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本作は一部を除きフィクションです。
一部を除き、実在する人物、出来事、組織とは関係ありません。

また、一部微細な暴力表現が含まれている場合があります。
これを苦手とする方は閲覧をお控えいただくことをお勧めします。

【せかゆめ1周年!これからもよろしくお願いします!】

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世界に溢れる夢

#117

117.ミストルの町

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]

翌朝、ノルティーク王城で目を覚ましたノイトはあくびをしながら辺りを見回す。ルミナスが隣から寄りかかるように寝ていて、向かいのソファにはメルクとラルカ。客室に一つしかないベッドはリュミエが独占していた。
(そうか......帰ってきたんだったね...。)
ノイトはリーリャを起こさないように身体を動かしたつもりだったが、起こしてしまったようだ。
「ん......ノイト?おはよ〜。」
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
「大丈夫だよ。まだ一緒に居たいし。」
ノイトはマジックバッグの中を確認しばがら整理をした。金色の腕輪のような魔具を見つけて手に取る。
(あぁ〜、あの時のか。なんでゴブリンがこんなの持ってたんだろう。)
「ノイト、それって確か『幸福のチャペル』に行く途中で魔物が持ってたやつだよね?」
「うん。魔具の性能自体は低いけどまだ使えそうなんだよね......。作り変えてみるか。」
リーリャはノイトの言葉を聞いて少し驚いた。
「作り変える......そんなこと出来るの?」
「...当然だ。」
リーリャの問いに答えたのはラルカ。いつの間にか目を覚ましていたようだ。
「おはようラルカ。せっかくだからリーリャに説明してあげてよ。」
「ハァ......お前と言うやつは...。まぁ良いだろう。この世界には大きく分けて3種類の隠秘学がある。魔術、錬金術、占星術だ。」
ラルカは銃弾を取り出してリーリャに見せた。
「私のこの銃弾に用いられている素材も、錬金術によって生みだされたもの。撃ち込んだものを冷気に変える事が出来るのは組み込まれた術式を、瞬時に対象を媒体として発動しているからだ。」
リーリャは納得したように頷いてから残りについても聞いてみた。
「それじゃあ、占星術は?」
「占星術は星の周期的な動きやその変化を観察して魔力の流れを読む技術だ。今はかなり廃れているがな。」
「どうして?」
「恐らく新しいものに惹かれる好奇心を満たそうとするには魔術や錬金術の方が魅力的に見えたのだろう。継手は減っている一方だ。」
「まぁ、占星術は長時間の観察が必要だからね。“待て”が出来ない人には向いてないのかも。」
「そういうお前はどうなのだ?」
「出来ないよ。」
「んん...何......?もう朝...?」
リュミエが目を覚ましたようだ。眠たげに目を擦りながらベッドから降りて窓の外を見た。昨夜までの激闘など夢のように消えている。
「昨日、ホントにあんなことがあったの?実感湧かないんだけど...。」
「そういうものだよ。何かが終わったらそれで終わり。後悔とかでもない限り完結してるでしょ。」
