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wolf

#19


憎しみに溢れる低い声でリンはコバルトの名前を呼んだ。


「ネオン、お前もいたのか。ちょうどいい」


駆け付けたコバルトは一瞬だけネオンに視線を向けたが、直ぐにリンに向き直した。


「リン、すまなかった」

「私に殺されに来たのか」

「キミの魔法を解きに来た!」

「魔法を解く?今更?」

「身勝手な私を許してほしい……。いや、許さなくてもいい。だけど、償いにならないかもしれないけれど、せめて魔法を解かせてほしい」


リンはコバルトの言葉を疑うように眉間にシワを寄せて目を細めた。

コバルトはリンの返事を聞く前に地面に魔法陣を描き始めた。

ネオンが学校で習うものとは比べ物にならないくらい複雑で難解で[漢字]煩瑣[/漢字][ふりがな]はんさ[/ふりがな]で……。

こんなときなのに、その魔法陣を見たネオンは改めてコバルトは魔法の天才なんだと分からされた。


「さあ、リン、この魔法陣の上に乗ってくれ」


しかし、一向に乗ろうとしないリン。
当たり前だ。


「心配はいらない。これはキミにかけられた魔法を他者に反転させて移す魔法陣なんだ」

「それなら、アナタが私の魔法を受け取りなさいよ」

「それは無理だ。私は魔法陣を発動させないといけないから。難易度も難しくて、おそらくこの街には扱える人はいない」

「それじゃあ……」


そのときネオンはコバルトが言った“ちょうどいい”の意味を理解した。

ネオンに魔法を受ける器になれ、そうコバルトは言っているのだと。

コバルトの思惑通りになるのは癪だが、


「俺に魔法を移せ」


悲しそうな顔をしているリンを見ていられなくて、ネオンは名乗りを上げた。


「さすがは俺の息子だ」


こんなときばかり息子扱いするコバルトに怒りを覚える。


「安心しろ、ネオン。反転の名の通り、リンとは違って満月の日にだけウルフになる」


そんなことはどうでもよかった。

コバルトによって狂わされた人生を送るのは自分だけで充分だ。
ただそれだけ。

ネオンは先に魔法陣へと足を踏み入れた。
それに次いでリンも乗った。


「よし、では、詠唱を始める」


コバルトは両手を魔法陣へと置き、独自の人工言語を唱え始めた。

そのわずかな間にリンはネオンにお礼を述べた。


「ありがとう……。本当にありがとう。アナタの名前は」

「ネオン……ただのネオンだ」


ニッケルの姓もネオジムの姓も捨てた。
この瞬間からネオンはただのネオンになる。

2人を眩しい光が包みこんだ。

その瞬間、ネオンからは剛毛な毛が生え、鋭い牙、爪、耳が伸び、醜いウルフへと変貌した。


「やった!やったぞ!成功だ!」


しかし、リンはコバルトの言葉など耳にせず、巨体なウルフになったネオンを抱きしめた。

そして枯れ果てたと思った目からは一筋の涙が流れた。

まるで、彼女の人生はこれから始まったことを暗示しているような。




ーーFinーー

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作者メッセージ

これにて完結です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

2024/09/30 13:04

edp ID:≫apGJHCLxK3/iQ
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