死にたがりな君と血濡れたナイフ
『いけぇぇぇ!ギガントアタック!!おりゃぁぁぁあぁッッッ!!』
『勇者様が魔王を倒したわ!』
『勇者様!勇者様!ばんざーい!!』
『皆、大げさだよ....はは』
[水平線]
翔太はここまで書くと、パソコンの電源静かにを落とした。
三浦翔太(みうらしょうた)27歳。
東京のとある1LDKのアパートで1人暮らしをしている。職業が最近流行りの異世界なろう系の物語を執筆している小説家だ。が、三浦の両親はすでに他界。友達も彼女もおらず、職業が職業ということもあってか三浦は1日中パソコンに向かって作業をしていた。
「俺、何処で道外したんだろな」
誰もいないアパートの一室でぽつり、と呟く。
辺りを見渡すと、執筆中の小説のキャラデザや設定が書かれた資料や、カップラーメンの空の容器が散乱していた。中にはカップラーメンの汁がこぼれ、インクの文字が滲んだまま放置された黄色い紙もあった。
高校までは普通だったのにな。敷かれたレールをあらかじめ用意されたトロッコで悠々自適に走っているだけで良かったのに。高校を出て社会人になった瞬間、レールもトロッコも消えちまいやがった。ブレーキもアクセルも、トロッコを操作するレバーも未だ見つからないまま何も変わらない毎日が淡々と過ぎていく。書いた小説は一向に伸びず、家賃は滞納されていくばかり。作品への愛も日に日に薄れていく。三浦翔太は生きる理由が無かった。毎日を無気力に過ごすうちにいつしか翔太の心の中には「死にたい」という気持ちが翔太の心身を支配するようになっていった。
もし、今死んだら?悲しんでくれる人は勿論いないだろうな。だけどもしかしたら...今書いている小説みたいに異世界転生できちゃったりして。神様からチート能力を付与されたりして。少女漫画に出てきそうな可愛いエルフの子が俺に告白........今、試すか。
ひとしきり妄想をした後、翔太は立ち上がると、ふらふらと玄関前に向かった。玄関前にはいくつかの段ボールがあった。その中の一つの段ボールを開けると中には大量の抗不安薬が。
[下線]OD(オーバードーズ)[/下線]
医療薬を過剰に接種する行為。薬の副作用により体に様々な害を及ぼす。最悪の場合死に至るケースもある。
翔太は抗不安薬を持ったまま台所で水を汲んだ。透き通った綺麗な色が徐々にコップの中身を満たしていく。窓辺近くのソファに腰掛けるとコップの中身を見つめた。水面が月夜の灯りに照らされて丸い円を描く。触れたら吸い込まれそうなほどの美しい丸。数秒じっと見た後、翔太は思い出したかのようにPTPシートを押し込む。ぷち、と音を立てて中から楕円の錠剤が出てきた。それを飲もうとした、その時だった_____
コップの水面が人影をうつした。翔太よりも小柄で、黒い服を身にまとった人。翔太は吃驚して慌てて後ろを振り向くが、何もいなかった。
気のせいか、と安心した直後だった。ガシャンと翔太の後ろで鈍い音がする。
窓ガラスが割れた。そう理解するのに3秒かかった。
後ろを再び振り返ると、謎の人物の顔を見るよりも早く黒いビニール袋を被らされ、手首を掴まれた挙げ句四肢を固定された。耳鳴りがひどい。一気に視界と聴力と呼吸の自由を奪われ、恐怖と息苦しさで胃液が込み上げてくる。それらと必死に戦いながら、翔太は尋ねた。
「だ....れ..だ?」
返事は無かった。代わりに手首を掴まれる力が強くなる。あまりの痛さに翔太は呻いた。辛うじて動く首を必死にめちゃくちゃに振る。それが今自分ができる最大の抵抗だった。自分が首を振る動きに合わせ、ビニール袋がガサガサと音を立てる。だが、そんな突発的な行動が功を奏したのか、カサリ、という音とともにビニール袋が床に落ちた。呼吸が楽になり、視界が人物を捉える。そこにいたのは_____
未だ翔太の四肢を固定したまま、口にナイフを咥えてこちらを冷ややかに見下ろす...........女の子だった。
