世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[明朝体]「...足りない......欲しい...寒い......。」[/明朝体]
ケノの心は再び冷え始めていたが、ノイトはリオールとフィルマリーに声をかけた。
「フィルさん、リオールさん!今なら魔力の吸収も遅くなっているので脱出出来ます!リーリャのフォローを!!」
「了解です!」「分かった!」
2人は真っ暗な空間で魔力を放出し、魔術を発動した。
[中央寄せ][[[漢字][太字]空間転移[/太字][/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]]][/中央寄せ]
2人はムズィガルドまで戻ることが出来たようだ。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん、私たちはどうすれば...?」[/明朝体][/太字]
「ん〜、そうだね...ルミナはもう充分頑張ったみたいだから休んでて良いよ。後はリーリャがなんとかしてくれる。」
「ノイトくん、リーリャのこと信頼してるんだね。」
「当然、私と会うよりも前からノイトくんの友達だったんだもん。」
ノイトはケノの心が冷め切らないようにケノに向かって魔力を放出する。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力放出[/漢字][ふりがな]マギノ・イジェクト[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に蓄えられていた魔力が放出され、ケノの心に吸収されていった。
[明朝体]「...ノイトの魔力......温かい.........。」[/明朝体]
(時間稼ぎはもう充分だ。あとは3人に任せれば...!!)
そんなノイトの心の声に答えるように、ピアノの演奏が聞こえてきた。
[中央寄せ][[[漢字][太字]広範拡声[/太字][/漢字][ふりがな]アンプリフィケーション[/ふりがな]]][/中央寄せ]
[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][太字][漢字]幻想奏楽[/漢字][ふりがな]パフォーマンス[/ふりがな][/太字][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
リーリャの演奏は街から離れたこの場所にも届く。バッハの「シンフォニア」※だ。恐らくフィルマリーとリオールの魔法で遠くまで聞こえるようになっているのだろう。
(リーリャの演奏なら、きっとケノの心も満たせる。)
ケノは真っ暗な空間に漂ってきた、虹色の魔力を帯びた黒い五線譜とそれに乗って流れてくる音符が自身の心を少しずつ埋めているのを感じた。再びケノの黒がどんどん消えていき、少しずつ真っ黒な服が白く明るくなっていく。
[明朝体]「......温かい...。」[/明朝体]
「これが、僕の[漢字]友達[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]の演奏だよ。これならケノの心にも響くと思ってね。」
「あぁ...私も昔、リーリャの演奏のお陰で......。」
「...?ノイトくん、ノイトくんの記憶になかったよね?」
「しーっ。」
[太字][明朝体]「流石、リーリャ様です...!相変わらず演奏がお上手で...!!」[/明朝体][/太字]
「ふふっ...やっぱりスゴいね、リーリャ。」
(ふふっ...ノイトのお陰だよ。それに、私だけじゃなくてメルクやルミナスたちも頑張ってたんでしょ?それなら私も頑張って当たり前だよ。)
リーリャはエルゼリーデに見守られながら丁寧に旋律を弾いていく。リーリャの心を込めた音は軽やかで、しかしちゃんと重みを持ったものだった。
(リーリャちゃん...私がちょっと教えただけでこんなに...。)
エルゼリーデの瞳には柔らかい光が宿っていて、リーリャを眺めている。
(あのノイトくんって言う子のためにここまで心を込めた演奏が出来るなんて...ホントにスゴい。さっきの嫌な気配もリーリャちゃんが演奏を始めてからどんどん弱まってるし、きっとノイトくんが何かしてくれてるんだね。)
フィルマリーとリオールもリーリャの[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]の補助でムズィガルドの中央の建物の屋上に居た。
「リオールくん、リーリャさんの超級魔法はどう?グレイベアルドでは私たちは聞けなかったでしょ?」
「あぁ...これはスゴい。ノイトの周りに居る人たちはみんな魔法や剣術で抜きん出た才能がある。フィルマリーも、良い仲間を持ったな。」
「ふふっ...お陰様だよ〜。リオールくんがノイトさんに色々教えたんでしょ。ノイトさんもすごく頭が良いし、そこまで育てたリオールくんもスゴいよ。」
「ん...?いや、それは僕じゃない。ノイトは僕が初めて会ったときから、今と同じくらい頭が良かった。昔から妙にませているんだよな。大人しいし冷静で、ちゃんと自分の意見を持っている...ただの子供じゃない。」
フィルマリーはリオールにつられて微笑む。
「そうですよ〜!私のノイトさんはただの子供なんかじゃありません!!」
「なんでフィルマリーがそんなに誇らしげなんだ〜?僕の自慢の教え子だぞ〜。」
