二次創作
ワース成り代わりとラブ兄
#1
※物語は原作の一年前から始まります。
[水平線]
焼き網を挟んで二人の男女が銀色に輝くトングと竹箸を持って、プレートに乗った半焼けの肉と睨み合っていた。
肉を焼く美味しそうな脂の匂いと、食欲を唆る音があたり一面に充満する。
焼肉とは戦いである。
焼きすぎたら硬くなっておいしくないし、かと言って生焼けは論外。一般的には表面に肉汁が出てきたタイミングで、焼き色がついたタイミングで裏返すといいが、二人が求めるのは更に奥深く。
肉汁が出て来て何秒で裏返すのか、焼き色はどれくらいがいいのか………効率的かつ、合理的に絶妙な焼き加減を求めている。
そんな焼肉ガチ勢の二人の探究心を止める者がいた。
「おい、何をしてやがる」
際少年で神格者に選ばれ、ウサギと弟のこと以外は節約癖が抜けない去年の神格者候補こと、レイン・エイムズ(2年生のすがた)であった。
眉間に皺を寄せ、心底理解出来ない物を見る目で二人に問いかけた。
「肉焼いてる」
ここは魔法界最高峰の魔法教育機関、イーストン魔法学校学校の中庭。間違っても肉を焼いて食べていい場所ではない。
さすが神格者選定試験まで残った男というべきか、レインの表情は凶悪犯罪者も泣いて逃げ出しそうな顔と貫禄があった。
だが、二人の男女の内、男の方はレインの様子も気にせずに「今日天気は?」と聞かれて「晴れだね」と言うような調子で答えた。その間に視線は一ミリも焼肉から動いていない。その執念はどこから来ているのだろうか……
「そうじゃない。オレが言いたいのはなぜ中庭で焼肉をしているかだ」
「だって室内でやったら二酸化炭素が籠っちゃうじゃん。あと、ただの焼肉じゃないぜ。これはこの俺ちゃんが遥々北の山脈まで行って狩ってきたアイスドラゴンの肉だぜ?とろけるような脂が乗ったかみごたえのある肉……おすすめの食べ方は王道の焼肉とステーキ。俺は食べたことないけど、クロちゃんはすき焼きにして食べても美味しいって言ってた。レインもどうよ?」
「いや、オレは……」
「別にレインが食べなくても弟くんにあげたら?」
「……弟には学食がある」
「確か中等部でしょ?そのぐらいの子にはもっと肉食べさせないと。肉だよ肉」
「(確かに、遠目で見てもフィンは痩せていたな……アイスドラゴンの肉は滋養にいいと聞くし、少し貰った方が……)」
「押されないでレイン。こいつは貴方を焼肉パーティー in 中庭に引き摺り込んで共犯にするつもりよ」
「あーっちょっと!言わないでよ!」
銀のトングを持った女の一言で、男のマシンガントークに押され気味だったレインの思考は元に戻った。なので、中庭で焼肉を頬張る二人の異常性を改めて認識し、またひとつ質問を投げかけた。
「イーストンは実験室、調理室などの部屋を除いて火器の取扱が禁止だ。それについてどう思うか、それぞれ答えろ」
「決められたものってなぜか破ってみたくなるよね☆」
「自室で耐火実験してるオルカ寮に言ってくださいな」
男の論外、女の主張は正しいが、中庭で焼肉パーティーをしていい理由にはならない。そう、ここは魔法界最高峰の魔法教育機関、イーストン魔法学校学校の中庭。間違っても肉を焼いて食べていい場所ではない。(2回目)
言うまでもないが、数秒後にパルチザンの雨が中庭に降った。
[中央寄せ]・
・
・[/中央寄せ]
「やっぱり焼肉の後はデザートがないとね」
アイスの乗ったグラスとスプーンを持って、女。もといい、クローネ・マドルは中庭が一直線上に見える東塔の窓枠に腰掛けていた。
焼肉パーティーin中庭をしている最中に[漢字]通り雨[/漢字][ふりがな]パルチザン[/ふりがな]にあったのは残念だったけど、正規のルートで買えば家ひとつ立つ程高級なアイスドラゴンの肉はしっかり回周済み。レインには見破られたが、クローネには認識阻害の魔法を掛けていたのでクローネが中庭で焼肉していたところは見られていない。精々、トキ色に髪の男が一人で焼肉そていたようにしか見えないはずだ。
それに、トキ色の髪の男____まぁクローネの悪友と言えるメロ・キュートとレイン・エイムズがアレだけ暴れているんだ。焼肉の件もあやふやになってお説教&反省文コースは避けられるので、結果は上々だろう。
ドッタン、バッタン、ドドドド、ガガガガ
擬音にするならこの辺だろうか?ともかく中庭からは凄まじい音と煙が上がっていた。レインとメロは去年の神格者選定試験の最後まで残った実力者達だ。そんな二人の喧嘩を並の教職員が止められる訳もなく、争いはドンドン激しくなっていく。
「さて、いつまでつづくのかしら」っと、他人事のように呟いてから、クローネは金のスプーンでアイスを掬って口の中に入れた。
冷たさと、ミルク由来の優しい甘さが口内に残った肉の脂を攫っていく。やっぱり焼肉の後にはデザートがないと。
アイスクリーム片手に去年の神格者候補者たちの戦いを観戦していると、足音が響いた。
クローネは足音でその人物が誰なのか判別出来るというルパ⚫︎三世のようなことが出来るので、誰が来たかを考える必要はない。考えなければいけないのは何故来たのか。
西塔はあまり使われておらず、最近は物置きと化していたので人通りは殆どない。
じゃあ、物置きにある道具を取りに来た?
