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本作は一部を除きフィクションです。
一部を除き、実在する人物、出来事、組織とは関係ありません。

また、一部微細な暴力表現が含まれている場合があります。
これを苦手とする方は閲覧をお控えいただくことをお勧めします。

【せかゆめ1周年!これからもよろしくお願いします!】

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世界に溢れる夢

#109

109.病院

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]

ノイトとリーリャはコンサートホールから外に出て病院へと向かった。2人が病院に向かう理由は、過去との決別だ。リーリャはノイとが先程の会話を思い出す。

「えぇ〜!? 病院行きたいって...どこか具合悪いの?大丈夫?」
「そうじゃないって。ただ、過去とのけじめは付けておきたくてね。」
ノイトは“記憶の魔神”ゲデニスとの戦闘の時から、リーリャの前世について心配事があった。前世のリーリャはピアノ演奏のプロで、転生後も多くのクラシック曲を楽譜を見ずに引くことが出来る。しかし、前世でとあるコンサートホールで行われたコンクールに優勝した後に階段から足を滑らせてしまい、そのまま病院へと搬送。その搬送中に前世のノイトが轢かれてしまい、リーリャはそのことに責任を感じていたのだ。

コンサートホールを出て約20分後。病院が見えてきた。リーリャは少し身構える。
「ノイト。ここって前世で私が.........。」
「リーリャ、大丈夫だから。落ち着いて。」
誰も居ない病院の中の自動ドアをくぐり、シーンとした受け付けカウンターの前まで歩いた。
(どこにあるんだろ...救急受付外来日誌を探すとなれば......[漢字]救急救命室[/漢字][ふりがな] E R [/ふりがな]の近くか。)
救急搬送口の近くまで移動し、ノイトは救急救命室へと足を踏み入れた。リーリャはノイトの影に隠れるようにして後に続く。
「えっと...?あれは確か20XX年のX月XX日......。」
ノイトが呟いた日付を聞いてリーリャの表情が強張った。
「え...?ノイト...まさか......。」
「...あった。」
ノイトが目線を送った先には、「20XX年X月XX日」という日付と、「澪凪 弥哲」「樟本 陽環」の名前があった。ノイトは前世のリーリャの記録を一読した後に、それをリーリャに手渡す。
「リーリャ。後は破いて捨てるなり燃やすなり、隙にすれば良いよ。けじめは自分で付けないと。」
最初は戸惑っていたが、リーリャはそれを受け取って握りしめた。ぐしゃぐしゃになった紙を見つめながら何かを考えているようだったが、やがて顔をあげてその紙を左右に引きちぎった。
「...これで、大丈夫。後は、私が居た病室......だね。」
「......そうだね。」
今度はリーリャが前に立って歩き出す。リーリャは誰も居ない病院の廊下を通り、ある部屋の前で立ち止まった。
「...ここだよ。前世で私が入院していた部屋......私が、その...。」
「無理に言わなくて良いよ。気持ちの切り替えが目的なんだから。」
ドアを開けると、設備が整った病室がある。しかし、リーリャの目にはかつての情景が蘇ってきた。
「うぅ...。」
リーリャの脳内に流れ出すのは、あの時朧気な視界に入ってきた親の顔の安心感と、その後に聞かされた誰かの訃報。しかも、その少年は先日自分が乗っていた救急車に轢かれて命を落としたと聞き、溢れ出した罪悪感と自身への嫌悪。
(誰が悪いとかじゃないのは分かってる...だけど、それでも...!)
前世のリーリャはその事故の原因は自分だと思いこんでしまっている。それがあくまで原因の一つに過ぎないことは理解しているが、一度貼ってしまったラベルはそう簡単には剥がせなかった。
(事故の原因のうちのたった一つとしても、前世のノイトが死んじゃったっていう事実に加担していたことに変わりはないでしょ...?)
その時、リーリャの肩に乗せられたのはノイトの手。手の熱に気を取られてほんの今しがたまで脳内に飽和していた葛藤が溶けていく。
「リーリャ。過去は過去だよ。確かにそれが消えることはないし、事実は事実として残り続けるけど...リーリャが生きてるのは今でしょ?いつまでも過去の記憶に捕らわれすぎてたら、目の前のことに集中出来なくなっちゃうよ。」
ノイトの言葉はリーリャの目を覚ますには十分だった。リーリャは振り返ったときに視界に映ったノイトの真剣な目を見て心が支えられているような気がした。
(そう、だね...。“記憶の魔神”との戦いのときも、そんなこと言ってたね。)
「...なんだか、ずるいよ。」
「ん?何のこと?」
「だって...ノイトが言うことって全部ちゃんと筋が通ってるっていうか、すごくしっかりしてるじゃん。だから、すごく安心する。」
「......そっか。......そろそろ落ち着いた?」
「ん〜、もうちょっと。」
リーリャは深呼吸をしてから部屋を見渡し、俯く。
(ノイトは、気にしてない......。私も、気にしなくて良いのかな......?)
俯いて自分の足元の一点をただじっと見つめるリーリャの視界に、一瞬蒼い光が映った。その光は、ノイトに貰った指輪のセンターストーンが部屋の照明を反射したものだ。その指輪を見ていると少しずつノイトとの思い出が蘇ってきて、不安も消えていった。
