世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[水平線]
──弥哲、ちょっと良い?
《ん?どうしたの、世宥。》
ある日のこと。世宥は弥哲にある疑問を打ち明けてみた。
──弥哲は何事にも真面目に取り組むじゃん?なおかつ、冷静だからあんまりツラい思いをしているイメージがつかないんだけど......無理してたりしない?
《うん、僕は大丈夫だよ。ストレスを感じない、とでもラベリングしておけば僕の脳は勝手に麻痺するからね。脳が勝手に僕自身を理想に寄せようとしてるんだよ。》
──それでも、他の人がストレスと呼ぶものは感じてるんじゃない?
《それはそうかもね。だけど、僕は痩せ我慢体質だからなぁ......。危機感を持つまでが遅いことが僕にとっては問題だって分かってる。》
──......そっか。ちゃんと自覚してるのであればまだマシかもね。
《ん〜、“マシ”って言葉、すごく便利だよね〜。事態が良いわけでもないのに、あたかも良くなったかのように感じられる魔法の言葉じゃん。》
──それは相対的なものでしょ。以前弥哲が言ってたアンカリング効果とかコントラスト効果が働いてるんじゃないの?
《そうだね。だけど、必ずしも互いを際立たせるものばかりじゃないのが現実。もし僕が何かに夢中になって周りが見えなくなる程何かを楽しんでいたら、そのときは多分僕が一番脆い時だね。順風満帆な状況とケアレスミスは紙一重だし。両方勢いがついている程それぞれの結果が大きくなる。》
──弥哲なら大丈夫だと思いたいけど......踏み外さないでよ?
《客観視する余裕が僕にあれば、ね。》
[水平線]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
メルクは組織の拠点の研究館で鉢合わせた組織のボスと秘書と戦闘していた。
(ラルカが居ないってことは多分ノイトくんの方に......。なんで勝手に居なくなるの!流石に一人だと無理があるでしょ!!)
[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットを巧みに扱うメルクの方が一枚上手ではあるが、決定打にはなっていなかった。スティレットの形状から見るに、明らかに突き技は致命傷になりうる。そのため2人は防御に集中している。下手に攻撃に転じて刺し違えてしまっては意味がないからだ。
[明朝体]「メルク......毎度毎度邪魔をしてくるのはなぜだ?」[/明朝体]
「あんたらがやってることが気に食わないからに決まってんじゃん。なんで魔神の世界創造なんてものを望んでるわけ?被害を無駄に増やさない方が良いでしょ?」
[明朝体]「必要ある犠牲だ。魔神は神。崇め讃えて尚、私たちは彼らにとっては虫も同然の存在。人間などよりも力もあり魔力量も多く世界への影響力がある。魔神の方が優れているのは当たり前ではないか。」[/明朝体]
「優劣で決まる世界じゃないでしょ。弱肉強食はあくまでも自然の摂理。私たちは自然に生きているんじゃなくて、自分たちで社会を作っていく生物じゃないの?この組織があることが何よりの証拠でしょ。もし優劣で決まる世界なのであれば、私の実力は幹部とほぼ同じくらいだと思うんだけど?」
[明朝体]「......どこでだ。どこでそんな考え方を身に着けてきたんだ?」[/明朝体]
「ノイトくんの仲間になってから自然と?」
[明朝体]「またノイト=ソルフォトスか......。度々復活された魔神を討伐し、遂には攻め込んできた血の気が多い子どもの分際で......。」[/明朝体]
「知ったような口を利かないで。ノイトくんは冷静で真っすぐでかっこいい人。」
[明朝体]「だが所詮はまだ子どもだ。力を持て余すがために調子に乗っていつか自身の身を滅ぼすだろう。」[/明朝体]
「......黙って。」
[明朝体]「人生経験は私の方が長い。その分知識も思考力もノイト=ソルフォトスよりも私の」[/明朝体]
[中央寄せ][太字][明朝体]『[漢字]灼愛射閼召[/漢字][ふりがな]ヤマナイアメ[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/中央寄せ]
メルクの無数の斬撃によってボスが倒れた。残るは秘書だけだ。
「ハァ......感情的になる理由を理解しかねます。感情は効率と制御を殺す。ここは“待て”が出来ない者が来るべき場所ではありませんよ。」
