教室へ上がるとすでに荷物を置いて友達と談笑している彼女が見えた。数日しかたっていないのにもう打ち解けてる……。凄いな、と言う気持ちと同時に黒いモヤが心を埋め尽くした。黒いモヤが私のカラダを蝕むようにゆっくりと、しかし確実に。朝から嫌な気持ちになったなと思いながら荷物を置く。席へ座ると同時にチャイムが鳴った。
[水平線]
藤岡は完璧だった。先生が与えた課題を一番にこなして、余った時間で周りの席の子に分からないところを教えていた。国語や理科などの主要教科から美術、音楽などの副教科、さらには私が苦手な数学まで。日がたつにつれ、藤岡の周りには自然と人が集まるようになっていった。その人の中には、藤岡の事をあまりよく思っていなかった透子や他の女子までいた。
その日の帰り道、私は透子に愚痴った。
「ねえ透子、最近藤岡さんとよく一緒にいるよね。嫌いだったんじゃないの？」
「あ～。いや、最初はあんまり好きじゃなかったんだけどさ、勉強教えて貰ううちに仲良くなって。」
ほら、私藤岡さんと席近いじゃん？と何処か嬉しそうに言う透子といつかの修一の姿が重なって見えた。
このまま透子も[漢字]藤岡[/漢字][ふりがな]アイツ[/ふりがな]にとられちゃうの？それだけは絶対嫌……！！
「何言ってんの…。前まで嫌いって言ってたじゃん。ウソつき」
「だからそれは今さっk「そうやって修一も透子も藤岡の所に行っちゃうんだ。」
「は、夏美どうしたの？修一君とケンカでもしちゃったの？私が話聞こうか？」
私の機嫌が悪くなっても親身になって話を聞いてくれようとする透子の優しさに心が痛くなる。
「ごめん、私用事あったの思いだした。透子、本当にごめん。もう行くね。」
あ、ちょっと！と私を呼び止める透子の声に後ろ髪を引かれながらも私は走って家に帰った。
憎い、憎い、憎い、憎い。それ以上にアイツが怖い。悔しい。目の前に白いモヤがかかって視界がぼやける。こんなにもアイツが憎いのに。藤岡よりも圧倒的に負けている自分を認めたくない。自分が負けていると認めるという事は、私がっ…私がっ…………。ツ、と涙が頬を伝い、視界のモヤが一層広がる。自分が嫉妬をしている。分かっているのに認めたくなかった。認めてしまえば自分の醜い部分を覗くことになってしまうから。しょっぱい涙と一緒に嗚咽が漏れた。