# 完璧令嬢は悪女を演じる .
朝日がゆっくりと窓から差し込み、私の寝室を淡い光で満たしていく。
鳥たちのさえずりが目覚まし代わりだった。
ゆっくりと瞬きを繰り返し、重たい瞼を持ち上げる。
昨日の披露宴のことは、まるで夢だったかのように現実離れしたが、あのデトワール殿下の顔を思い出すと、やはりあれは現実なのだと再認識させられた。
ベッドサイドに置かれたベルを鳴らすと、すぐに侍女頭のセシリアが顔を出す。
「お目覚めになられましたか、お嬢様」
「ええ、セシリア。おはよう」
「おはようございます。本日は国王陛下からのお呼び出しがございますので、お早めにご準備を」
セシリアの言葉に、私の口角がふっと上がる。
予定通りだ。
冷たい水で顔を洗い、意識を完全に覚醒させる。
今日の話し合いは、私の完璧な人生計画の上での第一歩となるだろう。
着替えを手伝ってもらいながら、私は今日の段取りを頭の中で組み立てていった。
王宮に到着し部屋の扉を開けるなり、実に重苦しい雰囲気が溢れ返っていた。
( 原因は ... )
よく眠れなかったのか大きなクマが出来ているデトワール殿下と、ロミリア嬢を横目で見ながら部屋の中へと歩み席へ着く。
「 此度はこうした話し合いの機会を作っていただき誠に感謝致します、国王陛下 並びに王妃様。」
座したまま二人へ頭を下げる。
「 ... クローディア嬢、昨夜は本当にすまなかった。デトワールの軽率な行動は決して許されるものではないと承知している。」
国王陛下が深々と頭を下げてくださり、王妃様も申し訳なさそうに頷いた。
私は静かに扇を広げ、口元を隠す。
「いいえ、陛下。滅相もございません。お顔をあげてくださいませ。」
あくまで淑女として、穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
決して相手を責め立てることはせずに。
「ただ ... 私としては、婚約関係であった殿下が知らず知らずのうちに他の令嬢と密会を重ねていらしたこと、そして公衆の面前であのような振る舞いをされたことには、少々心を痛めております ... 」
わざと睫毛をふせて、しおらしい演技をしてみる。
殿下は顔を真っ赤にして何か言いたげだったが、実の父親である国王陛下の前では口も開かないようだった。
「クローディア様…誤解ですわ…!デトワール様とは本当に…っ、ただ…」
相変わらず涙の弁論だけは上手い女。
そんなものが私に通用しない事はわかっているでしょうに。
「 ... カローラ嬢、貴女がおっしゃる『 純愛 』とやらが、王家とクローディア家の間に交わされた正式な婚約を軽んじる行為であるならば、それは決して美徳とは呼べませんわ。」
私の言葉に、国王陛下と王妃様の表情が険しくなる。
特に美を愛する王妃様としては、カローラの厚顔無恥な振る舞いに辟易しているようだった。
「デトワール、お前は今回の件について どのように考えておるのだ」
国王陛下がデトワール殿下を厳しい眼差しで見つめる。
殿下は俯き、口籠る。
「私はッ…カローラを愛しています…!!」
絞り出すような声で、彼はそう宣言した。
その言葉に、カローラは顔を輝かせ、王妃様は深いため息をついた。
「デトワール、馬鹿なことを申すな。クローディア嬢との婚約は、両家の長きにわたる友好関係を強固にするためのもの。個人の感情でどうこうできるものではない。」
国王陛下が冷静に諭すが、デトワール殿下は耳を貸さない。
「しかし父上!私にはカローラしか…!」
「[太字]もうよろしい。[/太字]」
王妃様が静かに、しかし有無を言わさぬ声でデトワール殿下の言葉を遮った。
このような様子の王妃様は初めて拝見した気がする。
「クローディア嬢、この度は本当に申し訳ございませんでした。このような不祥事を起こした息子に代わり、心よりお詫び申し上げます。」
王妃様は私に深々と頭を下げた。
私は扇子を閉じ、静かに答える。
「王妃様、そのお言葉、ありがたく頂戴いたします」
私はちらりとデトワール殿下とカローラを見る。
二人とも、茫然とした顔で私たちを見つめていた。
「つきましては、国王陛下、王妃様。この場を借りて、私から一つ提案がございます」
閉じた扇をとん、と机において、私はにこやかに微笑んだ。