歪みの中の城
フォルテシモはピンポイントでピアノの家までの空間を繋げるために目を瞑って集中した。
それを見守っている間、ピアノはメゾに小声で耳打ちをした。
「ねえ、メゾ君にとってフォルテシモはどんな人?」
「……身寄りのない俺を育ててくれた、命の恩人だ」
「そっか、素敵な人なんだね」
メゾがフォルテシモを見る目は尊敬の眼差しだった。
ピアノはそんな顔のメゾを見せられたら、先程の話を信じてみようと思った。
「2人とも、お喋りはその辺で。もうじき歪みが開くから準備して」
フォルテシモがそう言うが先か、何もない空間がバチバチと音を立てて黒い渦のようなものが現れた。
「さあ、入って!」
「……っ」
2度も歪みの中へ入ったことがあるピアノだったが、自分の意志で入るのは今回が初めて。
入っても大丈夫なのか、躊躇してしまった。
その様子を見たメゾはピアノを急かすように言った。
「おい、早くいけよ」
「だって……」
「ちっ」
中々入ろうとしないピアノに苛立ちを覚えたメゾは、無理やりピアノの右腕を掴むと、そのまま引っ張って黒い渦の中へと入っていった。
「2人とも無事に通ったね。では私も」
フォルテシモが通ると、黒い渦は跡形もなく消え去った。
ーーーー
黒い渦の先に辿り着いた場所とは小ぢんまりとした部屋だった。
月明かりだけが照らす室内には、小さめなシングルベッドとチェストのみが置かれたシンプルな内装。
そして下の階へと続く階段が伸びている。
「ここ、屋根裏にある寝室です。えっと電気電気……」
ピアノは壁を伝い照明のスイッチを探した。
「点けなくていい。なにか嫌な予感がする」
ピアノはフォルテシモの指示に戸惑ったが、ひとまず言う通りにした。
「小包は1階のリビングにあるので……階段はこっちです。足元に気を付けてください」
フォルテシモとメゾはピアノの後に続いて1階へと降りると、
「なに……これ……」
暗闇に慣れた3人の目に映った光景とは、荒れ果てた部屋だった。
「酷い有様ですね」
カーテンは破られ、壁には穴が空き、床にはガラスの破片が散らばっている。
歩くたびにパリッパリッとガラスを踏む音が鳴る。
「ピアノって片付けができないんだな!」
「メゾ、冗談はやめなさい」
「……悪かった」
メゾの冗談に苛立ちを覚えつつも、フォルテシモが制してくれたお陰で、許すことにした。
「それでピアノ、小包は」
こんな状態でも目的は遂行しないといけないワケで、ピアノはズタズタに傷付けられたテーブルの上を確認した。
「ない……確かにここに置いてあったのに」
テーブルの上にはピアノが開けた長方形の箱、そして空になった正方形の箱が置かれている。
「先を越されたな」
ここに至るまでに色んなことが起こって忘れていたが、ピアノはとあることを思い出した。
「そう言えば、私怪しい人物に追われていたんだった」
「どんな奴だった!?」
いきなり大きな声を出したフォルテシモに驚きつつも、ピアノはあのとき遭った2人組のことを頭に浮かべた。
「一瞬しか見ていないけれど、黒スーツを着た2人組の男性です。1人は小柄で、もう1人は大柄の……」
「確証はないけれど、そいつらが今回のことに関わっている可能性は高いな……。ひとまず危ないから、ここから離れよう」
しかし、こと既に遅し。
フォルテシモがスタッカート城への入り口を開く前に、大きな爆発音がした。
「えっ、えっ、なにっ?!」
「襲撃だ。歪みを開いている時間がない。建物が崩れる前に外へ出るんだ」
微かに残っていた窓ガラスも割れ落ち、天井もパラパラと破片が落ちてきた。
まもなくこの家は崩れ落ちる。
ピアノとメゾはフォルテシモの指示により速やかに家の外へと避難した。
ほどなくして、ピアノの家は積み木のように崩れ落ちた。
木の破片と申し訳程度の真柱しか残っていない。
