世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
真っ暗な空間で、ノイトとメルクは“虚無の魔神”ケノと対峙していた。
[明朝体]「...寒い......暗い...怖い......返して...。」[/明朝体]
「ダメ。ノイトくんは私のだもん。」
「いや、ものじゃないって...。」
微妙に食い違った会話ではあるものの、ケノは1対2の状態だった。
(ルミナたちが居ない...多分、もう1体居るな...。この場所じゃ魔力探知の魔法を使えないし、今すぐ合流するのは難しいかな。)
目の前に居る個体は恐らく本体。ノイトはまだ攻撃を仕掛けていないが、メルクの攻撃でケノの髪を斬ることが出来るのは分かった。ノイトを捉えた時のようにあの真っ白な髪は魔神の魔力でいくらでも伸ばすことが出来るはずだ。
「メル......嫌な予感がするんだけど、分かる...?」
「うん...よくある展開だよね...。」
目の前の個体が何も仕掛けてこないため、試しに振り返ってみると、もう1体ケノが居た。その個体は本体よりも成長しているようで、高校生から大学生程度に見えた。
「「...やっぱり。」」
[明朝体]「あなたたちは、どうして私から...私だけから奪うの...?」[/明朝体]
「奪う...?先に奪ってきたのはそっちでしょ。」
メルクの言葉は真っ暗な空間に残ったが、成長したケノは悲しそうな声で言い換えしてきた。
[明朝体]「違う...そこにあったの。だから、拾って....温かかった。だから気に入った。だから私のもの。だってそうでしょ...?一度与えたものを奪うなんて、なんて酷い......。取られたくなかったら、最初から与えないで。」[/明朝体]
ノイトにクリティカル。ノイトの方から近づいていって、勝手に捕まって、勝手に死にかけて、助けられた。この場合、ケノよりもノイトの方の分が悪い。
(...油断してた......前世で浮かれてた連中と同じじゃん......。気をつけよ。)
[明朝体]「一度与えたなら、その責任は取って......温もりを、返して!!」[/明朝体]
ノイトは目を見開いた。
[斜体](感情!?)[/斜体]
次の瞬間にはケノの真っ白な髪が無数の鋭い槍のように飛んできていた。メルクは難なくスティレットでそれを弾いているが、数が多すぎる。ノイトの方も【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】でギリギリ弾き返しながらメルクの方へと近づいていった。
[斜体](出来るだけ魔力は温存しておきたい...せっかくフィルさんの魔術で魔力を込める時間を稼いでもらったんだ...!)[/斜体]
[斜体]「ノイトくん、伏せて!」[/斜体]
メルクの声が聞こえるとほぼ同時にノイトはその場に伏せ、メルクの斬撃が白い槍を弾きながらケノとの距離を詰める。
[中央寄せ][斜体][明朝体][太字][大文字]『[漢字]閼愛流霞勢[/漢字][ふりがな]アラブルカゼ[/ふりがな]』[/大文字][/太字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
風に流される霧の如く、目に見えない程の速度の斬撃がケノを襲う。ケノは跳び下がりながら髪の槍で応戦しているが、メルクはどんどん押していく。ノイトはそれを見ながら自分もその武器を振りかぶってケノの元へと跳んだ。
[斜体](流石メル...本気出されたら今の僕でもまだ敵わないかもな...。)[/斜体]
ノイトはケノの背後へと回り、攻撃をくわえた。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力刺突[/漢字][ふりがな]マギノ・スタッブ[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
がら空きだったケノの背中からケノを貫き、その衝撃で一瞬動きが固まったケノはメルクの攻撃を全て受けてしまう。
[明朝体]「[斜体]......ガッ!![/斜体]」[/明朝体]
その個体の肉体は一瞬で崩壊した。しかし、完全に崩壊仕切る前にそれが復活した。咄嗟に後ろへ飛び退いたノイトとメルクの目の前には既に、白い槍が飛んできている。身体を仰け反らせてそれを躱した2人は目の前の変わり果てたケノの姿を見た。
「ねぇ、ノイトくん...これって虚無っていうよりも...。」
「狂夢の方が近いかもしれないね......。」
先程まで黒く塗りつぶされたようになっていた顔の部分には大小の目玉が3つ程浮き上がり、顔の輪郭から内側にかけて牙のようなものが映えている。髪は生きている生物のようにうねうねと動き、ケノの手には巨大な白いジョスト用ランスのような槍が握られている。
「悪夢、みたいだね......。」
「この場所に居る時点で何が本当か分からないけど...情報が少ない魔神だから、何があってもおかしくはないよ。」
悍ましい姿となったケノが一瞬で距離を詰めてきて、槍を振り下ろす。
[斜体]「ノイトくん!魔力は!?」[/斜体]
[斜体]「まだ使えない!」[/斜体]
間一髪でノイトはケノの攻撃を躱したが、一息つく間もなく追撃される。恐らく先程のメルクの攻撃と比べて高い威力の攻撃を繰り出せるからであろう。
[斜体](メルクもここでは魔力が吸い込まれることには気づいているみたいで良かった...!取り敢えず今はケノを何とかし)[/斜体]
