「大丈夫ですか？クレカリー。あんな奴、放っておいていいんです」
「そうッスよ！無理しないでいいんっすから…！」
あー、優しい人たち。
──…ちょっと待て。
「そう？ねぇ、刀也、もう一度言ってくれる？」
「？はい、“あんな奴”放っておいていいんです…ですけど」
きょとんと不思議そうにしながらももう一度言ってくれるあたり、剣持はいい人なんだろう。
信じてもいいやもしれぬ。
それどころではないのだ。
いくら現実世界で好かれていた悪役令嬢だとしてもこれはゲームだ。
どう考えても悪役令嬢は好かれない立場でヒロインが愛される立場。
だが、今、剣持はヒロインの事をあんな奴を発言した。
ゲームでは一切なかった。
むしろ、“スタッカト様”と呼び、慕っていたはずだ。
このゲームでの悪役令嬢の味方は妖気などで悪役令嬢の本来の優しさに気づいていた伏見のみ。
しかし、何かが起きてゆっくりとゲームのストーリーからかけ離れて言っている。
それは、ヒロインが愛されるシナリオ、ではない。
悪役令嬢が愛されるシナリオになっている可能性が出てきたのだ。
──…まぁ、まだ剣持一人だ。
きっとこれから出てくる他の奴らはヒロインにデレデレだろう。





そう、思っていた日もあった。