世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトはクロエの砲撃を躱しながら自らも攻撃に転じていた。
[中央寄せ]『[大文字][太字][明朝体][漢字][太字]炎鞭龍[/太字][/漢字][ふりがな]シウコアトル[/ふりがな][/明朝体][/太字][/大文字]』[/中央寄せ]
炎の蛇が複数に分かれてクロエの砲撃を躱しながら迫るが、広範囲砲撃によって消し飛ばされてしまう。
[明朝体]「ノイト、楽しそう......でも、そろそろ壊れそうだね。」[/明朝体]
「さて、どうだろうね?」
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体][斜体]〔[漢字]時刻巻戻[/漢字][ふりがな]タイム・リワインド[/ふりがな]〕[/斜体][/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】の盾の部分に時計盤のようなものが浮かび、その針が反時計回りに回っていく。すると、ノイトが消費して周囲に溶けていっていた魔力が吸収されて戻っていった。
[明朝体]「へぇ〜、使いまわしなんだ。余裕なさそうじゃない?」[/明朝体]
「まぁね。」
[明朝体]「さっきから返事が半端だねぇ。息はそこまで乱れてないみたいだけど、何かとツラくなってきたんじゃないのぉ?」[/明朝体]
「お陰さまで。」
[明朝体]「どういたしましてー。それじゃあ、そろそろ終わりにしてあげよっか?」[/明朝体]
クロエが人差し指を立てるとその先から赤い糸のようなものが出てきた。しかしそれは先程ノイトを拘束していた糸とは別のもののようだ。この糸はより一層色味が強く、どこか遠くに離れた存在に感じられる。
(あの糸だけ夢や幻覚に近いものに感じられる......。可能性として有り得るのは......感覚的な概念の距離?)
ノイトが[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込めていき、クロエは書き殴ったような赤い線を出していく。
(どこか遠くにあるような、そんな感じだね。普通の攻撃じゃ届かないかもしれない。それなら......!)
クロエの赤い線が広間中に一瞬の内に広がった。ノイトは反射的に躱すことが出来たが、赤い線をどうにかしなければ確実に当たる。
[明朝体]「[漢字]死んで[/漢字][ふりがな]大好き[/ふりがな]。」[/明朝体]
「キチデレめ。」
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体][斜体]〔[漢字]魔力斬[/漢字][ふりがな]マギノ・スラッシュ[/ふりがな]〕[/斜体][/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
確かに当たったはずだ。しかし何の影響もないようだった。攻撃がすり抜けたように。
(レイヤーが違うか......。)
ノイトが武器を大きく振りかざし、空を斬った。
[明朝体](フフフ......何やっても無駄だよ。さっさと諦めちゃえば良いのに。)[/明朝体]
[水平線]
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][斜体][明朝体]〔[漢字]懐憶[/漢字][ふりがな]ノスタルジア[/ふりがな]〕[/明朝体][/斜体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[漢字]少年[/漢字][ふりがな][小文字]しょうねん[/小文字][/ふりがな]は[漢字]想[/漢字][ふりがな][小文字]おも[/小文字][/ふりがな]う。[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]と[漢字]他人[/漢字][ふりがな][小文字]たにん[/小文字][/ふりがな]が[漢字]何故[/漢字][ふりがな][小文字]なぜ[/小文字][/ふりがな][漢字]違[/漢字][ふりがな][小文字]ちが[/小文字][/ふりがな]うのか。[漢字]何処[/漢字][ふりがな][小文字]どこ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]違[/漢字][ふりがな][小文字]ちが[/小文字][/ふりがな]うのか。
ふと[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]の[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]ると[漢字]入道雲[/漢字][ふりがな][小文字]にゅうどうぐも[/小文字][/ふりがな]が[漢字]浮[/漢字][ふりがな][小文字]う[/小文字][/ふりがな]かぶ[漢字]夏[/漢字][ふりがな][小文字]なつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]があった。
──( 学校 なんて 社会 の 縮図 で すら ない のに、 空 と 比べたら なおさら ちっぽけ だな......。)
しばらくの[漢字]間[/漢字][ふりがな][小文字]あいだ[/小文字][/ふりがな][漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]つめていたが、やがてゆっくりと[漢字]立[/漢字][ふりがな][小文字]た[/小文字][/ふりがな]ち[漢字]上[/漢字][ふりがな][小文字]あ[/小文字][/ふりがな]がる。
[漢字]教室[/漢字][ふりがな][小文字]きょうしつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]中[/漢字][ふりがな][小文字]なか[/小文字][/ふりがな]には[漢字]他[/漢字][ふりがな][小文字]ほか[/小文字][/ふりがな]に[漢字]誰[/漢字][ふりがな][小文字]だれ[/小文字][/ふりがな]も[漢字]居[/漢字][ふりがな][小文字]い[/小文字][/ふりがな]ない。
[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]け[漢字]殻[/漢字][ふりがな][小文字]がら[/小文字][/ふりがな]のような[漢字]空間[/漢字][ふりがな][小文字]くうかん[/小文字][/ふりがな]。そこに[漢字]少年[/漢字][ふりがな][小文字]しょうねん[/小文字][/ふりがな]が1人。
[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]は[漢字]廊下[/漢字][ふりがな][小文字]ろうか[/小文字][/ふりがな]に[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]で[/小文字][/ふりがな]て[漢字]人気[/漢字][ふりがな][小文字]ひとけ[/小文字][/ふりがな]のない[漢字]校舎内[/漢字][ふりがな][小文字]こうしゃない[/小文字][/ふりがな]を[漢字]歩[/漢字][ふりがな][小文字]ある[/小文字][/ふりがな]いた。
[漢字]階段[/漢字][ふりがな][小文字]かいだん[/小文字][/ふりがな]の[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]から[漢字]踊[/漢字][ふりがな][小文字]おど[/小文字][/ふりがな]り[漢字]場[/漢字][ふりがな][小文字]ば[/小文字][/ふりがな]に[漢字]差[/漢字][ふりがな][小文字]さ[/小文字][/ふりがな]し[漢字]込[/漢字][ふりがな][小文字]こ[/小文字][/ふりがな]む[漢字]日[/漢字][ふりがな][小文字]ひ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]光[/漢字][ふりがな][小文字]ひかり[/小文字][/ふりがな]が、[漢字]宙[/漢字][ふりがな][小文字]ちゅう[/小文字][/ふりがな]に[漢字]舞[/漢字][ふりがな][小文字]ま[/小文字][/ふりがな]ったほこりを[漢字]照[/漢字][ふりがな][小文字]て[/小文字][/ふりがな]らし[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]だ[/小文字][/ふりがな]す。