ノイトの言葉を聞いてラルカは帽子を目深に被った。帽子の鍔に隠れていて目元は見えないが、心做しか少し寂しそうな表情をしているように見える。
「お前は、そうだろう。何かあってもその結果だけを見ている。それ故に何かが起こってもその後にどうすることもない。」
流石にリーリャでも理解は難しいようだ。しかし、ノイトは理解出来た。ラルカが今言っていたことはノイト自身にも自覚があるからである。
「...つまり、どういうこと?」
ノイトは首を傾げているリーリャに説明した。
「一つ例を挙げてみようか。僕が何か痛みを感じたとしても、それは“痛い”だけで終わり。泣こうがたうち回ろうが、痛みそのものが変わるわけじゃないからね。」
ノイトの言葉に頷いてラルカが続ける。
「痛みの感じ方はエンドルフィンやドーパミンでいくらでも減る。だが、ノイトの場合は観点が違うのだろう。対症療法より原因療法の方が効率が良いと考えることが一般的だ。」
ノイトは“普通”や“常識”を疑ったうえで自分なりの答えや考えを持つ。しかし、それはあくまでも最適解を選んでいるだけであってただ単に周囲と違うものを率先的に選ぶ逆張りではない。ラルカは想像以上にノイトの思想を理解しているようだった。
(流石、と言ったところだね......。)
「ふふ。」
ラルカがノイトを睨んだ。
「おい。何を笑っている。」
「いや、ちゃんと僕の考えを理解出来てる人は結構少ないからなんか嬉しくなっちゃって。」
「......ライバル、などと言う表現を使う気はないが、相手と対等な立場で言葉を交わすのであれば最低限の事前理解はあった方が良いだろう。」
ラルカはちゃんとノイトを対等な立場だと認めているようだった。
(それなら......。)
「まぁ、せいぜい僕に伍するくらいの思考力は身につけてよね?」
「戯け。すぐに並んでやろうではないか。」
ノイトの誘導によってラルカは乗せられている。だがそれで良い。ノイトは場を支配したのではなく整えただけ。相手が勝手に選択したことであるため、責任を取る必要もない。
「...ノイトくん、なんだか楽しそうだね。」
「そりゃあ楽しいよ。」
「...それもそっか。」
リュミエはノイトと出会った時のことを思い出した。ノイトは対等な立場で煽り合いが出来るという理由でリュミエを仲間に誘っていたのだ。今のラルカもノイトと対等に思想を語り合えるだけのポテンシャルが十二分にある。
そこでルミナスが客室のドアを開けて入ってきた。
[太字][明朝体]「おはようございます!」[/明朝体][/太字]
「あ、おはよ〜。」
[太字][明朝体]「父上がお兄ちゃんたちに渡したいものがあるそうです!玉座の間まで来てくれませんか?」[/明朝体][/太字]
「国王殿下が...?メル、起きて〜。朝だよ〜。」
メルクを起こして一行は玉座の間に入る。
[大文字][太字][明朝体]「おぉ、来たか。先日世界を救ってもらったお礼の品を渡しておかなければと思ってな。」[/明朝体][/太字][/大文字]
それぞれが順番に報奨の品を受け取っていく。リーリャは“[漢字]星結いの腕飾り[/漢字][ふりがな]スター・チェーン[/ふりがな]”、メルクは[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のミゼリコルドダガー、リュミエは“[漢字]拍子の記章[/漢字][ふりがな]メトロノーム・バッジ[/ふりがな]”、ラルカは“[漢字]縫式の手袋[/漢字][ふりがな]キルト・グローブ[/ふりがな]”を受け取ったようだ。