「私の、自慢の仲間ですよ〜!...ふふっ、ノイトさんと出会えてホントに良かった。」
「僕もだ。」
2人の魔法でノイトたちの元まで届いていたリーリャの演奏もそろそろ終わりを迎える。エルゼリーデは最後の音を引き終えたリーリャの隣へと歩み寄り、微笑みかけた。
「リーリャちゃん、お疲れ様。すっごく良かったよっ!」
リーリャは褒められて頬を赤くした。微笑み返したリーリャはエルゼリーデに礼を言う。
「...!...エルゼリーデさんのお陰ですよ。私1人だったらこの曲もまだ演奏出来ていなかったと思います。教えてくれて、ありがとうございました!!」
「1人、じゃないでしょ...?」
「...?」
「ノイトくんっていう素敵な[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]が居るじゃない。彼のためにも、早く行ってあげなさい。」
「...はいっ!!」
リーリャは椅子から立ち上がってフィルマリーとリオールと共にノイトの元へと向かった。
ノイトはケノが満足している様子を見て微笑んでいた。
「どうだった?僕の[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]の[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]は?」
[明朝体]「...すごく、温かくて......綺麗だった...。」[/明朝体]
やがてケノは今まで感じていた寂しさを口に出す。
[明朝体]「...私っ...ずっと独りで......、うっ...さびじかった......!だから、ノイトが来てくれて...嬉し、かった...の......!!」[/明朝体]
目を丸くしたノイトだったが、まだ黒く塗りつぶされている顔から涙を流したケノの頭を優しく撫でる。
「もうケノは空っぽじゃないよ。涙を流せるのは、心がある人だけ。ケノにはもう、人の心がある。」
[明朝体]「ううっ、...ノイトぉ......!」[/明朝体]
ケノは本格的に泣き出したと同時に光に包まれ、少しずつ身体が浮いてきた。肉体が消滅しようとしているのだ。そこでゲデニスがケノに語りかけた。
[大文字][明朝体]〈“虚無の魔神”ケノ......魔神としての貴様はもう消えるが、その心は私の記憶に確かに刻まれた。世界から忘れさせはしない。安心して召されるが良い。〉[/明朝体][/大文字]
[太字][明朝体]「私も、最初はあなたのことを少し怖いと思っていましたが...たった独りで孤独を抱えていたツラさがあったことを知って、放っておけないと思いました!私は、あなたのことは忘れません!!」[/明朝体][/太字]
「私よりも強い魔神が立て続けで少しだけ疲れた気がするけど...。まぁ、悪くなかったよ〜。あなたが抱えていたものは私たちがちゃんと引き継ぐから、もう大丈夫だよ。」
「私は大丈夫じゃないんだけど...?ノイトくんを2回も殺しかけたんだもん!ちゃんと謝って!!」
「メル、空気読んで...僕はもう、良いから。さっきの個体はケノの意思に関係なく僕を襲ってきたものだから、悪気があったわけじゃないでしょ。」
「むぅ...でも...。」
ケノは少しずつ消滅している。最後の最後まで黒くなっていた表情が露わになり、涙を浮かべた少女の、悲しくも優しい笑みがノイトに向けられた。透き通り始めたその華奢な腕をノイトの方へと伸ばし、両手を軽くノイトの顔に添えた。
[明朝体]「ありがとう...ノイト...。なんでもっと早く、言えなかったのかなぁ...?何でなのかなぁ...?」[/明朝体]
笑顔のままケノは光になって消滅し、その光は空へと昇っていった。その光の一粒がノイトの手のひらの上に残り続け、ノイトはそれをぎゅっと握りしめる。
「...何でだろうねぇ......?」
ルミナスたちからは背を向けていたノイトのその表情ははっきりとは見えなかったが、その口元に笑みが浮かんでいたことは分かった。
「さて、と...いつの間にか真っ暗な空間からは脱出出来たみたいだね。リーリャの演奏が始まってからかな?」
[太字][明朝体]「あの、お兄ちゃん...!」[/明朝体][/太字]
「ん?どうしたの、ルミナ?」
[太字][明朝体]「本当に、お疲れ様でした!! 同じ場所で2体も魔神が復活して、その両方を討伐して......いえ、救って。本当に本当に、スゴいです!」[/明朝体][/太字]
「ルミナも、お疲れ様。危ない目に遭わせちゃってゴメンね。無事で良かったよ。」
[太字][明朝体]「ふふっ...ありがとうございますっ!」[/明朝体][/太字]
そこでリーリャが駆けつけてきた。
「ノイト!メルク!」
「リーリャ!お疲れ様〜。お陰で助かっ...[斜体]うわっ![/斜体]」
リーリャに飛びつかれたノイトは体勢を崩しそうになった。
「ちょっ、リーリャ...?どうしたの?」
「ノイト、フィルマリーさんから聞いたよ。魔神が2体も復活してたんでしょ?ノイトは“孤独の魔神”を倒した後に休憩も挟まずに“虚無の魔神”と戦ってるって...。無茶しすぎだよ、もっとちゃんと休んで...。ちゃんと、自分のことを大事にして...!」
「あはは......フィルさん、余計なこと言いましたね?」
「あ...すみません...。」
「リーリャ。心配しなくても大丈夫だよ。そう簡単には死なないから!今までそうだったしね!!」
「ノイトくん、さっき死にかけてたでしょ。私が咄嗟に助けに言ってなかったら今頃リーリャとも再会出来てなかったよね...?」
