皇岸街の商店街にある、コロッケ屋の前に一人の少年がいる。
先程、万引き犯を捕らえた[漢字]東雲有琉[/漢字][ふりがな]しののめある[/ふりがな]だ。
有琉は作りたてのコロッケを口を開けて頬張る。その白い頬を膨らませながらコロッケを食べていると、

「お、有琉じゃんか」

そう有琉の名前を呼んだのは綺麗な黒髪をウルフカットにした少女＿＿＿＿[漢字]茜弥生[/漢字][ふりがな]あかねやよい[/ふりがな]だ。
弥生はコロッケを食べている有琉の肩を叩くと、

弥生「朝っぱらからコロッケとかすご、普通に考えてキツくね？」

有琉「そうか？俺は大丈夫だけど」

弥生「うん、聞いた僕がバカだったわ」

二人はそう会話しながら、自分たちが通う高校＿＿＿＿『黎明高校』に向かっていた。


『黎明高校』の体育館。
この高校の校舎は過去にいた生徒たちによって、落書きなどで随分荒れているが唯一体育館だけが綺麗な状態で保たれていた。
そしてそこに集まった、『黎明高校』の新たな生徒たち。
ほとんどの生徒が同じ制服を着ているが、なんせ不良校。面倒な校則なんてないため、何人かの生徒は自由な服を着ていた。
その新入生たちはざわざわと騒いでいたが、ステージ上からのﾊﾟﾝﾊﾟﾝという拍手の音で一斉に前を向き、静かに姿勢を正した。
新入生の視線が集まるステージ上＿＿＿＿＿そこには小柄な少年がいた。薄いベージュの髪を三つ編みにしている、『黎明高校』の男子用制服である学ランにパーカーを着た少年だ。その少年は生気が乏しい、簡単に言うと死んでいる目で新入生を見回すと、

《えー･･･新入生の皆さん、『黎明高校』入学おめでとうございます。在校生代表としてこの入学式の進行役を務めさせていただく、[漢字]香代梛[/漢字][ふりがな]かしろなぎ[/ふりがな]です。まず初めに、この学校は僕たちが住む皇岸街を守るための学校です。”弱きを助け、悪意を挫く”＿＿＿＿この学校を変えた時の総代の言葉です。この『黎明高校』の一員になったのならばこの言葉に恥じない、立派な生徒になってほしいというのが在校生一同の願いです》

そう言いながら梛はそこでまた新入生を見回し、

梛《この学校の総代は新しく入ってくる新入生たちの中から僕たち3年がふさわしいと思った人を選んでいます。そして今年の総代となった人がこの場にてどのような話をされるのかを毎年楽しみにしてるんです。ということで、新総代である東雲有琉さん、よろしくお願いしまーす》

そう言った梛の表情は、言っていた通り本当に楽しげだった。