[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]誰[/漢字][ふりがな][小文字]だれ[/小文字][/ふりがな]も[漢字]居[/漢字][ふりがな][小文字]い[/小文字][/ふりがな]ない[漢字]昇降口[/漢字][ふりがな][小文字]しょうこうぐち[/小文字][/ふりがな]で[漢字]靴[/漢字][ふりがな][小文字]くつ[/小文字][/ふりがな]を[漢字]履[/漢字][ふりがな][小文字]は[/小文字][/ふりがな]き[漢字]替[/漢字][ふりがな][小文字]か[/小文字][/ふりがな]え、[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]に[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]で[/小文字][/ふりがな]た。
[漢字]夏[/漢字][ふりがな][小文字]なつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]日差[/漢字][ふりがな][小文字]ひざ[/小文字][/ふりがな]しに[漢字]軽[/漢字][ふりがな][小文字]かる[/小文字][/ふりがな]く[漢字]目[/漢字][ふりがな][小文字]め[/小文字][/ふりがな]を[漢字]眇[/漢字][ふりがな]すが[/ふりがな]めながら、[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]は[漢字]駅[/漢字][ふりがな][小文字]えき[/小文字][/ふりがな]へと[漢字]向[/漢字][ふりがな][小文字]む[/小文字][/ふりがな]かった。
[漢字]改札[/漢字][ふりがな][小文字]かいさつ[/小文字][/ふりがな]を[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]けてホームに[漢字]着[/漢字][ふりがな][小文字]つ[/小文字][/ふりがな]くと、[漢字]涼[/漢字][ふりがな][小文字]すず[/小文字][/ふりがな]しげな[漢字]風[/漢字][ふりがな][小文字]かぜ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]吹[/漢字][ふりがな][小文字]ふ[/小文字][/ふりがな]き[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]ける。
[漢字]盲導鈴[/漢字][ふりがな][小文字]もうどうれい[/小文字][/ふりがな]の[漢字]音[/漢字][ふりがな][小文字]おと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]聞[/漢字][ふりがな][小文字]き[/小文字][/ふりがな]いていると[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]がやってきた。
[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]に[漢字]乗[/漢字][ふりがな][小文字]の[/小文字][/ふりがな]り[漢字]込[/漢字][ふりがな][小文字]こ[/小文字][/ふりがな]んで[漢字]座席[/漢字][ふりがな][小文字]ざせき[/小文字][/ふりがな]へと[漢字]腰[/漢字][ふりがな][小文字]こし[/小文字][/ふりがな]を[漢字]降[/漢字][ふりがな][小文字]お[/小文字][/ふりがな]ろす。
[漢字]走[/漢字][ふりがな][小文字]はし[/小文字][/ふりがな]り[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]だ[/小文字][/ふりがな]した[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]から[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]の[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]ると[漢字]街[/漢字][ふりがな][小文字]まち[/小文字][/ふりがな]の[漢字]景色[/漢字][ふりがな][小文字]けしき[/小文字][/ふりがな]が[漢字]流[/漢字][ふりがな][小文字]なが[/小文字][/ふりがな]れていった。
[漢字]心地[/漢字][ふりがな][小文字]ここち[/小文字][/ふりがな]よい[漢字]揺[/漢字][ふりがな][小文字]ゆ[/小文字][/ふりがな]れと[漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]の[漢字]清々[/漢字][ふりがな][小文字]すがすが[/小文字][/ふりがな]しさが[漢字]雑念[/漢字][ふりがな][小文字]ざつねん[/小文字][/ふりがな]をゆっくりと[漢字]溶[/漢字][ふりがな][小文字]と[/小文字][/ふりがな]かしていく。
──( 今 だけ は、 全部 これで 良い......。)
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
クロエは違和感を感じた。先程まで僅かに焦りがあったノイトの緊張がなくなっていくことに気がついたからだ。
[明朝体](おかしい......ノイトが攻撃の瞬間に目を閉じるなんて......。それに、なんでそんな安らかな[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]をしていられるの?諦めちゃったの......?)[/明朝体]
ゆっくりと開かれたノイトの目とクロエの目が合う。離れていても直接感じられる程に穏やかで、しかし真っすぐな眼差し。
[明朝体]「......何?」[/明朝体]
「......別に、僕は嫌いではないんだけどな......。」
[明朝体]「何のこと?」[/明朝体]
[中央寄せ][大文字][斜体][太字][明朝体]〔[漢字]時繰斬撃[/漢字][ふりがな]ラグ・エリア[/ふりがな]〕[/明朝体][/太字][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
「僕はかっこいいキャラを演じていたいし、極力自分の本音に正直で居たい。だけど、世の中には泥臭い人生もあるわけでしょ?色んな生き方があるなかで僕が今こうやって生きているのはなんでなのかなー、って思ってね。」
[明朝体]「......?」[/明朝体]
「考えてもなかなか答えがでないものは数え切れないほどたくさんあるし、今までそういうものに関して色々考えてきた。もちろん好きなものでも疲れちゃうことはあるけど、なーんか心地良いんだよね。こういう疲れは。」
[明朝体]「......疲れてるの?」[/明朝体]
「まぁね。肉体的にも精神的にも。ただ、ツラいのは僕だけじゃないと思う。被害者ぶるつもりは一切ないし、かといって僕よりも恵まれなかった人を不憫に思うことも難しい。それならどうするか。」
ノイトがマジックバッグから小さな紙の札を取り出した。
「ツラいことも楽しいことも全部書き出して脳をリセットする。それが最適解だと僕は思ってるよ。」
[明朝体]「待って。全部忘れるつもり?私の想いも、私たちが過ごした時間も。」[/明朝体]
「“僕たち”じゃないよ、クロエ。君だけの時間。今忘れたくないものは記憶として書き出して残す。だけど、要らないものは捨てないとキャパ超えちゃうでしょ?」
[明朝体]「......私は要らない子、なの......?」[/明朝体]
クロエの声のトーンが変わった。何かに怯えているような様子である。
「さあ、どうだろうね?要るか要らないかの話の対象はあくまでも僕の記憶。存在そのものを否定するような真似はしないよ。」
[明朝体]「......でも、私との思い出は要らないんだよね......?もしノイトが忘れちゃったら私が居なくなった時、私は完全に消えちゃうよ......。」[/明朝体]
「クロエ。はっきり言わせてもらうけど、僕である必要なくない?」
[明朝体]「え......?」[/明朝体]
「メルから聞いたよ。クロエは引きこもりだって。なんで外に出ないのかは知らないけど、僕は向こうからやってきた人ばかりが運命の人だとは思わない。自分から動けばもっと世界が広がるのに。」
[明朝体][大文字]「うるさい!!」[/大文字][/明朝体]
急にクロエが声を荒げる。息があがっていて肩も震えている。頭を抱えてしゃがみ込んだクロエはノイトを睨みながら恨めしそうに言葉を吐き捨てた。
[明朝体]「私のこと、何にも知らないくせに。知らないだけで、知ろうともしないくせに。お願いだから、もう私を責めないで......!私を認めてよぉ......!!」[/明朝体]
