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本作は一部を除きフィクションです。
一部を除き、実在する人物、出来事、組織とは関係ありません。

また、一部微細な暴力表現が含まれている場合があります。
これを苦手とする方は閲覧をお控えいただくことをお勧めします。

【せかゆめ1周年!これからもよろしくお願いします!】

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世界に溢れる夢

#116

116.ノルティークへの帰還

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚ディアスムングロール大陸/音楽都市・ムズィガルド〛[/中央寄せ]

宿屋で荷物をまとめたノイトたちは街の大通りの端でこれからの動向について確認した。
「さてと...それぞれやることは分かってると思いますけど、僕とリーリャ、メル、ルミナ、リュミエ、カメリア様、ラルカ、エルクス様御一行がノルティーク帝国に。フィルさんとリオールさんがノルストラに。ドメリアスさんとイルムさんが現場の実地見聞に。レイクさんが魔神の魔力の結晶の封印に。エスミルト騎士団の皆さんがエスミルトに。相違ありませんか?」
問題なさそうだった。ノイトはいつの間にか足元に居た黒いものに向かって呼びかける。
「アテル。君はイグさんをオボロノサトまで送っていって貰える?」
「分っかりました〜!任務遂行します!!」
「それと、[漢字]小夜啼鳥[/漢字][ふりがな]ナイチンゲール[/ふりがな]。ノルティーク帝国に着いたらしばらくの間はルミナに着いてて。」
いつの間にか消えていた[漢字]小夜啼鳥[/漢字][ふりがな]ナイチンゲール[/ふりがな]が現れてルミナスの周りを飛び回った。
[太字][明朝体]「[漢字]小夜啼鳥[/漢字][ふりがな]ナイチンゲール[/ふりがな]...!」[/明朝体][/太字]
「それじゃあ、行こうか。フィルさん。ベルリスさん。お願いします。」
「了解です!」「了解。」
[中央寄せ][[[漢字][太字]空間転移[/太字][/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]]][/中央寄せ]

[中央寄せ]エリア〚ノルティーク大陸/ノルティーク帝国〛[/中央寄せ]

