「良かったら私たちの演奏を聴いてくれる？」
と、友人から声をかけられたのは、つい数分前の話。どうやら吹奏楽部に所属する彼女、は新しい曲を作ったらしい。それで仲間と演奏するそうだ。今は放課後。やることも特になかった帰宅部の僕は、一曲だけ付き合うことにした。
（オーケストラかな…？僕、あんまり詳しくないんだよなぁ…）
なんて思いながら、ゆっくりと用意された席に座る。そんな憂鬱な思いは、すぐにかき消された。
一気に美しい音色が飛んで来る。三拍子のワルツのような旋律。生き生きと演奏する彼女たち。一瞬で僕の心は奪われた。
（オーケストラってこんなに凄いんだ…）
なんどか同じようなリズムが奏でられる。それが妙に耳に残った。

タンッタンッタンッ、タ〜タ〜タ〜、タンッタンッタンッ…

演奏が終わってからも、そのリズムは耳から離れなかった。
「…どうだったかな？」
彼女が不安そうに聞いてくる。僕はまだ感動を覚えながら、
「とっても良い演奏だったよ」
と、答えた。なぜか彼女は寂しそうに微笑む。
「…そっか。ありがとう、付き合ってくれて。じゃあ私達はもうちょっと練習するから、もう帰っても大丈夫だよ」
「あぁ、じゃあまた明日」
「…バイバイ」
ゆっくりと席を立つと、夕日に目を細めながらも僕は家に向かった。あのリズムを、口ずさみながら。

タンッタンッタンッ、タ〜タ〜タ〜、タンッタンッタンッ…


























〈解説〉
みなさんはモールス信号をご存知だろうか？長い音と短い音を組み合わせて文字を表すあれである。
"彼女"が作曲した曲には、なんどか"タンッタンッタンッ、タ〜タ〜タ〜、タンッタンッタンッ"というリズムが登場していた。これをモールス信号に当てはめると…"SOS"というメッセージが。これは偶然なのだろうか…？