歪みの中の城
「あら、もうこんな時間。すっかり話し込んでしまったようだね」
アレグロが来てから早数時間。
時刻は昼時を指していた。
「そろそろおいたまするわね」
「ジャムありがとうございました」
貰ったジャムの瓶を顔の高さまで持って見せながら別れの挨拶を済ませると、アレグロは来た道をゆっくりと歩き出した。
それを見送ると、ピアノも家へと入っていった。
部屋の中はやりかけの掃除の跡、破れた小包と箱、窓から覗かせる干しっぱなしの洗濯物。
ピアノは何から手を付けようかと迷うのかと思いきや、真っ先に昼食の準備を始めた。
ふわふわの食パンをパン切り包丁でスライスし、そこへ先程貰ったベリーのジャムをたっぷりと塗った。
それを持ってテーブルへ着くと、ひとまずスペースを空けるためにテーブルの上に乗っている箱や包装紙を腕を使って隅に寄せた。
行儀が悪いけれど、生憎両手は埋まっており、一人暮らしのため誰に指摘される訳でもない。
ようやく昼食の支度が整うと、ピアノは大口を開けて一口、また一口とパンに齧りついた。
「う〜ん、甘酸っぱくて美味しい」
口の周りに付いたジャムとパンのカスを指で拭い、それをねぶった。
パンはあっという間に完食された。
食器をシンクへと持っていき洗い物を済ませる。
「さて、と」
ピアノは出掛ける準備を始めた。
どうやら破ってしまった代わりの包装用紙を買いに行くようだ。
雑貨屋がある隣町まではバスが通っておらず、相当な距離を歩かなければならない。
もちろん車も持っていない。
支度を済ませると、勢いよく扉を開けた。
長い道のりを経て隣町へ向かう。
草木が生い茂り、舗装されていない泥道を歩くと、やがてレンガで整備された道へと出た。
ここまでこれば町まではすぐ。
その証拠に案内看板も立てかけられている。
そして最後の峠を越えれば……。
「やっと、着いた!」
Welcomeと書かれた町門をくぐると、そこは決して大きな町ではないが、ピアノが住んでいるところと比べれば充分に賑わっている町が広がっていた。
「ふんふ〜ん」
そんな町の雰囲気に感化されてピアノは思わず鼻歌を口ずさむ。
「さて、雑貨屋はどこかな〜」
この町へは主に食材を買うために利用するが、それ以外の用途では来ないため、店探しに手こずる。
「あ、ここだ!」
お目当てのお店を見つけて買い物を済ませる。
外に出る頃には、日が沈み始めていた。
「急いで帰らないと」
町には街灯があれど道中にはなく、最悪真っ暗道を歩く羽目になる。
速歩きで歩く。
……。
…………。
誰かに付けられている気がする。
曲がり角でチラッと横目で後方を確認すると、いかにも怪しげな黒スーツを着た男2人組。
一人は小柄で、一人は大柄。
当たり前だが付けられる身に覚えはない。
付いてくる足音の主を巻くために入り組んだ道を選んでいると、知らず知らずのうちに分からない道へと迷い込んでいた。
行き止まりに当たってしまうとマズイことになる。
そう思ったが先か、次の角を曲がった先には行き止まりが。
隠れられる障害物はない。
「どうしよう……」
ひょっとしてこの壁のどこかに隠し扉が。
藁にすがる思いで行き止まりの壁を叩く。
しかし、予想通りそれは何の変哲もないただの壁。
もうダメだ。
意味も分からず付けられて、怖い思いをして、絶望に打ちひしがれる。
すると、急に目の前の壁がバチバチと音を立てたかと思えば、黒い空間が出現した。
壁に手を付いて体重をかけていたピアノは、有無を言わせず黒い空間へと倒れ込む形で吸い込まれていく。
ピアノが黒い空間へ入ってからほどなくして、壁はいつもの静けさを取り戻した。
アレグロが来てから早数時間。
時刻は昼時を指していた。
「そろそろおいたまするわね」
「ジャムありがとうございました」
貰ったジャムの瓶を顔の高さまで持って見せながら別れの挨拶を済ませると、アレグロは来た道をゆっくりと歩き出した。
それを見送ると、ピアノも家へと入っていった。
部屋の中はやりかけの掃除の跡、破れた小包と箱、窓から覗かせる干しっぱなしの洗濯物。
ピアノは何から手を付けようかと迷うのかと思いきや、真っ先に昼食の準備を始めた。
ふわふわの食パンをパン切り包丁でスライスし、そこへ先程貰ったベリーのジャムをたっぷりと塗った。
それを持ってテーブルへ着くと、ひとまずスペースを空けるためにテーブルの上に乗っている箱や包装紙を腕を使って隅に寄せた。
行儀が悪いけれど、生憎両手は埋まっており、一人暮らしのため誰に指摘される訳でもない。
ようやく昼食の支度が整うと、ピアノは大口を開けて一口、また一口とパンに齧りついた。
「う〜ん、甘酸っぱくて美味しい」
口の周りに付いたジャムとパンのカスを指で拭い、それをねぶった。
パンはあっという間に完食された。
食器をシンクへと持っていき洗い物を済ませる。
「さて、と」
ピアノは出掛ける準備を始めた。
どうやら破ってしまった代わりの包装用紙を買いに行くようだ。
雑貨屋がある隣町まではバスが通っておらず、相当な距離を歩かなければならない。
もちろん車も持っていない。
支度を済ませると、勢いよく扉を開けた。
長い道のりを経て隣町へ向かう。
草木が生い茂り、舗装されていない泥道を歩くと、やがてレンガで整備された道へと出た。
ここまでこれば町まではすぐ。
その証拠に案内看板も立てかけられている。
そして最後の峠を越えれば……。
「やっと、着いた!」
Welcomeと書かれた町門をくぐると、そこは決して大きな町ではないが、ピアノが住んでいるところと比べれば充分に賑わっている町が広がっていた。
「ふんふ〜ん」
そんな町の雰囲気に感化されてピアノは思わず鼻歌を口ずさむ。
「さて、雑貨屋はどこかな〜」
この町へは主に食材を買うために利用するが、それ以外の用途では来ないため、店探しに手こずる。
「あ、ここだ!」
お目当てのお店を見つけて買い物を済ませる。
外に出る頃には、日が沈み始めていた。
「急いで帰らないと」
町には街灯があれど道中にはなく、最悪真っ暗道を歩く羽目になる。
速歩きで歩く。
……。
…………。
誰かに付けられている気がする。
曲がり角でチラッと横目で後方を確認すると、いかにも怪しげな黒スーツを着た男2人組。
一人は小柄で、一人は大柄。
当たり前だが付けられる身に覚えはない。
付いてくる足音の主を巻くために入り組んだ道を選んでいると、知らず知らずのうちに分からない道へと迷い込んでいた。
行き止まりに当たってしまうとマズイことになる。
そう思ったが先か、次の角を曲がった先には行き止まりが。
隠れられる障害物はない。
「どうしよう……」
ひょっとしてこの壁のどこかに隠し扉が。
藁にすがる思いで行き止まりの壁を叩く。
しかし、予想通りそれは何の変哲もないただの壁。
もうダメだ。
意味も分からず付けられて、怖い思いをして、絶望に打ちひしがれる。
すると、急に目の前の壁がバチバチと音を立てたかと思えば、黒い空間が出現した。
壁に手を付いて体重をかけていたピアノは、有無を言わせず黒い空間へと倒れ込む形で吸い込まれていく。
ピアノが黒い空間へ入ってからほどなくして、壁はいつもの静けさを取り戻した。
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