歪みの中の城
時間にすれば物の数秒。
たったそれだけしか目を瞑っていなかったけれど、ピアノは目を開かざる終えなかった。
壁にもたれ掛かっていたはずのピアノの上半身が後ろに倒れ始めたからだ。
この感覚には身に覚えがある。
そう、追われていた時に壁に寄りかかったときと同じ感覚。
このまま倒れたら上半身だけ歪みの中に入り、下半身は取り残されてしまう。
いや、この城が既に歪みの中なのであれば、地上に出ることになる?
そんな悠長なことを考えている場合ではないのに、ピアノは何故かそんなことが気になった。
ひとまず腕を前に伸ばし、だらしない腹筋で上体を起こそうと試みた。
「う〜んっ!」
しかし、上がるどころかゆっくりと倒れていく。
頭は既に歪みの中。
先程までいた真っ暗闇。
そうなると、この城は地上と言うことになるのだろうか。
ピアノの腹筋が限界を迎えそうになった、そんなとき、誰かに腕を引っ張られた。
無事に歪みから抜け出してほどなくしてから、歪みは閉じた。
「た、助かった〜」
「何やってんの、アンタ」
呆れた男性の声。
ピアノはこの声に聞き覚えがあった。
そう、真っ暗闇の歪みの中で話しかけてきてくれた声。
顔を上げて声の持ち主を確認すると、ピアノと同じくらいの年頃の少年だった。
短髪の黒髪、どこか幼さを感じさせる顔立ち、黒を基調とした貴族を連想させるような服装だった。
「アナタがこの城の主様?」
自画像には似てもに使わない風貌だったけれど、あの絵が先代の可能性もあるため、ピアノは念の為に聞いた。
「俺が?まさか。主はとても凄い方だ」
「……」
こんなにも態度が大きいのに違うのか、と思うピアノだった。
「何ぼさっとしている。主の元へ行くんだろ?早く立て」
仮にも客人に対してこの対応。
ピアノはいかがなものかと思ったけれど歪みの中、そして先程も助けられたこともあって、強く出れずにいた。
ここは大人しく従うしかない。
少年はピアノが立ち上がるのを確認すると、スタスタと歩み始めた。
「ねえ!アナタのお名前は?私は──」
「聞いた。ピアノだろ?」
少年は振り返るどころか足も止めずに淡々と答えた。
素っ気ない態度だけれど、ピアノですら名乗ったことを忘れていたのに、覚えていてくれたことに喜びを感じた。
「あ、うん。本当はピアニシモって言うんだけど、気軽にピアノって呼んでね!」
「……メゾだ」
「メゾ?」
「メゾ・ヴィーデ。俺の名前」
「メゾ君ね!」
「フンッ。好きに呼べ」
無事に自己紹介を終えたところで、とある扉の前でメゾの足は止まった。
他の扉とは違った装飾が施されている。
メゾは扉を軽くノックした。
「フォルテシモさん。客人を連れてきました」
フォルテシモ……。
それがこの城の主の名前だろうか。
部屋の中から「入れ」と男性の声が聞こえてきた。
開かれた扉の先にはクリーム色の髪に整った顔立ちの男性が窓の外を眺めていた。
服装は体にフィットする薄紫色のチャイナ服のような詰め襟を着ている。そういう服が似合う。
間違いない。
自画像に描かれていた彼、そのものだった。
男性は視線を窓の外からピアノたちの方へと向けると、
「やあ、我がスタッカート城へようこそ。私がこの城の主、フォルテシモ・スフォルツァンドだ」
フォルテシモはにっこりと笑いながら両手を広げた。
たったそれだけしか目を瞑っていなかったけれど、ピアノは目を開かざる終えなかった。
壁にもたれ掛かっていたはずのピアノの上半身が後ろに倒れ始めたからだ。
この感覚には身に覚えがある。
そう、追われていた時に壁に寄りかかったときと同じ感覚。
このまま倒れたら上半身だけ歪みの中に入り、下半身は取り残されてしまう。
いや、この城が既に歪みの中なのであれば、地上に出ることになる?
そんな悠長なことを考えている場合ではないのに、ピアノは何故かそんなことが気になった。
ひとまず腕を前に伸ばし、だらしない腹筋で上体を起こそうと試みた。
「う〜んっ!」
しかし、上がるどころかゆっくりと倒れていく。
頭は既に歪みの中。
先程までいた真っ暗闇。
そうなると、この城は地上と言うことになるのだろうか。
ピアノの腹筋が限界を迎えそうになった、そんなとき、誰かに腕を引っ張られた。
無事に歪みから抜け出してほどなくしてから、歪みは閉じた。
「た、助かった〜」
「何やってんの、アンタ」
呆れた男性の声。
ピアノはこの声に聞き覚えがあった。
そう、真っ暗闇の歪みの中で話しかけてきてくれた声。
顔を上げて声の持ち主を確認すると、ピアノと同じくらいの年頃の少年だった。
短髪の黒髪、どこか幼さを感じさせる顔立ち、黒を基調とした貴族を連想させるような服装だった。
「アナタがこの城の主様?」
自画像には似てもに使わない風貌だったけれど、あの絵が先代の可能性もあるため、ピアノは念の為に聞いた。
「俺が?まさか。主はとても凄い方だ」
「……」
こんなにも態度が大きいのに違うのか、と思うピアノだった。
「何ぼさっとしている。主の元へ行くんだろ?早く立て」
仮にも客人に対してこの対応。
ピアノはいかがなものかと思ったけれど歪みの中、そして先程も助けられたこともあって、強く出れずにいた。
ここは大人しく従うしかない。
少年はピアノが立ち上がるのを確認すると、スタスタと歩み始めた。
「ねえ!アナタのお名前は?私は──」
「聞いた。ピアノだろ?」
少年は振り返るどころか足も止めずに淡々と答えた。
素っ気ない態度だけれど、ピアノですら名乗ったことを忘れていたのに、覚えていてくれたことに喜びを感じた。
「あ、うん。本当はピアニシモって言うんだけど、気軽にピアノって呼んでね!」
「……メゾだ」
「メゾ?」
「メゾ・ヴィーデ。俺の名前」
「メゾ君ね!」
「フンッ。好きに呼べ」
無事に自己紹介を終えたところで、とある扉の前でメゾの足は止まった。
他の扉とは違った装飾が施されている。
メゾは扉を軽くノックした。
「フォルテシモさん。客人を連れてきました」
フォルテシモ……。
それがこの城の主の名前だろうか。
部屋の中から「入れ」と男性の声が聞こえてきた。
開かれた扉の先にはクリーム色の髪に整った顔立ちの男性が窓の外を眺めていた。
服装は体にフィットする薄紫色のチャイナ服のような詰め襟を着ている。そういう服が似合う。
間違いない。
自画像に描かれていた彼、そのものだった。
男性は視線を窓の外からピアノたちの方へと向けると、
「やあ、我がスタッカート城へようこそ。私がこの城の主、フォルテシモ・スフォルツァンドだ」
フォルテシモはにっこりと笑いながら両手を広げた。
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