(ノイトに貰った指輪......。......うん、もう大丈夫だよ。)
リーリャは顔を上げて振り返る。
「ノイト。」
ノイトの名前を呼んだリーリャの目には覚悟が宿っていた。何かが吹っ切れたような表情をしてノイトの元まで戻ってくる。
「もう大丈夫だよ。ノイトのお陰でね。本当に、ありがとっ!」
「大丈夫なら、何よりだね。それじゃあ、行こうか。」
「うん!」
2人は病室を後にし、病院の外へと向かっていった。途中の中庭がよく見える通路で近くにある病室から何かを感じてその方へと視線を向けるが、何か魔力や人の気配を感じたわけではない。
(何だろう......まぁ、別に良いか。)
迷路のように長い通路を抜け、出入り口が見えてきた。
「もう、この場所には戻ってきたくないもんだね。」
「どうして?病院だから?」
「それもあるけど...。やっぱり、過去はある程度切り離しておかないと今に集中出来ないじゃん?」
「それもそっか!」
陽の光に照らされる外に出て、ノイトは一瞬目を眇める。見上げると太陽がある。至って普通で、当たり前のこと。だが、過去との決別の直後ではそれもまたいつもとは違うものに感じた。
([漢字]太陽の光[/漢字][ふりがな]ソル・フォトス[/ふりがな]......ヘイロー...陽の光の環...。)
太陽の位置からして、今は恐らく15時頃だろう。ノイトは隣にいるリーリャに話しかけた。
「リーリャ、次はどこ行こうか?」
「そうだなぁ...今日中に行ける場所だとどこがある?」
「う〜ん...少し離れた所にある遊園地はゆっくり遊ぶ時間ないからパスで、実家も田舎だから今から行くのはなし。だとすれば...どうしよう?」
2人は次の目的地をどこにするか考える。しかし、なかなか良い場所が思いつかない。
「あっ、じゃあノイトの家!」
「えぇ...?僕の家なんて、別に良いものないよ?」
「良いの!もし仮に電話ボックスに住んでるって言われても行きたい!」
「普通にマンションだけど...。まぁ、そこまで言うならしょうがないか...。こっちだよ。ちょっと遠いけど。」
ノイトはリーリャを連れて先程目を覚ました方駅のへと歩いていく。と言っても、この病院からは歩いて40分程かかる。その間にノイトは哲学用語についてリーリャに話してみることにした。
「へぇ...それじゃあ、そのア・プリオリって言うのは限定的なものなんだね...?」
「そうだね、アポステリオリがほとんどだと言っても過言ではないんじゃないかな?少なくとも、これからも技術の発展で後天的に身につける知識は増えていくだろうし。」
▶ノイトの話の影響で、リーリャが少し難しい言葉を使うようになった。
リーリャはノイトの説明によってどんどん小難しい言葉を覚えていった。ノイトのような表現はするものの、まだまだノイトの思考力の方が上ではあるのだが。
「ねぇノイト、ノイトって色々知ってて本当にすごいね!」
「どうしたの、いきなり?」
「いや〜、私もすごくノイトリーになったな〜って思ってね。」
「固有名詞を形容詞的用法にしないでよ...。」
「え〜、良いじゃん。覚えやすいんだし。」
リーリャは新しい言葉を生み出した。これぞまさにノイトリー。
「“リーリャ”って愛称?形容詞にしにくいな...。」
「でも、メルクだったらメルキーになるよ?」
「なんだかお菓子みたいだね...。」
そんな会話をしていたら、もう駅に着いていた。ノイトは駅を挟んで向こう側へと歩いていく。どうやら、前世のノイトの家は図書館や学校の反対口にあるようだ
「そろそろ着くよ。」
閑静な住宅街の、モダンな家の前でノイトは足を止めた。
「ここ?」
「うん...懐かしいなぁ...。僕の部屋は2階の手前側だよ。」
「わぁ...!お邪魔しま〜す!!」
家の中に入ると、リーリャはノイトよりも先に階段を上がった。ノイトも後を追うようにして階段を上がる。
「ねぇ!ノイトの部屋ってあそこ?」
「うん...っていうか、別にそこまで焦らなくても部屋は逃げないよ。」
「だって気になるんだもん!男の子の部屋って今まで入ったことないし、どんな感じか気になるじゃん!!」
「僕は性自認的にはエイジェンダーだからそこまで男女の性差としての個性は部屋に出ないと思うけど...。」
「無意識のうちに個性っていうのは滲み出るものだよ〜?特に、言葉遣いと部屋はその人の心の鏡だ、って私の先生が言ってたし。」
「一理あるけど......こういうのが男の部屋、みたいな感じに思わないでね?個人差はあるだろうし。」
「は〜い。」
ノイトが部屋のドアを開けると、中には整理された部屋が広がっていた。全身鏡や本棚、机などが真っ先にリーリャの目に留まる。
「なんか...新築の家の広告に出てきそうな感じだね...。」
「趣味部屋はもう少し荒れてるんだけどね。」
ノイトの部屋を出て隣の部屋へ行くと、確かに少しだけものが多い。右の棚にはスチームパンクな天球儀の模型や、アクリルスタンド、ストームグラスなどが置いてある。一方で、左側の棚には哲学に関する本や心理学の本などが並んでいて、近くには電子ピアノもあった。
「ほぇ......前世のノイトの人間性がよく伝わってくるね...。っていうか、全然ピアノ弾けるんじゃん!絶対練習してたでしょ!!」
「いや、ホントにたま〜に触るくらいだったよ?」
「たま〜に触るくらいで、あんなに弾けないでしょ。」
「リーリャと比べたら全然......[小文字]あっ[/小文字]。」
ノイトはラルカと最初に話したときのことを思い出した。