ケノの槍はノイトを真っ直ぐと貫いた。少しの間沈黙が訪れ、メルクは殺意を剥き出しにしてケノへと斬りかかる。虚無であるはずのその場の空気がさらに重くなり、メルクのスティレットが高速でケノへと向かう。メルクはスティレットが歪むのも気にせずに絶え間なく攻撃を浴びせ、ケノの髪と槍がボロボロになるまで攻撃を浴びせる手を止めなかった。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〈パキィィン〉[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
途中で非常に硬いはずの[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]で出来たスティレットが甲高い音を立てて折れてしまった。ケノは槍を持っていない方の手でメルクを掴もうとしたが、次の瞬間にはその手は避けられ、いつの間にか黒いスタッズグローブのような魔具をはめたメルクの拳がケノの顔を殴り飛ばした。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]『[漢字]愛縷繰流素[/漢字][ふりがな]メルクリウス[/ふりがな]』[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
メルクの華奢な体躯からは予想も付かない程重く速い拳撃が、ケノの頭を横へと仰け反らせる程の威力を生んだ。
[斜体]「ハァ......ハァ......!!ノイトくん!!」[/斜体]
ノイトの姿は槍の先からは消えていて、代わりにメルクの背後の方からため息が聞こえてきた。
「ハァ.........いくら再生出来ても痛いものは痛いんだよな...。」
「ノイトくん!? 良かった...もぉ、死んじゃったのかと思ったじゃん!バカッ!」
ノイトは2つの魔法を使って今この場所に居た。1つ目は予め蓄えてあった[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]の魔力を消費し、傷口を治すために[漢字]再生[/漢字][ふりがな]リサステーション[/ふりがな]という魔法。もう1つは、たった今ノイトが発案したオリジナル。
[中央寄せ][斜体][太字][大文字]⁅ [明朝体][漢字] 悪夢 [/漢字][ふりがな]ナイトメア [/ふりがな][/明朝体]⁆[/大文字][/太字][/斜体][/中央寄せ]
この魔法は、自分を悪夢の中のオブジェクトとして認識し、その構造を[漢字]複製[/漢字][ふりがな]コピー[/ふりがな]してからその複製体と本体の位置を入れ替えるもの。要するに、[漢字]複製[/漢字][ふりがな]コピー[/ふりがな]、[漢字]位置置換[/漢字][ふりがな]サブスティテュート[/ふりがな]、[漢字]影潜[/漢字][ふりがな]レイテント[/ふりがな]、そしてリュミエの能力を応用し1つにまとめた魔法だ。その分だけ魔力を食うが、このような状況になってしまっては今更出し惜しむことも出来ない。
「ふぅ...死ぬかと思った......。もうこれ以上死ぬのはやだよ...。」
[明朝体]「...どうして......生きてる......?...確かに、刺した...はず......。」[/明朝体]
ノイトは驚いているケノの質問を無視して逆に尋ねる。
「ケノ。君は本当に“虚無の魔神”なの?」
ケノは槍の先をノイトへと向けて答えた。
[明朝体]「...そう。私は、...“虚無の魔神”......そう呼ばれてきた...。」[/明朝体]
「メル、ケノの封印を解いたのは誰か分かる?」
「ううん、さっきまで組織で定例の報告会があったんだけど、私は途中で抜け出してきちゃったから。ノイトくんのことはもう組織のほぼ全ての人間にバレてるよ。」
「えぇ〜、面倒だな...。刺客とか送られてこない...?」
「それは大丈夫。さっきムズィガルドで倒してきた。リーリャにも会ったよ!」
メルクの話からリーリャが無事であることが確認出来て、ノイトは一安心する。しかし、まだ目の前に居る魔神を倒さなければ終わらない。
(魔神は本来人間に害を与える存在として封印されていた...。ゲデニスやリュミエの方が特殊な例なのかな...。)
まだ[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に込めてあった魔力は残っている。ノイトは残りの魔力でどうやってこの魔神を倒すのかを考えた。
(さて、と......いざとなれば禁忌魔法も考えなきゃいけないけど...この場所で発動しても効果があるのか分からないな...。まだ情報が足りない...ルミナたちとも合流しておきたい。)
「あ、メル。スティレットは?」
「あ〜、折れちゃったんだよね...。このグローブもさっきの一撃でかなり傷んじゃったし...。どうしようね?」
「う〜ん...他に持ち物は?」
「ノイトくんに買ってもらった魔法の杖と[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]。あとは小型ナイフ。」
「なら、十分だね。」
ノイトはケノの顔を真っすぐと見据えながら攻撃を機会を待つ。
[明朝体]「...私から......もう何も奪わないで...返して......返して......。」[/明朝体]
話が通じる状態ではないことは分かっていた。しかし、相手が魔神である以上無闇に攻撃を加えても逆にこちらが危険な目に遭う可能性が高い。ノイトは魔力を消費して攻撃を仕掛ける。
「ケノ、僕は僕だ。君のものじゃない。」
[明朝体]「...嫌......行かないで....!」[/明朝体]