フィルマリーの魔法でノルティーク帝国に戻ってきていた。王城のすぐ目の前に転送されたため、衛兵がすぐに気がついて敬礼をした。
「おかえりなさいませ、ルミナス様、カメリア様、エルクス様。」
[太字][明朝体]「私たちが王城を離れている間も護衛お疲れ様でした!」[/明朝体][/太字]
王城の中に通されたノイトたちは玉座の間に連れてこられ、ノルティーク王と顔を合わせることになる。
[太字][明朝体]『「「父上、ただいま帰りました!」」』[/明朝体][/太字]
玉座の間に響いた3人の声を聞いてノルティーク王は微笑んだ。
[太字][明朝体][大文字]「おぉ、戻ってきたか。おかえりなさい。」[/大文字][/明朝体][/太字]
ノイトとリーリャとメルクはノルティーク王と面識があるものの、リュミエとラルカは初対面である。そのうえ、リュミエは魔神、ラルカは今は亡き王妃と不倫相手との間に生まれた子である。気まずいなんていう言葉ではぬるいほど複雑な感情であろう。ルミナスが翡翠色の瞳を輝かせて久しぶりの王城の部屋の様子を見ていると、第2王子・アルグレードと第3王子・リブラムが姿を現した。
[太字][明朝体]「あっ、アルグレードお兄様、リブラム!ただいま帰りました!!」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「おかえり、ルミナス。」[/明朝体]
[明朝体]「......おかえりなさい。」[/明朝体]
次に、2人の視線がノイトへと向けられた。アルグレードは以前ノイトが初めてノルティーク王城に呼ばれた際にレイクからノイトの戦闘スタイルについて聞いていた。リブラムは同じときにカメリアに絡まれていたが、本から目を離すことなく興味がなさそうだった。
[明朝体]「ノイト。お前の話はレイクから聞いていた。妹の面倒を見てたんだってな。妹は、迷惑をかけてなかったか?」[/明朝体]
「はい、大丈夫でした。」
リブラムは黙っている。ルミナスよりも少し歳下だが、とてもその年齢の子どもだとは思えない程に大人しい。
(大人しい...。それに比べて......。)
ノイトはメルクとリュミエの方を見た。
「ちょっと、何か失礼なこと考えてない?」
「私が何かした?」
「...いや、何でもない。」
変に刺激しない方が良いかもしれない。ノイトやルミナスがそうこうしている間に、エルクスはノルティーク王に遠征と魔神の討伐に関しての報告をしていた。
[太字][明朝体][大文字]「...なるほど。そうであったか。エルクス、ご苦労であった。」[/大文字][/明朝体][/太字]
[太字][明朝体]『報告は以上となります。この後はノイトたちへの労いの意も込めて祝宴を開きたいと思っている次第です。』[/明朝体][/太字]
(そんな大袈裟な......。)
とんでもない。ノイトの謙虚さは人一倍あるが、事実としては英雄にも等しい。
リーリャはノイトが思ったことを察して話しかけた。
「ノイト、せっかくだしお祝いしてもらおう?実績はすごいわけだし。」
「そうだっけ...?あんまり実感湧かないけど......。」
「まず、魔神の撃破への貢献。しかも6体。これだけでもすごいけど、ウォルディードの崩壊を遅らせて少数ではあるけど、命を救えたんだよ?」
「あれはリーリャでしょ。僕は指示をしただけ。」
リーリャは首を横に振って微笑む。
「だからこそだよ。その指示がなかったらあの時の私は動けてなかった。だから、ノイトのお陰。」
「ん......そうはなるかな...?」
「なるよ。」
そこで口を挟んできたのはメルクだ。
「元々居た7体の魔神に加えて[漢字]組織[/漢字][ふりがな]うち[/ふりがな]の馬鹿共が新しい魔神まで生み出しちゃってたのに......ノイトくんはそれも倒してくれたでしょ?MVPはノイトだよ。」
「いや...でも僕だけの力じゃないしなぁ......。誰かが欠けていたら今こうして生き延びてないよ。」
[太字][明朝体]「それはお兄ちゃんも含まれてますよね?お兄ちゃんが居なかったらどのみち世界が滅びてしまっていたかもしれません。だからこそ、お兄ちゃんのお陰です!」[/明朝体][/太字]
リーリャとメルクに加え、ルミナスにまで励まされている。2人の王子もこちらをじっと見つめているし、振り返らずともラルカの冷たい視点が背中に突き刺さっている。そして、ラルカがノイトの矛盾を指摘した。
「ノイト。お前はあの戦争で散々“かっこつけたいだけ”とほざいていたな。だが今はどうだ。その謙虚さはかっこよさでも何でもない。自身の思想への冒涜ではないか。」
ノイトは今まで見たことがないような表情で固まった。
「それなら、何?」
「...それは......。」
考えていなかったようだ。普段のノイトは相手の言葉に反発して聞き返すことはしない。そのためラルカも想定していなかったらしい。少し間が空いてラルカが口を開く。
「......放漫だ。」
「あら...言い返せないのが厳しい。」
「女々しい感嘆詞使わないでよ。」
「エイジェンダーだから。」
「多様性だね!」
コロコロと話者が変わるが、それだけ思考速度と想像力が優れているのだろう。
話を切り替えるようにノルティーク王が手を叩いた。
[太字][明朝体][大文字]「ノイト君。そしてその仲間たちよ。この度は魔神の討伐・封印ご苦労であった。凱旋を祝して夜宴を開こうではないか。」[/大文字][/明朝体][/太字]
王の一言で王城内の全てが動いた。使用人たちが食事と会場を準備し、衛兵が警備を固める。
「...なんか、すみません。僕たちのためにわざわざここまでしていただいて...。」
[太字][明朝体][大文字]「気にすることはない。わしからも一国の王として礼を言わせてもらいたい。世界を救ってくれて、本当にありがとう。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「......身に余る光栄です。」
(そこまで危機感を感じなかったんだけど......なんでだろ?)
ノイトが口にした言葉と頭の中で考えていることが違ったが、うわべだけでも事実として残る。ノルティーク王はそれをノイトなりに受け取ったのだと解釈し、ルミナスとカメリアとエルクスに声をかけた。
[太字][明朝体][大文字]「ルミナス。カメリア。エルクス。3人とも剣と鎧を置いて着替えると良い。」[/大文字][/明朝体][/太字]
[太字][明朝体]『「「はい、父上。」」』[/明朝体][/太字]

