秋の日のかげ
次の日。翔馬はまた、あの公園に来た。
昨日かげと出会った公園。
紅葉が綺麗な木々のそばでは、今日も多くの人々が笑いあう。
「たまにはしょうまもあそぼうぜー?」
ベンチに座る翔馬に声をかけた彼の名前は、山崎守。翔馬にもよく声をかけてくれる、やんちゃな少年。
「う…うん」
「はやくいこーぜ?みんな待ってるぞ」
優しい声で翔馬の腕を引っ張っていく守。しかし、彼が優しくないことを、翔馬は知っていた。
「お、きたきた」
「なんだよー、こいついるとおもしろくねぇって言ったろー?」
不安や嘲笑の声が聞こえる。翔馬は耳をふさぎたい気持ちで溢れた。
「ごめんごめん、でも今日のはしょうまがいっちばんふさわしいや」
守はにやっと笑う。
「なぁ、かけっこしようぜ!しょうま、足早いだろ?勝負だ!」
「え、ちょ、まってよ!!」
強引に腕を引かれ、隣に並ばされる。
「よーいドン!!」
「がんばれー!まもるくーん!!」
「いけーしょうまー!」
走るのは好きな翔馬は、風を切って軽やかに走っていく。
すると。
ドサッ!
「いたい!!」
急に足元が崩れて、翔馬は落ちてしまった。落とし穴が掘られていたようだ。
あっはっは!と馬鹿にしたような笑いが広がる。
「ゴール!やったぁ、しょうまに勝ったぞー!…って、
まさか落っこちたのかよー?とろいなー、かけっここないだ一位だったろー??」
「う、うぅ…」
穴の外からにやにやしながら翔馬を見下ろす守。
そう、守は翔馬をいじめる筆頭…所謂、「いじめっ子」だった。
翔馬によく声をかけては、優しいふりをして翔馬をからかう。
いつもの流れだった。これも、翔馬にとっての「日常」だ。
木々の細かな影が、静かに揺れている。
そして。夕方になった。
「ちっ、いっつもこうだ」
不満そうに石を蹴る翔馬。少し大きなその石もまた、夕日と反対方向に影を伸ばす。
「かげちゃん、今日もこないかな…」
自分に笑いかけてくれた、かげのことを思い出す。
こうしてベンチで座っていたら、いつか来てくれるかな?なんて思いながら。
「…はぁ…」
翔馬は深くため息をついた。そんな時。
「こんばちは!」
無邪気で可憐な、ずっと待ち望んでいた声。
「かげちゃん!」
後ろを振り返ると、やはりにこにこ笑ってこちらを見つめる少女、かげの姿があった。
「きょうもきてくれたんだね!うれしいな」
翔馬はかげに向かって笑いかける。ぎこちなさは、前より少し無くなっている。
「きょうもあしたもくるよ!だってわたしはかげだから!かげはしょうまくんのおともだちだから!」
かげはその場でくるくる回ってみせる。
「うん…すっごくうれしいよ。ぼくずっと…おともだち、いなかったから。」
少し寂しそうに呟く翔馬。
「そっか…じゃあ、わたしがはじめてのおともだちだね!」
そう言って笑うかげ。
「うん!」
つられて笑う翔馬。
かげの笑顔は不思議だ。かげが笑っているだけで、心がふわっと軽くなる。
そんな気がする、と翔馬はふと思った。
「見て。この服…土だらけになっちゃった」
情けなさそうに言う翔馬。
「ほんとだ、かわいそう…どうして、こんなことするんだろうね」
かげはしゅん、と落ち込んだ顔をする。
「きっと、ぼくがよわいからだよ。」
俯いて、断言するように言う翔馬。
「みんなのまえではなすのも、きんちょうしてできないし。算数だってぜんぜんわかんないし…」
そう言う翔馬の声はどんどん悲しそうに小さくなっていく。
かげはしばらく黙った後、こう言った。
「わたしね、よわいのもしょうまくんのひとつのとりえだと思うの」
翔馬のことをじっと見据えて話すかげの声は、いつもより深く、真剣だった。
「でも、そのよわいことがしょうまくんにとっていやなことならね、じぶんがしたいこと、もっとちゃんと言えばいいの」
「じぶんが、したいこと…?」
翔馬はきょとんとした顔でかげを見つめる。
「あれがしたいとか、これはやめてほしいとか。たとえばね…」
と言って、かげは突然翔馬のほっぺをつねる。
「!?いひゃい!!」
と思ったらぱっと離して、
「いたかった?嫌だった?」
と聞いてくる。
「あたりまえじゃん!」
予想外の痛みに驚きながら翔馬は答えた。
それにかげは、
「それなら、そう言わなきゃ。わたしだって、しょうまくんが嫌だってわかってたらこんなことしないもん。
わかんなかったらするけどね。」
なんて、言葉の最後にふふっ、と冗談っぽい笑いを含みながら言う。
「そっか…」
きっと親に言ったって、「先生に言いなさい」とか、言われるだけだろう。
もしくは「ちゃんと意見を言えるようになりなさい」だろうか?