ケノがノイトに向かって槍のような髪を無数に飛ばし、ノイトはそれを最小限の動きで躱して距離を詰める。
(多少掠った程度であれば後で回復すれば良い。今はここからの脱出が最優先。そのためには今目の前に居るケノを...[斜体]倒す!![/斜体] )
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力裂斬[/漢字][ふりがな]マギノ・ガッシュ[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
魔力は食うがその分威力は高い。ケノの髪の攻撃をまとめて押し斬り、悍ましい姿となった個体を縦に頒かつ。その個体は黒い霧となって虚無に溶けて消滅し、ノイトとメルクは再びケノの本体と対峙した。
「メル、準備は出来た?」
「うん、もう大丈夫だよ!」
[明朝体]「あぁ......寒い...暗い...寂しい......。」[/明朝体]
先程からケノはずっと同じことばかり呟いている。メルクは小型ナイフを握り、いつでも攻撃を仕掛けられるように身構えた。
「ノイトくん、いつでも良いよ。」
「ん〜、まだ待機ね。ルミナたちの方が片付くまではこのままで大丈夫。」
「...え?ルミナス様がここに...?」
ノイトはメルクにルミナスと一緒に旅をしていることをまだ伝えていなかったのだ。それを思い出してノイトが説明しようとしたその時、遠くにルミナスとリュミエとフィルマリーの姿が見えた。
「あれ...あぁ、そっか...。一緒に冒険したいって言ってたもんね。フィルマリーさんも居るんだ。...で、あのもう1人の女は誰?」
「ん、あぁ〜、えっと...[下線]元[/下線]・“幻惑の魔神”。今はもう仲間だよ。」
「ふぅ〜ん...なるほどねぇ......。つまり、私が居ない間にかわいい女の子たちとイチャイチャしてたと...?私が良いって言ってくれたから仲間になったのに...。」
「違うって...急にヘラったりしないでよ...。平等に接してるつもりではあるからさ...、ね?」
少し不機嫌になったメルクだったが、取り敢えず今優先すべきはケノの討伐。先程ノイトを助けた時にノイトがかなり消耗していたことに気がついていたため、メルクは心配と疑念と不安が混ざっている複雑な感情を抱えている。しかし、それを押し込めて集中した。
「はいはい...言い訳は後でたっぷり聞いてあげるから...。」
遠くに見えたルミナスたちはそちらの方に居た個体を倒したようだった。ノイトが拘束されていた間のことであるため、ノイトは何となく察することしか出来ていなかったが、別個体の肉体が崩壊している様子を見てそれを確信する。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん!...と、メルク様!?」[/明朝体][/太字]
「あっ!! メルクさん、お久しぶりで〜す!」
呑気に手を振っているフィルマリーを見て、ノイトもメルクもまだフィルマリーが余裕そうで安心した。
「ルミナス様も、フィルマリーさんも、お久しぶりです。元気で何より...。...あ、はじめまして。私はメルク=ミスラーガンド。[漢字]女剣闘士[/漢字][ふりがな]ファイター[/ふりがな]兼上級魔法使いで、ノイトくんの仲間で〜す!」
笑顔から感じる敵意はあるが、リュミエも笑顔で返す。
「はじめまして、メルク。私もノイトくんの仲間で〜す!」
ノイトの予想が正しければ、明らかのリュミエの方が強い。しかし、互いに笑顔の圧は変わらない、修羅場とも言えた。
(...女子ばっかだな...。)
その時だった。ケノが呟いていた言葉が変わる。
[明朝体]「...ずるい......ずるいずるいずるい...。...私は独りなのに...ノイトは......私の...。」[/明朝体]
(誰か男も連れてきてください、とてもいたたまれない...。)
ノイトの心の声を聞けた者など居らず、何事もなかったかのようにケノの言葉が油を注ぐ。
[明朝体]「...ノイトの温もり......返して......。」[/明朝体]
「ダメ。」[太字][明朝体]「ダメです。」[/明朝体][/太字]「ダメ。」「ダメです!」
4人の言葉はほぼハモった。メルクは小型ナイフを、ルミナスは聖剣を、リュミエはワイヤーを、フィルマリーは魔法の杖を構える。ノイトも【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を握り直し、ケノの方を真っ直ぐと見据える。
「ゲデニス。」
リュミエに名前を呼ばれたその白い炎はリュミエの隣に浮いている。
「[漢字]小夜啼鳥[/漢字][ふりがな]ナイチンゲール[/ふりがな]。」
ノイトに名前を呼ばれたその蒼い鳥はノイトの隣に現れる。
ケノは5人と魔力の塊2つと対峙し、その黒く塗りつぶされた顔を向けた。
[明朝体]「...ずるい...私は、独りなのに......。」[/明朝体]
「それは自分から他と関わろうとしないからだよ、ケノ。僕にも、そういう時代があった。寂しいのが嫌なら、それを紛らわせるものを自分から取りに行かないと。」
[明朝体]「...私は......ノイトが...。」[/明朝体]
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは自力でここまで強く、かっこよく、優しくなったんです!あなたは違うんですか?」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「...違う...。...私は、ノイトと...違う...?」[/明朝体]