「......。」
[明朝体]「私は要らない子だから、他の人に迷惑かけちゃダメなの!でも、私が幸せだとみんなも幸せだって、言われたの!! ......だからずっと私のことを殺してくれる人を探してたのに......。初めてそういう人に出会えて嬉しかったのに......。」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「私は、......パパの都合が良いように使われる道具だった。逃げ出したとしても、また戻りたくなっちゃうの。他に生きる理由なんてないから。悪いことは全部私のせい。だから、全部背負っていかなくちゃいけない。」[/明朝体]
「それは違うよ。」
[明朝体]「違くない!」[/明朝体]
「違う。確かに行動や言動に責任は必ず付きまとう。だけど、それは1人で抱え込まなきゃいけないものじゃないよ。」
[明朝体]「だったらどうして!? なんで私はこんな......!!」[/明朝体]
嗚咽混じりのクロエの叫びを聞いて流石のノイトも少しずつ歩み寄った。まだ赤い線が残っていたが、ノイトがその程度で怯むような真似はしない。ノイトはそっと赤い線に触れた。指先に激痛が走り血が出る。
「......痛い............。これを、1人で。そりゃおかしくもなるか......。」
ノイトは最小限の動きで赤い線を避けながらクロエへと近づいていく。
[明朝体]「やめて......。来ないで......!!」[/明朝体]
「クロエ。僕のこと、嫌い?」
[明朝体]「え............?」[/明朝体]
クロエが顔を上げてノイトの顔を見る。先程までの手の上で転がしていたような感覚はもうない。今はただ、自分以外の人でしかない。
「寂しいの?虚しいの?今までその気持ちを埋めようとしてたんだね。」
[明朝体]「......そう、かもしれない。」[/明朝体]
クロエはノイトの顔が見られなくなった。俯いてため息を吐く。少しの間沈黙が落ちたが、クロエが口を開いた。
[明朝体]「ねぇ、ノイト。」[/明朝体]
「......どうしたの?」
[明朝体]「私、なんでこうなのかなぁ......?」[/明朝体]
(目は笑ってなさそうだけど、口元が笑ってる。感情と身体の感覚が喰い違ってるみたい。)
[明朝体]「ノイト。今、血流してるでしょ。」[/明朝体]
ノイトはまだ赤い線に触れたときの傷を治していない。正確に言えば、治せないのだ。
[明朝体]「我慢するからさ、ちょっとだけ見せてくれない?」[/明朝体]
「......ダメ。我慢出来ないでしょ。」
[明朝体]「ホントにちょっとだけでも?」[/明朝体]
「ダメだよ。」
[明朝体]「それじゃあせめて、手握らせて。」[/明朝体]
「......血付いてるんだけど?」
[明朝体]「あれ......?そうだったっけ。じゃあ何かノイトの大事な物。」[/明朝体]
「大事なもの......?大事なものか......。ん〜、全部置いてきちゃったかもなぁ。」
[明朝体]「......欲しいよ、何か。頂戴。足りないの。」[/明朝体]
(ケノみたいに満たされていない感じかな。以前のあれはもうやりたくないんだけど......。せめて血だけでも何とかしよう。)
回復魔法は先程から試しているが、効果がない。紙の切られた線は消しゴムでも白く戻すことは出来ないのと同じである。
(回復がダメなら......再構築。)
[中央寄せ][[漢字][太字]構築[/太字][/漢字][ふりがな]リコンストラクション[/ふりがな]][/中央寄せ]
傷口があるところが埋められていく。これで血も止まったはずだ。
「クロエ。」
ノイトはクロエの前に自身の手を差し出した。救いの手にはならない。しかし溺れる者は藁をも掴むものだ。クロエはノイトの手を見るや否や、強くその手を握って自身へと引き寄せた。手首ごと。
(僕の腕は抱き枕でも手すりでもないんだけど......?)
[明朝体]「......良い。」[/明朝体]
「?」
[明朝体]「ふふっ......ノイト。良いね、ノイト。呼びやすくて好き。」[/明朝体]
一瞬ノイトの思考が停止しかけた。現世では名前に対して異性から褒められたことはなかったからだ。
「そう?別にそれはどう思われようが構わないけど......。」
[明朝体]「ふぅ〜ん?照れたりしないんだぁ、随分余裕があるんだねぇ?」[/明朝体]
そこでノイトは思い出した。前世で見ていたある動画の内容を。
(あれ、確か余裕がある人はモテるとか言ってたよな......?生存者バイアスだろうけど、流石にこれ知ってると狙ってるみたいでなんか嫌だ......。)
同時にノイトの脳裏に浮かんだのはリーリャの顔。他にもメルクやルミナス、ラルカやリュミエなど、何かと女子との関わりが多かった。彼女たちが今のノイトを見たらどう思うか。
(ちょ〜っと、ヤバい気が......。)
その思考が僅かに表情に出たのか。クロエがノイトの顔を見て頬を赤く染めていた。
[明朝体]「......やっぱり、その顔、良い!!」[/明朝体]
ほんの今し方までの感情よりも本能に刻みつけられた感覚が勝ってしまったようだ。クロエの手に力が込められてノイトの表情がまた崩れた。普段から余裕を持っているノイトの表情が崩れるのは珍しいことである。その達成感もあってか、クロエは再び息を荒げた。
[明朝体]「待って、ホントに。やばぁ............!!」[/明朝体]
クロエが力を入れる程にノイトが壊れることに近づく。それを思うとクロエはより一層力を強めたのだった。
「クロエ、痛いから離」
[明朝体]「痛いの?へぇ〜、痛いんだぁ......?もっとやってあげるね!もっとその[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]、見る!!」[/明朝体]
(雲行きが怪しくなってきたな......。ちょっとまずいか?)
ノイトが離れようとすればする程強くしがみついてくる。
[明朝体]「ねぇ、なんで逃げるの?もっと[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]見るからいかないでよぉ。」[/明朝体]
「えっと......一旦離してくれない?」
その言葉が[漢字]引き金[/漢字][ふりがな]トリガー[/ふりがな]となってしまった。
[明朝体]「[漢字][小文字]やだよ。離れたくない。ねぇねぇ、聞いてる?[/小文字][/漢字][ふりがな][大文字][大文字] 「え?なんで?私はこんなに好きなんだよ?どうしてそんなこと言うの?」[/大文字][/大文字][/ふりがな]」[/明朝体]
[明朝体]「ずっとここに居ようよぉ。」[/明朝体]
[右寄せ][明朝体]「ほら、おいで?良いことしよ?」[/明朝体][/右寄せ]
[明朝体] 「行かないで。待って。」[/明朝体]
[中央寄せ][明朝体] 「他の人のとこ、行っちゃダメだよ?」[/明朝体][/中央寄せ]
[水平線]
[中央寄せ][大文字][明朝体]「ノイトと私は、ずぅっと一緒だよ♡」[/明朝体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
いつの間にか背後に回られていた。距離を取ろうにも赤い糸で手足を既に拘束されているため身動きすら取れない。
[中央寄せ][斜体][太字]⁅[明朝体][漢字]悪夢[/漢字][ふりがな]ナイトメア[/ふりがな][/明朝体]⁆[/太字][/斜体][/中央寄せ]
身体を影にして拘束から逃れたノイトだったが、すぐさまクロエのナイフが飛んできてその場に刺し止められてしまった。
[明朝体](!!)[/明朝体]
影の状態のまま蹴りを放つが、クロエの方が速かった。クロエは鞭のようにしなったノイトの影の脚を掴んで振り回す。そしてそのまま広間の壁へと投げつけた。
[明朝体](なんで影が掴めるんだ......!?)[/明朝体]
壁に衝突した勢いで影化が解除されてしまったノイトは、いつの間にか目の前に立っていた笑顔のクロエに見つめられる形となった。
「......なんでそんなにニコニコしてるの?」
[明朝体]「だって、ニコニコしてた方がかわいいでしょ?」[/明朝体]
「自分で言うのか......。まぁ、笑ってる理由は僕なんだろうけど。」
[明朝体]「正解。ちゃんと分かってんじゃん?良い表情してるねぇ、ノイト。」[/明朝体]
「僕だって完全なポーカーフェイスとかそういうのじゃないんだよ。まぁ、それは良いや。で、どう?これで満足?」
[明朝体]「全然?ノイトのメルクちゃんから聞いてるんじゃないの?私のこと。」[/明朝体]
(......タナトフィリア.........。僕のこと殺す気かな?)
