世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
彼女の名前は▓▓ ▓▓▓。生まれつき病弱で、病院の外の世界をあまり知らない少女だった。彼女が唯一世界を知る方法はインターネットで、特にネット上に挙げられている楽曲に興味があった。幼い頃から友人は少なく、他人への関心は薄いものだった。
そんな彼女が他人への興味を持ったのは、ある動画を見たときだった。いつものようにネット上で動画を眺めていたとき、ある少女がピアノを演奏している動画が流れてきたのだ。その演奏を聞いた瞬間、彼女は完全に虜になった。
彼女は最後の時が近づいていることを実感していた。しかし、このまま最後を迎えてしまってはきっと後悔すると思い、最後の最後だけで良いという条件で、その少女の演奏会を見に行くことを許してもらった。車椅子で運ばれながら初めて見る景色ばかりだったが、あの少女の演奏を聞いた時はそれ以上の感動があった。彼女は少女の演奏を実際に聞くことが出来て満足だった。その後、彼女は幸せそうな表情で最後の音と同時に息を引き取ったのだった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちはもう1体の魔神の元へ向かうために駆けている。
(どんどん魔神の魔力が近くなってきている...こっちで合ってるな。)
次の瞬間、足元が一瞬空中に放り出されたような感覚になり周囲が真っ暗になった。何か大きな手に掴まれた感覚がし、その次の瞬間には目の前に魔神が居た。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
その魔神はかなり長い真っ白な髪と、黒く塗りつぶされた顔と服が特徴的な女性の姿をしている。か細い声だが、明らかに先程の“孤独の魔神”よりも強いのが伝わって来た。
「...リュミエ、リュミエとこの魔神のどっちが強い?」
「断然、この魔神だよ...。この真っ暗な場所じゃ私の能力も吸い込まれてるみたいで...。」
「分かった。一応能力は温存しておいて。」
ノイトは【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】をしっかりと握ってその女性へと歩み寄っていく。近づいてみると、その女性が若い少女の姿をしていることに気付いた。
(リュミエやムルシィアと同じ、かな...。)
顔は黒く塗りつぶされているせいでどんな表情をしているのかも分からないが、近づけば近づく程背筋が凍りついていき、本能的な恐怖をじわじわと感じる。その少女は両手を伸ばしてきた。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
「僕は、ここに居ますよ。...僕はノイト=ソルフォトスです。あなたの名前は?」
少し間が空き、声が返って来る。
[明朝体]「...わたしの、名前......?」[/明朝体]
「...ん......もしかして、名前が思い出せない...?」
この少女には記憶がないのかもしれない。ノイトは彼の魔法で記憶を取り戻してあげようと思い、[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込め始めた。しかし、その魔力は真っ暗な空間に吸い込まれてしまう。
(魔力が...。どうしたもんかね...。)
少女はただ冷たい両手をノイトの方へと伸ばすだけだった。
[明朝体]「...私は、...魔神......。...大人たち、...私のこと...ケネー...って呼ぶ...。」[/明朝体]
恐らくメルクが所属している組織の手によって魔神にされたのだろう。魔神を造ることが出来る組織となれば構成員も実力者ばかりである可能性が高い。
(...メルクはあの組織の考えには反対していたものの、組織から解放されていた様子はなかった。魔神の討伐を防ぐんだとしたらここへ向かってきてもおかしくはないはずだね。)
「ケノ...[漢字]空っぽ[/漢字][ふりがな]Keno[/ふりがな]...。...フィルさん、この魔神について何か知りませんか?」
「あ、そう言えば...以前読んだ本に7体の魔神について書かれていました!この世界に居る魔神は、“終焉の魔神”、“絶望の魔神”、“記憶の魔神”、“幻惑の魔神”、“眩惑の魔神”、“孤独の魔神”...そして“虚無の魔神”の7体です。その中でも詳しい情報が少なかった“虚無の魔神”ですが...外見の性別は女性のようですね。」