「私には分かるから良い。大切な人のことを貶されて、黙って聞いてろって言うの?」
「そうです。自身の制御も出来ないようであれば他人に気を使うこともままならないでしょう。」
「自分優先で生きていたくないから。ノイトくんの方が私なんかよりもずっとすごくてずっと価値があるでしょ。」
「......随分と悲観的ですね。自尊感情が微塵も感じられません。何も不憫だとは思いませんが、独り善がりで感情に囚われているのはどうかと思われます。」
「私は、ずっと......他の人のお荷物で、心のどこかで邪魔だと思われて......。それに耐えきれなくなって逃げ出したの。こんな弱虫よりもノイトくんの方が良いに決まってんじゃん......!」
メルクが拳を握りしめたその時、ラルカが戻ってきた。
「それがどうした、メルク。だからこそノイトに追いつこうとするのではないのか。」
「ラルカ......。ノイトくんはずっとああやって難しいことばかり考えてきたんでしょ?ずっと引きこもってた私が追いつけるわけないよ.....。」
「ハァ......メルク。あいつは底が見えない人間だ。私でさえまだ知らない一面がある。近くに居ても見えないものは沢山あるぞ。だから、距離や優劣は気にしたところで仕方がないだろう。」
「......仕方がない、で逃げるの?私は逃げ出したりしたくないよ。だってノイトくんは“嫌なときは逃げる”って言っておきながら色々抱え込んでるんだもん。」
「......随分と単純な考え方だな。」
「......え?」
「お前が見ているのはノイトが出した結果だけであろう。すぐに一人で抱え込もうとする聖人に見えても、葛藤はあった。かっこつけようとしている過程からかっこいい、あいつは。」
「......ラルカ......もしかしてノイトくんのこと、前から知ってたの?」
メルクの言葉でラルカが自分が今言った中に自分の感情が籠もっていたことに気がついた。
「でも、ノイトくんはリーリャが......。」
「分かっている。あれは昔の話だ。隣に立てなくても、側に居させてもらえるだけで私は十分だ。」
「......ラルカ、ノイトくんのこと本気で好きなの?」
「......“好き”というよりは“大好き”だな。誰にも思想を話せず独りぼっちだった私を救ってくれたんだ、あいつは。言っておくが恋愛感情ではないからな。」
「それでも私より真っすぐで眩しいよ......。私はノイトくんのガード崩したくてからかってるだけだし......。」
「それでも良いだろう。それが出来るだけでも、さらにはそのことを自覚しているだけでも、そうじゃない者と比べればそれはメルクの方がよっぽど羨ましい人間だ。自信を持て。」
メルクの目には、一瞬ラルカにノイトの面影が映った。それを経て確信に至る。メルクよりもラルカの方がノイトに近く、似合っていると。
「......ふふっ、何それ。代名詞多すぎて意味分かんないよ。」
「人は相対的にものを見ることしか出来ない生物だからな。誰かを貶すためではなく、励ますために比較することを勧める。きっとあいつもそういうだろう。」
「そうだね。ありがと。」
組織のボスの秘書はずっと黙って待っていた。2人の会話に興味があるのか、もしくはただ口を横から挟むのが嫌いなのか。
「......終わったようですね。」
「うん......色々抱え込んでたみたい。私はノイトくん程抱え込めないから、自分のキャパに合わせていかないといけないみたい。......それで、どうするの?ボスはもう倒したし、クロエの相手はノイトくんがしている。アンタがここに居る理由がないのであれば余計な殺生はしたくないんだけど?」
「......そうですね。戦う理由がありません。私はもうこの組織を降ります。......ただ、役割がなくなってしまいました。これからどうすれば良いのでしょうね。」
「やることないの?」
「......倫理的な観点からすれば1つ、あります。この先で実験台にされている方々は解放した方が良いでしょう。」
「そうだった......もっと早く言ってよ!」
「......メルク、ガヴェルディとユリムはどうした?」
「もう先に行ってるよ!私たちも急ごう!!」
メルクとラルカと秘書の3人は研究館の奥へと進んでいく。研究館の通路に並んでいるのはガラスの筒に入った液体に付けられた人型の何か。
(趣味悪っ......あいつら、こんなもの隠してたの?)