クロエがナイフを取り出してノイトの目の前に突きつける。
[明朝体]「これ、何か分かる?ナイフだよね。これを今から、こうするの。」[/明朝体]
ナイフがノイトに腹部に押し付けられた。ノイトがクロエの腕を掴む。
[明朝体]「どうしたの?もしかして、痛いの!?」[/明朝体]
何故興奮しているのだか。そう思いながらもノイトはクロエの腕を掴むだけである。
[明朝体]「そんなに怖いの?もぉ、かわいいなぁ〜!」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「何も言えなくてかっこ悪いよぉ〜?何もしてこないのぉ?」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「あははっ、こうしたら何かしら言ってくれるかなぁ?」[/明朝体]
ナイフを押し付ける力が強まってきた。しかしノイトは頑なに口を開こうとしない。
[明朝体]「んん......あっ、そうだ!ノイトに首輪付けてみたいかも!!」[/明朝体]
そう言った途端、クロエの手から首輪が出てきた。クロエの手がナイフを捨ててノイトの首の後ろに回される。そこでノイトが動いた。
[小文字]「......く......だ......に............。」[/小文字]
何かを呟いているようだった。クロエは耳元にノイトの声が流されていたが、それでも何を言っているかは聞き取れなかった。
[明朝体]「何?どうしたの?」[/明朝体]
「......僕は誰にも縛られるつもりはない............。」
クロエの顔が少し離れる。しかしまだ両肩に腕を置いているような距離感であった。
[明朝体]「でも、弱肉強食が世の理ってやつだよ?強い者が弱い者の上に立つ、って結構あると思うけど......。」[/明朝体]
「諸行無常、って言葉知ってる?」
[明朝体]「......何それ?」[/明朝体]
前世で昔から言われていることではあるが、現世にこの言葉が伝わっているとは限らないため知らなかったとしても不思議ではない。
「この世のありとあらゆるものは時間と共に形を変えていって、同じものなんて残らないんだよ。僕が思う限り、一部を除いてね。」
[明朝体]「......?」[/明朝体]
「まぁ、取り敢えずその弱肉強食の考えもいつかは常識じゃなくなるかもしれないし、何なら今の状況も革命だと言えるんじゃないかな?」
[明朝体]「何が言いたいの?」[/明朝体]
「誰かを支配したいと思うような輩よりも、僕の方が強い。これは衒いでもなんでもないでしょ?」
クロエはむっとして頬を膨らませる。
[明朝体]「違うもん!私の方が強いもん!」[/明朝体]
「じゃあ、試してみる?」
[明朝体]「望むところ!!」[/明朝体]
クロエがノイトから離れて構えた。先程の砲台のようなものが再び現れ、先程よりも複雑な魔法陣が展開される。どの道この建物は破壊するつもりであるためノイトにとっては丁度良いくらいだろう。
(面倒なタイプだと思ってたけど......意外となんとかなるもんだね。)
まんまとノイトの口車に乗せられたクロエはノイトとの火力勝負をすることになった。クロエは効果的な攻撃の手数が多いが、魔力の総量ではノイトに劣る。よって、この勝負でクロエが正面から押し勝つことはほぼ不可能だった。
[明朝体]「勝った方が相手のお願いを何でも聞く。それで良いよね。」[/明朝体]
「もちろん。」
ノイトの方も雑念を消して集中するためにマジックバッグの中にある“■■の硝子箱”に触れた。触れた瞬間に余計な感覚が溶け去っていき、脳の中が浄化されていくようだった。先程持っていた札に記憶のコピーは録ってある。余計なことを忘れてノイトは今に集中した。
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][明朝体]『[漢字]破壊[/漢字][ふりがな]アヴラ・カ・ダヴラ[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
(どれだけ偉大なものであって。どれだけ大切なものであっても。必ずいつかは終わりが来る。一人ひとりの人間が持てる力はとてつもなくちっぽけなものだし、それを満たすのも難しい。だから、いちいち何かに一喜一憂すると疲れちゃう気がする。だけど、今はそれで良い。積み上げたものがいつか消えてしまうとしても、どうしようもないことはそのままで良い。)
ノイトの魔力のリミッターが溢れて感覚が研ぎ澄まされる。以前[漢字]忘我[/漢字][ふりがな]フロー[/ふりがな]状態になっていたときと似た感覚。しかし、今はあの時とは違った。世界に溶けていくことも、魔力の制御もままならない状態になることもない。今はただ、すべてが虚しい。この心地良い虚しさに名前を付けることは恐らくできないだろう。しかし、それもまた仕方のないことであるためノイトはそのまま受け容れる。
[明朝体](ノイト、つまらなさそうな顔してる。私との勝負は諦めたの?いや、もしそうだったらもっと焦ってるはず......。かと言って私を舐めているような態度じゃない......どういう感情?)[/明朝体]
ノイトの眼差しは虚ろなものとなっているが、確実にクロエだけのことを見ている。クロエは広間の天井付近へと飛び上がって砲撃の準備を整えた。
[明朝体]「ノイト。優しくて、かっこよくて、良い[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]してた。好き。だから、壊すね。ありがとう。ばいばい。」[/明朝体]
(高揚も緊張も何もない。感情すら今は必要ない。ただ、やるだけ。)
ノイトの背後に魔力で白色の金属が構築されていく。皓い立体は放射状にノイトの背後に並び、それぞれが機械の連結部のようなもので触れずに連結されていた。
クロエの砲撃の方が先に放たれるが、僅かに遅れてノイトの砲撃がそれを押しのけた。
[水平線]
[中央寄せ][太字][明朝体] = 哲学神話魔術 =[/明朝体][/太字][/中央寄せ]
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][明朝体]《[漢字] -虚空- [/漢字][ふりがな]Vanitas Vanitatum[/ふりがな]》[/明朝体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
膨大な熱量で空間が蒸発する。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
周囲の蒸発で轟音が鳴り、外側から夜の空気が吹き込んできた。月が照らした大地には巨大なクレーターが出来ている。魔力はあまり残っていない。一度に膨大な量を消費すると身体への負担が大きいはずだが、今は何故か平気だった。後ほどダメージが遅れてくるのだろうか。しばらく黄昏れていると、研究館の方から人が出てきた気配を感じた。それがこちらを見ていることに気が付き、視界の端で彼女らを捉える。するとそこに居たのはメルクとラルカだ。自分の名前を呼んでいる気がする。そう思ったノイトはゆっくりと地上へと降りていく。
「ノイトくん!」「弥哲!」
名前を呼ばれたノイトが2人の方を振り返ると、ちゃんと2人が居た。
「あ、メル!無事で良かっ...」
メルクが抱きついてきた。ラルカもノイトの袖を掴んできている。
「2人とも、元気そうだね......。良かったよ。」
「......ノイト、お前は少々働きすぎだ。ストレスを感じないからと言って無理して良いわけではないだろう。今日はもう安め。」
「あはは......そうさせてもらうよ。」
ノイトは研究館の様子を2人に尋ねながら研究館へと向かおうとした。しかし、めまいがしてフラつく。咄嗟に2人に支えられたことで倒れることはなかったが、また借りを作ってしまったような気がしたノイトだった。感謝の言葉を述べたノイトは2人と共に研究館へと入っていく。
ノイトはクロエの砲撃を躱しながら自らも攻撃に転じていた。
[中央寄せ]『[大文字][太字][明朝体][漢字][太字]炎鞭龍[/太字][/漢字][ふりがな]シウコアトル[/ふりがな][/明朝体][/太字][/大文字]』[/中央寄せ]
炎の蛇が複数に分かれてクロエの砲撃を躱しながら迫るが、広範囲砲撃によって消し飛ばされてしまう。
[明朝体]「ノイト、楽しそう......でも、そろそろ壊れそうだね。」[/明朝体]
「さて、どうだろうね?」
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体][斜体]〔[漢字]時刻巻戻[/漢字][ふりがな]タイム・リワインド[/ふりがな]〕[/斜体][/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】の盾の部分に時計盤のようなものが浮かび、その針が反時計回りに回っていく。すると、ノイトが消費して周囲に溶けていっていた魔力が吸収されて戻っていった。
[明朝体]「へぇ〜、使いまわしなんだ。余裕なさそうじゃない?」[/明朝体]
「まぁね。」
[明朝体]「さっきから返事が半端だねぇ。息はそこまで乱れてないみたいだけど、何かとツラくなってきたんじゃないのぉ?」[/明朝体]
「お陰さまで。」
[明朝体]「どういたしましてー。それじゃあ、そろそろ終わりにしてあげよっか?」[/明朝体]
クロエが人差し指を立てるとその先から赤い糸のようなものが出てきた。しかしそれは先程ノイトを拘束していた糸とは別のもののようだ。この糸はより一層色味が強く、どこか遠くに離れた存在に感じられる。
(あの糸だけ夢や幻覚に近いものに感じられる......。可能性として有り得るのは......感覚的な概念の距離?)