祝宴という名目の食事会の準備が出来るまで、ノイトたちは客室で待機することになる。
「ねぇノイト。組織に乗り込むつもりなんでしょ?大丈夫なの?」
「大丈夫、とは言い切れないけど手を出すからには最後までやり遂げるよ。」
ノイトの言葉を聞いてラルカがため息を吐いた。一拍置いてから口を開く。
「遂行の意志があるのは認めるが、お前には危機感がまるで足りていない。余裕ぶって半端な成果しか上げられないのがオチだ。」
「まぁ、命まで賭ける気はないしね。守るためじゃなくて壊すためにカチコミに行くわけだし。メル、組織の要注意人物が居たら教えてくれる?」
メルクは頷いて指を立てる。
「まずは、クロエ=モズフィーム。年齢は私と同じくらいで、The・狂気って感じ。」
「Oh... Is she insane? That's very troublesome.」
「なんで英語?」
「気分でね。」
「で、具体的にはどういった狂気なのだ?」
メルクはノイトをラルカを一瞥した後に説明した。
「まず、タナトフィリア。」
「えっ、“まず”でそのワード出てくるレベルなの?」
「そうだね......その中でも、他人が苦しむ姿を見て喜ぶタイプ。」
「典型的なサディスト......と言ったところか。」
「いや、ラルカ。サディストにもいくつかタイプがあるよ。」
ラルカが勝手に納得するのを妨害したノイトは指を4本立て、一本ずつ曲げながら例を挙げていく。
「大きくわけて4つ。激発型、暴君型、強要型、惰弱型だね。簡単な例を挙げるとすれば、それぞれ制限時間が短い時限爆弾、冷酷な独裁者、冷徹な執行官、手を打つのが早すぎる“窮鼠猫を噛む”、って感じ。」
ラルカは顎に軽く手を添えて何かを考えるような仕草をする。
「なるほど。であれば、私は強要型か。......ん、私は何を言っているのだ。」
「別にわざわざ自分に当てはめなくて良いんだけど...。メル、その人はどれに近いかな?」
「暴君型かなぁ...?相手を傷つけることに容赦がないし、一つ一つの行動に結果が出るとそれに価値を感じる感じ。」
ノイトはぽつりと呟く。
「......ダークテトラッド。」
「ん?何それ?」
隣に居たリーリャは単純な知識不足、説明の途中だったメルクは偏った知識収集のための知識不足で理解出来なかったようだ。しかし、ラルカは理解出来たらしい。少しだけ何かを懐かしむような目を一瞬だけ見せた。
「...心理学で反社会的な人格特性とされている3つのタイプにサディズムを加えたもの、だったか?」
「よく覚えてるね。」
ノイトの脳裏には少しだけ前世で誰かと話している場面が浮かんでいたが、すぐに思考を切り替える。メルクはラルカの定義の説明を聞いてノイトに尋ねた。
「そのダークテトラッドって何があるの?」
「ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパス、サディズムの4つだよ。マキャベリズムは目的のためなら手段を選ばない考え方だね。」
「そっか...それじゃあクロエはマキャベリズムとサイコパスとサディズムだよ。」
「えぇ......危険人物1人目で最悪なもの引いた気がする......。」
「正直に言って、私よりもやばい。拠点に乗り込むのは私とラルカとノイトだよね。この中では特にノイトは気を付けて欲しい。盲目的なロマンチストだから。」
メルクの忠告を聞いてノイトが僅かに眉根を寄せた。何かに勘づいたようだ。
「......ヤンデレか。ある意味フィルさんやリュミエよりも面倒な気がする。」
「ちょっと、誰が面倒だって?」
「リュミエが。」
黙って聞いていたリュミエがジトッとノイトを見つめている。少し間が空いてむっとした表情になった。
「......何?」
「...ノイトくんの前世で何か弱みでもあったらバラそうかと思ったのに。ただの善人じゃん。つまんないの。」
「ハァ......。」
今、リュミエはさらっととんでもないことを口にした。ノイトは気が付くのに遅れたが、残りの3人は気づいている。
