秋の日のかげ
「翔馬、最近よく公園に行くけど、お友達でもできたの?」
今日も公園に行こうと翔馬が靴を履くと、突然母にそう言われた。
「うん!夕方になると来てくれるんだ!かげちゃんっていう女の子!」
かげ、という名前を聞いた途端、母の顔が少し曇る。
「あら…よく公園に来るってことはここの近所ってことだろうけど…近所に「かげ」なんて子はいないはずよ?」
日の光を受けながらたなびくカーテンの影が、少し揺れた気がした。
夕方。
翔馬は今日も公園のベンチに座って、ただ一人の友達…かげを待ち続けていた。
曇り空が公園を暗くしているからか、いつもよりちょっと寒い気がした。
しかし、今日は待てども待てどもかげは来なかった。
「来ない…」
待っているうち、雨が降ってきた。
「わ…傘、傘」
今日は雨が降る、と母に言われていたため持たされていた傘を開く。
「いそがしかっただけかもしれないし…もう帰ろう」
公園を後にして、翔馬は家に向かった。
にゃあ、と黒猫が鳴いて、翔馬の足の間を通って路地に駆けていった。
その路地がやけに気になって、翔馬はそっと顔をのぞかせた。
そして、はっと驚き目を見開く。
かげがそこにいたのだ。
こちらに背を向けてしゃがみ、泣くように身を震わせている。
黒いワンピースを、雨粒がぽつりぽつりと濡らしていた。
「…!」
翔馬はかげのところへ駆け出した。
「…こんばちは」
そう言って、濡れたかげにそっと傘をさしてあげる。
翔馬に咄嗟にできることはそれしかなかった。
「しょう…まくん?」
かげは翔馬を見つめた。涙で目のあたりを少し腫れさせて。
「なんで…泣いてたの?」
翔馬はしゃがみ込み、かげと目線を合わせた。
「ママにおこられたの…」
「…うん」
消え入りそうな声で、かげはこう言った。
「わたしが、しょうまくんとなかよくしたから…」
「…え…?」
翔馬は驚いて目を見開く。
「あのね、しょうまくん…おどろかないで聞いて?」
「うん…」
「わたしね…」
「人間じゃないの」
万物はみな、精霊様の不思議な力で成り立っている。
しかし、人間となると精霊様は介入できなかった。
なぜだろうか?
弱さがあるからだ。
心のどこかにある自分の情けなさが、人間には存在しているからだ。
そんな人間を導くため、世界を綺麗に保つため。精霊様が考えたこと。
それは、人間の思想を変えてしまうことだった。
情けない自分を認められない心を変えることで、弱さを取り払い、
力として介入できるようにするのだ。
それを成すため、木々の隙間や夕日の反対に生まれる影たちの精霊様が選ばれた。
影は潜み、誰にも知られずにいられる。
そうして影の精霊様は、その力を少しずつ、少しずつ人々に注ぎ、邪気を除いていった。
その影の精霊様のひとかけらが、かげだった。
かげは一際強い力と、他の精霊様に勝るほどの「好奇心」と「行動力」に優れていた。
思ったことをはっきりと言い、行動に移す。
それは精霊様のだれにも止められず、ついにかげは自らを人間の少女の姿にし、
直接人間と触れ合うという思い切った行動に出た。
翔馬に出会って、翔馬の弱さである「引っ込み思案な性格」の変え方を示唆し。
初めはうまくいっていた。
しかし。
かげは少し、翔馬と仲良くなりすぎた。
そして、かげという子供がここらにいないことに、翔馬の親が違和感を持ち、
かげの言動の不自然な点に、翔馬は気づいてしまった。
…精霊様の世界に、人間が入り込むことは許されない。
つまり、かげが精霊様だとバレてしまえば、おしまいなのだ。
だから精霊様は…
「…ママが、もうおうちには帰ってくるなっていったの」
精霊様の世界がバレてしまう前に。
「わたし…ママの力がないと…あとちょっとしたら…消えちゃう、かも…」
かげを、捨てた。
「…そんなのいやだ!」
翔馬は叫んだ。
「せっかく、おともだちになれたのに…!いやだよ、かげちゃん…」
目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。
「ごめん、ごめんね、しょうまくん…」
「…でも、わたしは消えちゃうよ。」
俯いたまま、かげは言った。
「なんで…」
翔馬は泣きじゃくりながら、呟く。
「…そんなきがするの」
かげの言葉には、どうにもならない現実が見え隠れするようで。
翔馬は…その言葉に、何も返せなかった。
「あしたまたあおうね」
かげはようやく立ち上がって口を開き、そう言った。
「…うん」
翔馬も小さくそう返すと、立ち上がる。
ふと空を見上げると、雨は上がっていた。
しかし、虹は見つからない。