フィルマリーの軽い説明を聞いてノイトは思考する。
(虚無か......。魔力は吸い込まれる。物理は効くのか...、そもそも魔力の吸収にも容量の限界が...?それに、さっきの掴まれたような感覚は...、あれはこの空間に引き込まれたからか...。)
[太字][明朝体]「お兄ちゃん...!気をつけてください!!」[/明朝体][/太字]
ルミナスの声を聞いて咄嗟に一歩後ろへと跳んだ。すると、つい先程までノイトが立っていた所に少女の真っ白な髪が伸びてきていた。
(...危ない。集中しすぎた、気を抜くな。)
ルミナスの隣まで跳び退いたノイトは魔神の方を警戒しつつもルミナスに礼を言う。
「ありがとう、ルミナお陰で助かった。」
[太字][明朝体]「いえ、お兄ちゃんがご無事で何よりです!」[/明朝体][/太字]
ノイトが自力で反応出来ていなかったのは自身の思考に集中しすぎていたことだけが理由ではない。そもそも、少女の殺意や敵意が感じられないのだ。悪意があってノイトを捉えようとしたのか、それともただ誰かの温もりが欲しかっただけなのか、それは分からない。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
聞く度にこちらが悲しくなってきそうな声だった。相手の意図が分からない以上、気を許して迂闊に近づいてしまうわけにも行かない。そこで声をあげたのがリュミエだ。
「ノイトくん、私に任せて。まぁ、私じゃないんだけど...ね?」
「ん?.........あぁ、なるほど。分かった。リュミエたちに任せるよ。」
ノイトの代わりに前に出たリュミエは、懐から白い炎を取り出した。
「...ゲデニス、あの子を助けてあげて。」
[中央寄せ][明朝体]〈...ハァ......私は貴様の下僕ではないのだと何度言えば分かるのだ?〉[/明朝体][/中央寄せ]
その声はかつてノイトとリーリャが討伐した“記憶の魔神”ゲデニスのものだった。
(え...喋れたんだ...。)
ルミナスはドメリアスの魔法によってノイトとリーリャが“記憶の魔神”と戦った時の情景を見たことがあるため、その声にも聞き覚えがあった。フィルマリーも、気配や魔力の雰囲気でそれが魔神だと気が付き、リュミエが呼んだその名前で確信する。
[太字][明朝体](あれが...。)[/明朝体][/太字]
(“記憶の魔神”ですか...。)
ゲデニスはリュミエよりも弱く、リュミエはケノよりも弱い。しかし、相性が全てではないことはこの場に居る者の中でケノを除き全ての者が知っていた。ノイトはゲデニスとの戦闘の際、初等魔術を後半でやっと覚える程の実力で、単純な実力であれば足元にも及ばなかった。ただし、ノイトは時間と記憶を魔法として扱う能力があり、ゲデニスにとって相性は非常に悪かった。それだけではなく、ノイトには前世から培ってきた知識と思考力がある。これらがノイトがゲデニスに勝利した理由になっている。
つまり、リュミエは“記憶の魔神”と“虚無の魔神”の相性が良いと思ったのだ。そこでゲデニスがこの場に呼び出された。
[大文字][明朝体]〈...“虚無の魔神”ケノか......。生まれたときから愛を受けずに育ち、それを望んでいた者。自身を縛る愛もなく、組織の人間に誘拐された際も抵抗するという選択肢が思いつかなかったようだな...。〉[/明朝体][/大文字]
魔神の能力は基本的に魔力は使用する。しかし、その魔力が使用後に還元されるのだ。そのため、魔力をこの空間に吸い取られることなく能力を使うことが出来ている。
[大文字][明朝体]〈そして、組織に魔神にされた後...その不気味さから、空っぽ...ケノと呼ばれるようになったのだな。〉[/明朝体][/大文字]
ゲデニスの言葉を聞いてノイトは再び[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込め始めた。
「フィルさん。」
「...あ、分かりました!!」
フィルマリーは杖を構えて魔術を唱えた。
[中央寄せ][太字][大文字]上級魔術:[明朝体]〘ᚪᚱᛖᚪ〙[/明朝体][/大文字][/太字][/中央寄せ]
フィルマリーが唱えた魔術によってノイトの足元から周囲の半径1m程の聖域が展開された。
(流石フィルさん...!! 魔力量が桁違いでこの魔術も安定してる...!)
