寄せ集め短編集
#1
愛らしい紅葉
どこまでも高く青く澄んだ秋空。
紅葉や楓は、紅く色付き始めていた。
風の悪戯で散った、一枚の葉を拾い上げる。
紅葉の葉だった。
乱暴に千切られた痕がある。
子供の好奇心だろう。
そう思い、葉を捨てようとした。
しかし、それが小さな手に見えた。
それはかつての姉のようで、気分が悪くなる。
彼女も、こんな歪な形の手をしていた。
いや、私がそうしてしまった。
目を閉じると、風の音だけが聞こえる。
想像させる情景は、あの日を彷彿とさせた。
姉と私は双子だった。
至って健康で、普通の子だった。
異変に気付いたのは確か、四つの頃。
明日に誕生日を控えたその夜。
姉は、体が痛むのだと、泣き叫んだ。
その叫びは、あまりにも痛々しく、幼い私の恐怖心は酷く煽られた。
両親は私を祖母へ預けると、姉を病院へと連れて行った。
姉は病気を患っていた。
成長に痛みが伴う病気だと言っていた。
毎日のように注射を打たれ、一時的に成長を止める。
ただ、それも気休めにしかならなかった。
根本的な問題は、当時の医療ではどうする事も出来なかったからだ。
対して、私は普通の子のように学校にも通った。
放課後には、姉の病室で他愛も無い事を話していた。
どんなに下らない話でも、姉が笑ってくれさえすれば、それだけでよかった。
状況が変わったのは、高学年に上がった頃だったか。
姉の事を原因に、陰口が増えた。
友達は減り、自分の立場は無くなった。
両親にいじめを伝えても、あしらわれるばかりだった。
それから、姉の見舞いに行く事を辞めた。
私は、姉が邪魔だった。
姉が辛いと泣けば、両親は私に目もくれない。
気付けば家に一人の生活だった。
溜まった洗濯物も、放置された食器も。
見る度、虚しさで胸が埋め尽くされる。
幼いながらに絞り出した考え。
幼さが仇を為してしまい、行き過ぎた。
私は、姉を殺めてしまった。
何度も何度も何度も。
トンカチで殴った所為か、手は歪に変形していた。
深夜、両親が寝静まったのを確認して病院に侵入した時の緊張感。
息を引き取ったのを知った直後の満足感。
私は何事も無かったように家に帰った。
ベッドに潜り込んで眠った早朝。
鳴り響くコール音。
両親のヒステリックな声。
彼らが事を知ったと、理解するには十分だった。
姉の葬儀が終わると、両親は途端に態度を変えた。
その異様な雰囲気を肌で感じながらも、私は初め、嬉しかった。
嬉々として帰宅したその日。
両親の言葉に、私は恐怖した。
私がいるとも露知らず、私を金を稼ぐ道具にしよう、だとか、いつ捨てようか、だとか。
壁に隠れて息を潜めていた。
息は荒く、バレやしないかという不安に襲われた。
ただ、死ぬよりはマシだと思った。
私はわざとらしく足音を立てて、今帰ってきたかのように見せかけた。
両親は私の策に引っ掛かり、穏やかな夜を過ごした。
そして、また、やってしまった。
事が済んで直ぐに私は家を飛び出した。
外の空気は冷んやりとしていた。
私は足を進めた。
どこか、遠い場所へと。
握り締めた手は赤黒く、鉄の匂いがする。
彼女は戻ってこない。
両親も、永遠に。
私自身が、その道を断ってしまった。
私は紅葉を持っていた右手を広げる。
そこには、紅葉のように可愛らしい手があった。
紅葉や楓は、紅く色付き始めていた。
風の悪戯で散った、一枚の葉を拾い上げる。
紅葉の葉だった。
乱暴に千切られた痕がある。
子供の好奇心だろう。
そう思い、葉を捨てようとした。
しかし、それが小さな手に見えた。
それはかつての姉のようで、気分が悪くなる。
彼女も、こんな歪な形の手をしていた。
いや、私がそうしてしまった。
目を閉じると、風の音だけが聞こえる。
想像させる情景は、あの日を彷彿とさせた。
姉と私は双子だった。
至って健康で、普通の子だった。
異変に気付いたのは確か、四つの頃。
明日に誕生日を控えたその夜。
姉は、体が痛むのだと、泣き叫んだ。
その叫びは、あまりにも痛々しく、幼い私の恐怖心は酷く煽られた。
両親は私を祖母へ預けると、姉を病院へと連れて行った。
姉は病気を患っていた。
成長に痛みが伴う病気だと言っていた。
毎日のように注射を打たれ、一時的に成長を止める。
ただ、それも気休めにしかならなかった。
根本的な問題は、当時の医療ではどうする事も出来なかったからだ。
対して、私は普通の子のように学校にも通った。
放課後には、姉の病室で他愛も無い事を話していた。
どんなに下らない話でも、姉が笑ってくれさえすれば、それだけでよかった。
状況が変わったのは、高学年に上がった頃だったか。
姉の事を原因に、陰口が増えた。
友達は減り、自分の立場は無くなった。
両親にいじめを伝えても、あしらわれるばかりだった。
それから、姉の見舞いに行く事を辞めた。
私は、姉が邪魔だった。
姉が辛いと泣けば、両親は私に目もくれない。
気付けば家に一人の生活だった。
溜まった洗濯物も、放置された食器も。
見る度、虚しさで胸が埋め尽くされる。
幼いながらに絞り出した考え。
幼さが仇を為してしまい、行き過ぎた。
私は、姉を殺めてしまった。
何度も何度も何度も。
トンカチで殴った所為か、手は歪に変形していた。
深夜、両親が寝静まったのを確認して病院に侵入した時の緊張感。
息を引き取ったのを知った直後の満足感。
私は何事も無かったように家に帰った。
ベッドに潜り込んで眠った早朝。
鳴り響くコール音。
両親のヒステリックな声。
彼らが事を知ったと、理解するには十分だった。
姉の葬儀が終わると、両親は途端に態度を変えた。
その異様な雰囲気を肌で感じながらも、私は初め、嬉しかった。
嬉々として帰宅したその日。
両親の言葉に、私は恐怖した。
私がいるとも露知らず、私を金を稼ぐ道具にしよう、だとか、いつ捨てようか、だとか。
壁に隠れて息を潜めていた。
息は荒く、バレやしないかという不安に襲われた。
ただ、死ぬよりはマシだと思った。
私はわざとらしく足音を立てて、今帰ってきたかのように見せかけた。
両親は私の策に引っ掛かり、穏やかな夜を過ごした。
そして、また、やってしまった。
事が済んで直ぐに私は家を飛び出した。
外の空気は冷んやりとしていた。
私は足を進めた。
どこか、遠い場所へと。
握り締めた手は赤黒く、鉄の匂いがする。
彼女は戻ってこない。
両親も、永遠に。
私自身が、その道を断ってしまった。
私は紅葉を持っていた右手を広げる。
そこには、紅葉のように可愛らしい手があった。
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