ノイトが[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込めていき、クロエは書き殴ったような赤い線を出していく。
(どこか遠くにあるような、そんな感じだね。普通の攻撃じゃ届かないかもしれない。それなら......!)
クロエの赤い線が広間中に一瞬の内に広がった。ノイトは反射的に躱すことが出来たが、赤い線をどうにかしなければ確実に当たる。
[明朝体]「[漢字]死んで[/漢字][ふりがな]大好き[/ふりがな]。」[/明朝体]
「キチデレめ。」
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体][斜体]〔[漢字]魔力斬[/漢字][ふりがな]マギノ・スラッシュ[/ふりがな]〕[/斜体][/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
確かに当たったはずだ。しかし何の影響もないようだった。攻撃がすり抜けたように。
(レイヤーが違うか......。)
ノイトが武器を大きく振りかざし、空を斬った。
[明朝体](フフフ......何やっても無駄だよ。さっさと諦めちゃえば良いのに。)[/明朝体]
[水平線]
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][斜体][明朝体]〔[漢字]懐憶[/漢字][ふりがな]ノスタルジア[/ふりがな]〕[/明朝体][/斜体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[漢字]少年[/漢字][ふりがな][小文字]しょうねん[/小文字][/ふりがな]は[漢字]想[/漢字][ふりがな][小文字]おも[/小文字][/ふりがな]う。[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]と[漢字]他人[/漢字][ふりがな][小文字]たにん[/小文字][/ふりがな]が[漢字]何故[/漢字][ふりがな][小文字]なぜ[/小文字][/ふりがな][漢字]違[/漢字][ふりがな][小文字]ちが[/小文字][/ふりがな]うのか。[漢字]何処[/漢字][ふりがな][小文字]どこ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]違[/漢字][ふりがな][小文字]ちが[/小文字][/ふりがな]うのか。
ふと[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]の[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]ると[漢字]入道雲[/漢字][ふりがな][小文字]にゅうどうぐも[/小文字][/ふりがな]が[漢字]浮[/漢字][ふりがな][小文字]う[/小文字][/ふりがな]かぶ[漢字]夏[/漢字][ふりがな][小文字]なつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]があった。
──( 学校 なんて 社会 の 縮図 で すら ない のに、 空 と 比べたら なおさら ちっぽけ だな......。)
しばらくの[漢字]間[/漢字][ふりがな][小文字]あいだ[/小文字][/ふりがな][漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]つめていたが、やがてゆっくりと[漢字]立[/漢字][ふりがな][小文字]た[/小文字][/ふりがな]ち[漢字]上[/漢字][ふりがな][小文字]あ[/小文字][/ふりがな]がる。
[漢字]教室[/漢字][ふりがな][小文字]きょうしつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]中[/漢字][ふりがな][小文字]なか[/小文字][/ふりがな]には[漢字]他[/漢字][ふりがな][小文字]ほか[/小文字][/ふりがな]に[漢字]誰[/漢字][ふりがな][小文字]だれ[/小文字][/ふりがな]も[漢字]居[/漢字][ふりがな][小文字]い[/小文字][/ふりがな]ない。
[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]け[漢字]殻[/漢字][ふりがな][小文字]がら[/小文字][/ふりがな]のような[漢字]空間[/漢字][ふりがな][小文字]くうかん[/小文字][/ふりがな]。そこに[漢字]少年[/漢字][ふりがな][小文字]しょうねん[/小文字][/ふりがな]が1人。
[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]は[漢字]廊下[/漢字][ふりがな][小文字]ろうか[/小文字][/ふりがな]に[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]で[/小文字][/ふりがな]て[漢字]人気[/漢字][ふりがな][小文字]ひとけ[/小文字][/ふりがな]のない[漢字]校舎内[/漢字][ふりがな][小文字]こうしゃない[/小文字][/ふりがな]を[漢字]歩[/漢字][ふりがな][小文字]ある[/小文字][/ふりがな]いた。
[漢字]階段[/漢字][ふりがな][小文字]かいだん[/小文字][/ふりがな]の[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]から[漢字]踊[/漢字][ふりがな][小文字]おど[/小文字][/ふりがな]り[漢字]場[/漢字][ふりがな][小文字]ば[/小文字][/ふりがな]に[漢字]差[/漢字][ふりがな][小文字]さ[/小文字][/ふりがな]し[漢字]込[/漢字][ふりがな][小文字]こ[/小文字][/ふりがな]む[漢字]日[/漢字][ふりがな][小文字]ひ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]光[/漢字][ふりがな][小文字]ひかり[/小文字][/ふりがな]が、[漢字]宙[/漢字][ふりがな][小文字]ちゅう[/小文字][/ふりがな]に[漢字]舞[/漢字][ふりがな][小文字]ま[/小文字][/ふりがな]ったほこりを[漢字]照[/漢字][ふりがな][小文字]て[/小文字][/ふりがな]らし[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]だ[/小文字][/ふりがな]す。
[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]誰[/漢字][ふりがな][小文字]だれ[/小文字][/ふりがな]も[漢字]居[/漢字][ふりがな][小文字]い[/小文字][/ふりがな]ない[漢字]昇降口[/漢字][ふりがな][小文字]しょうこうぐち[/小文字][/ふりがな]で[漢字]靴[/漢字][ふりがな][小文字]くつ[/小文字][/ふりがな]を[漢字]履[/漢字][ふりがな][小文字]は[/小文字][/ふりがな]き[漢字]替[/漢字][ふりがな][小文字]か[/小文字][/ふりがな]え、[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]に[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]で[/小文字][/ふりがな]た。
[漢字]夏[/漢字][ふりがな][小文字]なつ[/小文字][/ふりがな]の[漢字]日差[/漢字][ふりがな][小文字]ひざ[/小文字][/ふりがな]しに[漢字]軽[/漢字][ふりがな][小文字]かる[/小文字][/ふりがな]く[漢字]目[/漢字][ふりがな][小文字]め[/小文字][/ふりがな]を[漢字]眇[/漢字][ふりがな]すが[/ふりがな]めながら、[漢字]彼[/漢字][ふりがな][小文字]かれ[/小文字][/ふりがな]は[漢字]駅[/漢字][ふりがな][小文字]えき[/小文字][/ふりがな]へと[漢字]向[/漢字][ふりがな][小文字]む[/小文字][/ふりがな]かった。