「えっ、ノイト!リュミエにいつ転生者だって...!」
「ノイトくん、なんでリュミエがそれを知ってるの!」
「......やはりな。...ん?」
リーリャとメルクの慌てっぷりを見てようやく思い出したのか、ノイトは口を開けた。
「あぁ〜、そう言えばそうだね。僕との戦闘でリュミエがゲデニスを復活させたせいで記憶を読む能力まで身につけちゃってね。普通に全部バレちゃったよ。」
「チートキャラじゃん......!しかも、幻惑の能力もあるんでしょ?! なんでこんなの仲間にしちゃったの!」
メルクの問いに対してノイトは軽く微笑んで答える。脚を組んで頬杖を付いた。
「だって、面白そうだから。」
「はぁ...?! ノイトくん、私と会った時は“余計なこと言わない方が身のためだよ”とか言ってたくせに〜!」
「言ったっけ...?」
言葉とは裏腹に、口元が緩んでいた。しっかりと覚えているようだ。
「ノイトくん、ちゃんと覚えてるでしょ!もう......。」
「まぁ、大丈夫でしょ。リュミエの場合はただの事故だけど、それ以外は全員[漢字]同じ[/漢字][ふりがな][大文字]・・[/大文字][/ふりがな]だから。」
リーリャ、メルク、ラルカの3人がお互いを交互に見る。意味を理解するのに少しばかり時間を要したが──。
「「えぇ!ラルカも!?」」
「貴様らも...?」
(そういえば言ってなかったな......。)
「ノイト、なぜもっと早く言わなかったのだ。もっと早く言っていれば私は......。」
「類は友を呼ぶ、ってこういうこと?」
「相補性、っていう言葉もあるよ。」
ラルカだけ反応が違ったが、恐らくこの世界で最初に出会った転生者がノイトだったのだろう。変な期待をさせてしまっていなければ良いのだが。
「ほら、組織の話に戻るよ〜。」
ノイトの声で話が元の路線に戻る。各々の脳内ではまだ驚愕が収まっていなかったが、それを表に出すことなく切り替えられたのはノイトが居たからだ。
「それで、そのクロエ=モズフィームっていう人が[漢字]S[/漢字][ふりがな]エス[/ふりがな]でヤンデレでタナトフィリアでINSANEなんだよね?僕は特に注意した方が良いって。」
「うん。」
(やばいやばいやばい...!ノイトくんってなんでこんなに転生者ばかり寄せ付けてんの?!)
脳内の焦りが地味に表情に出ていたが、声はなんとか抑え込んでる。ノイトはそれに気が付いていながらも、論点がまたズレてしまう可能性があるため指摘はしない。話が一段落したと思ったリーリャはノイトに話しかけた。
「ノイト、今夜は一緒に寝ようね?」
「?」
「は?」
「ん?」
「え?」
ノイトはすぐにリーリャの真意を理解して快諾する。
「あぁ、良いよ。」
「エ駄死!」
「浮気者!」
「......。」
「3人とも、どうしたの?何想像したのか知らないけど、どのみち今夜はこの部屋で寝るんだし一緒でしょ。」
ノイトのカウンター。散々に罵ろうとしたメルクとリュミエだったが、ノイトの人柄を振り返ってみると何の問題もなさそうだった。ラルカが黙っていたのは恐らく情報を迂闊に飲み込まない癖が日頃から付いていたためだろう。
丁度気まずい雰囲気を破るようにルミナスが入ってきた。剣とドレスは置いて、普段王城で着ているようなドレスに着替えてきたらしい。遅れて入ってきたカメリアやエルクスも王族らしい清潔感ある服装だ。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん!お待たせしました!! 早速大広間へ行きましょう!」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「リーリャ様とメルク様、リュミエ様とラルカ様もご一緒に。」[/明朝体]
(あ......カメリア様が王女っぽく声を作ってる......。)
3人の王族と5人の客が大広間に到着すると、豪華な食事が長いリフェクトリーテーブルに並べられていた。