『勇者様が魔王を倒したわ!』
『勇者様!勇者様!ばんざーい!!』
『皆、大げさだよ....はは』
[水平線]
翔太はここまで書くと、パソコンの電源静かにを落とした。
三浦翔太(みうらしょうた)27歳。
東京のとある1LDKのアパートで1人暮らしをしている。職業が最近流行りの異世界なろう系の物語を執筆している小説家だ。が、三浦の両親はすでに他界。友達も彼女もおらず、職業が職業ということもあってか三浦は1日中パソコンに向かって作業をしていた。
「俺、何処で道外したんだろな」
誰もいないアパートの一室でぽつり、と呟く。
辺りを見渡すと、執筆中の小説のキャラデザや設定が書かれた資料や、カップラーメンの空の容器が散乱していた。中にはカップラーメンの汁がこぼれ、インクの文字が滲んだまま放置された黄色い紙もあった。
高校までは普通だったのにな。敷かれたレールをあらかじめ用意されたトロッコで悠々自適に走っているだけで良かったのに。高校を出て社会人になった瞬間、レールもトロッコも消えちまいやがった。ブレーキもアクセルも、トロッコを操作するレバーも未だ見つからないまま何も変わらない毎日が淡々と過ぎていく。書いた小説は一向に伸びず、家賃は滞納されていくばかり。作品への愛も日に日に薄れていく。三浦翔太は生きる理由が無かった。毎日を無気力に過ごすうちにいつしか翔太の心の中には「死にたい」という気持ちが翔太の心身を支配するようになっていった。
もし、今死んだら?悲しんでくれる人は勿論いないだろうな。だけどもしかしたら...今書いている小説みたいに異世界転生できちゃったりして。神様からチート能力を付与されたりして。少女漫画に出てきそうな可愛いエルフの子が俺に告白........今、試すか。
ひとしきり妄想をした後、翔太は立ち上がると、ふらふらと玄関前に向かった。玄関前にはいくつかの段ボールがあった。その中の一つの段ボールを開けると中には大量の抗不安薬が。
[下線]OD(オーバードーズ)[/下線]
医療薬を過剰に接種する行為。薬の副作用により体に様々な害を及ぼす。最悪の場合死に至るケースもある。
翔太は抗不安薬を持ったまま台所で水を汲んだ。透き通った綺麗な色が徐々にコップの中身を満たしていく。窓辺近くのソファに腰掛けるとコップの中身を見つめた。水面が月夜の灯りに照らされて丸い円を描く。触れたら吸い込まれそうなほどの美しい丸。数秒じっと見た後、翔太は思い出したかのようにPTPシートを押し込む。ぷち、と音を立てて中から楕円の錠剤が出てきた。それを飲もうとした、その時だった_____
コップの水面が人影をうつした。翔太よりも小柄で、黒い服を身にまとった人。翔太は吃驚して慌てて後ろを振り向くが、何もいなかった。
気のせいか、と安心した直後だった。ガシャンと翔太の後ろで鈍い音がする。
窓ガラスが割れた。そう理解するのに3秒かかった。
後ろを再び振り返ると、謎の人物の顔を見るよりも早く黒いビニール袋を被らされ、手首を掴まれた挙げ句四肢を固定された。耳鳴りがひどい。一気に視界と聴力と呼吸の自由を奪われ、恐怖と息苦しさで胃液が込み上げてくる。それらと必死に戦いながら、翔太は尋ねた。
「だ....れ..だ?」
返事は無かった。代わりに手首を掴まれる力が強くなる。あまりの痛さに翔太は呻いた。辛うじて動く首を必死にめちゃくちゃに振る。それが今自分ができる最大の抵抗だった。自分が首を振る動きに合わせ、ビニール袋がガサガサと音を立てる。だが、そんな突発的な行動が功を奏したのか、カサリ、という音とともにビニール袋が床に落ちた。呼吸が楽になり、視界が人物を捉える。そこにいたのは_____
未だ翔太の四肢を固定したまま、口にナイフを咥えてこちらを冷ややかに見下ろす...........女の子だった。
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