翌朝、7時に設定したアラームの音で目が覚める。

半分寝ぼけながら、夏美はトーストにサラダといった簡易的な食事をお茶といっしょに流し込んだ。

「行ってきます。」

と誰もいなくなった家に向かって小さく呟いた。

夏美家の朝は早い。

お母さんとお父さんは朝早くから仕事に出かけてしまう。だから平日の朝ご飯は夏美がすべて自分で作るのだ。

朝から大変だね、と友達に言われる事がたまにあるが実はそこまででもない。

面倒くさければ朝ご飯は食べずに学校に来れるし、何より両親がいないため朝の数十分間は夏美だけの自由時間なのだから。

その数十分の自由時間を着替えと透子にどう謝ればよいのかと考える時間に注ぎ込んだ彼女は急ぎ足で学校へと向かった。

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クラスに入ると、透子はまだ来ていなかった。

早く謝りたい、と急かす気持ちをなんとか抑えながら透子が来る時間を待った。

数十分後、透子が教室の中に入ってきた。そこまでは良かったが、隣には楽しそうに透子に向かって微笑む藤岡がいた。

二人の姿を見て無性に苛立った。

これは私の嫉妬心、この気持ちは醜い部分。表に出してはいけないの。

私の中にある理性が必死に妬ましさを抑え込む。

でも、でも……

嫉妬する事って悪いことなの？

いや今はそんな事いい、一刻も早く謝りたかった。透子のもとに歩いていく。急かす気持ちが私の足をどんどん早めた。

「透子っ！」

「え、……おはよう」

藤岡の顔はなるべく見ないよう努めながら声をかけた。
数秒の沈黙の後、挨拶をされる。

「おはよう………ってそんなことはどうでも良くて！」

ぶんぶんと頭を左右に振り、真っ直ぐに透子を見つめる。

「昨日は本当にごめんなさい！」

謝罪と同時に下を向く。

遠くでざわ、ざわと声がした

えーっ何？　喧嘩したんじゃね？　

後ろから感じるクラスメイトからの視線、視線、視線、視線。

自分は今好奇の目に晒されてるというのは雰囲気でわかった。

私は透子からの言葉をただ、ただ待った。

「いつまでそうしてるの。」

上から言葉が落ちてくる。

「私こそ、変な、紛らわしい言い方してごめんね。ほら、顔上げて」

その言葉に、顔をくしゃっと歪める。

鼻がツンとする感覚があった。

薄っすらと涙を浮かべながら私は思わず、透子に抱きついた。

ごめん、ごめんねと壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返しながら、私は抱きしめる力を一層強めた。

その後、別の友達から何かあったの？と凄く聞かれた。

思い返すと、大勢のクラスメイト前で涙を浮かべながら抱きしめたという事実が恥ずかしくなり、私は顔を赤らめた。

「いやぁ..ちょっと喧嘩しちゃって」

「そうなの？でもあんな皆の前で謝らなくても良かったんじゃない？」

思わず苦笑する友達を見て、少し行き過ぎた行動を取ってしまったことを恥じた。

「でも良かったね。仲直り出来たんでしょ？」

その言葉に大きく頷いた。

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「あーあ、つまんないの。」

透子と仲直り出来たことに嬉しくて舞い上がっていた私は、その言葉に気づくことはなかった。