かと言ってフィルマリーの魔力もこの空間に吸い取られている。長くは持たないだろう。ノイトは自身の魔力が[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に込められているのを感じ、同時にケノが何か仕掛けてこないかと警戒しながら前を見据える。ノイトの魔力のほとんどを込めて魔族であるティフォンの動きを止めることも出来た【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】。それに嵌め込まれた[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]の魔力容量も半端なものではない。当然フィルマリーの魔力が尽きる方が先に来るため、この宝石の最大限の力を引き出すのは、この場所では不可能だろう。
「ノイトさん...そろそろ良いです、か...?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
フィルマリーの魔術が解け、ノイトはケノの方へと近づいていく。リュミエとゲデニスはノイトが何かの準備を整えたことを察し、一歩下がった。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
「分かった。今行く。」
ノイトはケノが伸ばした両手の前まで行くと足を止める。ケノの真っ白な長い髪がノイトに絡みつき、ノイトを引き寄せた。
[明朝体]「......温かい...。誰......?」[/明朝体]
「僕はノイト。」
[明朝体]「...ノイト......ソルフォトス...。」[/明朝体]
「そう。ノイトだよ。」
[明朝体]「...ノイト。何して、遊ぶ......?」[/明朝体]
ノイトは警戒心を解いたわけではないが、ケノはノイトのことを覚えて、一緒に遊ぼうとしているようだ。
(あれ、フィルさんのぬいぐるみの方が...いや、使い捨ての駒じゃないんだ。生の温もりもない。僕で良いんだ。)
「ケノは、何して遊びたいの...?」
ケノは少しの間答えなかった。何をして遊ぶか迷っているようだ。
(人形遊びとか言われて僕たちが人形になったりしなければ良いんだけど...。)
[明朝体]「...寒い......。」[/明朝体]
ケノはそう呟いた。ノイトたちも先程からこの場所は肌寒いと感じている。しかしそれは、物理的に感じる寒さではなく、心の寒さだった。目の前に居るのは、虚無を司る魔神。この冷たさと、リトゥス以上の孤独をたった1人で長い間抱え続けていたのだ。そこで温もりを少しでも感じてしまえば、この場所の異常さにも気づくものだろう。
[明朝体]「...寒い...暗い......寒い寒い...暗い...寒い......。」[/明朝体]
ケノの伸ばされた両手はノイトへと伸ばされていて、その手はノイトの背へと回された。
「...ケノ?」
[明朝体]「寒い...暗い......怖い...。」[/明朝体]
ノイトは冷たい感覚に包まれる。1人で抱え込むにはあまりにも冷たすぎるものだったが、ノイトは声1つあげずにケノを抱き返す。ケノはずっとこの孤独を1人で抱え込んできていたのだ。それを実感する程、ノイトの目には同情が宿っていく。
「ずっと...1人でツラかったよね。寒いし、暗いし、怖かったよね...。もう大丈夫だよ。安心して良いから、ね?」
ノイトの警戒心が完全に解け切ろうとしていたが、ケノの髪が彼を押さえ込んでいることは当人も気がついていた。
(分かっていた...。[漢字]同情[/漢字][ふりがな]それ[/ふりがな]は心を喰われる。......でも、どうしてもかっこつけたくなっちゃうんだなぁ、これが。)
ノイトの目の光は揺らぎ、眉根は寄せられるが口元は自然と緩んでしまう。あまりにも静かだったため、ルミナスやリュミエやフィルマリーはノイトの違和感に気がつくのが遅くなった。違和感を感じて声をかけようとした瞬間、背後に目の前に居る少女より少し成長したのような少女が立っていることに気がついた。その少女は口を開く。
[明朝体]「あなたたちには、分からないでしょうね。私の寂しさが。」[/明朝体]
その冷たい響きを持った言葉が吐き捨てられた瞬間、ノイトとケノの姿が遠くへ行き、心の距離も遠くなってしまったように感じられた。ルミナスは振り返ってその少女に話しかける。
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは、私たちの大切な人なんです。あなた1人のものではありません。」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「世界にたった1人。だけど、世界のたった1人。ノイト1人が私だけのものになっても、世界は動かないし、いつかそれも忘れちゃう。そうでしょ?」[/明朝体]
一歩踏み出そうとしたフィルマリーをリュミエが止め、代わりにゲデニスが答えた。
