二次創作
霊感体質少女の受難
___森の匂いがした。
ぼんやりと霞んで使い物にならない視界の変わりに、スンっと鼻で空気を吸い込んだ。
樹皮や木の芽、落ち葉の湿った匂いがする。都会では味わえない濃厚な森の匂い。
はて、なぜこんな匂いがする場所に私はいるのだろう?
「おっ栗子ちゃん起きた」
上から聞き覚えのある声が降ってきた。
このソンビィアイドルのプロデューサーみたいな声は………ああ、そうだ。祠のきつねさんだ。
それに気付くと一気に霞んでいた視界がクリアになって、背中と膝裏に手が回れて抱き抱えられている体勢……いわゆるお姫様抱っこされている状態だと気付いた。
「……きつねさん、ここ何処?」
「ここは俺ら稲荷崎の狐の森。まぁ俺らの家の前ってとこやな」
「……?じゃあなんできつねさんの家の前に私がいるの?」
「もうすぐ栗子ちゃんの家になるからやな」
あー、おkおk。誘拐ね、家から誘拐されてあの川を渡って連れ去られた系ね。
なるほど。つまり私はきつねさんのご飯だと。いなり寿司で満足してくれなかったかー…………遺言書書いておけばよかった。
あゝごめんねお母さん、お父さん、久遠。
めちゃくちゃめんどくさい事に巻き込まれて、先立つ親不をお許しください。
これ、前も言った気がする。
そんな現実逃避をしながら動く範囲で首を動かす。
薄暗い闇夜を照らす橙色の怪しい炎が灯った灯籠と、紅の鳥居がどこまでも続いている。
先が見えない。後ろも延々と続く鳥居の中にどこまでも水を打ったような静寂が広がっている。それが余計に私の中の不安をかき立てた。
千本鳥居の中をよく知らない人に抱っこされながら進むなんて怖くない方がおかしいのだ。
「きつねさん、私の家はここじゃないよ。おばあちゃん家に帰らせて」
「ここが栗子ちゃんの家やで」
「違うよ。私の家は愛知だよ」
「違わん、ここが栗子ちゃんの家や」
「違う」
「違わん。なんも違わんで栗子ちゃん。栗子ちゃんの家はここやで」
違う、違わんの押し問答。
違うよ。
私の家は愛知の都市部にあって、最寄駅から15分のマンションの4階。近所の××××幼稚園に通っていて、いつもお母さんが送り迎えをしてくれる。双子の兄が居て、仲がいいんだよ。
第一、私の名前は栗子なんかじゃない。
私の本当の名前は、
「栗子ちゃんの本当の名前は?」
私の本当の名前は、
名前は、名前は……………………そうだ、言っちゃいけないんだ。
「言っちゃいけない、怪異に名前を教えちゃダメだ」
そうだ。きつねさん、怪異だった。名前は教えちゃダメだ。
魂を握られる。
思い出してきた………きつねさんの祠にお参りにいって、境界線を越えて彼岸に渡りかけたかど何とか帰還して、疲れて寝てたら垣根越しに久遠に話しかけられたと思ったら声真似したきつねさんで、ちょっと話しておばあちゃんの助けを求めようとしたところで意識が途絶えた。
なるほど、その時に連れ去られた感じか。
怪異に連れ去られたら戻ってくることはほぼない。大体はカニバリズム的な意味でパックリいかれ、いかなかったら別の意味で食べられて輿入れさせられている。
戻ってくるのは怪異が対象者に飽きたときか、気に食わなくて殺して死体となった場合。
ほとんどは死体になって戻ってくるので私の生還は期待できない。………うん、やっぱ遺書用意するんだった。
「きつねさん………いや、怪異さん。私、家に戻らないといけないの。みんな心配してる」
「なんや、術解けてしもうたか」
絶対零度の声。冷たい冷たい、感情なんて存在しない。死にかけの虫に向かって「まだ生きてたんだ」というような温度が感じられない声。
なのに次に聞こえて来る声は優しくて同じ声のはずなのに全く別の怪異にすり替わったような気がした。
「でももうええよ、もうすぐ森抜けて家につくからなぁ」
よくないよくない、良くない!
家ってことは完全にこの怪異の領域だ。領域を持てる怪異は力が強いものだけで、領域は主である怪異に“都合がいい”ように出来ている。
入ったら終わり、デッドエンド。
ああ、どうしよう。逃げ出さないと。
手始めに手足をばたつかせてみるが落ちるどころかぶれる気配無し。素晴らしい体幹をお持ちでなようで……。(半ギレ)
どうしよう、どうしよう。
領域に入ったら面白半分で死ぬまで飼い殺しか、喰われるか。
どっちにしろ私には不都合だ。なんとか逃げ出さないと、結局私はバッドエンド。
他人がどうなろうと別にいいけど、それはダメだ。
あー、なんとかこの状況を打破できる秘策的なものが無いかなー………。
ぼんやりと霞んで使い物にならない視界の変わりに、スンっと鼻で空気を吸い込んだ。
樹皮や木の芽、落ち葉の湿った匂いがする。都会では味わえない濃厚な森の匂い。
はて、なぜこんな匂いがする場所に私はいるのだろう?