「そうです。ノイトさんはあなたとは違うんです。違うものだからこそ欲しくなってしまう気持ちはよく分かりますけど、完全に自分のものにしちゃったらまた寂しくなるだけじゃないですか!!」
[明朝体]「...また、......寂しく...。」[/明朝体]
「ノイトくんは、過去は過去で切り離せるし、それは自分でやるものだって思ってる。ノイトくんが思ってることと違うことをしたら、ノイトくんに嫌われちゃうかもしれないでしょ?私はそれが嫌だな...。だって、せっかく私を1人の人間として認めてくれたんだもん!」
[明朝体]「...魔神を......人間に...?」[/明朝体]
「ノイトくんは私を大事な仲間だって言ってくれた。だから、私もその気持ちにはちゃんと答えたいの。さっきだって、ちゃんとノイトくんは私に“ありがとう”って言ってくれた...。だけど、あなたはどうなの?“ありがとう”も言えないやつのことなんか、ノイトくんが好きになるはずないでしょ!!」
[明朝体]「...ノイト...好き...ならない......?」[/明朝体]
[大文字][明朝体]〈“虚無の魔神”よ。私は魔神ではあるが一度彼に敗れている。それがなぜか、私は考えた。魔法の相性や彼の知能が高かったことも理由だが、一番の理由は絆だ。リーリャという少女が居なかったら、彼は私に敗れていた。しかし、最後は2人の絆が私にトドメを刺すに至ったのだ。〉[/明朝体][/大文字]
[明朝体]「...絆......欲しい...。」[/明朝体]
「ケノ。多分、君が欲しいのは絆じゃなくて、その空っぽの心を埋める何かだよ。“孤独の魔神”もそうだったけど、独りぼっちの人が他の人を見ると、その人が持っているものが羨ましく見える。それを欲しくなるのは何でか分かる?それを持っている自分を想像しちゃうからだよ。一度与えられたイメージをしちゃったら、それに満足して、また欲しくなる。そうでしょ?」
[明朝体]「......そう、....かもしれない......。...心を...満たす......。欲しい...。」[/明朝体]
「だけど、ただ欲しがるだけじゃダメだよ。どうしても手に入らないものだってある。人はそれを、“憧れ”って言うんだよ。ケノの憧れは何?温もり?違うよね。ケノが欲しいのは“空っぽじゃない自分”でしょ!」
[明朝体]「...空っぽじゃ、ない......私...。」[/明朝体]
「そう。痛みでも、魔力でも、心を満たせるものは沢山あるけど、ケノが求めているものは温もりで心が埋められること。この冷たい場所は、もう嫌なんでしょ?」
[明朝体]「...嫌...冷たいの、嫌...。温もり...で、満たして......お願い...。」[/明朝体]
「...ルミナ。立て続けで悪いけど...また、お願いできる?」
[太字][明朝体]「あ...!はい!!」[/明朝体][/太字]
ルミナスはマジックバッグから小箱を取り出す。
[水平線]
[中央寄せ][大文字][斜体]超級魔法:[明朝体][太字]『[漢字]幻想廻転琴[/漢字][ふりがな]オルゴール[/ふりがな]』[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
流れた1つ1つの音がしっかりとケノの心の中へと入っていき、少しずつケノの黒が減っていく。少しずつ満たされていくケノの心が熱を帯びていく。しかし、[漢字]廻転琴[/漢字][ふりがな]オルゴール[/ふりがな]の演奏が終わっても、まだケノの心を満たし切ることは出来なかったようだ。
[明朝体]「...まだ......足りない.........。...まだ......[漢字]いる[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]......。」[/明朝体]
それを聞いてノイトはあることを思い出した。
「フィルさん、リオールさんは?!」
「あっ、こっちに先に着てたみたいなので...まだ戦っているかもしれません!!」
リオールはずっと1人で別の個体と戦っていたようだ。ノイトはリオールとの合流も討伐に必要な条件だと気がつく。
(ケノの別個体は全部自虐的だった、ケノの心を満たす邪魔をする存在...。全部倒さないとケノを救えない...!!)
ケノの黒が再び戻ってき、熱が冷めていってしまっていることが見て分かる。すぐに何かで埋め直さなければさらに冷えてしまう。
[斜体]「ノイトくん!」[/斜体]
その場で全員の視線がノイトに集まった時、ノイトはヘッドマイクセットのような見た目の魔具のマイクの部分とスピーカーの部分を自身の口元と耳元に当てていた。
「大丈夫。リーリャ、今だよ。」
すると、巨大な緋い炎の矢が飛んできて、真っ暗だった空間を照らした。
[斜体](おおっ、すごい威力だ...魔力は当然虚無に吸い込まれるけど......。)[/斜体]
ノイトは照らされた空間の中に一点の光を見つけた。
[斜体](充分だ...!!)[/斜体]
「メルク!!」
メルクはその光の方へと小型ナイフを投げつける。そのナイフは真っ直ぐと飛んでいき、その個体に突き刺さった。
[明朝体]「ガッ...!!」[/明朝体]
崩壊したそれと戦っていたのはリオールだ。
「リオールさん!こっちへ!!」
ノイトの声が届いたのか、リオールはこちらへと駆け寄ってきた。
「ノイト!フィルマリーにメルクも、来てたのか...!もう1体の魔神は?」
「大丈夫です。もう倒してきました。」
ノイトの自身ありげな声を聞いてリオールは胸を撫で下ろす。たった15歳の少年(※外見では)がまた魔神を倒したというのだ。つくづくノイトの成長を感じて感心する。
「そうか...なら、良かった。流石は僕の教え子だ!」
