悪ノ怪様によろしく【Lier's world】
『ガツン』と、鈍く重い金属の音がした。
[太字]______とは言っても、その音は自分からのもの、鉄パイプを人体にぶつけた音だったのだが。[/太字]
ただ、説明するとしても簡単な話だ。
[太字]今日もまた、沸点が無駄に低いような間抜け面を干物にしてきただけ。[/太字]
金を返せと問い詰めただけで逆上してくるような頭のネジを締めていない輩には正当防衛くらい成立するんやから。
昭和の習わしのように、不具合を起こしたテレビを叩いて直したのと同じようなものだ。
[太字].........でも本当に、それだけ。[/太字]
ただ、別に人から金を巻き上げてまで金が欲しいと思うほど貧乏神に取り憑かれた人間ではなかったし、
かと言って、何かと話題になっているような[漢字]私人逮捕系の類い[/漢字][ふりがな]ヒーローきどり[/ふりがな]に憧れたわけでもない。
だからって借金取りなんて随分中途半端なところを選んだのは、死ぬのが怖いとか思ってる自分がいたせいなのだが。
[太字]こう思う間でも、[漢字]針[/漢字][ふりがな]じかん[/ふりがな]は無情に回り続ける。[/太字]
[太字]『[漢字]大切な人[/漢字][ふりがな]あのひと[/ふりがな]』に宛もなく縋って生きているくらいなら、いっそ俺は機械的な人間で生まれたかった。[/太字]
[太字]............こんな苦しい世界、俺は大嫌いや。[/太字]
それくらいやったらない方がずっと楽や。
あぁ、むしゃくしゃする。
[漢字]湿気[/漢字][ふりがな]しけ[/ふりがな]た空間でハネ切った自分のボサボサ頭を搔いた。
「.........いつになったら戻ってくんねやろ」
「もう、諦めた方がええんかな」
「こんな悪あがきするくらいやったら........」
この絡まった毛糸のような想いは、喉に刺さった骨のように引っかかって取れない。
月明かりでさえ隠してしまうほど分厚い雲に覆われた、その日の空を見上げた。
脳内を染める[漢字]絶望[/漢字][ふりがな]虚無[/ふりがな]には全く見合わない、孤独な白の灯りだけが瞳を[漢字]輝[/漢字][ふりがな]て[/ふりがな]らした。
息を吐き出す。
吸っていたセブンスターの薄暗い煙がふわりと俺の元から飛んでいく。
辺りに充満していく煙のような霧はタバコの煙と混じっていき、大気に溶けることなく地を揺蕩っている。
それはどこかひんやりとしていて、地を這い足元を漂っていた。
地縛霊が足元を掴んできている気がした。
不機嫌そうな新緑の蛸の目は、霧のフィルター越しに広がる外景を不機嫌に睨め上げたのだった。