「おっ栗子ちゃん起きた」
上から聞き覚えのある声が降ってきた。
このソンビィアイドルのプロデューサーみたいな声は………ああ、そうだ。祠のきつねさんだ。
それに気付くと一気に霞んでいた視界がクリアになって、背中と膝裏に手が回れて抱き抱えられている体勢……いわゆるお姫様抱っこされている状態だと気付いた。
「……きつねさん、ここ何処?」
「ここは俺ら稲荷崎の狐の森。まぁ俺らの家の前ってとこやな」
「……?じゃあなんできつねさんの家の前に私がいるの?」
「もうすぐ栗子ちゃんの家になるからやな」
あー、おkおk。誘拐ね、家から誘拐されてあの川を渡って連れ去られた系ね。
なるほど。つまり私はきつねさんのご飯だと。いなり寿司で満足してくれなかったかー…………遺言書書いておけばよかった。
あゝごめんねお母さん、お父さん、久遠。
めちゃくちゃめんどくさい事に巻き込まれて、先立つ親不をお許しください。
これ、前も言った気がする。
そんな現実逃避をしながら動く範囲で首を動かす。
薄暗い闇夜を照らす橙色の怪しい炎が灯った灯籠と、紅の鳥居がどこまでも続いている。
先が見えない。後ろも延々と続く鳥居の中にどこまでも水を打ったような静寂が広がっている。それが余計に私の中の不安をかき立てた。
千本鳥居の中をよく知らない人に抱っこされながら進むなんて怖くない方がおかしいのだ。
「きつねさん、私の家はここじゃないよ。おばあちゃん家に帰らせて」
「ここが栗子ちゃんの家やで」
「違うよ。私の家は愛知だよ」
「違わん、ここが栗子ちゃんの家や」
「違う」
「違わん。なんも違わんで栗子ちゃん。栗子ちゃんの家はここやで」
違う、違わんの押し問答。
違うよ。
私の家は愛知の都市部にあって、最寄駅から15分のマンションの4階。近所の××××幼稚園に通っていて、いつもお母さんが送り迎えをしてくれる。双子の兄が居て、仲がいいんだよ。
第一、私の名前は栗子なんかじゃない。
私の本当の名前は、
「栗子ちゃんの本当の名前は?」
私の本当の名前は、
名前は、名前は……………………そうだ、言っちゃいけないんだ。
「言っちゃいけない、怪異に名前を教えちゃダメだ」
そうだ。きつねさん、怪異だった。名前は教えちゃダメだ。
魂を握られる。
思い出してきた………きつねさんの祠にお参りにいって、境界線を越えて彼岸に渡りかけたかど何とか帰還して、疲れて寝てたら垣根越しに久遠に話しかけられたと思ったら声真似したきつねさんで、ちょっと話しておばあちゃんの助けを求めようとしたところで意識が途絶えた。
なるほど、その時に連れ去られた感じか。
怪異に連れ去られたら戻ってくることはほぼない。大体はカニバリズム的な意味でパックリいかれ、いかなかったら別の意味で食べられて輿入れさせられている。
戻ってくるのは怪異が対象者に飽きたときか、気に食わなくて殺して死体となった場合。
ほとんどは死体になって戻ってくるので私の生還は期待できない。………うん、やっぱ遺書用意するんだった。
「きつねさん………いや、怪異さん。私、家に戻らないといけないの。みんな心配してる」
「なんや、術解けてしもうたか」
絶対零度の声。冷たい冷たい、感情なんて存在しない。死にかけの虫に向かって「まだ生きてたんだ」というような温度が感じられない声。
なのに次に聞こえて来る声は優しくて同じ声のはずなのに全く別の怪異にすり替わったような気がした。
「でももうええよ、もうすぐ森抜けて家につくからなぁ」
よくないよくない、良くない!
家ってことは完全にこの怪異の領域だ。領域を持てる怪異は力が強いものだけで、領域は主である怪異に“都合がいい”ように出来ている。
入ったら終わり、デッドエンド。
ああ、どうしよう。逃げ出さないと。
手始めに手足をばたつかせてみるが落ちるどころかぶれる気配無し。素晴らしい体幹をお持ちでなようで……。(半ギレ)
どうしよう、どうしよう。
領域に入ったら面白半分で死ぬまで飼い殺しか、喰われるか。
どっちにしろ私には不都合だ。なんとか逃げ出さないと、結局私はバッドエンド。
他人がどうなろうと別にいいけど、それはダメだ。
あー、なんとかこの状況を打破できる秘策的なものが無いかなー………。