(それで、僕が貰ったこのペンダントが“[漢字]翼の象徴[/漢字][ふりがな]ウィング[/ふりがな]”。多分空中でなんかの効果があるんだろうな。)
[大文字][太字][明朝体]「ルミナス。この後は王城に残っても良いが......また旅に出ても良いぞ。」[/明朝体][/太字][/大文字]
ルミナスの顔が一段と明るくなった。
[太字][明朝体]「本当ですか!私はこの後もお兄ちゃ、......ノイト様と行動を共にしたいです!!」[/明朝体][/太字]
[大文字][太字][明朝体]「そうかそうか。ノイト君、これからも娘たちのことを頼んでも良いかね?」[/明朝体][/太字][/大文字]
ノイトは笑顔で答えた。
「はい。約束がありますから。」
ラルカは顔を上げていなかった。王が言った“娘たち”。ルミナスとカメリアは王女であるため含まれているはずだ。しかし、ラルカは女王イズベラの娘ではあるものの、王の血は引き継いでいない。複雑な事情に巻き込んだイズベラと組織の父親を恨んでいる。
(私は......違う...。)
玉座に座っていたノルティーク王はラルカだけ表情が曇っていることにも気が付いた。そして、王はレイクからラルカのことを聞いている。
[大文字][太字][明朝体]「ラルカ。顔を上げなさい。」[/明朝体][/太字][/大文字]
王の言葉で玉座の間に沈黙が落ちた。ラルカは恐る恐る顔を上げる。王の目は真っ直ぐと自分を見据えていた。
「......はい。」
[大文字][太字][明朝体]「お前の生い立ちはレイクから聞いておる。わしは妻を愛していた。そして妻は娘たちを愛していた。それなら、妻がわしを裏切ろうとも関係ない。ラルカ、お前はわしの大事な娘だ。」[/明朝体][/太字][/大文字]
ラルカは肩から何かがすっと消えていくのを感じる。ずっと引っかかっていたものが流れ落ちるような。涙は出ない。転生後の家族は本物であり、偽物だから。しかし、表情がすこしだけ揺らいだ。いつもの堅苦しい表情から尖りを取ったような顔。
「...ありがとうございます。お[漢字]義父[/漢字][ふりがな]とう[/ふりがな]様。」
ルミナスとカメリアは笑顔になった。ルミナスに関してはラルカの方へと駆け寄っていっている。
[太字][明朝体]「ラルカ様!私たちは[漢字]義姉妹[/漢字][ふりがな]しまい[/ふりがな]です!! これからも、よろしくお願いします!」[/明朝体][/太字]
ラルカは以前の戦争でノルティークの王族へと攻撃を仕掛けようとした。しかし、それにも関わらず誰もラルカを責めることはなかった。
(私は赦されたわけではない。[漢字]だけど[/漢字][ふりがな]・・・[/ふりがな]......。一つの居場所を貰った。感謝しなければ、な。)
ラルカは玉座の間だからといって脱いでいた帽子を被り直し、僅かに微笑む。
「フッ......。」
「あれ、ラルカが笑ってる。」
ニヤけたノイトの言葉にラルカの表情が一瞬戻りかけたが、ラルカはそれをやめた。そしてノイトの方を振り返る。
「黙れ。何をしようが私の勝手だろう?」
微笑みと共に返された言葉に対し、ノイトはラルカに手のひらを向けた。
「これからもよろしくね、ラルカ。」
ラルカは無言でノイトの手をタッチをした。