[大文字][明朝体]〈そんなことはない。私は彼を覚えている。かつて私たちを封印した人間たちのこともそうだ。記憶が失われない限り、その存在は決して忘れられることはない。そして、その存在が本当の死を迎えることはない。〉[/明朝体][/大文字]
リュミエも続けてケノに反論する。
「そうだよ。人間はいつか死んじゃうし、いつかその時代に生きていた人たちはみんな居なくなって忘れられちゃう。だけど、私たちは違うでしょ!人間よりも長く生きるんだから、大切なもののことを覚えていることくらい出来るでしょ!! ノイトくんはたったの1人かもしれないけど、たった1人の私の大事な人なの!」
フィルマリーも2人に続いた。
「ノイトさんはスゴいんです。私よりもずっと頭が良くて、潜在魔力量も多い...それを、あなたは独り占めしようとしている...。私だって、ノイトさんを自分だけのものにしたいですよ!だけど、一度そうしてしまえばその夢は消えちゃうじゃないですか!! 叶わないからこそ、......叶って欲しいけど、叶って欲しくないものが夢でしょう!憧れを失って、それで良いんですか!!」
ルミナスはノイトから貰った聖剣の柄をぎゅっと握りしめて一歩前に出た。
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは...ノイト様は、私の憧れなんです。かっこいいし優しいし、頭も良いんですよ...。私は、お兄ちゃんの隣に立つために頑張ってきたんです!私の一番好きな居場所を、返してください!!」[/明朝体][/太字]
“虚無の魔神”は各々の思いを受け取ったが、それによって一瞬生まれた[漢字]感情[/漢字][ふりがな]ナニカ[/ふりがな]もすぐに虚無に消えてしまった。
[明朝体]「...知らない。私は、あなたたちと違って与えられなかった側なの。[斜体]恵まれていた側のあなたたちが...ちょっと運が良かっただけあなたたちが![/斜体]...何かを失っただけで一々一々騒がないで。もう、良いでしょう?」[/明朝体]
ケノの言葉はその場に鉛のように重く、冷たく沈んで残った。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
(冷たい...寒い......これをずっと、1人で...。とても耐えきれるものじゃない......僕が半分分けてもらったとしても...これは......。)
ノイトの指先と胸と肩の感覚はもう既になかった。それが熱を奪われたせいか、虚無に飲まれたせいかは分からないが、ノイト自身もこのままでは自分の存在が消えてしまうことを察していた。
(...ぅ......これは、ちょっと..........。)
いくら精神が強いノイトでも流石にキャパオーバーである。内面に満ちた純粋な恐怖と、良くも悪くもそれを隠そうとする癖のせいで気がおかしくなりそうだった。
[明朝体]「温かい......でも、どんどん同じになってく......。」[/明朝体]
「...ケノは、......1人でこんなに......?」
ケノの黒く塗りつぶされた顔は彼女の感情を語らない。そのため、本来ならそれを基に次の手段を選ぶことに慣れてしまっていたノイトは迷う。
[明朝体]「...そうだよ。私はずっと、こうだった。でも、ちょっとだけ...寂しくなくなったよ。ノイトが居るからね。」[/明朝体]
ケノはノイトに依り掛かるようにして体重をかけた。ノイトの熱はさらに虚無に消えていく。凍りついたノイトの瞳がどんどん光を失っていった。
[明朝体]「これからは、ず───────────────っと一緒に居ようねぇ?」[/明朝体]
(......っ、だ......。...誰か.........助け、て...。)
そのときだった。
[水平線]
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〈『[漢字]灼愛射閼召[/漢字][ふりがな]ヤマナイアメ[/ふりがな]』!!〉[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
ノイトを絡め取っていたケノの真っ白な髪が断ち切られ、ノイトが髪から解放される。ケノがその斬撃を躱すために少し離れた場所へ飛び退いたため、ノイトは支えを失ってその場に崩れ落ちた。
[斜体](この技は...!!)[/斜体]
ノイトとケノと、もう1人。その人物は黒いローブを羽織り、銀髪碧眼で顔立ちは整っている。ノイトが持つ【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】と同じ[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットを両手に持ち、真っすぐとケノの方を見据えていた。
「...!メル...!!」
「遅くなってゴメンね、ノイトくん。もう大丈夫だから。」
[明朝体]「...寒い......暗い...。」[/明朝体]
メルクは右のスティレットをケノへと向けて名乗りあげた。