通路を抜けた先の方から衝撃音がする。3人の目に映ったのは魔神の核が造られている様子と、その媒体となっている実験台の人々。ユリムはその中の一人の前で座り込んでいた。
「嘘......そんな......!お姉ちゃん......!!」
「......お、メルク。遅かったな。ボスは倒せたか?」
「うん、倒した。......ユリムさん、その人って......。」
「私の......お姉ちゃん、です。」
ユリムの姉は他の実験台として捉えられた人々と同じように無数の管に繋がれて容器の中に入れられていた。
「ガヴェルディ、息はある?」
「ちゃんと生きている。だけど......この容器はあまりに固すぎる。さっきも試したんだけどなぁ......見ての通り傷一つない。」
先程の衝撃音はガヴェルディがこの容器を破壊しようとした音だったようだ。銃弾を[漢字]再装填[/漢字][ふりがな]リロード[/ふりがな]する音が聞こえたかと思えばラルカが口を開いた。
「退がってろ。」
直後、一発の静かな空を割く発砲音がして容器が冷気となって消えた。中の液体とユリムの姉が出てきて、それをガヴェルディが影の腕で受け止める。
「体はかなり冷えているし魔力量もかなり減っている......でも辛うじて生きてるぞ。」
「それで十分。すぐに応急処置を!」
メルクが自身のローブをユリムの姉にかけて回復魔法をかける。
(モドーの馬鹿は私じゃ救えなかったけど、今度こそ救う!)
「お姉ちゃん......今助けるからね...!」
「......おい、その管は変に取らない方が良いと思うぞ。恐らく命に関わる。」
「「え!?」」
ガヴェルディが指さした数本の管を見ると、まだ何かが流れているようだった。ユリムの姉から何かが吸い取られているが、無闇に切り離してしまうこともできない。
「ラルカ......どうすれば......?」
「んん......取り敢えず管を通じて繋がっている先はあの魔神の核だ。こちらを先に消し飛ばそう。」
「消し飛ばすんですか!?」
「ちょっと、それでユリムのお姉さんに何かあったらどうす」
発砲。魔神の核が入っていた容器が冷気となって消え、魔神の核が解放された。それと同時にユリムの姉が目を覚ます。
「あれ......ユリム......?ここは一体......。」
「お姉ちゃん!」
ユリムとメルクは気を取られていたが、ラルカとガヴェルディは魔神の核が動いていることに気がついて警戒していた。
「まさか、魔神の核に記憶を流し込んで実験体を肉体として利用するつもりじゃ......。」
「みさ、...ノイトはまだ戻ってこない。私たちがここで押さえ込まなければ被害が出るかもしれないな。」
魔神の核はラルカとガヴェルディには目もくれず、一瞬でユリムの姉の腹部にめり込んだ。
[斜体][大文字]「ガッ......!!」[/大文字][/斜体]
[斜体]「お姉ちゃん!!」[/斜体]
ガヴェルディが瞬時にユリムとメルクを影の触手で捕まえて引き剥がす。直後、魔神の核から魔力の衝撃波が放たれた。ラルカの銃弾が衝撃波を冷気に変えたことで防いだが、魔神の核はユリムの姉の意識を乗っ取って攻撃を仕掛けてくる。
[太字][明朝体][大文字]「邪魔だ。我の目的はここではない。退け。」[/大文字][/明朝体][/太字]
ラルカが発砲。ガヴェルディは影の触手で魔神の身体を拘束しようとする。しかし、ユリムの姉の肉体を手に入れた魔神の手から現れた鋭い針のような槍によってガヴェルディは貫かれた。
「ガヴェルディ!」
「大丈夫だ。この状態ならダメージはない。」
[太字][明朝体][大文字]「ほう......実体のない影の状態で物理的なダメージを回避したか......。だが、それは昔見たことがあるな。」[/大文字][/明朝体][/太字]
一方で、ラルカの銃弾はわざわざ躱したようだ。恐らく初見なのだろう。
「貴様の目的はなんだ。」
[太字][明朝体][大文字]「我が名付けられた仮称は“知識の魔神”。目的は世界のすべての知識の補完だ。ここには大した情報は残っていない。我は場所を移す。退け。」[/大文字][/明朝体][/太字]
秘書が“知識の魔神”に問いかけた。
「“知識の魔神”......!あなたを生み出してしまったこの組織の元一員として言わせてください。魔神の膨大な力は世界滅亡にも世界創造にも使えます。」
「ちょっと、ミーリア!!」
ミーリアと呼ばれた秘書はメルクの言葉を無視して言葉を続ける。
「あなたの目的が変わってもし世界を滅ぼしてもその責任はあなたにありますが、その身体はあなたのものではありません。その方にも家族な友人が居て、心配している人が居ることをお忘れなく。」