[漢字]改札[/漢字][ふりがな][小文字]かいさつ[/小文字][/ふりがな]を[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]けてホームに[漢字]着[/漢字][ふりがな][小文字]つ[/小文字][/ふりがな]くと、[漢字]涼[/漢字][ふりがな][小文字]すず[/小文字][/ふりがな]しげな[漢字]風[/漢字][ふりがな][小文字]かぜ[/小文字][/ふりがな]が[漢字]吹[/漢字][ふりがな][小文字]ふ[/小文字][/ふりがな]き[漢字]抜[/漢字][ふりがな][小文字]ぬ[/小文字][/ふりがな]ける。
[漢字]盲導鈴[/漢字][ふりがな][小文字]もうどうれい[/小文字][/ふりがな]の[漢字]音[/漢字][ふりがな][小文字]おと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]聞[/漢字][ふりがな][小文字]き[/小文字][/ふりがな]いていると[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]がやってきた。
[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]に[漢字]乗[/漢字][ふりがな][小文字]の[/小文字][/ふりがな]り[漢字]込[/漢字][ふりがな][小文字]こ[/小文字][/ふりがな]んで[漢字]座席[/漢字][ふりがな][小文字]ざせき[/小文字][/ふりがな]へと[漢字]腰[/漢字][ふりがな][小文字]こし[/小文字][/ふりがな]を[漢字]降[/漢字][ふりがな][小文字]お[/小文字][/ふりがな]ろす。
[漢字]走[/漢字][ふりがな][小文字]はし[/小文字][/ふりがな]り[漢字]出[/漢字][ふりがな][小文字]だ[/小文字][/ふりがな]した[漢字]電車[/漢字][ふりがな][小文字]でんしゃ[/小文字][/ふりがな]から[漢字]窓[/漢字][ふりがな][小文字]まど[/小文字][/ふりがな]の[漢字]外[/漢字][ふりがな][小文字]そと[/小文字][/ふりがな]を[漢字]見[/漢字][ふりがな][小文字]み[/小文字][/ふりがな]ると[漢字]街[/漢字][ふりがな][小文字]まち[/小文字][/ふりがな]の[漢字]景色[/漢字][ふりがな][小文字]けしき[/小文字][/ふりがな]が[漢字]流[/漢字][ふりがな][小文字]なが[/小文字][/ふりがな]れていった。
[漢字]心地[/漢字][ふりがな][小文字]ここち[/小文字][/ふりがな]よい[漢字]揺[/漢字][ふりがな][小文字]ゆ[/小文字][/ふりがな]れと[漢字]空[/漢字][ふりがな][小文字]そら[/小文字][/ふりがな]の[漢字]清々[/漢字][ふりがな][小文字]すがすが[/小文字][/ふりがな]しさが[漢字]雑念[/漢字][ふりがな][小文字]ざつねん[/小文字][/ふりがな]をゆっくりと[漢字]溶[/漢字][ふりがな][小文字]と[/小文字][/ふりがな]かしていく。
──( 今 だけ は、 全部 これで 良い......。)
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
クロエは違和感を感じた。先程まで僅かに焦りがあったノイトの緊張がなくなっていくことに気がついたからだ。
[明朝体](おかしい......ノイトが攻撃の瞬間に目を閉じるなんて......。それに、なんでそんな安らかな[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]をしていられるの?諦めちゃったの......?)[/明朝体]
ゆっくりと開かれたノイトの目とクロエの目が合う。離れていても直接感じられる程に穏やかで、しかし真っすぐな眼差し。
[明朝体]「......何?」[/明朝体]
「......別に、僕は嫌いではないんだけどな......。」
[明朝体]「何のこと?」[/明朝体]
[中央寄せ][大文字][斜体][太字][明朝体]〔[漢字]時繰斬撃[/漢字][ふりがな]ラグ・エリア[/ふりがな]〕[/明朝体][/太字][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
「僕はかっこいいキャラを演じていたいし、極力自分の本音に正直で居たい。だけど、世の中には泥臭い人生もあるわけでしょ?色んな生き方があるなかで僕が今こうやって生きているのはなんでなのかなー、って思ってね。」
[明朝体]「......?」[/明朝体]
「考えてもなかなか答えがでないものは数え切れないほどたくさんあるし、今までそういうものに関して色々考えてきた。もちろん好きなものでも疲れちゃうことはあるけど、なーんか心地良いんだよね。こういう疲れは。」
[明朝体]「......疲れてるの?」[/明朝体]
「まぁね。肉体的にも精神的にも。ただ、ツラいのは僕だけじゃないと思う。被害者ぶるつもりは一切ないし、かといって僕よりも恵まれなかった人を不憫に思うことも難しい。それならどうするか。」
ノイトがマジックバッグから小さな紙の札を取り出した。
「ツラいことも楽しいことも全部書き出して脳をリセットする。それが最適解だと僕は思ってるよ。」
[明朝体]「待って。全部忘れるつもり?私の想いも、私たちが過ごした時間も。」[/明朝体]
「“僕たち”じゃないよ、クロエ。君だけの時間。今忘れたくないものは記憶として書き出して残す。だけど、要らないものは捨てないとキャパ超えちゃうでしょ?」
[明朝体]「......私は要らない子、なの......?」[/明朝体]
クロエの声のトーンが変わった。何かに怯えているような様子である。
「さあ、どうだろうね?要るか要らないかの話の対象はあくまでも僕の記憶。存在そのものを否定するような真似はしないよ。」
[明朝体]「......でも、私との思い出は要らないんだよね......?もしノイトが忘れちゃったら私が居なくなった時、私は完全に消えちゃうよ......。」[/明朝体]
「クロエ。はっきり言わせてもらうけど、僕である必要なくない?」
[明朝体]「え......?」[/明朝体]
「メルから聞いたよ。クロエは引きこもりだって。なんで外に出ないのかは知らないけど、僕は向こうからやってきた人ばかりが運命の人だとは思わない。自分から動けばもっと世界が広がるのに。」
[明朝体][大文字]「うるさい!!」[/大文字][/明朝体]
急にクロエが声を荒げる。息があがっていて肩も震えている。頭を抱えてしゃがみ込んだクロエはノイトを睨みながら恨めしそうに言葉を吐き捨てた。
[明朝体]「私のこと、何にも知らないくせに。知らないだけで、知ろうともしないくせに。お願いだから、もう私を責めないで......!私を認めてよぉ......!!」[/明朝体]
「......。」
[明朝体]「私は要らない子だから、他の人に迷惑かけちゃダメなの!でも、私が幸せだとみんなも幸せだって、言われたの!! ......だからずっと私のことを殺してくれる人を探してたのに......。初めてそういう人に出会えて嬉しかったのに......。」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「私は、......パパの都合が良いように使われる道具だった。逃げ出したとしても、また戻りたくなっちゃうの。他に生きる理由なんてないから。悪いことは全部私のせい。だから、全部背負っていかなくちゃいけない。」[/明朝体]
