秋の日のかげ
秋。残暑を超えて過ごしやすくなってくるこの季節。
少年少女たちは、午後の白い日差しを受け、めいっぱいに大声で笑い、遊ぶ。
しかし、そうでない少年もいる。
「いいな…みんなで遊べるの」
青いパーカーを着て呟く少年の名は、霧雨翔馬。
彼は公園の木陰に座って、目の前の景色を羨ましそうに眺めている。
「しょうまくんはさそわないの?」
ふと、こんな声が聞こえる。無邪気な女の子の声だ。
すぐにやんちゃで意地悪な男の子の声がする。
「だってあいつがいるとおもしろくねぇもん。なぁ?」
あはは、と明るい笑い声が聞こえる。それは少年の心をちくちくと切りつけていく。
それが、霧雨翔馬の「日常」だった。
夕方。オレンジ色の空が広がっている。
先ほどとは打って変わり、閑散とした公園に、まだ一人で佇む翔馬。
木々。遊具。夕日の反対方向に伸びていくそれらの影。彼はただそれを見つめていた。
そのときだった。
「ねえ、きみ」
どこからか声がする。
可憐な少女の声。
「こんにちは!…こんばんは?狭間だから…こんばちは!」
そうして、翔馬の目の前にそれは現れた。
「うわ!?…だれ?きみ」
自分より一回り小さいような少女。
黒いロングヘアに黒いワンピース。黒ずくめの恰好が、夕日でオレンジ色に染まった公園に目立っている。
「わたし?わたしはねぇ、かげ!」
「かげ?」
かげ、と名乗る少女は、驚いて目を見開く翔馬に向かってにこっと笑う。
「きみはだあれ?」
「ぼくはしょうま。」
かげの笑顔に疑いを解いたのか、少しぎこちなく翔馬も笑う。
「あ、そうだ」
そういうと翔馬はかげに近くのベンチに座らせ、自分も隣に腰掛ける。
自分と同じように、独りでここにいる子供…
もしかしたら、「仲間」かもしれない。うっすらと希望を抱きながら、翔馬はかげに尋ねた。
「きみはどうしてここにいるの?」
すると彼女はこう答えた。
「わたしはかげだからだよ」
「かげ、だから…?」
驚いて言葉を繰り返す翔馬。お構いなしに、かげはこう続けた。
「かげはずっと、みんなをみてたよ」
「しょうまくんのことも、ずっとみてたの」
不思議な女の子だなあ、と率直に思ってしまう翔馬。
でもこういう考え方を嫌わない彼は、純粋な瞳を向けて聞いた。
「どうしてみてたの?」
「たのしいからだよ」
かげはすぐに答えてくれる。
翔馬にとって、こんなに長く同年代の子と話をしたことはこれが初めてだった。
「みんながにこにこわらって、きらきらしてるのみるの、大好きなんだ」
そう話すかげの目も輝いている。
「ぼくも、みんなが笑ってるのみるの好き」
くしゃっと笑ってみせる翔馬。その笑顔を見て、かげは言った。
「ねぇねぇしょうまくん、わたしがなんでいましょうまくんとおはなししてるか。知りたい?」
翔馬はそれを聞き少し驚いたが、すぐに
「うん、知りたい」
と返した。
「それはね…」
「それは!?」
「ないしょ!」
明るく綺麗に。少しいたずらっぽく笑うかげ。
「えぇ~、なんで?!おしえてよ!」
「だめー!」
「なんでぇ…?!」
「じゃあ、わたしとおともだちになってくれる?」
かげは翔馬のまっすぐ目の前に立って言った。
「おともだち…?」
「うん。おともだち、だよ」
初めてできる友達、それも同年代の女の子。
翔馬は初めて感じる興奮が身体を渦巻くのがわかった。
「うん!!」
今日一番の輝く笑顔で、しっかりと頷いてみせる翔馬。
2人の少年少女の様子を、もうじき沈む夕日が見つめていた。