今日も公園に行こうと翔馬が靴を履くと、突然母にそう言われた。
「うん!夕方になると来てくれるんだ!かげちゃんっていう女の子!」
かげ、という名前を聞いた途端、母の顔が少し曇る。
「あら…よく公園に来るってことはここの近所ってことだろうけど…近所に「かげ」なんて子はいないはずよ?」
日の光を受けながらたなびくカーテンの影が、少し揺れた気がした。
夕方。
翔馬は今日も公園のベンチに座って、ただ一人の友達…かげを待ち続けていた。
曇り空が公園を暗くしているからか、いつもよりちょっと寒い気がした。
しかし、今日は待てども待てどもかげは来なかった。
「来ない…」
待っているうち、雨が降ってきた。
「わ…傘、傘」
今日は雨が降る、と母に言われていたため持たされていた傘を開く。
「いそがしかっただけかもしれないし…もう帰ろう」
公園を後にして、翔馬は家に向かった。
にゃあ、と黒猫が鳴いて、翔馬の足の間を通って路地に駆けていった。
その路地がやけに気になって、翔馬はそっと顔をのぞかせた。
そして、はっと驚き目を見開く。
かげがそこにいたのだ。
こちらに背を向けてしゃがみ、泣くように身を震わせている。
黒いワンピースを、雨粒がぽつりぽつりと濡らしていた。
「…!」
翔馬はかげのところへ駆け出した。
「…こんばちは」
そう言って、濡れたかげにそっと傘をさしてあげる。
翔馬に咄嗟にできることはそれしかなかった。
「しょう…まくん?」
かげは翔馬を見つめた。涙で目のあたりを少し腫れさせて。
「なんで…泣いてたの?」
翔馬はしゃがみ込み、かげと目線を合わせた。
「ママにおこられたの…」
「…うん」
消え入りそうな声で、かげはこう言った。
「わたしが、しょうまくんとなかよくしたから…」
「…え…?」
翔馬は驚いて目を見開く。
「あのね、しょうまくん…おどろかないで聞いて?」
「うん…」
「わたしね…」
「人間じゃないの」
万物はみな、精霊様の不思議な力で成り立っている。
しかし、人間となると精霊様は介入できなかった。
なぜだろうか?
弱さがあるからだ。
心のどこかにある自分の情けなさが、人間には存在しているからだ。
そんな人間を導くため、世界を綺麗に保つため。精霊様が考えたこと。
それは、人間の思想を変えてしまうことだった。
情けない自分を認められない心を変えることで、弱さを取り払い、
力として介入できるようにするのだ。
それを成すため、木々の隙間や夕日の反対に生まれる影たちの精霊様が選ばれた。
影は潜み、誰にも知られずにいられる。
そうして影の精霊様は、その力を少しずつ、少しずつ人々に注ぎ、邪気を除いていった。
その影の精霊様のひとかけらが、かげだった。
かげは一際強い力と、他の精霊様に勝るほどの「好奇心」と「行動力」に優れていた。
思ったことをはっきりと言い、行動に移す。
それは精霊様のだれにも止められず、ついにかげは自らを人間の少女の姿にし、
直接人間と触れ合うという思い切った行動に出た。
翔馬に出会って、翔馬の弱さである「引っ込み思案な性格」の変え方を示唆し。
初めはうまくいっていた。
しかし。
かげは少し、翔馬と仲良くなりすぎた。
そして、かげという子供がここらにいないことに、翔馬の親が違和感を持ち、
かげの言動の不自然な点に、翔馬は気づいてしまった。
…精霊様の世界に、人間が入り込むことは許されない。
つまり、かげが精霊様だとバレてしまえば、おしまいなのだ。
だから精霊様は…
「…ママが、もうおうちには帰ってくるなっていったの」
精霊様の世界がバレてしまう前に。
「わたし…ママの力がないと…あとちょっとしたら…消えちゃう、かも…」
かげを、捨てた。
「…そんなのいやだ!」
翔馬は叫んだ。
「せっかく、おともだちになれたのに…!いやだよ、かげちゃん…」
目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。
「ごめん、ごめんね、しょうまくん…」
「…でも、わたしは消えちゃうよ。」
俯いたまま、かげは言った。
「なんで…」
翔馬は泣きじゃくりながら、呟く。
「…そんなきがするの」
かげの言葉には、どうにもならない現実が見え隠れするようで。
翔馬は…その言葉に、何も返せなかった。
「あしたまたあおうね」
かげはようやく立ち上がって口を開き、そう言った。
「…うん」
翔馬も小さくそう返すと、立ち上がる。
ふと空を見上げると、雨は上がっていた。
しかし、虹は見つからない。
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