「え!? ノイト、死にかけてたの!? 大丈夫...?もう、今日はゆっくり休んで...!」
ノイトは [打消し]無理やり[/打消し] リーリャに支えられながらムズィガルドへと戻った。もちろん、メルク、ルミナス、リュミエ、フィルマリー、リオールも一緒だった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
「それで?私が居ない間にかわいい女の子たちとイチャイチャしてたことに関して何か申し開きは?」
「ん、何で僕がそんな女誑しみたいな言い方するの...?」
「だってそうじゃん。ハーレムは御免だ、とか言っておきながらよくすっとぼけたこと言えるよね?」
メルクの言っていることはほぼ事実だった。むしろ、“事実が真実と同じである必要はない”と考えているノイトにとっては、それがメルクにとっての事実であると実感しており、余計に逃げ場がない。
「え〜っと...?僕は何をすれば良いのかな...?」
「“かわいい女の子たちとイチャイチャしていてアハハのウフフで冒険してました”って認めて謝って。」
「鬼畜...。」
「何か言った...?」
立ち上がろうとしたメルクを見てノイトは思わず肩を震わせた。メルクはどこか精神年齢が幼いように感じられるところがある。そのため、ノイトやリーリャと比べても感情に従順で、ノイトのことになると特にそうだが、よくキレる。殺意を剥き出しにしたメルクが相手では、今のノイトでも命の危機にさらされる。
「いや...!えっと...はい。すみませんでした。」
「心を込めて。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
「まだまだ足りない。浮気者め。」
(誰が浮気者だ...彼女居ないんだけど...?)
ノイトは内心複雑な気持ちだったが、頭をしっかりと下げて謝った。無論、心の底からではない。
「この度の迂闊な行動の数々と、それによって不快な思いをさせてしまったことに対して...衷心より謝罪の意を注ぎます。大変申し訳ございませんでした。」
ノイトは前世で暇つぶし辞書を読み漁っていて時に見つけた言葉を使ってみたのだが、ここに居る者はその文法がややおかしいことに気がつけなかった。
「ん...ダメ。堅苦しすぎ。」
「理不尽!まったく...流石に注文が多いよ?」
「だって...私が頑張ってた間にノイトくんはイチャイチャしてて......。」
ノイトは呆れたようなため息をついて部屋のベッドに寝転んだ。
「あのね、僕は本当にそういうつもりじゃなかったんだって。偶然僕が仲間にしたいと思った人たちが女子ばっかだっただけで...。」
「ハァ...分かってる。ノイトくんは、私が居ない間も“記憶の魔神”、“眩惑の魔神”を倒してたんでしょ?ノイトくんなら魔神に勝ったって言っても問題ないよ。でも、私のこと...ずっと忘れてたでしょ?」
どうやらメルクは本当はノイトが自分のことを忘れていなかったか心配していただけだったようだ。ノイトはフィルマリーの方を少しだけ見てから答える。
「別に、ちゃんと覚えてたよ。短い言葉のラリーが続いてた時があってね。その時はちゃんとメルのことを思い出した。また会えて本当に嬉しかったよ。」
「......そう、なら良い。ありがと。」
取り敢えずメルクのメンヘラタイムは終わったようだ。ノイトは伸びをして身体の力が抜けていくのを感じた。
「あぁ...疲れた......。流石に連続で2体は面倒だったね。...と、言っても正直“孤独の魔神”よりもケノの方が厄介だったし魔力も消耗したけど。」
[太字][明朝体]「本当にお疲れ様です。お兄ちゃんの勇姿は、確かにこの目に焼き付けました!もし私がノルティークの城に戻っても、お兄ちゃんのことはずっと語り継ぎますっ!!」[/明朝体][/太字]
「んん?別にそこまでしなくて良いからね?」
ルミナスは嘘や冗談を言うようなタイプではないため、普通に心配になってきたノイトだったが、その様子を見てリュミエが笑いながら話しかけてきた。
「良かったね〜、ノイトくん。もうすっかり英雄じゃん。」
「僕は別に英雄になりたいんじゃないよ。ただその場でかっこつけられればそれだけで充分。」
「ふ〜ん...それじゃあ、今ここでかっこつけてみてよ。」
「あぁ〜、えっと......それじゃあ。“僕は、人の心にさえ刻まれれば歴史に残らなくても構わない”。」
「…。...や〜ん、かっこいい〜♡」
「わざとらしくてウザい。気を使われると悲しくなるから止めてよ...。」
「ホントにかっこいいって。私が保証するよっ!」
そこでリーリャがボソッと呟いた。
「[小文字]それ、ノイトが私に言ってくれたやつ...。[/小文字]」
リーリャは凱旋都市・コロフェリスでメルクが仲間になった時にノイトに言われた言葉を覚えていたのだ。ノイトはリーリャの独り言を聞き逃さず、リーリャに声をかけた。
「覚えててくれたの?ありがとう。」
「...うん。ノイトは、私の大事な[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]だからね。」
そこにフィルマリーが割り込んできた。
「あ〜!ずるいですよリーリャさん!! 私もノイトさんと......。...いえ、何でもないです。」
珍しくフィルマリーが感情を抑えている。いつもと違うフィルマリーの様子に疑念を抱くノイトだったが、フィルマリーはただ純粋にリーリャの表情を見ていたために起こした行動だった。