少年少女たちは、午後の白い日差しを受け、めいっぱいに大声で笑い、遊ぶ。
しかし、そうでない少年もいる。
「いいな…みんなで遊べるの」
青いパーカーを着て呟く少年の名は、霧雨翔馬。
彼は公園の木陰に座って、目の前の景色を羨ましそうに眺めている。
「しょうまくんはさそわないの?」
ふと、こんな声が聞こえる。無邪気な女の子の声だ。
すぐにやんちゃで意地悪な男の子の声がする。
「だってあいつがいるとおもしろくねぇもん。なぁ?」
あはは、と明るい笑い声が聞こえる。それは少年の心をちくちくと切りつけていく。
それが、霧雨翔馬の「日常」だった。
夕方。オレンジ色の空が広がっている。
先ほどとは打って変わり、閑散とした公園に、まだ一人で佇む翔馬。
木々。遊具。夕日の反対方向に伸びていくそれらの影。彼はただそれを見つめていた。
そのときだった。
「ねえ、きみ」
どこからか声がする。
可憐な少女の声。
「こんにちは!…こんばんは?狭間だから…こんばちは!」
そうして、翔馬の目の前にそれは現れた。
「うわ!?…だれ?きみ」
自分より一回り小さいような少女。
黒いロングヘアに黒いワンピース。黒ずくめの恰好が、夕日でオレンジ色に染まった公園に目立っている。
「わたし?わたしはねぇ、かげ!」
「かげ?」
かげ、と名乗る少女は、驚いて目を見開く翔馬に向かってにこっと笑う。
「きみはだあれ?」
「ぼくはしょうま。」
かげの笑顔に疑いを解いたのか、少しぎこちなく翔馬も笑う。
「あ、そうだ」
そういうと翔馬はかげに近くのベンチに座らせ、自分も隣に腰掛ける。
自分と同じように、独りでここにいる子供…
もしかしたら、「仲間」かもしれない。うっすらと希望を抱きながら、翔馬はかげに尋ねた。
「きみはどうしてここにいるの?」
すると彼女はこう答えた。
「わたしはかげだからだよ」
「かげ、だから…?」
驚いて言葉を繰り返す翔馬。お構いなしに、かげはこう続けた。
「かげはずっと、みんなをみてたよ」
「しょうまくんのことも、ずっとみてたの」
不思議な女の子だなあ、と率直に思ってしまう翔馬。
でもこういう考え方を嫌わない彼は、純粋な瞳を向けて聞いた。
「どうしてみてたの?」
「たのしいからだよ」
かげはすぐに答えてくれる。
翔馬にとって、こんなに長く同年代の子と話をしたことはこれが初めてだった。
「みんながにこにこわらって、きらきらしてるのみるの、大好きなんだ」
そう話すかげの目も輝いている。
「ぼくも、みんなが笑ってるのみるの好き」
くしゃっと笑ってみせる翔馬。その笑顔を見て、かげは言った。
「ねぇねぇしょうまくん、わたしがなんでいましょうまくんとおはなししてるか。知りたい?」
翔馬はそれを聞き少し驚いたが、すぐに
「うん、知りたい」
と返した。
「それはね…」
「それは!?」
「ないしょ!」
明るく綺麗に。少しいたずらっぽく笑うかげ。
「えぇ~、なんで?!おしえてよ!」
「だめー!」
「なんでぇ…?!」
「じゃあ、わたしとおともだちになってくれる?」
かげは翔馬のまっすぐ目の前に立って言った。
「おともだち…?」
「うん。おともだち、だよ」
初めてできる友達、それも同年代の女の子。
翔馬は初めて感じる興奮が身体を渦巻くのがわかった。
「うん!!」
今日一番の輝く笑顔で、しっかりと頷いてみせる翔馬。
2人の少年少女の様子を、もうじき沈む夕日が見つめていた。
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