[太字][明朝体][大文字]「......知らん。我にとっては貴様らは虫も同然なのだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
そう言い残して“知識の魔神”は研究館の通路を進んでいった。メルクもラルカもガヴェルディもミーリアも、そのまま魔神と戦闘になっていれば勝ち目はないと分かっている。
「待って。」「待て。」
メルクとラルカが武器を構えて“知識の魔神”を呼び止めた。振り向いた魔神に向かってメルクが[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットの切っ先を向ける。
「あなたに人を傷つけるつもりがなかったとしても、その身体と魔力は奪ったものでしょ。ユリムの目の前でお姉さんを奪った落とし前は付けなさいよ。」
[太字][明朝体][大文字]「......奪った、か。そうだな、貴様らからすればそう見えるのだろう。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「どういう意味?」
[太字][明朝体][大文字]「我にとってはこの場所で我を造り出した組織から与えられた肉体だ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「事実でしょ?」
[太字][明朝体][大文字]「他の視点から物事を見ることが出来ない者が事実を語るな。知識こそが論理においての優劣の物差しだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「それは事実ではなく真実の話だろう。」
魔神に反論したのはラルカ。引き金に指をかけた状態で[漢字]照準[/漢字][ふりがな]エイム[/ふりがな]を合わせていて、確実に王手をかけている。
「貴様が誇れるのは知識のことだけだ。真理や哲学を語るのは貴様ではない。」
[太字][明朝体][大文字]「ふん......なら誰が語ると言うのだ?」[/大文字][/明朝体][/太字]
「ノイト=ソルフォトス。私の恩人一人で十分だ。」
[太字][明朝体][大文字]「一人の人間に背負わせるとは、随分と傲慢だな。」[/大文字][/明朝体][/太字]
ラルカは僅かに微笑んでノイトと同じように返す。
「あぁ、そうだな。」
メルクとガヴェルディとミーリアが構えているが、“知識の魔神”の殺気は感じない。魔神としての存在感もあまり感じられないのは、まだ生まれたばかりの魔神だからだろうか。それとも意図的に抑え込んでいるのだろうか。どちらにせよ、魔神である以上自由の身にさせることはできない。
「“知識の魔神”......もし貴様がこの場を去ろうとしているのであれば、私は容赦なくこの引き金を引く。通牒はこれで最後だ。」
[太字][明朝体][大文字]「当たれば只では済まないな......。だが、ここに踏みとどまる気もない。やはりここで全員片付けてしまった方が良いか?」[/大文字][/明朝体][/太字]
二者の間に緊張が走る。互いに怖気づかず、そのまま膠着状態が続いた。ユリムが口を開いたのはそのときだった。
「......お姉ちゃんを、返して......ください。お姉ちゃんの身体はお姉ちゃんのものです。」
[太字][明朝体][大文字]「何故?」[/大文字][/明朝体][/太字]
「“何故”......?何を言っているんですか......?」
[太字][明朝体][大文字]「貴様は親から貰ったその生命を自分のものだと言うであろう?それと同じことだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「......!! それは............。」
ラルカが発砲する。“知識の魔神”は当然のように躱し、ラルカへと手を翳した。
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体]禁忌魔法:『[漢字]神代の英傑[/漢字][ふりがな]ビルガメス[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
[中央寄せ]﹏﹏﹏﹏﹏[/中央寄せ]
[中央寄せ][太字]超級魔法:[明朝体][大文字][斜体]『[漢字]歴討の偉人[/漢字][ふりがな]グレッセ[/ふりがな]』[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字][/中央寄せ]
[斜体]「「「「!!」」」」[/斜体]
“知識の魔神”とラルカの各々の魔法が発動した。もう後戻りは出来ない。
[水平線]
──弥哲、ちょっと良い?