「えっ、貸切?」
[太字][明朝体]「そうです。もう遅い時間ですが、食事も取らずに眠られるわけにも行きません!」[/明朝体][/太字]
長い机の奥に、ノルティーク王が座っている。
[太字][明朝体][大文字]「さぁ、どうぞ。お召し上がりください。」[/大文字][/明朝体][/太字]
少し緊張してきたが、おずおずと席に腰を降ろすことにした。ノイトの右隣がリーリャ、左隣がルミナスである。
(こういうのってルミナは反対側に座るものじゃ......?まぁ良いけど。)
ふとラルカの方を見た。ノルティーク王から1番遠い席。死にそうな顔をしていた。
(あれ、大丈夫かな......?立場の詐称なんていくらでも出来るのに...。)
「「「「「いただきます。」」」」...。」
豪華な食事には慣れていなかったが、味は確かに美味しい。
「ん〜!」
「リーリャ、行儀悪いよ。...国王殿下、本日は私どものためにこのような食事会を催していただき、誠にありがとうございます。」
メルクは礼儀は知っている。それを普段から表に出さないだけであった。素のメルクを知っている者にとってはほぼ別人格と見て取れるだろう。
[太字][明朝体][大文字]「そんな堅苦しい様じゃなくて良いぞ。少しでも疲れが残っているのは良くない。今日はゆっくり休んでいくと良い。」[/大文字][/明朝体][/太字]
「ありがとうございます。」
その後も各々の戦闘での体験などを話しながら食事が続き、丁度23時を過ぎる頃に食事が終わった。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん......。」[/明朝体][/太字]
ルミナスは眠気に耐えきれず船を漕いでいる。ノイトはその様子を見て軽く顔を覗き込んだ。
「ルミナ、眠かったら寝ても大丈夫だよ。久しぶりに家に帰ってきたんだしね。ほんの数日の間に色々あったから疲れたでしょ。」
ついにルミナスは寝てしまった。そこでメイドがやってきてルミナスを部屋へと運びに行く。
「申し訳ありません。後は私が責任を持って部屋までお運びします。」
「あぁ...ありがとうございます。お願いします。」
ルミナスはメイドとカメリアによって運ばれていった。それだけなら何の問題もなかったが、ノイトはそうではなかった。
(あのメイド......何か持ってたな。隠されてるけど、妙な魔力の気配を感じる。フィルさんなら分かったかもしれないけど。)
他の面々は気が付いていないようだった。他人の秘密を無理に深堀りする趣味はないため何事もなかったかのように振る舞うことにする。
「...ノイト、どうかした?」
「ん、何が?」
「いや...ちょっとだけノイトの気配が変わった気がして。」
(それは普通に怖いよ、リーリャ。気配って......。メルとかラルカも気が付いてないのに。)
「大丈夫だから。」
「...ホントに?」
「うん。」
使用人たちが食器を片付けている間にカメリアも帰ってきた。
[明朝体]「さて、と......リーリャ様。突然申し訳ありませんが、もしよろしければピアノを演奏していただけませんか?久しぶりにリーリャ様の演奏が聞きたくなってしまいました。」[/明朝体]
「良いですよっ!すぐに準備しますね!!」
リーリャは笑顔で諾い、大広間の一段高いところに置いてあるピアノへと歩き出した。しかし、何故かノイトの手首を掴んでいる。
「...リーリャ?」
「...ノイトも、一緒に来て。」
ノイトはリーリャに引っ張られながらピアノの元まで辿り着いた。リーリャは連弾がしたいようだ。
「僕が弾ける曲、あまりないけど?」
「大丈夫。私も適当に弾くから、それっぽく合わせてくれれば良いよ。」
「ピアノでエスコートは一生出来なさそうだね......。」
「アハハッ、気持ちだけで十分嬉しいよ!! ...それじゃあ、始めよ!」
2人の指が鍵盤に置かれて、音を奏でた。
[水平線]

