# 完璧令嬢は悪女を演じる .
王城の広間は、きらびやかなシャンデリアの光を浴びて、まるで宝石箱をひっくり返したように輝いていた。
今日という日を迎えるまでの七年間、私はこの日のために完璧な令嬢を演じ続けてきた。
知性と教養、優雅な立ち振る舞い、そして誰をも魅了する微笑み。
全ては、今日のこの舞台のため。
腰まで伸びた艶やかな黒髪は、熟練のメイドたちの手によって一筋の乱れもなく結い上げられ、最新の流行を捉えた青いマーメイドドレスは、私の成長した肢体を美しく包み込む。
金銀の繊細な刺繍は、まるで夜空に瞬く星々のよう。
共に届けられた上質なショールは、肌触りも滑らかで、私の決意をそっと後押ししてくれるようだった。
「.........にしても、随分と素敵なドレスね。」
思わず声をかけた新米メイドのジュリアは、ぱっと顔を輝かせた。
「実は、●●様のお誕生日プレゼントとして玄関に届いてたんですよ~!」
「だけど、宛名が書いてなくて...」
くるくると変わる愛らしい表情に、張り詰めていた心がほんの少しだけ緩む。
「そう、ありがとう。」
高いヒールを履いているにも関わらず、難なく鏡の前で一回転してみせる。
遅れてふわりと揺れるドレスの裾が、まるで咲き誇る花のように優雅だった。
( 何処の誰か知らないけれど、私の最高の舞台を作るのにぴったりだわ )
踵を返し、ジュリアを見つめる。
「貴女、名前は?」
「あっ、えーと、ジュリアと申します!」
「ではジュリア、貴女を私の専属メイドに採用するわね」
「はいっ!..........えっ!?」
ジュリアは目を丸くして驚き、危うく持っていたブラシを落としそうになる。
その慌てぶりに、堪えていた笑いがこぼれた。
( ふふ、本当の私を知っても、こうして驚いてくれるのね )
完璧な令嬢の仮面の下で押し殺してきた、素の自分を曝け出せるような、そんな温かい空間が、この瞬間、確かに生まれた気がした。
広間へと続く扉が開かれる。
眩い光と共に、父であるクローディア公爵の厳格な顔が見えた。
いよいよ、私の計画が始まる。
完璧な悪女を演じきり、この退屈な運命を打ち破るための、華麗なる舞台が。
( デトワール様、覚悟はよろしくて?七年間、完璧に演じきったこの私が、あなたを盛大に破滅させて差し上げますわ。)
私は、決意を新たにし、父の腕を取り、光の中へと足を踏み出した。
満面の笑みを浮かべながら。