「しょうがないですね、今日はぬいぐるみさんたちと一緒に寝ます。ノイトさんはまだ、私のコレクションには加えられなさそうですしね。」
フィルマリーの視線の先に居たのはルミナスだ。ルミナスがノイトにかけた加護魔法のせいでフィルマリーはノイトに手を出すことができなくなっている。ノイトは丁度その魔法のことを忘れていたため、それがフィルマリーの成長なのかと勘違いしていた。
「ノイトくん、私はちょっと夜の散歩でもしてくるね〜。」
「ん?何しに行くの?」
「秘密〜♡」
「...まぁ、いっか。暗いから気をつけてね〜。」
リュミエが手を振って廊下の方へと歩いていき、ドアが開けしめされる音がする。そこでメルクがノイトの耳元で囁いた。
「これで邪魔者も居なくなったし、一緒に寝よ?」
ノイトは咳き込む。確かにノイトとリーリャとメルクは同じブランケットを[漢字]同衾共枕[/漢字][ふりがな]きょうゆう[/ふりがな]して寝たことがあるが、あれはあくまでも寒さを防ぐための応急処置的なものであって、ノイトが望んで行ったことではない。
「冗談じゃない。それに、まだ居るよ?」
「え?」
リュミエがメルクの背後に立っていた。メルクは驚いてノイトの方へと飛び退く。お陰でノイトの顎がメルクの頭によって打ち上げられた。
「[大文字][斜体]ひゃっ![/斜体][/大文字]」
「[斜体]いてっ。[/斜体]」
「確かにドアの開閉音と遠くなっていく足音は聞こえたはず...無詠唱の[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]...?」
リュミエは得意げに笑みを浮かべながら人差し指を左右に振る。
「チッチッチ...。私の能力だよ〜、ドアの開閉音と遠くなっていく足音が消えた“気がした”んでしょ?気の所為だったのかもね〜!」
「んん...やっぱりあなたが“幻惑の魔神”ミルシィアね...。どうしてノイトくんと一緒に居るの...?」
「ノイトくんの仲間に誘われたから。それに、もう私はミルシィアじゃなくてリュミエ。この名前もノイトくんがくれたんだよ?」
修羅場。ノイトはちゃっかりリーリャとルミナスの隣に移動していて、気まずそうに2人の方を見ていた。
「「ノイトくん...。」」
「......僕が何をしたって言うのかな...?取り敢えず、今日はもう疲れたから寝る!リュミエも、何か用があったんだったらさっさと行きな?用事が長引くと睡眠時間が削れちゃうでしょ!」
「は〜い...。目覚めのボディプレス、楽しみにしててね〜。」
「や・め・ろ。そんなん貰っても嬉しくないから。」
リュミエは今度こそ外へと出た。何の用があるのかは知らないが、取り敢えずこの場に居るとメルクと喧嘩になりそうなので今はこれが最適解だと考える。
(多分、リュミエの方が速いし強い。極力......いや、絶対にメルクと戦わせたくはないな。)
「リーリャ、メル。それにルミナ、フィルさん。今日は本当にお疲れ様。今日はもう寝て、明日またリーリャの演奏でも聞かせてもらおうかな〜...なんてね?」
「えぇ〜、聞いちゃう?エルゼリーデさんにコツを教えて貰ってからまたちょっとだけ上手くなったから、感動して泣いちゃわないように気をつけてよね?」
「アハハ、リーリャもたまに言うこと言うようになるんだよね〜。期待しておくよ。」
「ふふっ...ノイトのためなら、いくらでも弾いてあげるよっ!」
「ありがと。それじゃあ、おやすみ。」
新たに借りた宿の部屋のベッドで、各々が布団に入って目を閉じる。精神的な疲れもあったのか、不思議と全員がすぐに眠気に襲われた。ノイトはリュミエがどこへ行ったのかを頭の片隅で考えていたが、やがてそれもぼやけてきて温かい幕が降ろされた。
[明朝体]「...足りない......欲しい...寒い......。」[/明朝体]
ケノの心は再び冷え始めていたが、ノイトはリオールとフィルマリーに声をかけた。
「フィルさん、リオールさん!今なら魔力の吸収も遅くなっているので脱出出来ます!リーリャのフォローを!!」
「了解です!」「分かった!」
2人は真っ暗な空間で魔力を放出し、魔術を発動した。
[中央寄せ][[[漢字][太字]空間転移[/太字][/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]]][/中央寄せ]
2人はムズィガルドまで戻ることが出来たようだ。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん、私たちはどうすれば...?」[/明朝体][/太字]
「ん〜、そうだね...ルミナはもう充分頑張ったみたいだから休んでて良いよ。後はリーリャがなんとかしてくれる。」
「ノイトくん、リーリャのこと信頼してるんだね。」
「当然、私と会うよりも前からノイトくんの友達だったんだもん。」
ノイトはケノの心が冷め切らないようにケノに向かって魔力を放出する。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力放出[/漢字][ふりがな]マギノ・イジェクト[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に蓄えられていた魔力が放出され、ケノの心に吸収されていった。
[明朝体]「...ノイトの魔力......温かい.........。」[/明朝体]
(時間稼ぎはもう充分だ。あとは3人に任せれば...!!)
