窓が大きな音を立てながら割れる。
瑠璃に抱きかかえられた楓は自分の視界に映る景色に、思わず瑠璃の首に回している腕を離しそうになった。
＿＿＿＿＿4階の窓から外に出たのだ。とてつもなく高い。

瑠璃「おっと、手は離さないでくださいね。離されたら守れなくなります」

瑠璃のその言葉が聞こえ、顔を上げると気色悪い生物と目が合った。
巨大な、[漢字]蠅[/漢字][ふりがな]はえ[/ふりがな]のような生物だ。その生物は耳障りな羽音を立てながら、楓を見つめている。蠅の赤色の大きな目には間抜けな顔をしている楓が映っているのが見えた。

楓「あ…ああ……！」

瑠璃「おや、大きい蠅ですねー」

＿＿＿＿”大きいとかのレベル超えてるでしょ‼️‼️”＿＿＿＿

心の中で瑠璃にそう叫びながら楓は目の前の蠅から目を逸らしたその瞬間＿＿＿＿＿蠅が内側から爆ぜた。
紫色の血液らしきものが重力に従い、地面に落ちていく。
目の前の光景に楓が見開いている間に、瑠璃は壁に靴裏をつけ＿＿＿＿＿＿＿＿

楓「キャアアアアアアア!!!!!!!」

校舎の壁を走り始めたのだ。
本来なら、地球の重力に従い落ちるはずなのに、どういう原理なのか、絶対的法則に逆らっている。

楓「先生っ!?これってどういう仕組みで…!??」

瑠璃「私の術式である”絶対的規則”によるものです。というかそういうことが聞きたいのならあとでいくらでも教えて差し上げますから」

壁を走りながら瑠璃はそう言う。楓はそんな彼の顔を見ながら、少し悩んで、

楓「あの、先生。咲原さんから教えてもらったんですが、変な男の人が学園にいるらしいんです」

瑠璃「男？不審者ですか？」

楓「はい、黒髪の、先生とよく似た人らしいんですけど」

楓がそこまでの情報を瑠璃に言った瞬間、瑠璃の顔から一切の表情が消えた。まるで、西洋人形のような、美しくも恐怖を覚えるような雰囲気だ。
だが、すぐにそれも消え、眉間に皺を寄せながら、

瑠璃「その男は、何と言っていたのですか？」

楓「えっと……”鬼神と剣狼を連れてこい”みたいなことを…」

瑠璃「……[小文字]あいつ、生き返っていたのか[/小文字]…………ﾁｯ」

小さくなにかを呟いたあと、舌打ちをした。
普段の、物腰の丁寧な瑠璃からは考えられないようなことだ。楓は目を見開きながら瑠璃は見上げる。

瑠璃「………少しだけ、取り乱しました。もう着きますよ」