 ──人は所詮、相対的な評価でしかモノを見れない生き物だ。

(ん〜...ここに来て踏み抜いたな...。あの時は微妙に論点ズラそうとして引っ張って完結しちゃったから、それ以上考えてなかった...。)
「ノイトはそれでもスゴいよ?私にはないものをたくさん持ってるし。...変な本とかは、置いてなさそうだね。」
「世の中もっとマシなものがあるでしょうよ......。」
「...。」
「...何?」
「いや、まぁ...うん。良い。」
「...?」
趣味部屋を出てリーリャは口を開いた。
「あっ、そうだ!今夜はノイトの家に泊まるねっ!!」
「なんで?」
「泊まる場所ないし。良いでしょ?ね!」
「...まぁ、良いけど......。」
「やった〜!それじゃあ、ノイトは晩御飯の準備でもしててよ。私はお風呂借りとくから。」
「ん〜、着替えなくない?」
「どっかから持ってきて〜。」
そういうとリーリャは1階にある脱衣所の方へと消えていってしまった。ノイトは頭を軽く掻きながらため息をつき、家の外へと出る。
(え〜っと...?サイズが分からないしどんな服が良いのかも分からないけど...他に人が居ないから好きなやつ選べるのか...。......えっ、待って下着は買いに行きたくないよ?)
咄嗟に振り返ったが、恐らくリーリャの元へと戻ったら色々と面倒なことになるだろう。ノイトは渋々近くのショッピングモールへと向かっていった。

作者メッセージ

「過去の記憶に捕らわれすぎてたら、目の前のことに集中出来なくなっちゃうよ。」(作者へのブーメラン)

(Ⅲ ‾᷄꒫‾᷅ ):次回の密度が......っ!!

2026/02/22 14:47

御鏡 梟 ID:≫ m9kR/WFBrng.A
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