまみながら部屋の外と指差す。ノイトは頷いて部屋の外に出た。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん?メルク様?どちらへ向かうのですか?」[/明朝体][/太字]
「ちょっとだけ話すことがあってね。すぐ戻るよ。」
障子を閉めてすぐ近くの縁側に座ったメルクはノイトに話しかける。
「それで、話って何?」
「......今までメルに前世のこと黙ってたことと、メルクの我が儘の件。」
「ん......それじゃあ前世のことが先だね。なんで黙ってたの?」
「面倒だったから。」
「......それってまさか私がヤキモチ焼いたり迂闊に口をすべらせちゃったりするかもしれないと思ってるのが原因?」
「そうだね。」
「肯定しないでよ、悲しくなるじゃん。」
「すみませんでした。」
「急にかしこまんないで!あぁ......もう、ずっとノイトくんのペースに乗せられてばっかり......。」
「リードされるのはヤダ?」
「私は......どちらかと言えばノイトくんのガード崩したい方だし......。どうせリードしてくれるならエスコートの方が良い。」
「(-_-)」
「......ノ・イ・ト・くん?」
「“おはよう、朝だよ!一緒に起きよう!”」
「違う、そうじゃないでしょ。」
「まぁ良いや、この話はこれで終わりね。」
「もぉ......しょうがないなぁ。それじゃあ、私の我が儘一つ聞いて。」
「良識の範囲内でね。」
「チェッ......こういうときでしかノイトくん言う事聞いてくれないのに......。」
「良識の範囲外で言おうとしてたの?」
「当然でしょ。」
「なんでよ......。で、ちなみに何言おうとしてたの?」
メルクはノイトのその言葉を聞いてニヤニヤしながら自分の寝間着の襟の部分を軽く引っ張って胸元を煽った。外が暑いわけではないため意図的なものだろう。その一方でノイトはものすごく嫌そうな表情を浮かべていた。
「......言ったほうが良い?」
「いや、言わないで良い。嫌な予感しかしない。」
「そう。で、どうするの?」
「別の内容でお願いします。」
「ん〜、それじゃあさっきのアレ。ノイトくんとリーリャがいつキスしたのか教えて。」
「またそれか......懲りないねぇ。」
「だって気になるんだもん。教えて?良いよね?」
「まぁ、良いか。事実だし。」
「やった〜!」
メルクは目をキラキラさせてノイトの方へと身を乗り出す。
「“全能の魔神”倒した後にノルティーク王城で祝宴開いてもらったでしょ?」
「あぁ〜、あのときね。」
「そこでリーリャと連弾した後にこっそり時間を止めて......。」
「へぇ〜?ふぅ〜ん?つまり二人っきりの世界でロマンチックに......?」
「あんまりそういう表現はしないで思い出すと恥ずかしいから............。」
「............ノイトのガードが、崩れた......?」
メルクのニヤニヤが止まらない。ただでさえ気になっていたことを教えてもらったのに、さらにノイトが珍しく恥ずかしがっている。メルクがノイトに絡む理由の大半はガードをからかってガードを崩したいからであるため、メルクにとってこれほど嬉しいことはそうそうない。
「ふふっ......ノイトくんっ!」
「............何?」
「そうやって照れてるノイトくん、かわいいと思うよっ!」
「ん......、もう良いから。ほら、話も終わったからさっさと戻るよ。」
(......どのみち修羅場は覚悟だな............。)
ノイトは立ち上がって部屋に戻る。メルクもまだ赤みが抜けない頬に夜風を感じながら立ち上がってノイトと並んで部屋へ戻った。ちなみにノイトはこの間もずっとコアラのようにしがみついて眠っているアテルを抱えたままである。