リオールと戦っていた個体も倒すことが出来た。後は本体の心を埋めるだけだ。
真っ暗な空間で、ノイトとメルクは“虚無の魔神”ケノと対峙していた。
[明朝体]「...寒い......暗い...怖い......返して...。」[/明朝体]
「ダメ。ノイトくんは私のだもん。」
「いや、ものじゃないって...。」
微妙に食い違った会話ではあるものの、ケノは1対2の状態だった。
(ルミナたちが居ない...多分、もう1体居るな...。この場所じゃ魔力探知の魔法を使えないし、今すぐ合流するのは難しいかな。)
目の前に居る個体は恐らく本体。ノイトはまだ攻撃を仕掛けていないが、メルクの攻撃でケノの髪を斬ることが出来るのは分かった。ノイトを捉えた時のようにあの真っ白な髪は魔神の魔力でいくらでも伸ばすことが出来るはずだ。
「メル......嫌な予感がするんだけど、分かる...?」
「うん...よくある展開だよね...。」
目の前の個体が何も仕掛けてこないため、試しに振り返ってみると、もう1体ケノが居た。その個体は本体よりも成長しているようで、高校生から大学生程度に見えた。
「「...やっぱり。」」
[明朝体]「あなたたちは、どうして私から...私だけから奪うの...?」[/明朝体]
「奪う...?先に奪ってきたのはそっちでしょ。」
メルクの言葉は真っ暗な空間に残ったが、成長したケノは悲しそうな声で言い換えしてきた。
[明朝体]「違う...そこにあったの。だから、拾って....温かかった。だから気に入った。だから私のもの。だってそうでしょ...?一度与えたものを奪うなんて、なんて酷い......。取られたくなかったら、最初から与えないで。」[/明朝体]
ノイトにクリティカル。ノイトの方から近づいていって、勝手に捕まって、勝手に死にかけて、助けられた。この場合、ケノよりもノイトの方の分が悪い。
(...油断してた......前世で浮かれてた連中と同じじゃん......。気をつけよ。)
[明朝体]「一度与えたなら、その責任は取って......温もりを、返して!!」[/明朝体]
ノイトは目を見開いた。
[斜体](感情!?)[/斜体]
次の瞬間にはケノの真っ白な髪が無数の鋭い槍のように飛んできていた。メルクは難なくスティレットでそれを弾いているが、数が多すぎる。ノイトの方も【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】でギリギリ弾き返しながらメルクの方へと近づいていった。
[斜体](出来るだけ魔力は温存しておきたい...せっかくフィルさんの魔術で魔力を込める時間を稼いでもらったんだ...!)[/斜体]
[斜体]「ノイトくん、伏せて!」[/斜体]
メルクの声が聞こえるとほぼ同時にノイトはその場に伏せ、メルクの斬撃が白い槍を弾きながらケノとの距離を詰める。
[中央寄せ][斜体][明朝体][太字][大文字]『[漢字]閼愛流霞勢[/漢字][ふりがな]アラブルカゼ[/ふりがな]』[/大文字][/太字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
風に流される霧の如く、目に見えない程の速度の斬撃がケノを襲う。ケノは跳び下がりながら髪の槍で応戦しているが、メルクはどんどん押していく。ノイトはそれを見ながら自分もその武器を振りかぶってケノの元へと跳んだ。
[斜体](流石メル...本気出されたら今の僕でもまだ敵わないかもな...。)[/斜体]
ノイトはケノの背後へと回り、攻撃をくわえた。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力刺突[/漢字][ふりがな]マギノ・スタッブ[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
がら空きだったケノの背中からケノを貫き、その衝撃で一瞬動きが固まったケノはメルクの攻撃を全て受けてしまう。
[明朝体]「[斜体]......ガッ!![/斜体]」[/明朝体]
その個体の肉体は一瞬で崩壊した。しかし、完全に崩壊仕切る前にそれが復活した。咄嗟に後ろへ飛び退いたノイトとメルクの目の前には既に、白い槍が飛んできている。身体を仰け反らせてそれを躱した2人は目の前の変わり果てたケノの姿を見た。
「ねぇ、ノイトくん...これって虚無っていうよりも...。」
「狂夢の方が近いかもしれないね......。」
先程まで黒く塗りつぶされたようになっていた顔の部分には大小の目玉が3つ程浮き上がり、顔の輪郭から内側にかけて牙のようなものが映えている。髪は生きている生物のようにうねうねと動き、ケノの手には巨大な白いジョスト用ランスのような槍が握られている。
「悪夢、みたいだね......。」
「この場所に居る時点で何が本当か分からないけど...情報が少ない魔神だから、何があってもおかしくはないよ。」
悍ましい姿となったケノが一瞬で距離を詰めてきて、槍を振り下ろす。
[斜体]「ノイトくん!魔力は!?」[/斜体]
[斜体]「まだ使えない!」[/斜体]
間一髪でノイトはケノの攻撃を躱したが、一息つく間もなく追撃される。恐らく先程のメルクの攻撃と比べて高い威力の攻撃を繰り出せるからであろう。
[斜体](メルクもここでは魔力が吸い込まれることには気づいているみたいで良かった...!取り敢えず今はケノを何とかし)[/斜体]
