⚠︎暴力表現

瑠衣side
『うおｯ』

俺らは今、事件で犯人たちの制圧をしていた。

『と、あぶねえ…』

依頼人を守りながらの戦闘、犯人の数も多い。

できなくはないが結構ギリギリだった。

俺はどっちかっていうと仁やおっさんみたいに力は強くない。

だから依頼人を守ってる。

「ひぃｯ」

やばｯ、依頼人に男が迫っている。

他の奴らに気を取られすぎたｯ！

『ｯ』

俺の顔がかすかに切れる。

あんま大したことない。

「オラァ！！」

男がナイフを持って突進してくる。

おっさんがこっちに向かう。

ああ、後はこいつだけか。

「ひぃ…ｯ」

依頼人は腰が抜けて動けなさそうだ。

俺が倒すこともできるが、さっきので足を挫いた。

どうすることもできない。

『ｯ』

俺は目を瞑った。

衝撃は………

来ない…？

「ｯ」
『仁ｯ！？』

俺の前に立ち、腹にナイフの刺さった仁がいた。

『おまｯ、なにしてんだよｯ』
「る、い……」
『返事しろよｯ、じん…』

男はおっさんが捕まえ、あいつらは逮捕された。

仁は搬送され、ずっと寝ている。

◯んではいない、でも起きもしない。

『おい…いつになったら起きるんだよ…』

たくさんの人がお見舞いに来た。

街の奴らや依頼で助けたことのあるやつ、ナイトアウルからスワロウテイルまで。

アグリーダッグも来ていた気がする。

「仁には言わないでね…」

ニコリと微笑みながら[漢字]名探偵[/漢字][ふりがな]天命大地[/ふりがな]は言った。

「おい、シバ…起きて来んかったらもう一発追加するからな…」

怒っている、でも泣きそうな顔で[漢字]記録者[/漢字][ふりがな]霧縦人[/ふりがな]は言った。

旧友、だそうだ。

「すまない瑠衣、今日は行けそうにない」
『…そうか』

おっさんは来れない、まあ、親戚のためだからしょうがない。

いま、病室には俺と仁、ふたりきり。

「……」

仁はずっと[漢字]黙っている[/漢字][ふりがな]眠っている[/ふりがな]。

『うう…ｯ』

誰もいない。[漢字]ふたりきり[/漢字][ふりがな]ひとりきり[/ふりがな]。

『仁、ごめんなあ…ｯ』

涙も溢れ出す。

堪えていたもの、俺の本心。

笑顔が俺、泣けない。

そうだ、俺が笑顔じゃないと…仁が笑えない。

『…仁っ、はやく帰ってこいよ！』
『俺は、ここで笑ってるからさ！』

そう、笑ってるから。

「ん、」
『じ、ん…？』

・・・

仁side
『ちっ、ここどこだ』

気がつくと、暗闇の中にいた。

彷徨ってみるが、なにもない。

なにもない暗闇だから当然、俺の千里眼も意味がない。

『はあ、流石に辛いな』

何時間、何日、何週間過ごしたのかわからない。

そんな時間が続けば当然苦しい。

『俺は幸せだったんだな…』

当たり前のことに今更気がつく。

いちいち遅いんだ。

大地のことも、瑠衣のことも…遅すぎた。

大切なことは見えない。

千里眼だろうが、なんだろうが。

『…』

諦めて、座った時、懐かしい声が響いた。

「仁っ、はやく帰ってこいよ！」
「俺はここで笑ってるからさ！」

瑠衣の声だ。

あのうるさい、うっとしい、それでも大好きな瑠衣の声。

『あっちか…ｯ！』

はやく会いたい。

そう思った瞬間、一筋の光が現れた。

すこしばかりオレンジがかった、明るい光。

自然と足は動く。

帰らなくちゃならない。

『ん、』
「じ、ん…？」

そこにはいつもの瑠衣の顔。

『る、い』
「起きた、のか？」

そう言って笑顔にぱっとなり変わるのは瑠衣の特技なのだろうか。

『瑠衣、泣いていいんだ』
「へ、？」

固まる瑠衣の瞳は赤く、充血していた。

「う、仁が…起きて嬉しいんだ…ｯ」

ぽろぽろと大きな雫が、明るい瞳から美しく溢れだす。

『ああ、』
「仁が庇ったとき、怖かった…ｯ」

瑠衣にしては珍しく、俺にしがみついて弱音を吐く。

『ああ、』
「◯んじゃうんじゃないかって…俺のせいで…ｯ」

瑠衣のせい、絶対にそんなことはない。

『違う、それは違う』

ああ、頭が働かない。

いい言葉が見つからない。

それでも、あの言葉だけで瑠衣には響いたらしい。

「仁が、勝ち逃げしちゃうだろ」

いつもの笑顔で、いつものようなセリフを吐く。

『お前は一生勝てねえだろ』
「はあ！？」

ぎゃーぎゃーと喧嘩が始まる。

でもそれがかけがえのない幸せだ。

「俺だって勝てるんだからな！」
『勝ったことねえだろ？』

いや、勝っている。

俺が戻ってこれたのは、瑠衣のおかげだ。

いつでも、瑠衣の方が輝いている。

でも言ってやらない。

瑠衣は俺に勝てるまでは、絶対に俺の横にいてくれると思うから。

それまでは、俺の心にしまっておこう。