隠さないで
「シャオさんって、絶対に顔見せないっすよね」
深夜の情報室。
[太字]ロボロ[/太字]が常駐するこの部屋で[太字]ショッピ[/太字]はそう問いかけた。
「なんや、急に。用がないなら帰れ」
ずっとパソコンの画面から目を話さなかったロボロはやっと顔を上げてショッピの顔を見た。
ロボロは呆れたように促すが、ショッピは気にせず続ける。
「ロボロさんってシャオさんのマブダチなんでしょ?顔見たことないんですか」
そう問いかけるとロボロは天と書かれた布の奥で、顔をしかめた。
「それが、ないねん」
「はぁ???」
「いや、こっちもずっと顔見せろ見せろいうとんのに、あいつ、全く聞かんねん。なんなら、顔の話題に移ろうとすると、さらっと話そらすし」
シャオロンの顔を隠すことへの徹底ぶりは凄まじかった。
まず、シャオロンが面を外していることを誰も見たことがない。
幹部と書記長、総統で食べる、朝食と夕食も、彼は臨席しているだけで、何も口にせず、別に分けてもらったご飯を持ち帰り部屋で食べる。
風呂などもってのほか。
グルッペンはそこの事情を知っているようだが何もこぼさない。
彼が酒に弱いことはとうにわかっているのだが、その時も片時も面を外さない。
酔っているときを見計らって聞き出そうとするのだが、訪ねた瞬間にふと彼はしんと静まり、酔いが冷めてしまう。
そうなるともう聞き出せない。
かれこれ10年以上それを繰り返しているロボロはふっと溜息をついた。
「あいつはもう、だめや」
いつもふんわりと軽く幹部の間を飛び回り、喧嘩があれば仲介し、部下の悩みや相談を聞き、一度戦争となれば数十キロはあるだろうシャベルを軽々と振り回し、前線を切り開いていく。
シャオロンのように強く、人望が厚く、信頼されて慕われている幹部もあまりいないだろうに。
彼の面が、己と彼との心の距離を表しているように思える。
「・・・奇襲とか?無理やり取ったりすればいいんやないんですか?」
「もうなんっかいも試したけど。あいつ人の気配に敏感すぎやねん。少し近づいただけで、「よっ、ロボロ」って声かけてくる。なんなん、バケモンか」
「ゾムさんとか、そういうの得意なんじゃないすか」
「ゾムもだめや・・・奇襲かけにいくたびに仕返しされて帰ってくる。部屋にいるときもだめや。のぞこうにもダクトには罠、窓にはカーテンとマジックミラー。というかそれができてたらアイツの顔は今割れてるわ」
「それもそうっすね」
だが、ショッピはどうしても彼の顔を暴いてやりたかった。
ショッピが幹部になって、コネシマの次に話しかけ、寄り添ってくれたのはシャオロンだった。
自分が任務に失敗して自責にかられているときも、一般兵に悪口を言われて落ち込んでいるときも。
自分はポーカーフェイスで、顔に感情が出にくいはずなのに、一番最初に気付いてくれる。
「どしたん、話聞こか?」
って太陽のように明るく、声をかけてくれるシャオロンに何度救われたか。
シャオロンがいなければ今頃、ショッピはこの軍にいなかっただろう。
だからこそ、彼の弱みを吐き出してほしい。
彼は人には「頼れ頼れ」というくせに、頼ってくれない。
彼の顔がいくら醜くても、無惨な傷跡があっても、そのコンプレックスを吐き出してほしいだけなのだ。
頼ってほしい。
そんな思いにかられてショッピはわざわざ今ロボロの目の前にいる。
ロボロは普段、天と書かれた布を下げているが、ときどきはずしているし、そこまで徹底していない。
そもそもロボロが布を外したのは、過去のコンプレックスをシャオロンに吐き出し、解決してもらったのがはじまりだった。
どこか似通った彼なら、と期待したのも一瞬。
また振り出しに戻ってしまった。
「はあぁぁぁぁ…」
うつむき、盛大なため息を漏らしたショッピを、ロボロは布の奥のマゼンダピンクの目で見た。
「あんな、ショッピくん。もし、本当にあいつの顔暴きたいなら──」
ロボロがすっと目を細める。
「ずっとシャオロンに張り付いて無理やり情報聞き出すしかないと思うで」