ケノの槍はノイトを真っ直ぐと貫いた。少しの間沈黙が訪れ、メルクは殺意を剥き出しにしてケノへと斬りかかる。虚無であるはずのその場の空気がさらに重くなり、メルクのスティレットが高速でケノへと向かう。メルクはスティレットが歪むのも気にせずに絶え間なく攻撃を浴びせ、ケノの髪と槍がボロボロになるまで攻撃を浴びせる手を止めなかった。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〈パキィィン〉[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
途中で非常に硬いはずの[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]で出来たスティレットが甲高い音を立てて折れてしまった。ケノは槍を持っていない方の手でメルクを掴もうとしたが、次の瞬間にはその手は避けられ、いつの間にか黒いスタッズグローブのような魔具をはめたメルクの拳がケノの顔を殴り飛ばした。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]『[漢字]愛縷繰流素[/漢字][ふりがな]メルクリウス[/ふりがな]』[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
メルクの華奢な体躯からは予想も付かない程重く速い拳撃が、ケノの頭を横へと仰け反らせる程の威力を生んだ。
[斜体]「ハァ......ハァ......!!ノイトくん!!」[/斜体]
ノイトの姿は槍の先からは消えていて、代わりにメルクの背後の方からため息が聞こえてきた。
「ハァ.........いくら再生出来ても痛いものは痛いんだよな...。」
「ノイトくん!? 良かった...もぉ、死んじゃったのかと思ったじゃん!バカッ!」
ノイトは2つの魔法を使って今この場所に居た。1つ目は予め蓄えてあった[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]の魔力を消費し、傷口を治すために[漢字]再生[/漢字][ふりがな]リサステーション[/ふりがな]という魔法。もう1つは、たった今ノイトが発案したオリジナル。
[中央寄せ][斜体][太字][大文字]⁅ [明朝体][漢字] 悪夢 [/漢字][ふりがな]ナイトメア [/ふりがな][/明朝体]⁆[/大文字][/太字][/斜体][/中央寄せ]
この魔法は、自分を悪夢の中のオブジェクトとして認識し、その構造を[漢字]複製[/漢字][ふりがな]コピー[/ふりがな]してからその複製体と本体の位置を入れ替えるもの。要するに、[漢字]複製[/漢字][ふりがな]コピー[/ふりがな]、[漢字]位置置換[/漢字][ふりがな]サブスティテュート[/ふりがな]、[漢字]影潜[/漢字][ふりがな]レイテント[/ふりがな]、そしてリュミエの能力を応用し1つにまとめた魔法だ。その分だけ魔力を食うが、このような状況になってしまっては今更出し惜しむことも出来ない。
「ふぅ...死ぬかと思った......。もうこれ以上死ぬのはやだよ...。」
[明朝体]「...どうして......生きてる......?...確かに、刺した...はず......。」[/明朝体]
ノイトは驚いているケノの質問を無視して逆に尋ねる。
「ケノ。君は本当に“虚無の魔神”なの?」
ケノは槍の先をノイトへと向けて答えた。
[明朝体]「...そう。私は、...“虚無の魔神”......そう呼ばれてきた...。」[/明朝体]
「メル、ケノの封印を解いたのは誰か分かる?」
「ううん、さっきまで組織で定例の報告会があったんだけど、私は途中で抜け出してきちゃったから。ノイトくんのことはもう組織のほぼ全ての人間にバレてるよ。」
「えぇ〜、面倒だな...。刺客とか送られてこない...?」
「それは大丈夫。さっきムズィガルドで倒してきた。リーリャにも会ったよ!」
メルクの話からリーリャが無事であることが確認出来て、ノイトは一安心する。しかし、まだ目の前に居る魔神を倒さなければ終わらない。
(魔神は本来人間に害を与える存在として封印されていた...。ゲデニスやリュミエの方が特殊な例なのかな...。)
まだ[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に込めてあった魔力は残っている。ノイトは残りの魔力でどうやってこの魔神を倒すのかを考えた。
(さて、と......いざとなれば禁忌魔法も考えなきゃいけないけど...この場所で発動しても効果があるのか分からないな...。まだ情報が足りない...ルミナたちとも合流しておきたい。)
「あ、メル。スティレットは?」
「あ〜、折れちゃったんだよね...。このグローブもさっきの一撃でかなり傷んじゃったし...。どうしようね?」
「う〜ん...他に持ち物は?」
「ノイトくんに買ってもらった魔法の杖と[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]。あとは小型ナイフ。」
「なら、十分だね。」
ノイトはケノの顔を真っすぐと見据えながら攻撃を機会を待つ。
[明朝体]「...私から......もう何も奪わないで...返して......返して......。」[/明朝体]
話が通じる状態ではないことは分かっていた。しかし、相手が魔神である以上無闇に攻撃を加えても逆にこちらが危険な目に遭う可能性が高い。ノイトは魔力を消費して攻撃を仕掛ける。
「ケノ、僕は僕だ。君のものじゃない。」
[明朝体]「...嫌......行かないで....!」[/明朝体]
ケノがノイトに向かって槍のような髪を無数に飛ばし、ノイトはそれを最小限の動きで躱して距離を詰める。
