ストライクΔ
#1
全てを失った男
青園市立清神高校
その学校は最強のサッカー部があるとして有名だった。
そこはチームワーク、個々の技能どちらも卓越した生徒が寄せ集められていた。
そしてその中でも一際目立っていた男がいる。
「ゴオォーーーーーーールッ‼︎また澪木が決めたああああッ‼︎」
アナウンサーの声がスタジアムに響き渡る。
清神高校サッカー部の点取り屋、期待の一年生[漢字]FW[/漢字][ふりがな]フォワード[/ふりがな][漢字]澪木[/漢字][ふりがな]みおぎ[/ふりがな]アオイ。
高校サッカーにおいて一度も負けたことのない彼はサッカーの神童と称賛された。
しかし───────
[太字][大文字]バンッ[/大文字][/太字]
神童は宙を舞った。
[水平線]
俺は病室で目を覚ました。
「…………俺、は……」
周りを見渡すとを自分の横で泣いている母が見えた。
「アオイ、よかった……!」
母が俺を深く抱きしめた。
「(そうか……あの時トラックとぶつかって……)」
俺が記憶を辿っていると病室のドアが開き白衣の男が入ってきた。
「こんにちは、私は担当医の石井です」
「……」
「重体だった貴方を緊急で手術をさせてもらいました」
「貴方は命の危機に陥っていましたが奇跡的に治療できました。あの重体から犠牲になったのは足だけなのは奇跡と言えるでしょう」
「……足?」
俺は自分の足の違和感に初めて気づく。
「……ッ動かねぇ」
足を動かそうとしても動かない。
「そうです、命を取り留めることはできましたが足はどうにもなりませんでした。下半身不随です」
「……ッ‼︎」
「そんな、アオイはサッカーが……全国大会も目前なのに……!」
「残念ですが諦めるしかないでしょう……」
「……そう、っすか…」
俺は世界に絶望した。
俺にとって足を奪われるのは人生を奪われるのと同じだった。サッカーだけか唯一の生きがいだったのに。
石井さんはその後も何か説明していたが何も耳には入らなかった。
「では、失礼しました」
彼は病室を出て行った。
「アオイ…………」
「ごめん母さん……ちょっと一人にして欲しい」
心配する母を病室から出して一人になる。
足を動かそうとしてサッカーがもうできない現実を再び確認した。
「クソ……」
目から涙が溢れる。
ここまで惨めな気持ちになったのは人生初だった。
感傷に浸っているとコンコンと病室のドアがノックされた。
「……?どうぞ」
母親かと思って答えると入ってきたのは大柄の作業員の男だった。
「貴方とぶつかったトラックの運転手です……この度は私の不注意で怪我をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした。一体どう償いをすればよいか……」
男は深々と頭を下げる。
「いや……大丈夫です。法的処置を受けて貰えばもう、何も……」
どうでもよかった。この男に何をしても自分の足は返ってこないのだから。
ここから8ヶ月、何もない入院生活を続けた。
月日が経ち車椅子生活ではあるものの退院することができた。そして、事故してから初めての登校。
母に車で学校前まで送ってもらい、そこから車椅子に乗って入ることにした。
「……ヨシキ?」
校門には同級生で同じサッカー部の[漢字]羽田[/漢字][ふりがな]はだ[/ふりがな]ヨシキが立っていた。
「よっ……心配したんだぜ?」
「もう授業始まってるんじゃないのか?事情を説明してる俺はともかくお前は遅刻する……」
「車椅子、押してやるよ」
ヨシキは俺の話を聞かず車椅子を押す。
「どうだった?入院生活」
「どうって別に……」
「ぶつかった瞬間痛かった?」
「ぶつかった時は感覚がなかったと言うか……痛みを感じる暇がなかった」
ヨシキは色々俺に話題を振るが、サッカーから話を逸らしているように見えた。
思い切って俺は言う。
「サッカー……できなくなっちまった……」
「……」
「……」
沈黙が暫く続いた後ヨシキは口を開く。
「サッカー部……やめんの?」
「……そりゃね」
「じゃ、俺と一緒だな」
「は?」
俺は自身の耳を疑う。
「俺も、サッカー部やめる」
「は、はあ⁉︎なんで……」
「俺は何事もライバルが必要だと思ってる」
「?」
「お前は名実共に俺のライバルだった……。競う相手がいないサッカーをやる意味はねえよ」
ヨシキもまた、俺と同じ神童と呼ばれていた。絶対にゴールをさせない最強[漢字]DF[/漢字][ふりがな]ディフェンダー[/ふりがな]“守護神”。
俺達は天才コンビと知られサッカーに関しては二人の右に出るものはいないと言われていたほどだった。
「ヨシキ……」
「ああーごめん、ちょっと言い方悪かったかな、別にお前のせいでやめたわけじゃねー。単純におもんなくなっただけだよ」
「……」
「だけど俺は……お前をずっと待ち続けるぜ」
「いや、足はもう治ったりしないって」
「そうじゃねえよ……」
「?」
「じゃ、俺は1組だからまた昼休で」
ヨシキは話を一方的に切って行ってしまった。
「待ち続ける……か」
ヨシキの意味深な言葉は何だったのか……。