「私は、メルク=ミスラーガンド。ノイトくんの仲間。...“虚無の魔神”、あなたにノイトくんは渡さない!」
ノイトは先程失った熱の代わりにじんわりと何か温かいものが自身の胸から湧き出ていることを感じながら、ゆっくりと立ち上がって【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】をしっかりと握った。
[明朝体]「...寒い......暗い......寒い...。」[/明朝体]
「それは、あなたがノイトくんに近づく口実じゃない。今の私なら、正直にノイトくんにこの思いを伝えられるよ?」
「......。僕が知らない曲だね?」
「えへへっ、ヒロインが来て嬉しいでしょ?」
「僕の人生に1人のヒロインを決めつける必要なんかないよ。僕と関わってくれただけで僕は十分嬉しいし、それ以上を求めようとは思わない。でも、わざわざ僕なんかのためにここまで来てくれてありがとう。この世界のたった1人のために、会いに来てくれてありがとう。」
「.........どういたしまして!」
メルクはノイトの言葉を聞いて頬を[漢字]赧[/漢字][ふりがな]あから[/ふりがな]めて微笑んだ。
「当然でしょ!大事な仲間だもんね!!」
「うん!」
武器を構えた2人は目の前に立っている少女と対峙する。少女の黒く塗りつぶされた顔が真っ直ぐと2人に向けられていて、2人を吸い込もうとしているかのようだった。
彼女の名前は▓▓ ▓▓▓。生まれつき病弱で、病院の外の世界をあまり知らない少女だった。彼女が唯一世界を知る方法はインターネットで、特にネット上に挙げられている楽曲に興味があった。幼い頃から友人は少なく、他人への関心は薄いものだった。
そんな彼女が他人への興味を持ったのは、ある動画を見たときだった。いつものようにネット上で動画を眺めていたとき、ある少女がピアノを演奏している動画が流れてきたのだ。その演奏を聞いた瞬間、彼女は完全に虜になった。
彼女は最後の時が近づいていることを実感していた。しかし、このまま最後を迎えてしまってはきっと後悔すると思い、最後の最後だけで良いという条件で、その少女の演奏会を見に行くことを許してもらった。車椅子で運ばれながら初めて見る景色ばかりだったが、あの少女の演奏を聞いた時はそれ以上の感動があった。彼女は少女の演奏を実際に聞くことが出来て満足だった。その後、彼女は幸せそうな表情で最後の音と同時に息を引き取ったのだった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちはもう1体の魔神の元へ向かうために駆けている。
(どんどん魔神の魔力が近くなってきている...こっちで合ってるな。)
次の瞬間、足元が一瞬空中に放り出されたような感覚になり周囲が真っ暗になった。何か大きな手に掴まれた感覚がし、その次の瞬間には目の前に魔神が居た。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
その魔神はかなり長い真っ白な髪と、黒く塗りつぶされた顔と服が特徴的な女性の姿をしている。か細い声だが、明らかに先程の“孤独の魔神”よりも強いのが伝わって来た。
「...リュミエ、リュミエとこの魔神のどっちが強い?」
「断然、この魔神だよ...。この真っ暗な場所じゃ私の能力も吸い込まれてるみたいで...。」
「分かった。一応能力は温存しておいて。」
ノイトは【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】をしっかりと握ってその女性へと歩み寄っていく。近づいてみると、その女性が若い少女の姿をしていることに気付いた。
(リュミエやムルシィアと同じ、かな...。)
顔は黒く塗りつぶされているせいでどんな表情をしているのかも分からないが、近づけば近づく程背筋が凍りついていき、本能的な恐怖をじわじわと感じる。その少女は両手を伸ばしてきた。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
「僕は、ここに居ますよ。...僕はノイト=ソルフォトスです。あなたの名前は?」
少し間が空き、声が返って来る。
[明朝体]「...わたしの、名前......?」[/明朝体]
「...ん......もしかして、名前が思い出せない...?」
この少女には記憶がないのかもしれない。ノイトは彼の魔法で記憶を取り戻してあげようと思い、[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込め始めた。しかし、その魔力は真っ暗な空間に吸い込まれてしまう。
(魔力が...。どうしたもんかね...。)
少女はただ冷たい両手をノイトの方へと伸ばすだけだった。
[明朝体]「...私は、...魔神......。...大人たち、...私のこと...ケネー...って呼ぶ...。」[/明朝体]
恐らくメルクが所属している組織の手によって魔神にされたのだろう。魔神を造ることが出来る組織となれば構成員も実力者ばかりである可能性が高い。