(多少掠った程度であれば後で回復すれば良い。今はここからの脱出が最優先。そのためには今目の前に居るケノを...[斜体]倒す!![/斜体] )
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]魔力裂斬[/漢字][ふりがな]マギノ・ガッシュ[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
魔力は食うがその分威力は高い。ケノの髪の攻撃をまとめて押し斬り、悍ましい姿となった個体を縦に頒かつ。その個体は黒い霧となって虚無に溶けて消滅し、ノイトとメルクは再びケノの本体と対峙した。
「メル、準備は出来た?」
「うん、もう大丈夫だよ!」
[明朝体]「あぁ......寒い...暗い...寂しい......。」[/明朝体]
先程からケノはずっと同じことばかり呟いている。メルクは小型ナイフを握り、いつでも攻撃を仕掛けられるように身構えた。
「ノイトくん、いつでも良いよ。」
「ん〜、まだ待機ね。ルミナたちの方が片付くまではこのままで大丈夫。」
「...え?ルミナス様がここに...?」
ノイトはメルクにルミナスと一緒に旅をしていることをまだ伝えていなかったのだ。それを思い出してノイトが説明しようとしたその時、遠くにルミナスとリュミエとフィルマリーの姿が見えた。
「あれ...あぁ、そっか...。一緒に冒険したいって言ってたもんね。フィルマリーさんも居るんだ。...で、あのもう1人の女は誰?」
「ん、あぁ〜、えっと...[下線]元[/下線]・“幻惑の魔神”。今はもう仲間だよ。」
「ふぅ〜ん...なるほどねぇ......。つまり、私が居ない間にかわいい女の子たちとイチャイチャしてたと...?私が良いって言ってくれたから仲間になったのに...。」
「違うって...急にヘラったりしないでよ...。平等に接してるつもりではあるからさ...、ね?」
少し不機嫌になったメルクだったが、取り敢えず今優先すべきはケノの討伐。先程ノイトを助けた時にノイトがかなり消耗していたことに気がついていたため、メルクは心配と疑念と不安が混ざっている複雑な感情を抱えている。しかし、それを押し込めて集中した。
「はいはい...言い訳は後でたっぷり聞いてあげるから...。」
遠くに見えたルミナスたちはそちらの方に居た個体を倒したようだった。ノイトが拘束されていた間のことであるため、ノイトは何となく察することしか出来ていなかったが、別個体の肉体が崩壊している様子を見てそれを確信する。
[太字][明朝体]「お兄ちゃん!...と、メルク様!?」[/明朝体][/太字]
「あっ!! メルクさん、お久しぶりで〜す!」
呑気に手を振っているフィルマリーを見て、ノイトもメルクもまだフィルマリーが余裕そうで安心した。
「ルミナス様も、フィルマリーさんも、お久しぶりです。元気で何より...。...あ、はじめまして。私はメルク=ミスラーガンド。[漢字]女剣闘士[/漢字][ふりがな]ファイター[/ふりがな]兼上級魔法使いで、ノイトくんの仲間で〜す!」
笑顔から感じる敵意はあるが、リュミエも笑顔で返す。
「はじめまして、メルク。私もノイトくんの仲間で〜す!」
ノイトの予想が正しければ、明らかのリュミエの方が強い。しかし、互いに笑顔の圧は変わらない、修羅場とも言えた。
(...女子ばっかだな...。)
その時だった。ケノが呟いていた言葉が変わる。
[明朝体]「...ずるい......ずるいずるいずるい...。...私は独りなのに...ノイトは......私の...。」[/明朝体]
(誰か男も連れてきてください、とてもいたたまれない...。)
ノイトの心の声を聞けた者など居らず、何事もなかったかのようにケノの言葉が油を注ぐ。
[明朝体]「...ノイトの温もり......返して......。」[/明朝体]
「ダメ。」[太字][明朝体]「ダメです。」[/明朝体][/太字]「ダメ。」「ダメです!」
4人の言葉はほぼハモった。メルクは小型ナイフを、ルミナスは聖剣を、リュミエはワイヤーを、フィルマリーは魔法の杖を構える。ノイトも【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を握り直し、ケノの方を真っ直ぐと見据える。
「ゲデニス。」
リュミエに名前を呼ばれたその白い炎はリュミエの隣に浮いている。
「[漢字]小夜啼鳥[/漢字][ふりがな]ナイチンゲール[/ふりがな]。」
ノイトに名前を呼ばれたその蒼い鳥はノイトの隣に現れる。
ケノは5人と魔力の塊2つと対峙し、その黒く塗りつぶされた顔を向けた。
[明朝体]「...ずるい...私は、独りなのに......。」[/明朝体]
「それは自分から他と関わろうとしないからだよ、ケノ。僕にも、そういう時代があった。寂しいのが嫌なら、それを紛らわせるものを自分から取りに行かないと。」
[明朝体]「...私は......ノイトが...。」[/明朝体]
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは自力でここまで強く、かっこよく、優しくなったんです!あなたは違うんですか?」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「...違う...。...私は、ノイトと...違う...?」[/明朝体]
「そうです。ノイトさんはあなたとは違うんです。違うものだからこそ欲しくなってしまう気持ちはよく分かりますけど、完全に自分のものにしちゃったらまた寂しくなるだけじゃないですか!!」
