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歪みの中の城

#5


ここはどこ……。
何も見えない、何も聞こえない真っ暗闇。
夜の暗さなんて比ではない。

試しに両手を体の前に出してみたものの、ぼんやりとも映らなかった。

足はちゃんと地に着いているのだろうか。
なんだかふわふわした感じ。

だけども、下手に動いて万が一この先が崖のような奈落になっていたら。
そう考えると動けずにいた。

ひとまず状況整理から始めようにも、なぜここにいるのか心当たりがない。

必死に何者かの追跡から逃れようと入り組んだ道へ進み、そして行き止まりにぶち当たった。
壁を叩いてもからくり扉なんて、当たり前だけれど無く、途方に暮れた。
そんなとき、壁に手をついていたはずなのに前のめりになる感覚がした。
まるで壁に吸い込まれるような。

そして、気が付いたらここにいた。

そう言えばこんな噂を耳にしたことがある。

ピアノは噂話の内容を思い出した。

時空と時空の狭間に出来た歪み。
その中にはお城があると言われている。
一度入ったものは二度と出てこれない。
城の主に絆されたのか、はたまた喰われたのか。
その真実は誰も知らない。

城どころか自分の姿すら見えないけれど、ここが例の歪みの中なのか。


「おーいっ!」


ピアノは何となく大声を出した。

反射するものがないのか、声は闇へと消えていった。
だけど声は出る。耳も聞こえる。何より酸素がある。

歪みの中に入った者は出られないと言われているけれど、少なくとも直ぐに死ぬわけではない。

これだけ確認できたのは大きかった。

希望を捨てずにいれば、あるいは……。


「誰かいませんかー!」


他に迷い込んだ人がいないか再度声を張り上げた。

すると、


“お前は誰だ”


男性の声が聞こえてきた。
大きくはっきりと。
しかし、近くに人の気配はなく、その声はまるで脳内に直接語りかけているようだった。


「私はピアノ!ここはどこ?あなたこそ誰?すぐ近くにいるの?」

“質問が多いな……”


ピアノの怒涛の質問攻めに、声の主は驚いたようにボソッと独り言のようなことを言った。
そんな小さな声も先ほどと同様にしっかりと頭に入ってくる。


“ここは歪みの中。俺は今別のところからお前の脳内に直接話しかけている”


やはりここは歪みの中。
そうなると突然現れた黒い空間は時空と時空の狭間に出来た歪み、と言うことになる。

ピアノは妙に納得したように落ち着いた様子だった。
そうと分かればすることは一つ。


「私をアナタのところへ連れて行ってくれないかしら」


ここがどこか理解していて、脳内に直接語りかける力を持っているこの声の主のところへ行けば、なにかしらの糸口になる。


“……“


返事がない。
やはり駄目だったか。
諦めかけたところで、


“良いだろう”


その言葉と同時にピアノは白い光に包まれた。

このボタンは廃止予定です

2024/10/16 08:44

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