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]

ノイトたちはノルティーク王城を後にする。王子たちはまた話しかけてこなかった。
「ノイトく〜ん、ルミナスのことよろしくね〜!」
「カメリア様も、レイクさんが帰ってきたら労ってあげてください。」
手を振るカメリアに見送られながら5人は『[漢字]門[/漢字][ふりがな]ゲート[/ふりがな]』をくぐり、ノルストラへと向かった。

[中央寄せ]エリア〚ノルティーク大陸/学術都市・ノルストラ〛[/中央寄せ]

以前戻ってきたときは紅葉が綺麗だったが、今はもう葉がかなり落ちてしまっているようだった。リーリャがぽつりと呟く。
「もうすぐ、冬だね...。」
[太字][明朝体]「わぁ...!ここがお兄ちゃんが住んでいた街ですか?!」[/明朝体][/太字]
「正確に言えばこの街の外れにあるミストルの町だよ。」
「相変わらずのどかで良いね〜。」
「メルの生まれ故郷のノービリアも温泉の町って感じで落ち着くけどね。」
「ノイトくん、あれって図書館?」
「うん、そうだよ。多分フィルさんとリオールさんは今地下の大書庫だね。」
リュミエが指差した先には大きな図書館があった。この街が学術都市と呼ばれる所以は街の中央にある図書館と、その地下にある大書庫にある。古代の文献や伝説の素材のサンプルなどが保管されているため、稀に魔導師や研究者が訪れるのだ。リオールが数年前にこの街へ立ち寄ったのも研究のためだった。
リーリャはノイトの顔を覗き込む。
「ノイト、会いに行くの?」
「ん〜、多分向こうから来るでしょ。」
次の瞬間、フィルマリーが[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]してきた。
「ノイトさ〜ん!」
「[斜体]ぐへっ[/斜体]」
上空から来られるのは予測出来ていなかった。お陰でノイトはフィルマリーの着地マットになる。
「ノイトさ〜ん!聞いて下さいよぉ、リオールくんったら酷くて!」
「待って下さい、なんで僕は泣きつかれてるんですか?」
フィルマリーは鼻をすすって答える。
「ノイトさんだからです。」
「答えになってませんよ。」
「とにかく、リオールくんが早く調査書まとめろ〜、ってうるさいんですよ!」
「そうですかー、じゃあさっさとまとめた方が良いですよ。」
「むぅ......ノイトさんのいじわる。」
「気が済むまで言っててください。」
ノイトはそう言って立ち去ろうとするが、フィルマリーはそれだけでは納得出来ないようだ。ノイトの脚にしがみついた。
「ちょっ、危ないからやめてください。」
「......ヤダ。」
29にもなる大人にしがみつかれる精神年齢総計30代の15歳、というなんとも言えない構図が出来上がってしまっている。ノイトは首にかけていた“[漢字]翼の象徴[/漢字][ふりがな]ウィング[/ふりがな]”を外してフィルマリーに渡した。
「それじゃあ、この魔具の詳細について調べてもらえますか?」
「あっ、これは......」
「お願いしますね〜!」
フィルマリーは知っていたようだが、それを聞く前にノイトはミストルの町の方へと全速力で逃げていく。通りに人が居なかったため[漢字]通行人[/漢字][ふりがな]ピン[/ふりがな]がストライクされることはなかった。ラルカは銃を構えている。
「止めるか?」
「あ〜、止めなくて良いよ。ノイトくんはああいう感じだから。」
「あれがいつもか?」
「いつもってわけじゃないけど......。何ならあんな感じに逃げ出すノイトくん初めて見たけど。」
[太字][明朝体]「取り敢えず追いかけますか?メルク様とラルカ様はお兄ちゃんと午後からも合同作業なのですよね?その前に私もこの後の仕事を確認しておきたいです!」[/明朝体][/太字]
ルミナスの言葉に頷いて残りのメンバーもノイトが消えていった方へと駆け出していった。
「えぇ......あの...私は?」
1人取り残されたフィルマリーはただぽかんとミストルの町の方を見ることしか出来なかった。
「フィルマリーはこっち。」
「ふえぇ〜!や〜!」
一瞬の間にリオールが[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]してきていて、すぐにフィルマリーの抱え上げて元の場所へと戻っていった。

[中央寄せ]エリア〚ミストルの町〛[/中央寄せ]