そんなノイトの心の声に答えるように、ピアノの演奏が聞こえてきた。
[中央寄せ][[[漢字][太字]広範拡声[/太字][/漢字][ふりがな]アンプリフィケーション[/ふりがな]]][/中央寄せ]
[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][太字][漢字]幻想奏楽[/漢字][ふりがな]パフォーマンス[/ふりがな][/太字][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
リーリャの演奏は街から離れたこの場所にも届く。バッハの「シンフォニア」※だ。恐らくフィルマリーとリオールの魔法で遠くまで聞こえるようになっているのだろう。
(リーリャの演奏なら、きっとケノの心も満たせる。)
ケノは真っ暗な空間に漂ってきた、虹色の魔力を帯びた黒い五線譜とそれに乗って流れてくる音符が自身の心を少しずつ埋めているのを感じた。再びケノの黒がどんどん消えていき、少しずつ真っ黒な服が白く明るくなっていく。
[明朝体]「......温かい...。」[/明朝体]
「これが、僕の[漢字]友達[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]の演奏だよ。これならケノの心にも響くと思ってね。」
「あぁ...私も昔、リーリャの演奏のお陰で......。」
「...?ノイトくん、ノイトくんの記憶になかったよね?」
「しーっ。」
[太字][明朝体]「流石、リーリャ様です...!相変わらず演奏がお上手で...!!」[/明朝体][/太字]
「ふふっ...やっぱりスゴいね、リーリャ。」
(ふふっ...ノイトのお陰だよ。それに、私だけじゃなくてメルクやルミナスたちも頑張ってたんでしょ?それなら私も頑張って当たり前だよ。)
リーリャはエルゼリーデに見守られながら丁寧に旋律を弾いていく。リーリャの心を込めた音は軽やかで、しかしちゃんと重みを持ったものだった。
(リーリャちゃん...私がちょっと教えただけでこんなに...。)
エルゼリーデの瞳には柔らかい光が宿っていて、リーリャを眺めている。
(あのノイトくんって言う子のためにここまで心を込めた演奏が出来るなんて...ホントにスゴい。さっきの嫌な気配もリーリャちゃんが演奏を始めてからどんどん弱まってるし、きっとノイトくんが何かしてくれてるんだね。)
フィルマリーとリオールもリーリャの[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]の補助でムズィガルドの中央の建物の屋上に居た。
「リオールくん、リーリャさんの超級魔法はどう?グレイベアルドでは私たちは聞けなかったでしょ?」
「あぁ...これはスゴい。ノイトの周りに居る人たちはみんな魔法や剣術で抜きん出た才能がある。フィルマリーも、良い仲間を持ったな。」
「ふふっ...お陰様だよ〜。リオールくんがノイトさんに色々教えたんでしょ。ノイトさんもすごく頭が良いし、そこまで育てたリオールくんもスゴいよ。」
「ん...?いや、それは僕じゃない。ノイトは僕が初めて会ったときから、今と同じくらい頭が良かった。昔から妙にませているんだよな。大人しいし冷静で、ちゃんと自分の意見を持っている...ただの子供じゃない。」
フィルマリーはリオールにつられて微笑む。
「そうですよ〜!私のノイトさんはただの子供なんかじゃありません!!」
「なんでフィルマリーがそんなに誇らしげなんだ〜?僕の自慢の教え子だぞ〜。」
「私の、自慢の仲間ですよ〜!...ふふっ、ノイトさんと出会えてホントに良かった。」
「僕もだ。」
2人の魔法でノイトたちの元まで届いていたリーリャの演奏もそろそろ終わりを迎える。エルゼリーデは最後の音を引き終えたリーリャの隣へと歩み寄り、微笑みかけた。
「リーリャちゃん、お疲れ様。すっごく良かったよっ!」
リーリャは褒められて頬を赤くした。微笑み返したリーリャはエルゼリーデに礼を言う。
「...!...エルゼリーデさんのお陰ですよ。私1人だったらこの曲もまだ演奏出来ていなかったと思います。教えてくれて、ありがとうございました!!」
「1人、じゃないでしょ...?」
「...?」
「ノイトくんっていう素敵な[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]が居るじゃない。彼のためにも、早く行ってあげなさい。」
「...はいっ!!」
リーリャは椅子から立ち上がってフィルマリーとリオールと共にノイトの元へと向かった。