《ん?どうしたの、世宥。》
ある日のこと。世宥は弥哲にある疑問を打ち明けてみた。
──弥哲は何事にも真面目に取り組むじゃん?なおかつ、冷静だからあんまりツラい思いをしているイメージがつかないんだけど......無理してたりしない?
《うん、僕は大丈夫だよ。ストレスを感じない、とでもラベリングしておけば僕の脳は勝手に麻痺するからね。脳が勝手に僕自身を理想に寄せようとしてるんだよ。》
──それでも、他の人がストレスと呼ぶものは感じてるんじゃない?
《それはそうかもね。だけど、僕は痩せ我慢体質だからなぁ......。危機感を持つまでが遅いことが僕にとっては問題だって分かってる。》
──......そっか。ちゃんと自覚してるのであればまだマシかもね。
《ん〜、“マシ”って言葉、すごく便利だよね〜。事態が良いわけでもないのに、あたかも良くなったかのように感じられる魔法の言葉じゃん。》
──それは相対的なものでしょ。以前弥哲が言ってたアンカリング効果とかコントラスト効果が働いてるんじゃないの?
《そうだね。だけど、必ずしも互いを際立たせるものばかりじゃないのが現実。もし僕が何かに夢中になって周りが見えなくなる程何かを楽しんでいたら、そのときは多分僕が一番脆い時だね。順風満帆な状況とケアレスミスは紙一重だし。両方勢いがついている程それぞれの結果が大きくなる。》
──弥哲なら大丈夫だと思いたいけど......踏み外さないでよ?
《客観視する余裕が僕にあれば、ね。》
[水平線]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
メルクは組織の拠点の研究館で鉢合わせた組織のボスと秘書と戦闘していた。
(ラルカが居ないってことは多分ノイトくんの方に......。なんで勝手に居なくなるの!流石に一人だと無理があるでしょ!!)
[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットを巧みに扱うメルクの方が一枚上手ではあるが、決定打にはなっていなかった。スティレットの形状から見るに、明らかに突き技は致命傷になりうる。そのため2人は防御に集中している。下手に攻撃に転じて刺し違えてしまっては意味がないからだ。
[明朝体]「メルク......毎度毎度邪魔をしてくるのはなぜだ?」[/明朝体]
「あんたらがやってることが気に食わないからに決まってんじゃん。なんで魔神の世界創造なんてものを望んでるわけ?被害を無駄に増やさない方が良いでしょ?」
[明朝体]「必要ある犠牲だ。魔神は神。崇め讃えて尚、私たちは彼らにとっては虫も同然の存在。人間などよりも力もあり魔力量も多く世界への影響力がある。魔神の方が優れているのは当たり前ではないか。」[/明朝体]
「優劣で決まる世界じゃないでしょ。弱肉強食はあくまでも自然の摂理。私たちは自然に生きているんじゃなくて、自分たちで社会を作っていく生物じゃないの?この組織があることが何よりの証拠でしょ。もし優劣で決まる世界なのであれば、私の実力は幹部とほぼ同じくらいだと思うんだけど?」
[明朝体]「......どこでだ。どこでそんな考え方を身に着けてきたんだ?」[/明朝体]
「ノイトくんの仲間になってから自然と?」
[明朝体]「またノイト=ソルフォトスか......。度々復活された魔神を討伐し、遂には攻め込んできた血の気が多い子どもの分際で......。」[/明朝体]
「知ったような口を利かないで。ノイトくんは冷静で真っすぐでかっこいい人。」
[明朝体]「だが所詮はまだ子どもだ。力を持て余すがために調子に乗っていつか自身の身を滅ぼすだろう。」[/明朝体]
「......黙って。」
[明朝体]「人生経験は私の方が長い。その分知識も思考力もノイト=ソルフォトスよりも私の」[/明朝体]
[中央寄せ][太字][明朝体]『[漢字]灼愛射閼召[/漢字][ふりがな]ヤマナイアメ[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/中央寄せ]
メルクの無数の斬撃によってボスが倒れた。残るは秘書だけだ。
「ハァ......感情的になる理由を理解しかねます。感情は効率と制御を殺す。ここは“待て”が出来ない者が来るべき場所ではありませんよ。」