[水平線]
静かなメロディがテンポを落としていき、眠りに落ちていき穏やかになる呼吸のようだった。頭に心地よく響く低音と澄んで消える高音が余韻を残して大広間を染めた。大きな窓の外の可惜夜の空に浮かぶ星たちが余白のない想いを、蒼い月がたった一つのかけがえのないものを表しているように見える。間もなく日を跨ぐ頃だろう。
「...ノイト、ありがとね。一緒に居てくれて。」
「...今更でしょ。どういたしまして。」
明日から各々が各自の仕事に就く。リーリャは午後からノイトと別行動になってしまうが、その前にまた一つ思い出を作ることが出来て良かったと感じている。
(多くを語るは欲張り、だよね。ノイトなら必ず帰ってくるから大丈夫。でも...。)
「...ちょっとだけ、寂しいな。」
そう呟いたリーリャの横顔を見ながら、マジックバッグの中に手を伸ばした。そして何かを掴んだことを確認して、小声で唱える。

[水平線]

[中央寄せ][大文字][斜体][太字][明朝体]〔[漢字]時夢姫[/漢字][ふりがな]シンデレラ[/ふりがな]〕[/明朝体][/太字][/斜体][/大文字][/中央寄せ]

[水平線]

時間が止まった。しかし、ノイトは動けている。本来ならこの魔法を使用すると発動者の時間も泊まる。それが代償であるからだ。今ノイトが動けているのは何か別のものを代価にしているから。それでもノイトはリーリャと2人になることを選んだ。
「ノイト......。」
「...もうちょっとだけ、ね?」
リーリャは切ない程に静かな世界で、隣に座っている少年のことをずっと見つめていた。

2人の時間も止まったように長く感じられ、このまま続いて欲しいとまでも思ったが、そういうわけにも行かない。ノイトは自分のことを受け入れてくれた。拒絶も否定もしない。リーリャはゆっくりと目を開けて口を開いた。
「ありがとう、ノイト。なんかすごく、心地良い感じだったよ。」
珍しくノイトの頬が赤く染まっていた。ノイトもあまり経験がないのだろう。
「どう、いたしまして......。」
目線がなかなか合わない。目を逸らそうとしてはリーリャに顔を覗き込まれて心臓が跳ねてしまうノイトであった。
「ふふっ......!! ノイト。こーゆーの、慣れてないんだねぇ?」
「......っ!」
「照れてるんだぁ、ウブだねぇ〜!」
「もう、良いから!ほら、そろそろ魔法も解けちゃうよ!! シンデレラの魔法は0時まで、って決まってるでしょ?」
「どうだろうね?」
ノイトの魔法が解けた。周りは何があったのか知らない。2人だけの秘密。......リュミエとゲデニスにバレるのは時間の問題であるが。ノイトとリーリャは椅子から立ち上がってメルクやエルクスたちが居る方へと深くお辞儀をした。
「ふぅ......もう0時か。早く寝よ。」
「そうだね。」
“孤独の魔神”、“虚無の魔神”、そして“全能の魔神”。密度の濃い数日間だったが、しばらくの間はまた平和が戻りそうだ。ノイトは背後から月の光に照らされて出来た自分の影を見て少し微笑んだのだった。


作者メッセージ

作者の御鏡 梟(みかがみ きょう)です。
今回で第13章:“全能の魔神”後篇も終わりです。次回もお楽しみに!!
本作を読んでの感想の他、キャラクターや世界観についての質問も受付けています。
本作品を読んでいただき、ありがとうございました!!

2026/03/21 00:00

御鏡 梟 ID:≫ m9kR/WFBrng.A
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