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歪みの中の城

#6


次に目を開けると、ピアノは草原に立っていた。
青空が見える。
ここは地上なのだろうか、それともまだ歪みの中なのだろうか。


「あれは……」


周りを見渡すと、遠くの方に建物が見えた。


「あそこへ向かえってことかな?」


他に気になるものは見えず、ピアノはその建物へ目掛けて歩き始めた。


「それにしても、どうせならもっと近くの場所まで連れていきなさいよ」


いくら田舎暮らしで足腰が鍛えられているとはいえ、今日はすでに隣町までの長い道のりを歩いた挙句、見知らぬ人物との追いかけっこ、そこそこ足を酷使している。

しかし、文句を言っても仕方がないわけで、ピアノは黙々と足を動かすのであった。

一歩、また一歩と近づくにつれ気が付いたことがある。
初めは遠くからで分からなかったけれど、目的地の建物はまるでお城のようだった。

それこそ歪みの中にお城があると言う噂通りの建物。
ピアノは少し楽しみになった。

……。

…………。


「はぁ……はぁ……やっと着いた」


黒塗りの先が尖った鋭利な鉄柵に囲われたお城。
中には見たこともない木や花が綺麗に植わっていた。

その鉄柵の扉を軽く押すと、あっさりと開いた。

剪定された庭を通り抜けると現れた大きなレンガ造りの白いお城。
チャイムなどは見当たらず、ドアノッカーを数回トントンと叩いた。
こんな大きなお城なのに、この程度の音が聞こえるのだろうか。

心配も他所に、扉はギギギィと軋ませるような音を立ててゆっくりと開いた。


「入ってこいってことよね?」


おそるおそるお城へ足を踏み入れる。

扉が開いたと言うことは誰かが開けてくれたと言うこと。
しかし、その人物は見当たらなかった。
これも魔法か何かの類だろうか。
本来なら驚くべきことだが、今日一日不思議なことが起こりっぱなしのピアノにとっては些細なことだった。

お城の中は広々とした玄関ホールに複数体並べられた鎧がお出迎えしてくれた。


「悪趣味……動いたりしないよね?」


鎧を警戒しながらその先にある螺旋階段を登っていく。

登りきったところに大きな自画像が飾ってあった。
クリーム色の長い前髪で目元が隠れていて顔はよく分からないけれど、筋の通った鼻立ちに男性らしい薄い唇。
それだけで整った顔立ちなのが伝わってきた。

彼がこの城の主だろうか。

それにしても……。


「疲れた」


なんとなく階段を上がったは良いけれど、扉は多いし廊下は長い。
どこへ向かえばいいのか分からず、疲れ切っていたピアノは壁にもたれ掛かるように座り込んだ。


「少しだけ……少しだけ、休憩したら起き上がるから」


そう自分に言い聞かせて目を閉じた。

このボタンは廃止予定です

2024/10/17 00:57

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