「私には分かるから良い。大切な人のことを貶されて、黙って聞いてろって言うの?」
「そうです。自身の制御も出来ないようであれば他人に気を使うこともままならないでしょう。」
「自分優先で生きていたくないから。ノイトくんの方が私なんかよりもずっとすごくてずっと価値があるでしょ。」
「......随分と悲観的ですね。自尊感情が微塵も感じられません。何も不憫だとは思いませんが、独り善がりで感情に囚われているのはどうかと思われます。」
「私は、ずっと......他の人のお荷物で、心のどこかで邪魔だと思われて......。それに耐えきれなくなって逃げ出したの。こんな弱虫よりもノイトくんの方が良いに決まってんじゃん......!」
メルクが拳を握りしめたその時、ラルカが戻ってきた。
「それがどうした、メルク。だからこそノイトに追いつこうとするのではないのか。」
「ラルカ......。ノイトくんはずっとああやって難しいことばかり考えてきたんでしょ?ずっと引きこもってた私が追いつけるわけないよ.....。」
「ハァ......メルク。あいつは底が見えない人間だ。私でさえまだ知らない一面がある。近くに居ても見えないものは沢山あるぞ。だから、距離や優劣は気にしたところで仕方がないだろう。」
「......仕方がない、で逃げるの?私は逃げ出したりしたくないよ。だってノイトくんは“嫌なときは逃げる”って言っておきながら色々抱え込んでるんだもん。」
「......随分と単純な考え方だな。」
「......え?」
「お前が見ているのはノイトが出した結果だけであろう。すぐに一人で抱え込もうとする聖人に見えても、葛藤はあった。かっこつけようとしている過程からかっこいい、あいつは。」
「......ラルカ......もしかしてノイトくんのこと、前から知ってたの?」
メルクの言葉でラルカが自分が今言った中に自分の感情が籠もっていたことに気がついた。
「でも、ノイトくんはリーリャが......。」
「分かっている。あれは昔の話だ。隣に立てなくても、側に居させてもらえるだけで私は十分だ。」
「......ラルカ、ノイトくんのこと本気で好きなの?」
「......“好き”というよりは“大好き”だな。誰にも思想を話せず独りぼっちだった私を救ってくれたんだ、あいつは。言っておくが恋愛感情ではないからな。」
「それでも私より真っすぐで眩しいよ......。私はノイトくんのガード崩したくてからかってるだけだし......。」
「それでも良いだろう。それが出来るだけでも、さらにはそのことを自覚しているだけでも、そうじゃない者と比べればそれはメルクの方がよっぽど羨ましい人間だ。自信を持て。」
メルクの目には、一瞬ラルカにノイトの面影が映った。それを経て確信に至る。メルクよりもラルカの方がノイトに近く、似合っていると。
「......ふふっ、何それ。代名詞多すぎて意味分かんないよ。」
「人は相対的にものを見ることしか出来ない生物だからな。誰かを貶すためではなく、励ますために比較することを勧める。きっとあいつもそういうだろう。」
「そうだね。ありがと。」
組織のボスの秘書はずっと黙って待っていた。2人の会話に興味があるのか、もしくはただ口を横から挟むのが嫌いなのか。
「......終わったようですね。」
「うん......色々抱え込んでたみたい。私はノイトくん程抱え込めないから、自分のキャパに合わせていかないといけないみたい。......それで、どうするの?ボスはもう倒したし、クロエの相手はノイトくんがしている。アンタがここに居る理由がないのであれば余計な殺生はしたくないんだけど?」
「......そうですね。戦う理由がありません。私はもうこの組織を降ります。......ただ、役割がなくなってしまいました。これからどうすれば良いのでしょうね。」
「やることないの?」
「......倫理的な観点からすれば1つ、あります。この先で実験台にされている方々は解放した方が良いでしょう。」
「そうだった......もっと早く言ってよ!」
「......メルク、ガヴェルディとユリムはどうした?」
「もう先に行ってるよ!私たちも急ごう!!」
メルクとラルカと秘書の3人は研究館の奥へと進んでいく。研究館の通路に並んでいるのはガラスの筒に入った液体に付けられた人型の何か。
(趣味悪っ......あいつら、こんなもの隠してたの?)
