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秋の日のかげ

#3


「翔馬、最近よく公園に行くけど、お友達でもできたの?」
今日も公園に行こうと翔馬が靴を履くと、突然母にそう言われた。
「うん!夕方になると来てくれるんだ!かげちゃんっていう女の子!」
かげ、という名前を聞いた途端、母の顔が少し曇る。
「あら…よく公園に来るってことはここの近所ってことだろうけど…近所に「かげ」なんて子はいないはずよ?」
日の光を受けながらたなびくカーテンの影が、少し揺れた気がした。

夕方。
翔馬は今日も公園のベンチに座って、ただ一人の友達…かげを待ち続けていた。
曇り空が公園を暗くしているからか、いつもよりちょっと寒い気がした。
しかし、今日は待てども待てどもかげは来なかった。
「来ない…」
待っているうち、雨が降ってきた。
「わ…傘、傘」
今日は雨が降る、と母に言われていたため持たされていた傘を開く。
「いそがしかっただけかもしれないし…もう帰ろう」
公園を後にして、翔馬は家に向かった。

にゃあ、と黒猫が鳴いて、翔馬の足の間を通って路地に駆けていった。
その路地がやけに気になって、翔馬はそっと顔をのぞかせた。
そして、はっと驚き目を見開く。

かげがそこにいたのだ。
こちらに背を向けてしゃがみ、泣くように身を震わせている。
黒いワンピースを、雨粒がぽつりぽつりと濡らしていた。
「…!」
翔馬はかげのところへ駆け出した。

「…こんばちは」
そう言って、濡れたかげにそっと傘をさしてあげる。
翔馬に咄嗟にできることはそれしかなかった。
「しょう…まくん?」
かげは翔馬を見つめた。涙で目のあたりを少し腫れさせて。
「なんで…泣いてたの?」
翔馬はしゃがみ込み、かげと目線を合わせた。
「ママにおこられたの…」
「…うん」

消え入りそうな声で、かげはこう言った。
「わたしが、しょうまくんとなかよくしたから…」

「…え…?」
翔馬は驚いて目を見開く。
「あのね、しょうまくん…おどろかないで聞いて?」
「うん…」
「わたしね…」

「人間じゃないの」

万物はみな、精霊様の不思議な力で成り立っている。
しかし、人間となると精霊様は介入できなかった。
なぜだろうか?
弱さがあるからだ。
心のどこかにある自分の情けなさが、人間には存在しているからだ。
そんな人間を導くため、世界を綺麗に保つため。精霊様が考えたこと。
それは、人間の思想を変えてしまうことだった。
情けない自分を認められない心を変えることで、弱さを取り払い、
力として介入できるようにするのだ。

それを成すため、木々の隙間や夕日の反対に生まれる影たちの精霊様が選ばれた。
影は潜み、誰にも知られずにいられる。
そうして影の精霊様は、その力を少しずつ、少しずつ人々に注ぎ、邪気を除いていった。

その影の精霊様のひとかけらが、かげだった。
かげは一際強い力と、他の精霊様に勝るほどの「好奇心」と「行動力」に優れていた。
思ったことをはっきりと言い、行動に移す。
それは精霊様のだれにも止められず、ついにかげは自らを人間の少女の姿にし、
直接人間と触れ合うという思い切った行動に出た。
翔馬に出会って、翔馬の弱さである「引っ込み思案な性格」の変え方を示唆し。
初めはうまくいっていた。
しかし。

かげは少し、翔馬と仲良くなりすぎた。
そして、かげという子供がここらにいないことに、翔馬の親が違和感を持ち、
かげの言動の不自然な点に、翔馬は気づいてしまった。

…精霊様の世界に、人間が入り込むことは許されない。
つまり、かげが精霊様だとバレてしまえば、おしまいなのだ。

だから精霊様は…
「…ママが、もうおうちには帰ってくるなっていったの」
精霊様の世界がバレてしまう前に。
「わたし…ママの力がないと…あとちょっとしたら…消えちゃう、かも…」
かげを、捨てた。

「…そんなのいやだ!」
翔馬は叫んだ。
「せっかく、おともだちになれたのに…!いやだよ、かげちゃん…」
目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。
「ごめん、ごめんね、しょうまくん…」
「…でも、わたしは消えちゃうよ。」
俯いたまま、かげは言った。
「なんで…」
翔馬は泣きじゃくりながら、呟く。
「…そんなきがするの」
かげの言葉には、どうにもならない現実が見え隠れするようで。
翔馬は…その言葉に、何も返せなかった。

「あしたまたあおうね」
かげはようやく立ち上がって口を開き、そう言った。
「…うん」
翔馬も小さくそう返すと、立ち上がる。
ふと空を見上げると、雨は上がっていた。
しかし、虹は見つからない。

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作者メッセージ

毎度ありがとうございます。おとうふです。
もうそろそろ完結しそうです。いやあ短い((((
かげの話は正直書きながら考えてたので当初よりも結構設定が二転三転変わっていきまして、、、
こんな雑な小説ですがぜひ完結まで読んで頂ければ嬉しいです。

2024/10/13 22:41

おとうふ ID:≫rpvJPv02lqkiQ
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