二次創作
君にサーブ!
土曜日の午後。体育館の空気が、いつもより少しだけピリッとしていた。
明日は練習試合。相手は、「音駒高校」。
「“負けたくない”って気持ちが強すぎると、逆に空回りするんだよね〜」
及川先輩がポツリとつぶやいた。
その日の彼は、いつもとどこか違っていた。
キラキラした笑顔はあるけど、目の奥にふと影がよぎる。
「チビマネちゃん、これ今日の練習メニュー」
「はいっ、ありがとうございます!」
でも、その渡し方も、どこかぎこちない。
(なんだろう……もしかして、緊張してるのかな)
私はそっと、松川先輩の近くに寄った。
「あの、今日の及川先輩って、なんだかちょっと……」
「……あー、わかった?まあ、あいつなりに気張ってるんだよ」
松川先輩は、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「音駒って、昔からライバルみたいなもんでさ。特に、同じセッターの孤爪くんには、色々と思うとこあるらしいよ」
「思うところ……」
「うん。勝ちたいって思えば思うほど、背負い込むんだよ、あいつ」
ふと、視線の先にいる及川先輩を見る。
誰よりも声を出して、誰よりも指示を飛ばして、誰よりも…孤独そうだった。
◇ ◇ ◇
その日の帰り道。体育館の戸締まりを終えたあと、私は一人でノートに練習記録をまとめていた。
「……チビマネちゃん、真面目だね」
背後から声がして、振り返ると、及川先輩が体育館の入口に立っていた。
「えっ、及川先輩……?もう帰ったんじゃ……」
「んー、なんか……帰る気にならなくて。っていうか……チビマネちゃんに、会いに来ちゃった?」
「な……っ、なな、なに言ってるんですかっ!」
「ふふ、冗談。でもさ、ちょっとだけ……話、してもいい?」
◇ ◇ ◇
「……怖いんだよね、俺」
不意にこぼれた、彼の本音。
「エースとか、キャプテンとか……そんな肩書き、時々重すぎて。負けたらどうしようって、思っちゃう」
「……」
「でも、笑ってなきゃいけないでしょ?俺が不安そうだったら、チームまで揺れるし」
彼の声は、ほんの少しだけ震えていた。
私は気づけば、ノートをぎゅっと閉じて、前を向いていた。
「私、マネージャーになります!」
「えっ……?」
「仮とかじゃなくて、本物のマネージャーになります!……だって、先輩のこと、放っておけません!」
「……チビマネちゃん……」
「私、プレーはできないけど……でも、“及川徹”を支えるくらいには、強くなりたいです!」
一瞬の沈黙。
そのあと、彼はゆっくりと立ち上がり、ぽん、と私の頭に手を乗せた。
「……ありがと。チビマネちゃん、頼りにしてるよ」
そう言って笑ったその顔は――今日一番、優しい顔だった。
明日は練習試合。相手は、「音駒高校」。
「“負けたくない”って気持ちが強すぎると、逆に空回りするんだよね〜」
及川先輩がポツリとつぶやいた。
その日の彼は、いつもとどこか違っていた。
キラキラした笑顔はあるけど、目の奥にふと影がよぎる。
「チビマネちゃん、これ今日の練習メニュー」
「はいっ、ありがとうございます!」
でも、その渡し方も、どこかぎこちない。
(なんだろう……もしかして、緊張してるのかな)
私はそっと、松川先輩の近くに寄った。
「あの、今日の及川先輩って、なんだかちょっと……」
「……あー、わかった?まあ、あいつなりに気張ってるんだよ」
松川先輩は、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「音駒って、昔からライバルみたいなもんでさ。特に、同じセッターの孤爪くんには、色々と思うとこあるらしいよ」
「思うところ……」
「うん。勝ちたいって思えば思うほど、背負い込むんだよ、あいつ」
ふと、視線の先にいる及川先輩を見る。
誰よりも声を出して、誰よりも指示を飛ばして、誰よりも…孤独そうだった。
◇ ◇ ◇
その日の帰り道。体育館の戸締まりを終えたあと、私は一人でノートに練習記録をまとめていた。
「……チビマネちゃん、真面目だね」
背後から声がして、振り返ると、及川先輩が体育館の入口に立っていた。
「えっ、及川先輩……?もう帰ったんじゃ……」
「んー、なんか……帰る気にならなくて。っていうか……チビマネちゃんに、会いに来ちゃった?」
「な……っ、なな、なに言ってるんですかっ!」
「ふふ、冗談。でもさ、ちょっとだけ……話、してもいい?」
◇ ◇ ◇
「……怖いんだよね、俺」
不意にこぼれた、彼の本音。
「エースとか、キャプテンとか……そんな肩書き、時々重すぎて。負けたらどうしようって、思っちゃう」
「……」
「でも、笑ってなきゃいけないでしょ?俺が不安そうだったら、チームまで揺れるし」
彼の声は、ほんの少しだけ震えていた。
私は気づけば、ノートをぎゅっと閉じて、前を向いていた。
「私、マネージャーになります!」
「えっ……?」
「仮とかじゃなくて、本物のマネージャーになります!……だって、先輩のこと、放っておけません!」
「……チビマネちゃん……」
「私、プレーはできないけど……でも、“及川徹”を支えるくらいには、強くなりたいです!」
一瞬の沈黙。
そのあと、彼はゆっくりと立ち上がり、ぽん、と私の頭に手を乗せた。
「……ありがと。チビマネちゃん、頼りにしてるよ」
そう言って笑ったその顔は――今日一番、優しい顔だった。