通路を抜けた先の方から衝撃音がする。3人の目に映ったのは魔神の核が造られている様子と、その媒体となっている実験台の人々。ユリムはその中の一人の前で座り込んでいた。
「嘘......そんな......!お姉ちゃん......!!」
「......お、メルク。遅かったな。ボスは倒せたか?」
「うん、倒した。......ユリムさん、その人って......。」
「私の......お姉ちゃん、です。」
ユリムの姉は他の実験台として捉えられた人々と同じように無数の管に繋がれて容器の中に入れられていた。
「ガヴェルディ、息はある?」
「ちゃんと生きている。だけど......この容器はあまりに固すぎる。さっきも試したんだけどなぁ......見ての通り傷一つない。」
先程の衝撃音はガヴェルディがこの容器を破壊しようとした音だったようだ。銃弾を[漢字]再装填[/漢字][ふりがな]リロード[/ふりがな]する音が聞こえたかと思えばラルカが口を開いた。
「退がってろ。」
直後、一発の静かな空を割く発砲音がして容器が冷気となって消えた。中の液体とユリムの姉が出てきて、それをガヴェルディが影の腕で受け止める。
「体はかなり冷えているし魔力量もかなり減っている......でも辛うじて生きてるぞ。」
「それで十分。すぐに応急処置を!」
メルクが自身のローブをユリムの姉にかけて回復魔法をかける。
(モドーの馬鹿は私じゃ救えなかったけど、今度こそ救う!)
「お姉ちゃん......今助けるからね...!」
「......おい、その管は変に取らない方が良いと思うぞ。恐らく命に関わる。」
「「え!?」」
ガヴェルディが指さした数本の管を見ると、まだ何かが流れているようだった。ユリムの姉から何かが吸い取られているが、無闇に切り離してしまうこともできない。
「ラルカ......どうすれば......?」
「んん......取り敢えず管を通じて繋がっている先はあの魔神の核だ。こちらを先に消し飛ばそう。」
「消し飛ばすんですか!?」
「ちょっと、それでユリムのお姉さんに何かあったらどうす」
発砲。魔神の核が入っていた容器が冷気となって消え、魔神の核が解放された。それと同時にユリムの姉が目を覚ます。
「あれ......ユリム......?ここは一体......。」
「お姉ちゃん!」
ユリムとメルクは気を取られていたが、ラルカとガヴェルディは魔神の核が動いていることに気がついて警戒していた。
「まさか、魔神の核に記憶を流し込んで実験体を肉体として利用するつもりじゃ......。」
「みさ、...ノイトはまだ戻ってこない。私たちがここで押さえ込まなければ被害が出るかもしれないな。」
魔神の核はラルカとガヴェルディには目もくれず、一瞬でユリムの姉の腹部にめり込んだ。
[斜体][大文字]「ガッ......!!」[/大文字][/斜体]
[斜体]「お姉ちゃん!!」[/斜体]
ガヴェルディが瞬時にユリムとメルクを影の触手で捕まえて引き剥がす。直後、魔神の核から魔力の衝撃波が放たれた。ラルカの銃弾が衝撃波を冷気に変えたことで防いだが、魔神の核はユリムの姉の意識を乗っ取って攻撃を仕掛けてくる。
[太字][明朝体][大文字]「邪魔だ。我の目的はここではない。退け。」[/大文字][/明朝体][/太字]
ラルカが発砲。ガヴェルディは影の触手で魔神の身体を拘束しようとする。しかし、ユリムの姉の肉体を手に入れた魔神の手から現れた鋭い針のような槍によってガヴェルディは貫かれた。
「ガヴェルディ!」
「大丈夫だ。この状態ならダメージはない。」
[太字][明朝体][大文字]「ほう......実体のない影の状態で物理的なダメージを回避したか......。だが、それは昔見たことがあるな。」[/大文字][/明朝体][/太字]
一方で、ラルカの銃弾はわざわざ躱したようだ。恐らく初見なのだろう。
「貴様の目的はなんだ。」
[太字][明朝体][大文字]「我が名付けられた仮称は“知識の魔神”。目的は世界のすべての知識の補完だ。ここには大した情報は残っていない。我は場所を移す。退け。」[/大文字][/明朝体][/太字]
秘書が“知識の魔神”に問いかけた。
「“知識の魔神”......!あなたを生み出してしまったこの組織の元一員として言わせてください。魔神の膨大な力は世界滅亡にも世界創造にも使えます。」
「ちょっと、ミーリア!!」
ミーリアと呼ばれた秘書はメルクの言葉を無視して言葉を続ける。
「あなたの目的が変わってもし世界を滅ぼしてもその責任はあなたにありますが、その身体はあなたのものではありません。その方にも家族な友人が居て、心配している人が居ることをお忘れなく。」