(...メルクはあの組織の考えには反対していたものの、組織から解放されていた様子はなかった。魔神の討伐を防ぐんだとしたらここへ向かってきてもおかしくはないはずだね。)
「ケノ...[漢字]空っぽ[/漢字][ふりがな]Keno[/ふりがな]...。...フィルさん、この魔神について何か知りませんか?」
「あ、そう言えば...以前読んだ本に7体の魔神について書かれていました!この世界に居る魔神は、“終焉の魔神”、“絶望の魔神”、“記憶の魔神”、“幻惑の魔神”、“眩惑の魔神”、“孤独の魔神”...そして“虚無の魔神”の7体です。その中でも詳しい情報が少なかった“虚無の魔神”ですが...外見の性別は女性のようですね。」
フィルマリーの軽い説明を聞いてノイトは思考する。
(虚無か......。魔力は吸い込まれる。物理は効くのか...、そもそも魔力の吸収にも容量の限界が...?それに、さっきの掴まれたような感覚は...、あれはこの空間に引き込まれたからか...。)
[太字][明朝体]「お兄ちゃん...!気をつけてください!!」[/明朝体][/太字]
ルミナスの声を聞いて咄嗟に一歩後ろへと跳んだ。すると、つい先程までノイトが立っていた所に少女の真っ白な髪が伸びてきていた。
(...危ない。集中しすぎた、気を抜くな。)
ルミナスの隣まで跳び退いたノイトは魔神の方を警戒しつつもルミナスに礼を言う。
「ありがとう、ルミナお陰で助かった。」
[太字][明朝体]「いえ、お兄ちゃんがご無事で何よりです!」[/明朝体][/太字]
ノイトが自力で反応出来ていなかったのは自身の思考に集中しすぎていたことだけが理由ではない。そもそも、少女の殺意や敵意が感じられないのだ。悪意があってノイトを捉えようとしたのか、それともただ誰かの温もりが欲しかっただけなのか、それは分からない。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
聞く度にこちらが悲しくなってきそうな声だった。相手の意図が分からない以上、気を許して迂闊に近づいてしまうわけにも行かない。そこで声をあげたのがリュミエだ。
「ノイトくん、私に任せて。まぁ、私じゃないんだけど...ね?」
「ん?.........あぁ、なるほど。分かった。リュミエたちに任せるよ。」
ノイトの代わりに前に出たリュミエは、懐から白い炎を取り出した。
「...ゲデニス、あの子を助けてあげて。」
[中央寄せ][明朝体]〈...ハァ......私は貴様の下僕ではないのだと何度言えば分かるのだ?〉[/明朝体][/中央寄せ]
その声はかつてノイトとリーリャが討伐した“記憶の魔神”ゲデニスのものだった。
(え...喋れたんだ...。)
ルミナスはドメリアスの魔法によってノイトとリーリャが“記憶の魔神”と戦った時の情景を見たことがあるため、その声にも聞き覚えがあった。フィルマリーも、気配や魔力の雰囲気でそれが魔神だと気が付き、リュミエが呼んだその名前で確信する。
[太字][明朝体](あれが...。)[/明朝体][/太字]
(“記憶の魔神”ですか...。)
ゲデニスはリュミエよりも弱く、リュミエはケノよりも弱い。しかし、相性が全てではないことはこの場に居る者の中でケノを除き全ての者が知っていた。ノイトはゲデニスとの戦闘の際、初等魔術を後半でやっと覚える程の実力で、単純な実力であれば足元にも及ばなかった。ただし、ノイトは時間と記憶を魔法として扱う能力があり、ゲデニスにとって相性は非常に悪かった。それだけではなく、ノイトには前世から培ってきた知識と思考力がある。これらがノイトがゲデニスに勝利した理由になっている。
つまり、リュミエは“記憶の魔神”と“虚無の魔神”の相性が良いと思ったのだ。そこでゲデニスがこの場に呼び出された。
[大文字][明朝体]〈...“虚無の魔神”ケノか......。生まれたときから愛を受けずに育ち、それを望んでいた者。自身を縛る愛もなく、組織の人間に誘拐された際も抵抗するという選択肢が思いつかなかったようだな...。〉[/明朝体][/大文字]
魔神の能力は基本的に魔力は使用する。しかし、その魔力が使用後に還元されるのだ。そのため、魔力をこの空間に吸い取られることなく能力を使うことが出来ている。
[大文字][明朝体]〈そして、組織に魔神にされた後...その不気味さから、空っぽ...ケノと呼ばれるようになったのだな。〉[/明朝体][/大文字]
ゲデニスの言葉を聞いてノイトは再び[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に魔力を込め始めた。
「フィルさん。」
「...あ、分かりました!!」
フィルマリーは杖を構えて魔術を唱えた。
[中央寄せ][太字][大文字]上級魔術:[明朝体]〘ᚪᚱᛖᚪ〙[/明朝体][/大文字][/太字][/中央寄せ]
フィルマリーが唱えた魔術によってノイトの足元から周囲の半径1m程の聖域が展開された。
(流石フィルさん...!! 魔力量が桁違いでこの魔術も安定してる...!)