でも…かげは、意見を言うことの大切さを伝える上で、意見を伝えることができない翔馬を否定しなかった。
かげの言葉は、今の翔馬にとって一番欲しかった言葉だった。
今まで親にも、周りにも弱い自分を否定されて生きて来たから。
「ありがとう」
ひとりぼっちで。自分を否定して楽しそうに笑う周りに囲まれていた翔馬の「日常」が。
少しずつ、少しずつ変わっていっている。
夜。
外では鈴虫の声が細く響いている。
そんな中、翔馬は家の布団の中で、ふとこんなことを考えていた。
「そういえば、かげはなんで、シャツがひとのせいでよごれたってこと、知ってたんだろう…?」
昨日かげと出会った公園。
紅葉が綺麗な木々のそばでは、今日も多くの人々が笑いあう。
「たまにはしょうまもあそぼうぜー?」
ベンチに座る翔馬に声をかけた彼の名前は、山崎守。翔馬にもよく声をかけてくれる、やんちゃな少年。
「う…うん」
「はやくいこーぜ?みんな待ってるぞ」
優しい声で翔馬の腕を引っ張っていく守。しかし、彼が優しくないことを、翔馬は知っていた。
「お、きたきた」
「なんだよー、こいついるとおもしろくねぇって言ったろー?」
不安や嘲笑の声が聞こえる。翔馬は耳をふさぎたい気持ちで溢れた。
「ごめんごめん、でも今日のはしょうまがいっちばんふさわしいや」
守はにやっと笑う。
「なぁ、かけっこしようぜ!しょうま、足早いだろ?勝負だ!」
「え、ちょ、まってよ!!」
強引に腕を引かれ、隣に並ばされる。
「よーいドン!!」
「がんばれー!まもるくーん!!」
「いけーしょうまー!」
走るのは好きな翔馬は、風を切って軽やかに走っていく。
すると。
ドサッ!
「いたい!!」
急に足元が崩れて、翔馬は落ちてしまった。落とし穴が掘られていたようだ。
あっはっは!と馬鹿にしたような笑いが広がる。
「ゴール!やったぁ、しょうまに勝ったぞー!…って、
まさか落っこちたのかよー?とろいなー、かけっここないだ一位だったろー??」
「う、うぅ…」
穴の外からにやにやしながら翔馬を見下ろす守。
そう、守は翔馬をいじめる筆頭…所謂、「いじめっ子」だった。
翔馬によく声をかけては、優しいふりをして翔馬をからかう。
いつもの流れだった。これも、翔馬にとっての「日常」だ。
木々の細かな影が、静かに揺れている。
そして。夕方になった。
「ちっ、いっつもこうだ」
不満そうに石を蹴る翔馬。少し大きなその石もまた、夕日と反対方向に影を伸ばす。
「かげちゃん、今日もこないかな…」
自分に笑いかけてくれた、かげのことを思い出す。
こうしてベンチで座っていたら、いつか来てくれるかな?なんて思いながら。
「…はぁ…」
翔馬は深くため息をついた。そんな時。
「こんばちは!」
無邪気で可憐な、ずっと待ち望んでいた声。
「かげちゃん!」
後ろを振り返ると、やはりにこにこ笑ってこちらを見つめる少女、かげの姿があった。
「きょうもきてくれたんだね!うれしいな」
翔馬はかげに向かって笑いかける。ぎこちなさは、前より少し無くなっている。
「きょうもあしたもくるよ!だってわたしはかげだから!かげはしょうまくんのおともだちだから!」
かげはその場でくるくる回ってみせる。
「うん…すっごくうれしいよ。ぼくずっと…おともだち、いなかったから。」
少し寂しそうに呟く翔馬。
「そっか…じゃあ、わたしがはじめてのおともだちだね!」
そう言って笑うかげ。
「うん!」
つられて笑う翔馬。
かげの笑顔は不思議だ。かげが笑っているだけで、心がふわっと軽くなる。
そんな気がする、と翔馬はふと思った。
「見て。この服…土だらけになっちゃった」
情けなさそうに言う翔馬。
「ほんとだ、かわいそう…どうして、こんなことするんだろうね」
かげはしゅん、と落ち込んだ顔をする。
「きっと、ぼくがよわいからだよ。」
俯いて、断言するように言う翔馬。
「みんなのまえではなすのも、きんちょうしてできないし。算数だってぜんぜんわかんないし…」
そう言う翔馬の声はどんどん悲しそうに小さくなっていく。
かげはしばらく黙った後、こう言った。
「わたしね、よわいのもしょうまくんのひとつのとりえだと思うの」
翔馬のことをじっと見据えて話すかげの声は、いつもより深く、真剣だった。
「でも、そのよわいことがしょうまくんにとっていやなことならね、じぶんがしたいこと、もっとちゃんと言えばいいの」
「じぶんが、したいこと…?」
翔馬はきょとんとした顔でかげを見つめる。
「あれがしたいとか、これはやめてほしいとか。たとえばね…」
と言って、かげは突然翔馬のほっぺをつねる。
「!?いひゃい!!」
と思ったらぱっと離して、
「いたかった?嫌だった?」
と聞いてくる。
「あたりまえじゃん!」
予想外の痛みに驚きながら翔馬は答えた。
それにかげは、
「それなら、そう言わなきゃ。わたしだって、しょうまくんが嫌だってわかってたらこんなことしないもん。
わかんなかったらするけどね。」
なんて、言葉の最後にふふっ、と冗談っぽい笑いを含みながら言う。
「そっか…」
きっと親に言ったって、「先生に言いなさい」とか、言われるだけだろう。
もしくは「ちゃんと意見を言えるようになりなさい」だろうか?
でも…かげは、意見を言うことの大切さを伝える上で、意見を伝えることができない翔馬を否定しなかった。
かげの言葉は、今の翔馬にとって一番欲しかった言葉だった。
今まで親にも、周りにも弱い自分を否定されて生きて来たから。
「ありがとう」
ひとりぼっちで。自分を否定して楽しそうに笑う周りに囲まれていた翔馬の「日常」が。
少しずつ、少しずつ変わっていっている。
夜。
外では鈴虫の声が細く響いている。
そんな中、翔馬は家の布団の中で、ふとこんなことを考えていた。
「そういえば、かげはなんで、シャツがひとのせいでよごれたってこと、知ってたんだろう…?」
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