その学校は最強のサッカー部があるとして有名だった。
そこはチームワーク、個々の技能どちらも卓越した生徒が寄せ集められていた。
そしてその中でも一際目立っていた男がいる。
「ゴオォーーーーーーールッ‼︎また澪木が決めたああああッ‼︎」
アナウンサーの声がスタジアムに響き渡る。
清神高校サッカー部の点取り屋、期待の一年生[漢字]FW[/漢字][ふりがな]フォワード[/ふりがな][漢字]澪木[/漢字][ふりがな]みおぎ[/ふりがな]アオイ。
高校サッカーにおいて一度も負けたことのない彼はサッカーの神童と称賛された。
しかし───────
[太字][大文字]バンッ[/大文字][/太字]
神童は宙を舞った。
[水平線]
俺は病室で目を覚ました。
「…………俺、は……」
周りを見渡すとを自分の横で泣いている母が見えた。
「アオイ、よかった……!」
母が俺を深く抱きしめた。
「(そうか……あの時トラックとぶつかって……)」
俺が記憶を辿っていると病室のドアが開き白衣の男が入ってきた。
「こんにちは、私は担当医の石井です」
「……」
「重体だった貴方を緊急で手術をさせてもらいました」
「貴方は命の危機に陥っていましたが奇跡的に治療できました。あの重体から犠牲になったのは足だけなのは奇跡と言えるでしょう」
「……足?」
俺は自分の足の違和感に初めて気づく。
「……ッ動かねぇ」
足を動かそうとしても動かない。
「そうです、命を取り留めることはできましたが足はどうにもなりませんでした。下半身不随です」
「……ッ‼︎」
「そんな、アオイはサッカーが……全国大会も目前なのに……!」
「残念ですが諦めるしかないでしょう……」
「……そう、っすか…」
俺は世界に絶望した。
俺にとって足を奪われるのは人生を奪われるのと同じだった。サッカーだけか唯一の生きがいだったのに。
石井さんはその後も何か説明していたが何も耳には入らなかった。
「では、失礼しました」
彼は病室を出て行った。
「アオイ…………」
「ごめん母さん……ちょっと一人にして欲しい」
心配する母を病室から出して一人になる。
足を動かそうとしてサッカーがもうできない現実を再び確認した。
「クソ……」
目から涙が溢れる。
ここまで惨めな気持ちになったのは人生初だった。
感傷に浸っているとコンコンと病室のドアがノックされた。
「……?どうぞ」
母親かと思って答えると入ってきたのは大柄の作業員の男だった。
「貴方とぶつかったトラックの運転手です……この度は私の不注意で怪我をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした。一体どう償いをすればよいか……」
男は深々と頭を下げる。
「いや……大丈夫です。法的処置を受けて貰えばもう、何も……」
どうでもよかった。この男に何をしても自分の足は返ってこないのだから。
ここから8ヶ月、何もない入院生活を続けた。
月日が経ち車椅子生活ではあるものの退院することができた。そして、事故してから初めての登校。
母に車で学校前まで送ってもらい、そこから車椅子に乗って入ることにした。
「……ヨシキ?」
校門には同級生で同じサッカー部の[漢字]羽田[/漢字][ふりがな]はだ[/ふりがな]ヨシキが立っていた。
「よっ……心配したんだぜ?」
「もう授業始まってるんじゃないのか?事情を説明してる俺はともかくお前は遅刻する……」
「車椅子、押してやるよ」
ヨシキは俺の話を聞かず車椅子を押す。
「どうだった?入院生活」
「どうって別に……」
「ぶつかった瞬間痛かった?」
「ぶつかった時は感覚がなかったと言うか……痛みを感じる暇がなかった」
ヨシキは色々俺に話題を振るが、サッカーから話を逸らしているように見えた。
思い切って俺は言う。
「サッカー……できなくなっちまった……」
「……」
「……」
沈黙が暫く続いた後ヨシキは口を開く。
「サッカー部……やめんの?」
「……そりゃね」
「じゃ、俺と一緒だな」
「は?」
俺は自身の耳を疑う。
「俺も、サッカー部やめる」
「は、はあ⁉︎なんで……」
「俺は何事もライバルが必要だと思ってる」
「?」
「お前は名実共に俺のライバルだった……。競う相手がいないサッカーをやる意味はねえよ」
ヨシキもまた、俺と同じ神童と呼ばれていた。絶対にゴールをさせない最強[漢字]DF[/漢字][ふりがな]ディフェンダー[/ふりがな]“守護神”。
俺達は天才コンビと知られサッカーに関しては二人の右に出るものはいないと言われていたほどだった。
「ヨシキ……」
「ああーごめん、ちょっと言い方悪かったかな、別にお前のせいでやめたわけじゃねー。単純におもんなくなっただけだよ」
「……」
「だけど俺は……お前をずっと待ち続けるぜ」
「いや、足はもう治ったりしないって」
「そうじゃねえよ……」
「?」
「じゃ、俺は1組だからまた昼休で」
ヨシキは話を一方的に切って行ってしまった。
「待ち続ける……か」
ヨシキの意味深な言葉は何だったのか……。
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