ノイトはフィルマリーの魔力の気配が違う場所へと移動したことを感じ取って足を止めた。
「ふぅ......。」
一息ついた直後、ノイトが反射的に構えた腕に高速でラルカの蹴りが飛んできた。
[斜体]「!?」[/斜体]
「お前、我々を置いていくとは一体どういう了見だ...。」
魔力で肉体強化もしていないため、ラルカの全体重と運動エネルギーを加えた蹴りに耐えきれるわけもなく、ノイトは蹴り飛ばされて倒れた。
「[斜体]うぐっ[/斜体]...。軽くて助かった......ラルカ、ちゃんとご飯食べてる?」
「食べているとも。話を逸らすな。質問に答えろ。」
「えっと...どういう了見か、だよね。......他意はないけど、逃げを優先しました。」
冷たい視線がノイトの睨みつけていた。
「そうか......逃げは恥だと以前言っただろう。それとも何だ、“逃げるは恥だが役に立つ”...?今し方のお前の行動が何の役に立つのか、言ってみろ。」
武器なしでこの威圧感。しかもノイトが不利な状況。“全能の魔神”なんかよりもこちらの方が怖く見えてくる程だ。
「役に立つか、意味があるか、それは必ずしも行動の前に立つものではないよ。後付けの理由だって筋が通っていれば、相手を納得させるだけの内容であれば、問題ないと思うよ。」
「......。」
ラルカが拳をノイトへと振り下ろした。
「[斜体]いっ!?[/斜体]」
間一髪で跳ね起きて躱す。
「逃げるな。」
次にそのままの勢いで後方回し蹴りが飛び、ノイトはそれを後ろへ下がって躱す。しかし、その次に来た中段蹴りは避けきれなかった。ノイトの脇腹にラルカの蹴りが入り込む直前、何かが割れるような音がしてノイトは蹴りと同じ方向に飛んでいく。
「ふぅ......。今のは、魔法か?」
「うん。範囲を点に絞った盾。[[漢字]小盾[/漢字][ふりがな]バックラー[/ふりがな]]だよ。」
ラルカの視線は変わらない。決してゆっくりではない速度でノイトの方へと歩み寄っている。
「...3手先で仕留める。」
その直後、ラルカの左手がノイトの方へと飛んでいき、ノイトはそれを躱した。
(いや、待て......そうくるよな...。)
とき既に遅し。ノイトが躱すことが想定内であったラルカはそのまま地面に両手をついてノイトの方に自身を押し出した。ラルカの両足で胴体を拘束されたノイトはそのまま倒れて身動きが取れない。ラルカはノイトの心臓がある部分を指先で突いて宣言する。
「詰みだ。」
そこでリーリャたちが追いついてきた。
「やっと追いついた......!ノイ、ト──。」
目の前に広がっているのはラルカがノイトに跨って拘束し指先で胸骨の辺りを突いている光景。ノイトが何もせずに一方的にやられることはまずないため、恐らく小規模や体術での戦闘の果てにこうなったのだろう。
「うわぁ......ノイトくん、そういうのが好きだったの?言ってくれれば私がいつでも...」
「違う!」
「こいつが逃げたから取り押さえただけだが、何か問題でも?」
「体勢が問題ありでしょ......。まだノイトくんの脇腹だからマシだけど...。」
「メル?マシとかそういうの話じゃなくてね?」
「そりゃあ、嫌だったらもうとっくに拘束解いてるもんね...?」
「解けるようならもう解いてるんだけど、ラルカの脚の力が強すぎて抜け出せないんだって...。」
リーリャはノイトの少し心配そうな目で見てラルカに話しかけた。
「ノイトだって急に泣きつかれたらびっくりして逃げちゃうよ。無理に取り押さえなくても大丈夫じゃない?」
ラルカはノイトから視線を逸らさずに答える。
「甘いな。そんなことばかり言ってるようでは、いつかノイトに逃げられるぞ。」
「逃げるってそんな......。」
「逃げないのか?」
「.........多分?まぁ、これはこれで良いよ。良くないけど。ド[漢字]S[/漢字][ふりがな]エス[/ふりがな]との戦闘前のウォーミングアップになったよ。同族が居て良かった。」
拘束が強まった。
「誰がサディストと同族だと......?」
「ん、そろそろ痛いから離してくれない...?」
無視。
(フィルさんと別の方向性でやばい人だった......。どうしよう、首絞められるのも時間の問題だよな......。)
実際、ラルカの両手がじりじりと首に迫ってきている。
「......逃げてすみませんでした。」
「ほう、まだ無駄口を聞く余裕があるのだな。」
([斜体]めっちゃキレてる......!![/斜体])
