歪みの中の城
コンッコンッコンッ
重い空気の中、扉がノックされた。
「失礼します」
茶色いモダンデザインのキッチンカートをカラカラと押して入ってきたメゾ。
キッチンカートの上にはティーカップとポット、クッキーが乗っている。
「え、空気重くないか、この部屋」
メゾは2人の異様な空気を察した。
「ああ、すまないね。お茶にしよう。メゾが淹れてくれた紅茶は絶品なんだ」
ティーポットから注がれる琥珀色の紅茶。
とても良い香りがする。
「どうぞ」
「頂きます」
程よい苦味とどこか甘みが感じられる。
お昼から何も食べていなかったピアノの体に、その紅茶は染み渡るようだった。
「美味しい……」
「それは良かった。さあ、クッキーも召し上がれ。それはメゾの手作りなんだ」
お花の型抜きがされ、中心部には赤色のジャムが乗ったクッキー。
それを一口齧ると、フォルテシモが言った通り美味しかった。
この可愛らしくて美味しいクッキーを、あのメゾが作っただなんて、信じられないとでも言わんばかりのピアノ。
「メゾも来たとこですし、話題を変えましょうか。何か私たちに聞きたいことはありますか?」
ピアノは家にある小包を確認しにいかなくてよいのか、と思いながらも質問を考えた。
「そうですね……、では何故私をここへ呼んでくれたんですか?断る時もできたのに」
「興味本位、かな?」
「興味本位?」
「ときたま自然発生する歪みに迷い込んでしまう人がいんだよ。君みたいにね、ピアノ」
「あっ……」
ピアノは自分だけではないことに妙に納得した。
「それで、私たちはそんな迷い人を助けているのだけれど、大抵の人は“家に帰りたい”と懇願するのに対して、ピアノだけが私たちの元へ行きたいと言った。だからここへ連れてきた。それだけだよ」
「ちなみに迷い人を探すのは俺の役目だ」
静かに話を聞いていたメゾは横から口を出した。
「……」
その話を聞いて、ピアノには1つの疑問が生まれた。
今の話が本当なのであれば、噂は嘘と言うことになる。
歪みの中に入ったものは2度と出てこれない、と言われているから。
「不思議そうな顔をしているね」
「ええ、噂と大分違ったものだから……」
「おそらくショック状態で歪みに入った記憶がない、もしくは入った自覚がないものがいるのだろう」
噂の内容を説明しなくても瞬時に理解したフォルテシモ。
どうやら歪みの国でも地上の噂話が広がっているようだ。
「じゃあ、主に絆されたとか喰われたって噂は……」
「残念ながら私は人間だ。ただ、ちょっとだけ歪みを扱えるだけで。だから人間を食べたりはしないよ」
それを証拠付けるように、テーブルにはティーカップに注がれた紅茶と、数種類のクッキーが置かれている。
しかし、それでは現に戻ってきていない人がいる噂と矛盾する。
フォルテシモが嘘を吐いているのか、はたまた行方不明者は別件で姿を消したのか。
ピアノにはそれを確かめる術はなかった。
今はただ、フォルテシモの言葉を信じるしかない。
「まあ、思い当たる節があるとすれば……。いや、憶測でこれを言うのは止めておこう」
「?」
フォルテシモは意味深なことを言いかけた。
「さて、話もそこそこに、そろそろピアノの家へ向かおうか」
2人はソファから立ち上がった。
重い空気の中、扉がノックされた。
「失礼します」
茶色いモダンデザインのキッチンカートをカラカラと押して入ってきたメゾ。
キッチンカートの上にはティーカップとポット、クッキーが乗っている。
「え、空気重くないか、この部屋」
メゾは2人の異様な空気を察した。
「ああ、すまないね。お茶にしよう。メゾが淹れてくれた紅茶は絶品なんだ」
ティーポットから注がれる琥珀色の紅茶。
とても良い香りがする。
「どうぞ」
「頂きます」
程よい苦味とどこか甘みが感じられる。
お昼から何も食べていなかったピアノの体に、その紅茶は染み渡るようだった。
「美味しい……」
「それは良かった。さあ、クッキーも召し上がれ。それはメゾの手作りなんだ」
お花の型抜きがされ、中心部には赤色のジャムが乗ったクッキー。
それを一口齧ると、フォルテシモが言った通り美味しかった。
この可愛らしくて美味しいクッキーを、あのメゾが作っただなんて、信じられないとでも言わんばかりのピアノ。
「メゾも来たとこですし、話題を変えましょうか。何か私たちに聞きたいことはありますか?」
ピアノは家にある小包を確認しにいかなくてよいのか、と思いながらも質問を考えた。
「そうですね……、では何故私をここへ呼んでくれたんですか?断る時もできたのに」
「興味本位、かな?」
「興味本位?」
「ときたま自然発生する歪みに迷い込んでしまう人がいんだよ。君みたいにね、ピアノ」
「あっ……」
ピアノは自分だけではないことに妙に納得した。
「それで、私たちはそんな迷い人を助けているのだけれど、大抵の人は“家に帰りたい”と懇願するのに対して、ピアノだけが私たちの元へ行きたいと言った。だからここへ連れてきた。それだけだよ」
「ちなみに迷い人を探すのは俺の役目だ」
静かに話を聞いていたメゾは横から口を出した。
「……」
その話を聞いて、ピアノには1つの疑問が生まれた。
今の話が本当なのであれば、噂は嘘と言うことになる。
歪みの中に入ったものは2度と出てこれない、と言われているから。
「不思議そうな顔をしているね」
「ええ、噂と大分違ったものだから……」
「おそらくショック状態で歪みに入った記憶がない、もしくは入った自覚がないものがいるのだろう」
噂の内容を説明しなくても瞬時に理解したフォルテシモ。
どうやら歪みの国でも地上の噂話が広がっているようだ。
「じゃあ、主に絆されたとか喰われたって噂は……」
「残念ながら私は人間だ。ただ、ちょっとだけ歪みを扱えるだけで。だから人間を食べたりはしないよ」
それを証拠付けるように、テーブルにはティーカップに注がれた紅茶と、数種類のクッキーが置かれている。
しかし、それでは現に戻ってきていない人がいる噂と矛盾する。
フォルテシモが嘘を吐いているのか、はたまた行方不明者は別件で姿を消したのか。
ピアノにはそれを確かめる術はなかった。
今はただ、フォルテシモの言葉を信じるしかない。
「まあ、思い当たる節があるとすれば……。いや、憶測でこれを言うのは止めておこう」
「?」
フォルテシモは意味深なことを言いかけた。
「さて、話もそこそこに、そろそろピアノの家へ向かおうか」
2人はソファから立ち上がった。
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