「ですよね…」
ショッピは2回目のため息を漏らした。
[水平線]
──次の日。
ショッピはシャオロンの部屋の前にいた。
昨日のロボロの言葉が蘇るも、元気は全く出ない。
というか出るはずがない。
シャオロンもショッピも非番なのを見計らって今日来たのだが、ノックする勇気が全くない。
どうしよう、と絶望にくれていた最中。
「あれ、ショッピやん。どーしたん、シャオさんの部屋の前で」
脳天気な声が聞こえた瞬間、ショッピは声の主を捕まえた。
肩を掴んで前後に揺らす。
「どうしよう、[太字]チーノ[/太字]!!!!!勇気が全然出えへん!!!!!」
はあ???と謎の事態に巻き込まれたチーノはショッピのせいで目が回った。
[水平線]
「んで。シャオさんの面をどうにか取りたいと」
「そうやねん。お前やって気にならん?」
ここはチーノの部屋。
半狂乱のショッピをチーノがここまで引っ張り、話を聞いたのである。
「そりゃ、そうやろ。仮にも俺の教育係してくれた人やで?なのに、一切顔見せへんもん」
「だから、もう直接聞こうおもてんねん。ロボロさんによると、10年張り付いて得られた情報は、なんかしらかのトラウマがある、だけや」
「じゃあもうだめやん。10年にまさる情報聞き出せんてぇーーーー!」
「いや、でも、シャオさんは後輩に弱いから」
そう。シャオロンは後輩という存在に弱いのである。
以前、鬱先生が連呼し、本人が嫌がっている「シャオちゃん」呼びを、シャオロンは後輩にはOKしてくれたほどに。
(チーノとショッピが「シャオさん、シャオちゃんって読んでいいすか?」と嫌がらせ本位で問いかけたところ、「ん?全然ええよ」と返ってきたので大先生がその日1日中メンヘラだった)
「あー…。たしかにそうやけど」
「なら、ええやん。やろうぜ、チーノ!」
「は!?なんで俺が付き合わないけんの??」
よし、行くぞチーノ!と引っ張られるチーノがその日目撃されたとか。
深夜の情報室。
[太字]ロボロ[/太字]が常駐するこの部屋で[太字]ショッピ[/太字]はそう問いかけた。
「なんや、急に。用がないなら帰れ」
ずっとパソコンの画面から目を話さなかったロボロはやっと顔を上げてショッピの顔を見た。
ロボロは呆れたように促すが、ショッピは気にせず続ける。
「ロボロさんってシャオさんのマブダチなんでしょ?顔見たことないんですか」
そう問いかけるとロボロは天と書かれた布の奥で、顔をしかめた。
「それが、ないねん」
「はぁ???」
「いや、こっちもずっと顔見せろ見せろいうとんのに、あいつ、全く聞かんねん。なんなら、顔の話題に移ろうとすると、さらっと話そらすし」
シャオロンの顔を隠すことへの徹底ぶりは凄まじかった。
まず、シャオロンが面を外していることを誰も見たことがない。
幹部と書記長、総統で食べる、朝食と夕食も、彼は臨席しているだけで、何も口にせず、別に分けてもらったご飯を持ち帰り部屋で食べる。
風呂などもってのほか。
グルッペンはそこの事情を知っているようだが何もこぼさない。
彼が酒に弱いことはとうにわかっているのだが、その時も片時も面を外さない。
酔っているときを見計らって聞き出そうとするのだが、訪ねた瞬間にふと彼はしんと静まり、酔いが冷めてしまう。
そうなるともう聞き出せない。
かれこれ10年以上それを繰り返しているロボロはふっと溜息をついた。
「あいつはもう、だめや」
いつもふんわりと軽く幹部の間を飛び回り、喧嘩があれば仲介し、部下の悩みや相談を聞き、一度戦争となれば数十キロはあるだろうシャベルを軽々と振り回し、前線を切り開いていく。
シャオロンのように強く、人望が厚く、信頼されて慕われている幹部もあまりいないだろうに。
彼の面が、己と彼との心の距離を表しているように思える。
「・・・奇襲とか?無理やり取ったりすればいいんやないんですか?」
「もうなんっかいも試したけど。あいつ人の気配に敏感すぎやねん。少し近づいただけで、「よっ、ロボロ」って声かけてくる。なんなん、バケモンか」