[太字][明朝体][大文字]「......知らん。我にとっては貴様らは虫も同然なのだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
そう言い残して“知識の魔神”は研究館の通路を進んでいった。メルクもラルカもガヴェルディもミーリアも、そのまま魔神と戦闘になっていれば勝ち目はないと分かっている。
「待って。」「待て。」
メルクとラルカが武器を構えて“知識の魔神”を呼び止めた。振り向いた魔神に向かってメルクが[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットの切っ先を向ける。
「あなたに人を傷つけるつもりがなかったとしても、その身体と魔力は奪ったものでしょ。ユリムの目の前でお姉さんを奪った落とし前は付けなさいよ。」
[太字][明朝体][大文字]「......奪った、か。そうだな、貴様らからすればそう見えるのだろう。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「どういう意味?」
[太字][明朝体][大文字]「我にとってはこの場所で我を造り出した組織から与えられた肉体だ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「事実でしょ?」
[太字][明朝体][大文字]「他の視点から物事を見ることが出来ない者が事実を語るな。知識こそが論理においての優劣の物差しだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「それは事実ではなく真実の話だろう。」
魔神に反論したのはラルカ。引き金に指をかけた状態で[漢字]照準[/漢字][ふりがな]エイム[/ふりがな]を合わせていて、確実に王手をかけている。
「貴様が誇れるのは知識のことだけだ。真理や哲学を語るのは貴様ではない。」
[太字][明朝体][大文字]「ふん......なら誰が語ると言うのだ?」[/大文字][/明朝体][/太字]
「ノイト=ソルフォトス。私の恩人一人で十分だ。」
[太字][明朝体][大文字]「一人の人間に背負わせるとは、随分と傲慢だな。」[/大文字][/明朝体][/太字]
ラルカは僅かに微笑んでノイトと同じように返す。
「あぁ、そうだな。」
メルクとガヴェルディとミーリアが構えているが、“知識の魔神”の殺気は感じない。魔神としての存在感もあまり感じられないのは、まだ生まれたばかりの魔神だからだろうか。それとも意図的に抑え込んでいるのだろうか。どちらにせよ、魔神である以上自由の身にさせることはできない。
「“知識の魔神”......もし貴様がこの場を去ろうとしているのであれば、私は容赦なくこの引き金を引く。通牒はこれで最後だ。」
[太字][明朝体][大文字]「当たれば只では済まないな......。だが、ここに踏みとどまる気もない。やはりここで全員片付けてしまった方が良いか?」[/大文字][/明朝体][/太字]
二者の間に緊張が走る。互いに怖気づかず、そのまま膠着状態が続いた。ユリムが口を開いたのはそのときだった。
「......お姉ちゃんを、返して......ください。お姉ちゃんの身体はお姉ちゃんのものです。」
[太字][明朝体][大文字]「何故?」[/大文字][/明朝体][/太字]
「“何故”......?何を言っているんですか......?」
[太字][明朝体][大文字]「貴様は親から貰ったその生命を自分のものだと言うであろう?それと同じことだ。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「......!! それは............。」
ラルカが発砲する。“知識の魔神”は当然のように躱し、ラルカへと手を翳した。
[中央寄せ][大文字][太字][明朝体]禁忌魔法:『[漢字]神代の英傑[/漢字][ふりがな]ビルガメス[/ふりがな]』[/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
[中央寄せ]﹏﹏﹏﹏﹏[/中央寄せ]
[中央寄せ][太字]超級魔法:[明朝体][大文字][斜体]『[漢字]歴討の偉人[/漢字][ふりがな]グレッセ[/ふりがな]』[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字][/中央寄せ]
[斜体]「「「「!!」」」」[/斜体]
“知識の魔神”とラルカの各々の魔法が発動した。もう後戻りは出来ない。