かと言ってフィルマリーの魔力もこの空間に吸い取られている。長くは持たないだろう。ノイトは自身の魔力が[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]に込められているのを感じ、同時にケノが何か仕掛けてこないかと警戒しながら前を見据える。ノイトの魔力のほとんどを込めて魔族であるティフォンの動きを止めることも出来た【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】。それに嵌め込まれた[漢字]魔霊晶[/漢字][ふりがな]アメジスト[/ふりがな]の魔力容量も半端なものではない。当然フィルマリーの魔力が尽きる方が先に来るため、この宝石の最大限の力を引き出すのは、この場所では不可能だろう。
「ノイトさん...そろそろ良いです、か...?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
フィルマリーの魔術が解け、ノイトはケノの方へと近づいていく。リュミエとゲデニスはノイトが何かの準備を整えたことを察し、一歩下がった。
[明朝体]「......おいで。」[/明朝体]
「分かった。今行く。」
ノイトはケノが伸ばした両手の前まで行くと足を止める。ケノの真っ白な長い髪がノイトに絡みつき、ノイトを引き寄せた。
[明朝体]「......温かい...。誰......?」[/明朝体]
「僕はノイト。」
[明朝体]「...ノイト......ソルフォトス...。」[/明朝体]
「そう。ノイトだよ。」
[明朝体]「...ノイト。何して、遊ぶ......?」[/明朝体]
ノイトは警戒心を解いたわけではないが、ケノはノイトのことを覚えて、一緒に遊ぼうとしているようだ。
(あれ、フィルさんのぬいぐるみの方が...いや、使い捨ての駒じゃないんだ。生の温もりもない。僕で良いんだ。)
「ケノは、何して遊びたいの...?」
ケノは少しの間答えなかった。何をして遊ぶか迷っているようだ。
(人形遊びとか言われて僕たちが人形になったりしなければ良いんだけど...。)
[明朝体]「...寒い......。」[/明朝体]
ケノはそう呟いた。ノイトたちも先程からこの場所は肌寒いと感じている。しかしそれは、物理的に感じる寒さではなく、心の寒さだった。目の前に居るのは、虚無を司る魔神。この冷たさと、リトゥス以上の孤独をたった1人で長い間抱え続けていたのだ。そこで温もりを少しでも感じてしまえば、この場所の異常さにも気づくものだろう。
[明朝体]「...寒い...暗い......寒い寒い...暗い...寒い......。」[/明朝体]
ケノの伸ばされた両手はノイトへと伸ばされていて、その手はノイトの背へと回された。
「...ケノ?」
[明朝体]「寒い...暗い......怖い...。」[/明朝体]
ノイトは冷たい感覚に包まれる。1人で抱え込むにはあまりにも冷たすぎるものだったが、ノイトは声1つあげずにケノを抱き返す。ケノはずっとこの孤独を1人で抱え込んできていたのだ。それを実感する程、ノイトの目には同情が宿っていく。
「ずっと...1人でツラかったよね。寒いし、暗いし、怖かったよね...。もう大丈夫だよ。安心して良いから、ね?」
ノイトの警戒心が完全に解け切ろうとしていたが、ケノの髪が彼を押さえ込んでいることは当人も気がついていた。
(分かっていた...。[漢字]同情[/漢字][ふりがな]それ[/ふりがな]は心を喰われる。......でも、どうしてもかっこつけたくなっちゃうんだなぁ、これが。)
ノイトの目の光は揺らぎ、眉根は寄せられるが口元は自然と緩んでしまう。あまりにも静かだったため、ルミナスやリュミエやフィルマリーはノイトの違和感に気がつくのが遅くなった。違和感を感じて声をかけようとした瞬間、背後に目の前に居る少女より少し成長したのような少女が立っていることに気がついた。その少女は口を開く。
[明朝体]「あなたたちには、分からないでしょうね。私の寂しさが。」[/明朝体]
その冷たい響きを持った言葉が吐き捨てられた瞬間、ノイトとケノの姿が遠くへ行き、心の距離も遠くなってしまったように感じられた。ルミナスは振り返ってその少女に話しかける。
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは、私たちの大切な人なんです。あなた1人のものではありません。」[/明朝体][/太字]
[明朝体]「世界にたった1人。だけど、世界のたった1人。ノイト1人が私だけのものになっても、世界は動かないし、いつかそれも忘れちゃう。そうでしょ?」[/明朝体]
一歩踏み出そうとしたフィルマリーをリュミエが止め、代わりにゲデニスが答えた。
[大文字][明朝体]〈そんなことはない。私は彼を覚えている。かつて私たちを封印した人間たちのこともそうだ。記憶が失われない限り、その存在は決して忘れられることはない。そして、その存在が本当の死を迎えることはない。〉[/明朝体][/大文字]
リュミエも続けてケノに反論する。
「そうだよ。人間はいつか死んじゃうし、いつかその時代に生きていた人たちはみんな居なくなって忘れられちゃう。だけど、私たちは違うでしょ!人間よりも長く生きるんだから、大切なもののことを覚えていることくらい出来るでしょ!! ノイトくんはたったの1人かもしれないけど、たった1人の私の大事な人なの!」
フィルマリーも2人に続いた。