「都合によってコロコロ掌返ししてるのは認めるけど、生存戦略としては理にかなってるでしょ。」
「言い訳は無用だ。」
ラルカの拳がノイトの顔面に向かって引き寄せられるように向かっていったが、次の瞬間にはノイトはそこには居なかった。
[中央寄せ][太字][斜体][明朝体]⁅[漢字]悪夢[/漢字][ふりがな]ナイトメア[/ふりがな]⁆[/明朝体][/斜体][/太字][/中央寄せ]
ノイトが身体を黒い影のように変えて窮地を脱したようだ。しかし、ラルカの銃で撃たれればこの状態でも冷気と化して消滅する。
「......。」
ラルカが銃を構えることはなかった。その代わりに手を伸ばして掴みかかってくる。
[斜体](え......?!)[/斜体]
個体としての実体がないはずのノイトの胸ぐらの辺りを掴んで[漢字]帯落[/漢字][ふりがな]おびおとし[/ふりがな]。
[斜体]「がっ!!」[/斜体]
地面に叩き付けられたノイトが元の姿に戻り、ラルカの全体重を加えられている。ラルカの体重自体は問題ないが、押さえが強い。
「......何故逃げる?」
「......。」
ノイトは思い返してみると自分のただのエゴであることに気が付いた。
(別にラルカに攻撃されるから逃げたんじゃなくて、僕が逃げたからラルカが攻撃してきたんだよな......。フィルさんから逃げたのも正直な所面倒だっただけだし。)
ノイトはラルカの腕をそっと掴む。ラルカの力は依然として変わらなかったが、その視線だけは少し柔らかくなった。
「何だ。」
「......すみませんでした。逃げたのは僕のただのエゴです。面倒なことを避けて楽になろうとしました。」
「そうか。だがそれでも、我々を置いていくな。各々がお前の心配をしていて迷惑だ。それはお前が一番望んでいないはずだ。」
言い返せない。ノイトは口論の勝利に固執しているわけではなく、納得出来ればそれで良いと思っている。提案と納得。それがノイトが望む対等な関係。今回ばかりはラルカの方に軍配が上がったようだ。
「ハァ......。リーリャ、メル、ルミナ、リュミエ。ごめんね、心配かけちゃって。」
「そんな、私は全然大丈夫だよ!ノイトは今まで色々抱え込みすぎてたんだし、逃げ出したくなることだってあるでしょ?」
「私も平気。ノイトくんが負けてるところ初めて見られてラッキーだし。」
[太字][明朝体]「お兄ちゃんなら私たちを放っておいて消えちゃうなんてことはありえません!」[/明朝体][/太字]
「ノイトくんだって苦手なものはあるしね。斧足類とか腹足類とか。」
ラルカはノイトを押さえつけていた手を離し、代わりにみぞおちを軽く殴った。
「[斜体]ゔっ...[/斜体]」
反射的に上体を起こしたノイトの前にはラルカの手。“[漢字]縫式の手袋[/漢字][ふりがな]キルト・グローブ[/ふりがな]”を装着しているようだった。
「立て。」
(なるほど...それであの状態の僕を掴めたのか。)
ノイトはラルカの手を取って立ち上がる。
「ありがと。」
「礼など要らん。......怪我はないか。」
「大丈夫だよ。手加減してくれてたでしょ。」
「...なら、良い。」
初めて会ったときと比べてラルカはかなり丸くなったように感じられる。それでもまだ視線は鋭いが。思想が自分と同じくらいに強く筋が通っていて、論理的かつ合理的な判断が出来、尚且つ対等な関係。午後になれば共に組織に攻め入る仲間である。親睦を深めるのには丁度良かったのかもしれない。
「にしても、ノイトくんやっぱりやろうと思えば逃げられたじゃん。」
メルクの指摘にノイトの動きが止まった。リュミエもメルクの言葉に頷いて続けた。
「うんうん。やっぱり跨られるのが好きな系統の人だったんだねぇ〜。もう隠さなくても大丈夫だよバレてるから!」
「だから違うって!」
時計塔に着くまでずっとこの繰り返しであった。


作者メッセージ

 作者の御鏡 梟(みかがみ きょう)です。
今回はミストルの町へ帰る途中の場面を描きました。今回から第14章:日常篇に入りましたが、平和な日常の中でも不穏な動きが...?次回もお楽しみに!!
本作を読んでの感想の他、キャラクターや世界観についての質問も受付けています。
本作品を読んでいただき、ありがとうございました!!

[追記]
※ノイトはドMではありません。

2026/03/23 18:35

御鏡 梟 ID:≫ m9kR/WFBrng.A
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