「それは違うよ。」
[明朝体]「違くない!」[/明朝体]
「違う。確かに行動や言動に責任は必ず付きまとう。だけど、それは1人で抱え込まなきゃいけないものじゃないよ。」
[明朝体]「だったらどうして!? なんで私はこんな......!!」[/明朝体]
嗚咽混じりのクロエの叫びを聞いて流石のノイトも少しずつ歩み寄った。まだ赤い線が残っていたが、ノイトがその程度で怯むような真似はしない。ノイトはそっと赤い線に触れた。指先に激痛が走り血が出る。
「......痛い............。これを、1人で。そりゃおかしくもなるか......。」
ノイトは最小限の動きで赤い線を避けながらクロエへと近づいていく。
[明朝体]「やめて......。来ないで......!!」[/明朝体]
「クロエ。僕のこと、嫌い?」
[明朝体]「え............?」[/明朝体]
クロエが顔を上げてノイトの顔を見る。先程までの手の上で転がしていたような感覚はもうない。今はただ、自分以外の人でしかない。
「寂しいの?虚しいの?今までその気持ちを埋めようとしてたんだね。」
[明朝体]「......そう、かもしれない。」[/明朝体]
クロエはノイトの顔が見られなくなった。俯いてため息を吐く。少しの間沈黙が落ちたが、クロエが口を開いた。
[明朝体]「ねぇ、ノイト。」[/明朝体]
「......どうしたの?」
[明朝体]「私、なんでこうなのかなぁ......?」[/明朝体]
(目は笑ってなさそうだけど、口元が笑ってる。感情と身体の感覚が喰い違ってるみたい。)
[明朝体]「ノイト。今、血流してるでしょ。」[/明朝体]
ノイトはまだ赤い線に触れたときの傷を治していない。正確に言えば、治せないのだ。
[明朝体]「我慢するからさ、ちょっとだけ見せてくれない?」[/明朝体]
「......ダメ。我慢出来ないでしょ。」
[明朝体]「ホントにちょっとだけでも?」[/明朝体]
「ダメだよ。」
[明朝体]「それじゃあせめて、手握らせて。」[/明朝体]
「......血付いてるんだけど?」
[明朝体]「あれ......?そうだったっけ。じゃあ何かノイトの大事な物。」[/明朝体]
「大事なもの......?大事なものか......。ん〜、全部置いてきちゃったかもなぁ。」
[明朝体]「......欲しいよ、何か。頂戴。足りないの。」[/明朝体]
(ケノみたいに満たされていない感じかな。以前のあれはもうやりたくないんだけど......。せめて血だけでも何とかしよう。)
回復魔法は先程から試しているが、効果がない。紙の切られた線は消しゴムでも白く戻すことは出来ないのと同じである。
(回復がダメなら......再構築。)
[中央寄せ][[漢字][太字]構築[/太字][/漢字][ふりがな]リコンストラクション[/ふりがな]][/中央寄せ]
傷口があるところが埋められていく。これで血も止まったはずだ。
「クロエ。」
ノイトはクロエの前に自身の手を差し出した。救いの手にはならない。しかし溺れる者は藁をも掴むものだ。クロエはノイトの手を見るや否や、強くその手を握って自身へと引き寄せた。手首ごと。
(僕の腕は抱き枕でも手すりでもないんだけど......?)
[明朝体]「......良い。」[/明朝体]
「?」
[明朝体]「ふふっ......ノイト。良いね、ノイト。呼びやすくて好き。」[/明朝体]
一瞬ノイトの思考が停止しかけた。現世では名前に対して異性から褒められたことはなかったからだ。
「そう?別にそれはどう思われようが構わないけど......。」
[明朝体]「ふぅ〜ん?照れたりしないんだぁ、随分余裕があるんだねぇ?」[/明朝体]
そこでノイトは思い出した。前世で見ていたある動画の内容を。
(あれ、確か余裕がある人はモテるとか言ってたよな......?生存者バイアスだろうけど、流石にこれ知ってると狙ってるみたいでなんか嫌だ......。)
同時にノイトの脳裏に浮かんだのはリーリャの顔。他にもメルクやルミナス、ラルカやリュミエなど、何かと女子との関わりが多かった。彼女たちが今のノイトを見たらどう思うか。
(ちょ〜っと、ヤバい気が......。)
その思考が僅かに表情に出たのか。クロエがノイトの顔を見て頬を赤く染めていた。
[明朝体]「......やっぱり、その顔、良い!!」[/明朝体]
ほんの今し方までの感情よりも本能に刻みつけられた感覚が勝ってしまったようだ。クロエの手に力が込められてノイトの表情がまた崩れた。普段から余裕を持っているノイトの表情が崩れるのは珍しいことである。その達成感もあってか、クロエは再び息を荒げた。
[明朝体]「待って、ホントに。やばぁ............!!」[/明朝体]
クロエが力を入れる程にノイトが壊れることに近づく。それを思うとクロエはより一層力を強めたのだった。
「クロエ、痛いから離」
[明朝体]「痛いの?へぇ〜、痛いんだぁ......?もっとやってあげるね!もっとその[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]、見る!!」[/明朝体]
(雲行きが怪しくなってきたな......。ちょっとまずいか?)
ノイトが離れようとすればする程強くしがみついてくる。
[明朝体]「ねぇ、なんで逃げるの?もっと[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]見るからいかないでよぉ。」[/明朝体]
「えっと......一旦離してくれない?」
その言葉が[漢字]引き金[/漢字][ふりがな]トリガー[/ふりがな]となってしまった。
[明朝体]「[漢字][小文字]やだよ。離れたくない。ねぇねぇ、聞いてる?[/小文字][/漢字][ふりがな][大文字][大文字] 「え?なんで?私はこんなに好きなんだよ?どうしてそんなこと言うの?」[/大文字][/大文字][/ふりがな]」[/明朝体]
[明朝体]「ずっとここに居ようよぉ。」[/明朝体]
[右寄せ][明朝体]「ほら、おいで?良いことしよ?」[/明朝体][/右寄せ]
[明朝体] 「行かないで。待って。」[/明朝体]
[中央寄せ][明朝体] 「他の人のとこ、行っちゃダメだよ?」[/明朝体][/中央寄せ]
[水平線]
[中央寄せ][大文字][明朝体]「ノイトと私は、ずぅっと一緒だよ♡」[/明朝体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
いつの間にか背後に回られていた。距離を取ろうにも赤い糸で手足を既に拘束されているため身動きすら取れない。
[中央寄せ][斜体][太字]⁅[明朝体][漢字]悪夢[/漢字][ふりがな]ナイトメア[/ふりがな][/明朝体]⁆[/太字][/斜体][/中央寄せ]
身体を影にして拘束から逃れたノイトだったが、すぐさまクロエのナイフが飛んできてその場に刺し止められてしまった。
[明朝体](!!)[/明朝体]
影の状態のまま蹴りを放つが、クロエの方が速かった。クロエは鞭のようにしなったノイトの影の脚を掴んで振り回す。そしてそのまま広間の壁へと投げつけた。
[明朝体](なんで影が掴めるんだ......!?)[/明朝体]
壁に衝突した勢いで影化が解除されてしまったノイトは、いつの間にか目の前に立っていた笑顔のクロエに見つめられる形となった。
「......なんでそんなにニコニコしてるの?」
[明朝体]「だって、ニコニコしてた方がかわいいでしょ?」[/明朝体]
「自分で言うのか......。まぁ、笑ってる理由は僕なんだろうけど。」
[明朝体]「正解。ちゃんと分かってんじゃん?良い表情してるねぇ、ノイト。」[/明朝体]
「僕だって完全なポーカーフェイスとかそういうのじゃないんだよ。まぁ、それは良いや。で、どう?これで満足?」
[明朝体]「全然?ノイトのメルクちゃんから聞いてるんじゃないの?私のこと。」[/明朝体]
(......タナトフィリア.........。僕のこと殺す気かな?)