「ノイトさんはスゴいんです。私よりもずっと頭が良くて、潜在魔力量も多い...それを、あなたは独り占めしようとしている...。私だって、ノイトさんを自分だけのものにしたいですよ!だけど、一度そうしてしまえばその夢は消えちゃうじゃないですか!! 叶わないからこそ、......叶って欲しいけど、叶って欲しくないものが夢でしょう!憧れを失って、それで良いんですか!!」
ルミナスはノイトから貰った聖剣の柄をぎゅっと握りしめて一歩前に出た。
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは...ノイト様は、私の憧れなんです。かっこいいし優しいし、頭も良いんですよ...。私は、お兄ちゃんの隣に立つために頑張ってきたんです!私の一番好きな居場所を、返してください!!」[/明朝体][/太字]
“虚無の魔神”は各々の思いを受け取ったが、それによって一瞬生まれた[漢字]感情[/漢字][ふりがな]ナニカ[/ふりがな]もすぐに虚無に消えてしまった。
[明朝体]「...知らない。私は、あなたたちと違って与えられなかった側なの。[斜体]恵まれていた側のあなたたちが...ちょっと運が良かっただけあなたたちが![/斜体]...何かを失っただけで一々一々騒がないで。もう、良いでしょう?」[/明朝体]
ケノの言葉はその場に鉛のように重く、冷たく沈んで残った。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
(冷たい...寒い......これをずっと、1人で...。とても耐えきれるものじゃない......僕が半分分けてもらったとしても...これは......。)
ノイトの指先と胸と肩の感覚はもう既になかった。それが熱を奪われたせいか、虚無に飲まれたせいかは分からないが、ノイト自身もこのままでは自分の存在が消えてしまうことを察していた。
(...ぅ......これは、ちょっと..........。)
いくら精神が強いノイトでも流石にキャパオーバーである。内面に満ちた純粋な恐怖と、良くも悪くもそれを隠そうとする癖のせいで気がおかしくなりそうだった。
[明朝体]「温かい......でも、どんどん同じになってく......。」[/明朝体]
「...ケノは、......1人でこんなに......?」
ケノの黒く塗りつぶされた顔は彼女の感情を語らない。そのため、本来ならそれを基に次の手段を選ぶことに慣れてしまっていたノイトは迷う。
[明朝体]「...そうだよ。私はずっと、こうだった。でも、ちょっとだけ...寂しくなくなったよ。ノイトが居るからね。」[/明朝体]
ケノはノイトに依り掛かるようにして体重をかけた。ノイトの熱はさらに虚無に消えていく。凍りついたノイトの瞳がどんどん光を失っていった。
[明朝体]「これからは、ず───────────────っと一緒に居ようねぇ?」[/明朝体]
(......っ、だ......。...誰か.........助け、て...。)
そのときだった。
[水平線]
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〈『[漢字]灼愛射閼召[/漢字][ふりがな]ヤマナイアメ[/ふりがな]』!!〉[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
[水平線]
ノイトを絡め取っていたケノの真っ白な髪が断ち切られ、ノイトが髪から解放される。ケノがその斬撃を躱すために少し離れた場所へ飛び退いたため、ノイトは支えを失ってその場に崩れ落ちた。
[斜体](この技は...!!)[/斜体]
ノイトとケノと、もう1人。その人物は黒いローブを羽織り、銀髪碧眼で顔立ちは整っている。ノイトが持つ【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】と同じ[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製のスティレットを両手に持ち、真っすぐとケノの方を見据えていた。
「...!メル...!!」
「遅くなってゴメンね、ノイトくん。もう大丈夫だから。」
[明朝体]「...寒い......暗い...。」[/明朝体]
メルクは右のスティレットをケノへと向けて名乗りあげた。
「私は、メルク=ミスラーガンド。ノイトくんの仲間。...“虚無の魔神”、あなたにノイトくんは渡さない!」
ノイトは先程失った熱の代わりにじんわりと何か温かいものが自身の胸から湧き出ていることを感じながら、ゆっくりと立ち上がって【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】をしっかりと握った。
[明朝体]「...寒い......暗い......寒い...。」[/明朝体]
「それは、あなたがノイトくんに近づく口実じゃない。今の私なら、正直にノイトくんにこの思いを伝えられるよ?」
「......。僕が知らない曲だね?」
「えへへっ、ヒロインが来て嬉しいでしょ?」
「僕の人生に1人のヒロインを決めつける必要なんかないよ。僕と関わってくれただけで僕は十分嬉しいし、それ以上を求めようとは思わない。でも、わざわざ僕なんかのためにここまで来てくれてありがとう。この世界のたった1人のために、会いに来てくれてありがとう。」
「.........どういたしまして!」
メルクはノイトの言葉を聞いて頬を[漢字]赧[/漢字][ふりがな]あから[/ふりがな]めて微笑んだ。
「当然でしょ!大事な仲間だもんね!!」
「うん!」
武器を構えた2人は目の前に立っている少女と対峙する。少女の黒く塗りつぶされた顔が真っ直ぐと2人に向けられていて、2人を吸い込もうとしているかのようだった。