# 完璧令嬢は悪女を演じる .
王家と我が家クローディア家の婚約披露宴会場。
静寂に包まれた一角で、氷のように冷え切った視線をカローラへ向ける。
彼女のわざとらしい悲劇のヒロインぶりは見ていられなかったが、そんな表情は一瞬で消え去った。
「先ほど、貴女は『不誠実な関係ではない』と仰いましたね。ですが、あなたと殿下が夜に密会を開いていたのは既に私の侍女が目撃しております。学園でも、随分周囲の目を気にせずに接触なさっていたそうではありませんか。」
カローラは信じられないといった様子で私を見つめている。
(私の優秀な侍女たちを舐めないで欲しいわね。)
「それに私と殿下の婚約は、王家とクローディア家の家同士の繋がりとして、既に両家の証印を交わしているものです。」
「その理由は、お分かりいただけていますの?」
閉じた扇子の先を、ぴっと彼女に向ける。
カローラは少し戸惑った様子で殿下に腕を絡ませ、涙目で縋り付いた。
「デトワール様ぁ…っ」
「っ、カローラ…」
(あら色目なんて…噂で聞いていたけれど、本当に男好きのようね。)
開いた扇子の裏でふっと嘲笑を浮かべるものの、殿下は余裕げな私が心底気に入らないようだ。
「…●●、場をわきまえろ。カローラが怯えているのが見えないのか?」
王家の血筋である証の金色の瞳が、私を睨みつける。
残念な思考回路持ちとはいえ、彼は王族。オーラがぴりっと肌を刺激する。しかし、ただそれだけだ。
(既に婚約破棄している間柄ですのに一体何様なのかしら、この××…元婚約者様は。)
「殿下、私は現在ロミリア嬢とお話ししておりますのよ。少々お静かにお願いいたしますわ。」
皮肉たっぷりに告げると、貴族たちの間で笑いが起こり、彼の頬が熟れた林檎のように赤く染まった。
カローラはその可憐な容姿からは想像できないほど忌々しげに私を睨みつけると、殿下の式典服に皺がつくほど腕を強く握る。
すると、突如ぽろぽろと涙を流し始めた。
「クローディア様ひどい、です…っ…私たちは…”純愛”なのにっ…」
( この女は塩水生成機かなにかなのかしら…? )
一見すればいじめに見えるが、真実を知っている者なら馬鹿らしく感じただろう。
もちろん、私に嘘泣きは通用しないが、信じてしまう貴族もいる。
この嘘つき女をどう処理しようか迷っていると、殿下の父親である国王が立ち上がった。
「…クローディア嬢、集まった貴族の皆、我が息子がすまなかった。後ほど別部屋にて話をさせてくれ。」
国王陛下は私たちに頭を下げると、すぐに披露宴を中止させた。
殿下はすぐに話し合いを始めようとしたが、王妃様が「既に日も落ちており、令嬢を夜中まで連れ出すわけにはいかない」という極常識的なことをおっしゃってくださったことで、また別日に立て替えることとなった。
私は迎えの馬車に乗り込んで、ぼんやりと外の景色を眺める。
(…第一段階、クリアね。)
薄気味悪く、口角を上げた