「ゾムさんとか、そういうの得意なんじゃないすか」
「ゾムもだめや・・・奇襲かけにいくたびに仕返しされて帰ってくる。部屋にいるときもだめや。のぞこうにもダクトには罠、窓にはカーテンとマジックミラー。というかそれができてたらアイツの顔は今割れてるわ」
「それもそうっすね」
だが、ショッピはどうしても彼の顔を暴いてやりたかった。
ショッピが幹部になって、コネシマの次に話しかけ、寄り添ってくれたのはシャオロンだった。
自分が任務に失敗して自責にかられているときも、一般兵に悪口を言われて落ち込んでいるときも。
自分はポーカーフェイスで、顔に感情が出にくいはずなのに、一番最初に気付いてくれる。
「どしたん、話聞こか?」
って太陽のように明るく、声をかけてくれるシャオロンに何度救われたか。
シャオロンがいなければ今頃、ショッピはこの軍にいなかっただろう。
だからこそ、彼の弱みを吐き出してほしい。
彼は人には「頼れ頼れ」というくせに、頼ってくれない。
彼の顔がいくら醜くても、無惨な傷跡があっても、そのコンプレックスを吐き出してほしいだけなのだ。
頼ってほしい。
そんな思いにかられてショッピはわざわざ今ロボロの目の前にいる。
ロボロは普段、天と書かれた布を下げているが、ときどきはずしているし、そこまで徹底していない。
そもそもロボロが布を外したのは、過去のコンプレックスをシャオロンに吐き出し、解決してもらったのがはじまりだった。
どこか似通った彼なら、と期待したのも一瞬。
また振り出しに戻ってしまった。
「はあぁぁぁぁ…」
うつむき、盛大なため息を漏らしたショッピを、ロボロは布の奥のマゼンダピンクの目で見た。
「あんな、ショッピくん。もし、本当にあいつの顔暴きたいなら──」
ロボロがすっと目を細める。
「ずっとシャオロンに張り付いて無理やり情報聞き出すしかないと思うで」
「ですよね…」
ショッピは2回目のため息を漏らした。
[水平線]
──次の日。
ショッピはシャオロンの部屋の前にいた。
昨日のロボロの言葉が蘇るも、元気は全く出ない。
というか出るはずがない。
シャオロンもショッピも非番なのを見計らって今日来たのだが、ノックする勇気が全くない。
どうしよう、と絶望にくれていた最中。
「あれ、ショッピやん。どーしたん、シャオさんの部屋の前で」
脳天気な声が聞こえた瞬間、ショッピは声の主を捕まえた。
肩を掴んで前後に揺らす。
「どうしよう、[太字]チーノ[/太字]!!!!!勇気が全然出えへん!!!!!」
はあ???と謎の事態に巻き込まれたチーノはショッピのせいで目が回った。
[水平線]
「んで。シャオさんの面をどうにか取りたいと」
「そうやねん。お前やって気にならん?」
ここはチーノの部屋。
半狂乱のショッピをチーノがここまで引っ張り、話を聞いたのである。
「そりゃ、そうやろ。仮にも俺の教育係してくれた人やで?なのに、一切顔見せへんもん」
「だから、もう直接聞こうおもてんねん。ロボロさんによると、10年張り付いて得られた情報は、なんかしらかのトラウマがある、だけや」
「じゃあもうだめやん。10年にまさる情報聞き出せんてぇーーーー!」
「いや、でも、シャオさんは後輩に弱いから」
そう。シャオロンは後輩という存在に弱いのである。
以前、鬱先生が連呼し、本人が嫌がっている「シャオちゃん」呼びを、シャオロンは後輩にはOKしてくれたほどに。
(チーノとショッピが「シャオさん、シャオちゃんって読んでいいすか?」と嫌がらせ本位で問いかけたところ、「ん?全然ええよ」と返ってきたので大先生がその日1日中メンヘラだった)
「あー…。たしかにそうやけど」
「なら、ええやん。やろうぜ、チーノ!」
「は!?なんで俺が付き合わないけんの??」
よし、行くぞチーノ!と引っ張られるチーノがその日目撃されたとか。
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