二次創作
霊感体質少女の受難
___昔、魔女だったのよー。
ふと、イマジナリーおばあちゃんが顔をだした。
たしか去年のお酒の席で酔いながら言っていた言葉だ。
顔を真っ赤にしてベロベロに酔っ払っていたおばあちゃんのオカルトめいた言葉に親戚の誰も耳を傾けることはなかった。だけど、見える私はなんとなく聞いていた。
___ウチの話を聞いてくれるのせっちゃんだけやわ。みんな聞いてくれへんからぁーせっちゃんだけ特別に、魔法の言葉教えちゃおー
そう言っておばあちゃんは私に魔法の言葉を教えて、お酒のお替わりを取りに行った時にこけてそれで足を悪くしたんだ。
足が悪くなった理由を思い出したら信心深い関西弁おばあちゃんのイメージが崩れていく。
まぁそれは置いといて、秘策っぽいの一個出来てしまった………いや、いやいやいや……………でも、あれおまじないみたいなもんでしょ?
怪異に本当に通用するかなんて分からない。
だけど、何もしないで死ぬよりも、おまじないでも何でも唱えて最後まで抵抗して死んだ方がまし。
覚悟は決まった。
おばあちゃんの言う通りに後必要な根性と、少々の苛烈さを込めて言葉を紡ぐ。
「【燃ゆる血、燃ゆる血。我が弱さを諸刃の剣を持って断ち切り給え】」
最初はバチっと、静電気みたいな音がしただけ。
訝しげに見つめるきつねさんが次の瞬間、きつねさんの腕が炎に包まれた。青い炎が舐めるようにきつねさんの腕を這う。
たまらずきつねさんは私を落とし、私は地面をごろごろと転がり落ちた。
「あぁっ、あ、ぁあああああああああ、ああぁぁぁあああああああ!!!!!」
耳を塞ぎたくなるような咆哮がもり木霊す。でも、私は走り出した。
まだここは領域じゃない。まだ、まだ逃げれる、家に帰れる。久遠に会える。
紅の千本鳥居を潜り、敷かれた石畳を滑る。
足をぐねらせて転んだ。それがどうした?まだ動ける、走れる。私は家に帰らないと、みんな待ってる。それに、おばあちゃんに色々聞かないといけない。
はやく、はやく。鎖を引き千切った犬のように勢いよく走るった。
幾億幾千もの鳥居を潜った気がした。数える余裕もないまま、流れる景色を他人事のように眺めて棒のようになった両足を無理やり動かす。
そしていつぞやの川の近くまでやってきた。
向こうには空になったタッパーが置かれた祠が見えた。間違いない、私と久遠がお参りに行って怪異に目を付けられた場所だ。
後ろからドスドスと鈍い足音と草木を掻き分ける音が迫っている。はやく、この川を乗り越えておばあちゃん家に戻らないと。
既に足の筋肉は死にかけで、わずかでも動かすと体のあちこちが悲鳴をあげて「これ以上動くな」と訴えてくる。だけど、私は早く帰らないと。アレに捕まったら死ぬって、繋くんが言ってた。
死ぬのは怖い。
前世も無理やり気丈夫に振る舞っていたけど、だんだん冷たくなって音と視界が塞がれていく感覚より恐ろしいものはなかった。
私は、死ぬのは嫌だ。ましてや、誰かに殺されるなんて絶対に嫌だ。
だから、だからだから!!アイツに捕まりたくない。私は家に帰って、久遠や家族にただいまって言わないといけない。その一心で川まで進む。
そして、川の丸い石で滑って足がもつれた。まずい、走りまくって体力がないからここで転んだら起き上がれない。
川を超えただけだからすぐに捕まえられる。しかもおばあちゃんの魔法で手を燃やしたから絶対気が立っているから、捕まったら殺される………。
倒れるな、バランスを崩すな。そう願っても視界は大きく揺れて、体の左側に衝撃を感じた。
後ろから足音が聞こえる。あーヤバい死ぬ。
「何でこないなところに子供がおるん?」
………?
あの金髪の怪異じゃない、なんというか気品を感じる声だ。人間?うっすら目を開けて声の主を確認する。
先っぽだけ黒い銀髪、時代錯誤的な黒の狩衣。そして____
「……きつねさん?」
「おん。そこの祠で祀られてる狐やな」
黄金色の耳と尾。
あはは、つまり怪異ってことね。終わったぁ……やっぱり遺書書くんだった。
時間稼ぎと現実逃避にこのきつねさんの質問に答えることにした。
「金色のきつねさんに連れて来させられて、逃げ出してきました」
「金色のきつね………侑か。だからあない騒いどるんか」
わ一瞬で伝わるってことはこの怪異さん顔が広いのか…………やっぱろ死ぬじゃん。遺書書くんだった。
じっと強すぎる眼力で見下ろされてちょっとびびったけど、この怪異さんの雰囲気がしっかりしててプレッシャーと同時にいい意味での緊張感を感じた。なんか精神的に背中を叩かれた気がする。
よっこいしょっと、両手で地面を押して立ちあがろうとするがぷるぷると情けなく震えるだけで特に立ち上がる気配はなし。
立てると思ったんだけどなぁ。
大将っぽい人にも見つかったし、金色のきつねさんもあと少ししたらつくだろう。万事休す、これにて私の人生は終わり。
2週目だと思って舞い上がったけど案外呆気なかった。
まぐれだろうけど魔法も使えたのにこれで終わり。そっか、これで終わりなんだ……。
終わるなら、最後なら、家族と話したかった。
何でもいい他愛もない馬鹿馬鹿しいほどになんにもない話をしてから、ちゃんと別れたかった。
「家族と話してちゃんと別れたら、こっちに戻ってくるんか?」
「えっ?戻りませんけど……」
「???」
お互いによくわかりません、という顔で首を傾げる。
いや、だって殺されに戻ってくる人って中々いませんよ?私、親友を人質にしたメロスじゃないし。
それをメロスの下りを省いて伝えたら、衝撃の事実を伝えられた。
「侑は自分を喰いたいんやない。嫁にしたいや」
エ°?????今ナンテ?????
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