クロエがナイフを取り出してノイトの目の前に突きつける。
[明朝体]「これ、何か分かる?ナイフだよね。これを今から、こうするの。」[/明朝体]
ナイフがノイトに腹部に押し付けられた。ノイトがクロエの腕を掴む。
[明朝体]「どうしたの?もしかして、痛いの!?」[/明朝体]
何故興奮しているのだか。そう思いながらもノイトはクロエの腕を掴むだけである。
[明朝体]「そんなに怖いの?もぉ、かわいいなぁ〜!」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「何も言えなくてかっこ悪いよぉ〜?何もしてこないのぉ?」[/明朝体]
「............。」
[明朝体]「あははっ、こうしたら何かしら言ってくれるかなぁ?」[/明朝体]
ナイフを押し付ける力が強まってきた。しかしノイトは頑なに口を開こうとしない。
[明朝体]「んん......あっ、そうだ!ノイトに首輪付けてみたいかも!!」[/明朝体]
そう言った途端、クロエの手から首輪が出てきた。クロエの手がナイフを捨ててノイトの首の後ろに回される。そこでノイトが動いた。
[小文字]「......く......だ......に............。」[/小文字]
何かを呟いているようだった。クロエは耳元にノイトの声が流されていたが、それでも何を言っているかは聞き取れなかった。
[明朝体]「何?どうしたの?」[/明朝体]
「......僕は誰にも縛られるつもりはない............。」
クロエの顔が少し離れる。しかしまだ両肩に腕を置いているような距離感であった。
[明朝体]「でも、弱肉強食が世の理ってやつだよ?強い者が弱い者の上に立つ、って結構あると思うけど......。」[/明朝体]
「諸行無常、って言葉知ってる?」
[明朝体]「......何それ?」[/明朝体]
前世で昔から言われていることではあるが、現世にこの言葉が伝わっているとは限らないため知らなかったとしても不思議ではない。
「この世のありとあらゆるものは時間と共に形を変えていって、同じものなんて残らないんだよ。僕が思う限り、一部を除いてね。」
[明朝体]「......?」[/明朝体]
「まぁ、取り敢えずその弱肉強食の考えもいつかは常識じゃなくなるかもしれないし、何なら今の状況も革命だと言えるんじゃないかな?」
[明朝体]「何が言いたいの?」[/明朝体]
「誰かを支配したいと思うような輩よりも、僕の方が強い。これは衒いでもなんでもないでしょ?」
クロエはむっとして頬を膨らませる。
[明朝体]「違うもん!私の方が強いもん!」[/明朝体]
「じゃあ、試してみる?」
[明朝体]「望むところ!!」[/明朝体]
クロエがノイトから離れて構えた。先程の砲台のようなものが再び現れ、先程よりも複雑な魔法陣が展開される。どの道この建物は破壊するつもりであるためノイトにとっては丁度良いくらいだろう。
(面倒なタイプだと思ってたけど......意外となんとかなるもんだね。)
まんまとノイトの口車に乗せられたクロエはノイトとの火力勝負をすることになった。クロエは効果的な攻撃の手数が多いが、魔力の総量ではノイトに劣る。よって、この勝負でクロエが正面から押し勝つことはほぼ不可能だった。
[明朝体]「勝った方が相手のお願いを何でも聞く。それで良いよね。」[/明朝体]
「もちろん。」
ノイトの方も雑念を消して集中するためにマジックバッグの中にある“■■の硝子箱”に触れた。触れた瞬間に余計な感覚が溶け去っていき、脳の中が浄化されていくようだった。先程持っていた札に記憶のコピーは録ってある。余計なことを忘れてノイトは今に集中した。
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][明朝体]『[漢字]破壊[/漢字][ふりがな]アヴラ・カ・ダヴラ[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
(どれだけ偉大なものであって。どれだけ大切なものであっても。必ずいつかは終わりが来る。一人ひとりの人間が持てる力はとてつもなくちっぽけなものだし、それを満たすのも難しい。だから、いちいち何かに一喜一憂すると疲れちゃう気がする。だけど、今はそれで良い。積み上げたものがいつか消えてしまうとしても、どうしようもないことはそのままで良い。)
ノイトの魔力のリミッターが溢れて感覚が研ぎ澄まされる。以前[漢字]忘我[/漢字][ふりがな]フロー[/ふりがな]状態になっていたときと似た感覚。しかし、今はあの時とは違った。世界に溶けていくことも、魔力の制御もままならない状態になることもない。今はただ、すべてが虚しい。この心地良い虚しさに名前を付けることは恐らくできないだろう。しかし、それもまた仕方のないことであるためノイトはそのまま受け容れる。
[明朝体](ノイト、つまらなさそうな顔してる。私との勝負は諦めたの?いや、もしそうだったらもっと焦ってるはず......。かと言って私を舐めているような態度じゃない......どういう感情?)[/明朝体]
ノイトの眼差しは虚ろなものとなっているが、確実にクロエだけのことを見ている。クロエは広間の天井付近へと飛び上がって砲撃の準備を整えた。
[明朝体]「ノイト。優しくて、かっこよくて、良い[漢字]表情[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]してた。好き。だから、壊すね。ありがとう。ばいばい。」[/明朝体]
(高揚も緊張も何もない。感情すら今は必要ない。ただ、やるだけ。)
ノイトの背後に魔力で白色の金属が構築されていく。皓い立体は放射状にノイトの背後に並び、それぞれが機械の連結部のようなもので触れずに連結されていた。
クロエの砲撃の方が先に放たれるが、僅かに遅れてノイトの砲撃がそれを押しのけた。
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[中央寄せ][太字][明朝体] = 哲学神話魔術 =[/明朝体][/太字][/中央寄せ]
[中央寄せ][大文字][大文字][太字][明朝体]《[漢字] -虚空- [/漢字][ふりがな]Vanitas Vanitatum[/ふりがな]》[/明朝体][/太字][/大文字][/大文字][/中央寄せ]
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膨大な熱量で空間が蒸発する。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
周囲の蒸発で轟音が鳴り、外側から夜の空気が吹き込んできた。月が照らした大地には巨大なクレーターが出来ている。魔力はあまり残っていない。一度に膨大な量を消費すると身体への負担が大きいはずだが、今は何故か平気だった。後ほどダメージが遅れてくるのだろうか。しばらく黄昏れていると、研究館の方から人が出てきた気配を感じた。それがこちらを見ていることに気が付き、視界の端で彼女らを捉える。するとそこに居たのはメルクとラルカだ。自分の名前を呼んでいる気がする。そう思ったノイトはゆっくりと地上へと降りていく。
「ノイトくん!」「弥哲!」
名前を呼ばれたノイトが2人の方を振り返ると、ちゃんと2人が居た。
「あ、メル!無事で良かっ...」
メルクが抱きついてきた。ラルカもノイトの袖を掴んできている。
「2人とも、元気そうだね......。良かったよ。」
「......ノイト、お前は少々働きすぎだ。ストレスを感じないからと言って無理して良いわけではないだろう。今日はもう安め。」
「あはは......そうさせてもらうよ。」
ノイトは研究館の様子を2人に尋ねながら研究館へと向かおうとした。しかし、めまいがしてフラつく。咄嗟に2人に支えられたことで倒れることはなかったが、また借りを作ってしまったような気がしたノイトだった。感謝の言葉を述べたノイトは2人と共に研究館へと入っていく。