[明朝体]「...また、......寂しく...。」[/明朝体]
「ノイトくんは、過去は過去で切り離せるし、それは自分でやるものだって思ってる。ノイトくんが思ってることと違うことをしたら、ノイトくんに嫌われちゃうかもしれないでしょ?私はそれが嫌だな...。だって、せっかく私を1人の人間として認めてくれたんだもん!」
[明朝体]「...魔神を......人間に...?」[/明朝体]
「ノイトくんは私を大事な仲間だって言ってくれた。だから、私もその気持ちにはちゃんと答えたいの。さっきだって、ちゃんとノイトくんは私に“ありがとう”って言ってくれた...。だけど、あなたはどうなの?“ありがとう”も言えないやつのことなんか、ノイトくんが好きになるはずないでしょ!!」
[明朝体]「...ノイト...好き...ならない......?」[/明朝体]
[大文字][明朝体]〈“虚無の魔神”よ。私は魔神ではあるが一度彼に敗れている。それがなぜか、私は考えた。魔法の相性や彼の知能が高かったことも理由だが、一番の理由は絆だ。リーリャという少女が居なかったら、彼は私に敗れていた。しかし、最後は2人の絆が私にトドメを刺すに至ったのだ。〉[/明朝体][/大文字]
[明朝体]「...絆......欲しい...。」[/明朝体]
「ケノ。多分、君が欲しいのは絆じゃなくて、その空っぽの心を埋める何かだよ。“孤独の魔神”もそうだったけど、独りぼっちの人が他の人を見ると、その人が持っているものが羨ましく見える。それを欲しくなるのは何でか分かる?それを持っている自分を想像しちゃうからだよ。一度与えられたイメージをしちゃったら、それに満足して、また欲しくなる。そうでしょ?」
[明朝体]「......そう、....かもしれない......。...心を...満たす......。欲しい...。」[/明朝体]
「だけど、ただ欲しがるだけじゃダメだよ。どうしても手に入らないものだってある。人はそれを、“憧れ”って言うんだよ。ケノの憧れは何?温もり?違うよね。ケノが欲しいのは“空っぽじゃない自分”でしょ!」
[明朝体]「...空っぽじゃ、ない......私...。」[/明朝体]
「そう。痛みでも、魔力でも、心を満たせるものは沢山あるけど、ケノが求めているものは温もりで心が埋められること。この冷たい場所は、もう嫌なんでしょ?」
[明朝体]「...嫌...冷たいの、嫌...。温もり...で、満たして......お願い...。」[/明朝体]
「...ルミナ。立て続けで悪いけど...また、お願いできる?」
[太字][明朝体]「あ...!はい!!」[/明朝体][/太字]
ルミナスはマジックバッグから小箱を取り出す。
[水平線]
[中央寄せ][大文字][斜体]超級魔法:[明朝体][太字]『[漢字]幻想廻転琴[/漢字][ふりがな]オルゴール[/ふりがな]』[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
流れた1つ1つの音がしっかりとケノの心の中へと入っていき、少しずつケノの黒が減っていく。少しずつ満たされていくケノの心が熱を帯びていく。しかし、[漢字]廻転琴[/漢字][ふりがな]オルゴール[/ふりがな]の演奏が終わっても、まだケノの心を満たし切ることは出来なかったようだ。
[明朝体]「...まだ......足りない.........。...まだ......[漢字]いる[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]......。」[/明朝体]
それを聞いてノイトはあることを思い出した。
「フィルさん、リオールさんは?!」
「あっ、こっちに先に着てたみたいなので...まだ戦っているかもしれません!!」
リオールはずっと1人で別の個体と戦っていたようだ。ノイトはリオールとの合流も討伐に必要な条件だと気がつく。
(ケノの別個体は全部自虐的だった、ケノの心を満たす邪魔をする存在...。全部倒さないとケノを救えない...!!)
ケノの黒が再び戻ってき、熱が冷めていってしまっていることが見て分かる。すぐに何かで埋め直さなければさらに冷えてしまう。
[斜体]「ノイトくん!」[/斜体]
その場で全員の視線がノイトに集まった時、ノイトはヘッドマイクセットのような見た目の魔具のマイクの部分とスピーカーの部分を自身の口元と耳元に当てていた。
「大丈夫。リーリャ、今だよ。」
すると、巨大な緋い炎の矢が飛んできて、真っ暗だった空間を照らした。
[斜体](おおっ、すごい威力だ...魔力は当然虚無に吸い込まれるけど......。)[/斜体]
ノイトは照らされた空間の中に一点の光を見つけた。
[斜体](充分だ...!!)[/斜体]
「メルク!!」
メルクはその光の方へと小型ナイフを投げつける。そのナイフは真っ直ぐと飛んでいき、その個体に突き刺さった。
[明朝体]「ガッ...!!」[/明朝体]
崩壊したそれと戦っていたのはリオールだ。
「リオールさん!こっちへ!!」
ノイトの声が届いたのか、リオールはこちらへと駆け寄ってきた。
「ノイト!フィルマリーにメルクも、来てたのか...!もう1体の魔神は?」
「大丈夫です。もう倒してきました。」
ノイトの自身ありげな声を聞いてリオールは胸を撫で下ろす。たった15歳の少年(※外見では)がまた魔神を倒したというのだ。つくづくノイトの成長を感じて感心する。
「そうか...なら、良かった。流石は僕の教え子だ!」
リオールと戦っていた個体も倒すことが出来た。後は本体の心を埋めるだけだ。