ノイトはケノが満足している様子を見て微笑んでいた。
「どうだった?僕の[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]の[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]は?」
[明朝体]「...すごく、温かくて......綺麗だった...。」[/明朝体]
やがてケノは今まで感じていた寂しさを口に出す。
[明朝体]「...私っ...ずっと独りで......、うっ...さびじかった......!だから、ノイトが来てくれて...嬉し、かった...の......!!」[/明朝体]
目を丸くしたノイトだったが、まだ黒く塗りつぶされている顔から涙を流したケノの頭を優しく撫でる。
「もうケノは空っぽじゃないよ。涙を流せるのは、心がある人だけ。ケノにはもう、人の心がある。」
[明朝体]「ううっ、...ノイトぉ......!」[/明朝体]
ケノは本格的に泣き出したと同時に光に包まれ、少しずつ身体が浮いてきた。肉体が消滅しようとしているのだ。そこでゲデニスがケノに語りかけた。
[大文字][明朝体]〈“虚無の魔神”ケノ......魔神としての貴様はもう消えるが、その心は私の記憶に確かに刻まれた。世界から忘れさせはしない。安心して召されるが良い。〉[/明朝体][/大文字]
[太字][明朝体]「私も、最初はあなたのことを少し怖いと思っていましたが...たった独りで孤独を抱えていたツラさがあったことを知って、放っておけないと思いました!私は、あなたのことは忘れません!!」[/明朝体][/太字]
「私よりも強い魔神が立て続けで少しだけ疲れた気がするけど...。まぁ、悪くなかったよ〜。あなたが抱えていたものは私たちがちゃんと引き継ぐから、もう大丈夫だよ。」
「私は大丈夫じゃないんだけど...?ノイトくんを2回も殺しかけたんだもん!ちゃんと謝って!!」
「メル、空気読んで...僕はもう、良いから。さっきの個体はケノの意思に関係なく僕を襲ってきたものだから、悪気があったわけじゃないでしょ。」
「むぅ...でも...。」
ケノは少しずつ消滅している。最後の最後まで黒くなっていた表情が露わになり、涙を浮かべた少女の、悲しくも優しい笑みがノイトに向けられた。透き通り始めたその華奢な腕をノイトの方へと伸ばし、両手を軽くノイトの顔に添えた。
[明朝体]「ありがとう...ノイト...。なんでもっと早く、言えなかったのかなぁ...?何でなのかなぁ...?」[/明朝体]
笑顔のままケノは光になって消滅し、その光は空へと昇っていった。その光の一粒がノイトの手のひらの上に残り続け、ノイトはそれをぎゅっと握りしめる。
「...何でだろうねぇ......?」
ルミナスたちからは背を向けていたノイトのその表情ははっきりとは見えなかったが、その口元に笑みが浮かんでいたことは分かった。
「さて、と...いつの間にか真っ暗な空間からは脱出出来たみたいだね。リーリャの演奏が始まってからかな?」
[太字][明朝体]「あの、お兄ちゃん...!」[/明朝体][/太字]
「ん?どうしたの、ルミナ?」
[太字][明朝体]「本当に、お疲れ様でした!! 同じ場所で2体も魔神が復活して、その両方を討伐して......いえ、救って。本当に本当に、スゴいです!」[/明朝体][/太字]
「ルミナも、お疲れ様。危ない目に遭わせちゃってゴメンね。無事で良かったよ。」
[太字][明朝体]「ふふっ...ありがとうございますっ!」[/明朝体][/太字]
そこでリーリャが駆けつけてきた。
「ノイト!メルク!」
「リーリャ!お疲れ様〜。お陰で助かっ...[斜体]うわっ![/斜体]」
リーリャに飛びつかれたノイトは体勢を崩しそうになった。
「ちょっ、リーリャ...?どうしたの?」
「ノイト、フィルマリーさんから聞いたよ。魔神が2体も復活してたんでしょ?ノイトは“孤独の魔神”を倒した後に休憩も挟まずに“虚無の魔神”と戦ってるって...。無茶しすぎだよ、もっとちゃんと休んで...。ちゃんと、自分のことを大事にして...!」
「あはは......フィルさん、余計なこと言いましたね?」
「あ...すみません...。」
「リーリャ。心配しなくても大丈夫だよ。そう簡単には死なないから!今までそうだったしね!!」
「ノイトくん、さっき死にかけてたでしょ。私が咄嗟に助けに言ってなかったら今頃リーリャとも再会出来てなかったよね...?」
