# 完璧令嬢は悪女を演じる .
●●が国王陛下の前で婚約解消と、それに続く忠誠の誓いを述べたという報は、あっという間に宮廷中を駆け巡った。
それは、まるで静かな湖面に投げ込まれた小石が、瞬く間に大きな波紋を広げるかのようだった。
「 〜〜 ... まさか、クローディア嬢がそこまでやるとは 」
ある日、国王執務室に続く廊下で、子爵が白く染まった髭を撫でながら、思いもしませんでしたな、と 隣の男爵夫人に囁いた。
「 ええ、本当に驚きましたわ。わたくしはてっきり、泣き崩れた末に殿下に縋るものだとばかり思っておりましたのに 」
「 それがどうです? 今度は殿下の方が顔を真っ赤にして、今も部屋に閉じこもっているとか 」
二人の視線が交錯し、薄い笑みがこぼれる。
これまで●●・クローディアという存在は、その控えめな態度から 殿下の一方的な寵愛を受けていると見られがちだった。
しかし、今回の件で、彼女に対する宮廷の評価は一変した。
「 王家との繋がりを保ち、さらに強固にする ... と。未だ20にもなっていない、あんな若い娘が、そこまで考えていたとは恐ろしい 」
別の場所では、とある侯爵が、同じ派閥の伯爵に腕を組みながら話していた。
「 リアム殿下はカローラ嬢に夢中になって、肝心の政略を怠った。その隙を、クローディア嬢が見事に突いたわけですな 」
「 うむ。クローディア家の後ろ盾は、我が国にとって非常に重要だ。それを失うことなく、むしろ彼女自身が王家への忠誠を公言した。陛下も、これを無下にはできまい 」
宮廷内の貴族たちは、表面上は平静を保ちながらも、その裏では活発な情報交換と分析が行われていた。
一つの噂が持ち上がってきたとなれば、公務などほっぽって自分の目でその噂を確かめに行くのだ。
クローディア嬢の行動は、単なる一令嬢の婚約解消という枠を超え、今後の王家の力関係、そして自身の家門の立ち位置に大きな影響を与えうると誰もが理解していた。
特に、クローディア家と繋がりを持つことを望んでいた貴族たちは、今回の展開に密かに期待を寄せていた。
一方で、殿下に近しい者たちは、彼の失態と●●の「大胆さ」に警戒心を募らせていた。
宮廷の空気は、これまでになく張り詰めていた。
●●の一手は、確かに波紋を広げた。
だが、その波紋が、穏やかなものになるのか、それとも荒波へと変わるのかは、まだ誰にも分からなかった。