それを見守っている間、ピアノはメゾに小声で耳打ちをした。
「ねえ、メゾ君にとってフォルテシモはどんな人?」
「……身寄りのない俺を育ててくれた、命の恩人だ」
「そっか、素敵な人なんだね」
メゾがフォルテシモを見る目は尊敬の眼差しだった。
ピアノはそんな顔のメゾを見せられたら、先程の話を信じてみようと思った。
「2人とも、お喋りはその辺で。もうじき歪みが開くから準備して」
フォルテシモがそう言うが先か、何もない空間がバチバチと音を立てて黒い渦のようなものが現れた。
「さあ、入って!」
「……っ」
2度も歪みの中へ入ったことがあるピアノだったが、自分の意志で入るのは今回が初めて。
入っても大丈夫なのか、躊躇してしまった。
その様子を見たメゾはピアノを急かすように言った。
「おい、早くいけよ」
「だって……」
「ちっ」
中々入ろうとしないピアノに苛立ちを覚えたメゾは、無理やりピアノの右腕を掴むと、そのまま引っ張って黒い渦の中へと入っていった。
「2人とも無事に通ったね。では私も」
フォルテシモが通ると、黒い渦は跡形もなく消え去った。
ーーーー
黒い渦の先に辿り着いた場所とは小ぢんまりとした部屋だった。
月明かりだけが照らす室内には、小さめなシングルベッドとチェストのみが置かれたシンプルな内装。
そして下の階へと続く階段が伸びている。
「ここ、屋根裏にある寝室です。えっと電気電気……」
ピアノは壁を伝い照明のスイッチを探した。
「点けなくていい。なにか嫌な予感がする」
ピアノはフォルテシモの指示に戸惑ったが、ひとまず言う通りにした。
「小包は1階のリビングにあるので……階段はこっちです。足元に気を付けてください」
フォルテシモとメゾはピアノの後に続いて1階へと降りると、
「なに……これ……」
暗闇に慣れた3人の目に映った光景とは、荒れ果てた部屋だった。
「酷い有様ですね」
カーテンは破られ、壁には穴が空き、床にはガラスの破片が散らばっている。
歩くたびにパリッパリッとガラスを踏む音が鳴る。
「ピアノって片付けができないんだな!」
「メゾ、冗談はやめなさい」
「……悪かった」
メゾの冗談に苛立ちを覚えつつも、フォルテシモが制してくれたお陰で、許すことにした。
「それでピアノ、小包は」
こんな状態でも目的は遂行しないといけないワケで、ピアノはズタズタに傷付けられたテーブルの上を確認した。
「ない……確かにここに置いてあったのに」
テーブルの上にはピアノが開けた長方形の箱、そして空になった正方形の箱が置かれている。
「先を越されたな」
ここに至るまでに色んなことが起こって忘れていたが、ピアノはとあることを思い出した。
「そう言えば、私怪しい人物に追われていたんだった」
「どんな奴だった!?」
いきなり大きな声を出したフォルテシモに驚きつつも、ピアノはあのとき遭った2人組のことを頭に浮かべた。
「一瞬しか見ていないけれど、黒スーツを着た2人組の男性です。1人は小柄で、もう1人は大柄の……」
「確証はないけれど、そいつらが今回のことに関わっている可能性は高いな……。ひとまず危ないから、ここから離れよう」
しかし、こと既に遅し。
フォルテシモがスタッカート城への入り口を開く前に、大きな爆発音がした。
「えっ、えっ、なにっ?!」
「襲撃だ。歪みを開いている時間がない。建物が崩れる前に外へ出るんだ」
微かに残っていた窓ガラスも割れ落ち、天井もパラパラと破片が落ちてきた。
まもなくこの家は崩れ落ちる。
ピアノとメゾはフォルテシモの指示により速やかに家の外へと避難した。
ほどなくして、ピアノの家は積み木のように崩れ落ちた。
木の破片と申し訳程度の真柱しか残っていない。
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