「え!? ノイト、死にかけてたの!? 大丈夫...?もう、今日はゆっくり休んで...!」
ノイトは [打消し]無理やり[/打消し] リーリャに支えられながらムズィガルドへと戻った。もちろん、メルク、ルミナス、リュミエ、フィルマリー、リオールも一緒だった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
「それで?私が居ない間にかわいい女の子たちとイチャイチャしてたことに関して何か申し開きは?」
「ん、何で僕がそんな女誑しみたいな言い方するの...?」
「だってそうじゃん。ハーレムは御免だ、とか言っておきながらよくすっとぼけたこと言えるよね?」
メルクの言っていることはほぼ事実だった。むしろ、“事実が真実と同じである必要はない”と考えているノイトにとっては、それがメルクにとっての事実であると実感しており、余計に逃げ場がない。
「え〜っと...?僕は何をすれば良いのかな...?」
「“かわいい女の子たちとイチャイチャしていてアハハのウフフで冒険してました”って認めて謝って。」
「鬼畜...。」
「何か言った...?」
立ち上がろうとしたメルクを見てノイトは思わず肩を震わせた。メルクはどこか精神年齢が幼いように感じられるところがある。そのため、ノイトやリーリャと比べても感情に従順で、ノイトのことになると特にそうだが、よくキレる。殺意を剥き出しにしたメルクが相手では、今のノイトでも命の危機にさらされる。
「いや...!えっと...はい。すみませんでした。」
「心を込めて。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
「まだまだ足りない。浮気者め。」
(誰が浮気者だ...彼女居ないんだけど...?)
ノイトは内心複雑な気持ちだったが、頭をしっかりと下げて謝った。無論、心の底からではない。
「この度の迂闊な行動の数々と、それによって不快な思いをさせてしまったことに対して...衷心より謝罪の意を注ぎます。大変申し訳ございませんでした。」
ノイトは前世で暇つぶし辞書を読み漁っていて時に見つけた言葉を使ってみたのだが、ここに居る者はその文法がややおかしいことに気がつけなかった。
「ん...ダメ。堅苦しすぎ。」
「理不尽!まったく...流石に注文が多いよ?」
「だって...私が頑張ってた間にノイトくんはイチャイチャしてて......。」
ノイトは呆れたようなため息をついて部屋のベッドに寝転んだ。
「あのね、僕は本当にそういうつもりじゃなかったんだって。偶然僕が仲間にしたいと思った人たちが女子ばっかだっただけで...。」
「ハァ...分かってる。ノイトくんは、私が居ない間も“記憶の魔神”、“眩惑の魔神”を倒してたんでしょ?ノイトくんなら魔神に勝ったって言っても問題ないよ。でも、私のこと...ずっと忘れてたでしょ?」
どうやらメルクは本当はノイトが自分のことを忘れていなかったか心配していただけだったようだ。ノイトはフィルマリーの方を少しだけ見てから答える。
「別に、ちゃんと覚えてたよ。短い言葉のラリーが続いてた時があってね。その時はちゃんとメルのことを思い出した。また会えて本当に嬉しかったよ。」
「......そう、なら良い。ありがと。」
取り敢えずメルクのメンヘラタイムは終わったようだ。ノイトは伸びをして身体の力が抜けていくのを感じた。
「あぁ...疲れた......。流石に連続で2体は面倒だったね。...と、言っても正直“孤独の魔神”よりもケノの方が厄介だったし魔力も消耗したけど。」
[太字][明朝体]「本当にお疲れ様です。お兄ちゃんの勇姿は、確かにこの目に焼き付けました!もし私がノルティークの城に戻っても、お兄ちゃんのことはずっと語り継ぎますっ!!」[/明朝体][/太字]
「んん?別にそこまでしなくて良いからね?」
ルミナスは嘘や冗談を言うようなタイプではないため、普通に心配になってきたノイトだったが、その様子を見てリュミエが笑いながら話しかけてきた。
「良かったね〜、ノイトくん。もうすっかり英雄じゃん。」
「僕は別に英雄になりたいんじゃないよ。ただその場でかっこつけられればそれだけで充分。」
「ふ〜ん...それじゃあ、今ここでかっこつけてみてよ。」
「あぁ〜、えっと......それじゃあ。“僕は、人の心にさえ刻まれれば歴史に残らなくても構わない”。」
「…。...や〜ん、かっこいい〜♡」
「わざとらしくてウザい。気を使われると悲しくなるから止めてよ...。」
「ホントにかっこいいって。私が保証するよっ!」
そこでリーリャがボソッと呟いた。
「[小文字]それ、ノイトが私に言ってくれたやつ...。[/小文字]」
リーリャは凱旋都市・コロフェリスでメルクが仲間になった時にノイトに言われた言葉を覚えていたのだ。ノイトはリーリャの独り言を聞き逃さず、リーリャに声をかけた。
「覚えててくれたの?ありがとう。」
「...うん。ノイトは、私の大事な[漢字]相棒[/漢字][ふりがな]パートナー[/ふりがな]だからね。」
そこにフィルマリーが割り込んできた。
「あ〜!ずるいですよリーリャさん!! 私もノイトさんと......。...いえ、何でもないです。」
珍しくフィルマリーが感情を抑えている。いつもと違うフィルマリーの様子に疑念を抱くノイトだったが、フィルマリーはただ純粋にリーリャの表情を見ていたために起こした行動だった。
「しょうがないですね、今日はぬいぐるみさんたちと一緒に寝ます。ノイトさんはまだ、私のコレクションには加えられなさそうですしね。」
フィルマリーの視線の先に居たのはルミナスだ。ルミナスがノイトにかけた加護魔法のせいでフィルマリーはノイトに手を出すことができなくなっている。ノイトは丁度その魔法のことを忘れていたため、それがフィルマリーの成長なのかと勘違いしていた。
「ノイトくん、私はちょっと夜の散歩でもしてくるね〜。」
「ん?何しに行くの?」
「秘密〜♡」
「...まぁ、いっか。暗いから気をつけてね〜。」
リュミエが手を振って廊下の方へと歩いていき、ドアが開けしめされる音がする。そこでメルクがノイトの耳元で囁いた。
「これで邪魔者も居なくなったし、一緒に寝よ?」
ノイトは咳き込む。確かにノイトとリーリャとメルクは同じブランケットを[漢字]同衾共枕[/漢字][ふりがな]きょうゆう[/ふりがな]して寝たことがあるが、あれはあくまでも寒さを防ぐための応急処置的なものであって、ノイトが望んで行ったことではない。
「冗談じゃない。それに、まだ居るよ?」
「え?」
リュミエがメルクの背後に立っていた。メルクは驚いてノイトの方へと飛び退く。お陰でノイトの顎がメルクの頭によって打ち上げられた。
「[大文字][斜体]ひゃっ![/斜体][/大文字]」
「[斜体]いてっ。[/斜体]」
「確かにドアの開閉音と遠くなっていく足音は聞こえたはず...無詠唱の[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]...?」
リュミエは得意げに笑みを浮かべながら人差し指を左右に振る。
「チッチッチ...。私の能力だよ〜、ドアの開閉音と遠くなっていく足音が消えた“気がした”んでしょ?気の所為だったのかもね〜!」
「んん...やっぱりあなたが“幻惑の魔神”ミルシィアね...。どうしてノイトくんと一緒に居るの...?」
「ノイトくんの仲間に誘われたから。それに、もう私はミルシィアじゃなくてリュミエ。この名前もノイトくんがくれたんだよ?」
修羅場。ノイトはちゃっかりリーリャとルミナスの隣に移動していて、気まずそうに2人の方を見ていた。
「「ノイトくん...。」」
「......僕が何をしたって言うのかな...?取り敢えず、今日はもう疲れたから寝る!リュミエも、何か用があったんだったらさっさと行きな?用事が長引くと睡眠時間が削れちゃうでしょ!」
「は〜い...。目覚めのボディプレス、楽しみにしててね〜。」
「や・め・ろ。そんなん貰っても嬉しくないから。」
リュミエは今度こそ外へと出た。何の用があるのかは知らないが、取り敢えずこの場に居るとメルクと喧嘩になりそうなので今はこれが最適解だと考える。
(多分、リュミエの方が速いし強い。極力......いや、絶対にメルクと戦わせたくはないな。)
「リーリャ、メル。それにルミナ、フィルさん。今日は本当にお疲れ様。今日はもう寝て、明日またリーリャの演奏でも聞かせてもらおうかな〜...なんてね?」
「えぇ〜、聞いちゃう?エルゼリーデさんにコツを教えて貰ってからまたちょっとだけ上手くなったから、感動して泣いちゃわないように気をつけてよね?」
「アハハ、リーリャもたまに言うこと言うようになるんだよね〜。期待しておくよ。」
「ふふっ...ノイトのためなら、いくらでも弾いてあげるよっ!」
「ありがと。それじゃあ、おやすみ。」
新たに借りた宿の部屋のベッドで、各々が布団に入って目を閉じる。精神的な疲れもあったのか、不思議と全員がすぐに眠気に襲われた。ノイトはリュミエがどこへ行ったのかを頭の片隅で考えていたが、やがてそれもぼやけてきて温かい幕が降ろされた。