違う、違う。物置きになっているのは西塔の1〜2階まで。クローネがいるのは4階。ここまで来る必要はないし、この足音の持ち主はレアン寮で幅を利かせてると噂のアベル・ウォーカー(2年生のすがた)のもの。そんな雑用を任されていい人間ではない。
では、何故?
その答えが出る前にアベルは窓枠に腰掛けたままのクローネに現れた。
「ごきげんようアベル。どうしてまた貴方みたいな人がこんな埃っぽい所いるのかいしら」
「ご機嫌ようクローネ。その言葉はそっくりそのまま君に返そう」
「あら、私はあの戦いの野次をしてるだけよ。で、貴方は?」
癖のある黒髪を後ろに流し、職人が丹精込めて作った美しい顔に微笑みを浮かべる様子は上流階級特有の気品がある。しかし、口にした言葉は案外俗っぽい。
普通の令嬢なら決闘などの血が出る争いごとは見ることすら避けるのに、クローネは貴族の中でもそれなりの地位にあるマドル家の令嬢でありながら戦いを好む。
戦闘狂のような言い方だが、実際そうだった。無益な争いこそ避けるが、必要もしくは面白そうな争いなら嬉々と杖と箒を持って参戦しに行くのがクローネ・マドルという人物だった。
過去に行われた血で血を洗う校内抗争、別名「チキチキ☆イーストンバトルロワイアル」でクローネ(と、メロ)に振り回されたアベルとアビスが言うんだ、間違いない。
「僕は野次をしている君を勧誘しに来ただけだ」
「ああ、この前お会いした時も言ってましたわね……確か、マギー一門だったかしら」
「[漢字]七魔牙[/漢字][ふりがな]マギアルプス[/ふりがな]だ。最初の2文字しか合ってないね」
「失礼、興味がないものは覚えられない[漢字]質[/漢字][ふりがな]たち[/ふりがな]でして。前にも言ったと思いますが、私は」
「“特に現状に不満はない。それに、誰にも縛られずに自由で居たい”、だったかな」
「覚えてるのね。なら尚更勧誘する意味が無いわ」
「意味はあるさ。君の力があれば神格者となり、世界を変えるのは容易い」
「だから私を勧誘するって?」
アベルの野望は神格者となり、魔法が使えない者やその他落ちこぼれといった「劣等遺伝子」と称する者たちや、彼らを庇う人間全て処分し切り捨て、弱き者は淘汰され、強き者は栄える弱肉強食の魔法社会を作ること。
その根底には自身の母の死が絡んでいることをクローネは見抜いていたが、同情で力を貸すほど甘くは無い。
クローネは現状に不満はないし、一つの場所に留まるのは嫌だった。
それに、世界を変えるには自分を変えなければならない。と、いうのがクローネの自論なので、自分を変えずに他者の力で世界を変えようなどと考えるアベルはどうも________
「理解できないわ」
「なんだって?」
「理解できないと言ったのよ。私と貴方とでは価値観がまるで違うの。だから理解できない。いくら寄り添い合いが大事だと言っても、無理したらダメだと私は思ってるの」
礼儀作法など知らないと、言うばかりにスプーンに付いたアイスをペロリと舐める仕草は、乱雑なものなのに妙に艶めかしく、色っぽかった。
「それに、貴方には特に魅力は感じないの」
「それは……………………困ったね。どうしたら魅力を感じて貰えるだろうか」
「これでも諦めなかったのは貴方で二人目よ。おめでとう」
「ありがとう?」
「褒めてないわ。しつこいって言ってるの」
天然なのか、嫌味が通じないアベルにクローネはため息を吐いた。
そしていつの間にか取り出した真紅の杖を一振り。クローネの持っていたアイスクリームとスプーンは消えた。
「何度も言っているけど、私は[漢字]七魔牙[/漢字][ふりがな]マギアルプス[/ふりがな]には入らないわ。他をあたりなさい」
顔に掛かった髪をかき上げ、クローネはするりとアベルの横を通り過ぎた。
アベルもクローネの後を追うことはない。なぜなら中等部のときに居たクローネのストーカーの末路を知っているから。
あれは本当に酷かった………
なんせストーカーは胴体を樽に変えて高速で転がし続けた後に、樽に爆薬を詰められて黒髭危機一髪(人間版)をされたんだから。幸い、ストーカーは体は元に戻ったし、傷一つ無かった。が、代わりに服を吹っ飛ばされて全裸で湖に放り込まれていた。しかも、その写真を校外にばら撒かれたせいで学校は退学、家は没落という散々な末路だ。
それから彼女を必要以上に追いかけることは生徒どころか教師もしない。いわゆる、イーストンの暗黙の了解となった。
[水平線]
焼き網を挟んで二人の男女が銀色に輝くトングと竹箸を持って、プレートに乗った半焼けの肉と睨み合っていた。
肉を焼く美味しそうな脂の匂いと、食欲を唆る音があたり一面に充満する。
焼肉とは戦いである。
焼きすぎたら硬くなっておいしくないし、かと言って生焼けは論外。一般的には表面に肉汁が出てきたタイミングで、焼き色がついたタイミングで裏返すといいが、二人が求めるのは更に奥深く。
肉汁が出て来て何秒で裏返すのか、焼き色はどれくらいがいいのか………効率的かつ、合理的に絶妙な焼き加減を求めている。
そんな焼肉ガチ勢の二人の探究心を止める者がいた。
「おい、何をしてやがる」
際少年で神格者に選ばれ、ウサギと弟のこと以外は節約癖が抜けない去年の神格者候補こと、レイン・エイムズ(2年生のすがた)であった。
眉間に皺を寄せ、心底理解出来ない物を見る目で二人に問いかけた。
「肉焼いてる」
ここは魔法界最高峰の魔法教育機関、イーストン魔法学校学校の中庭。間違っても肉を焼いて食べていい場所ではない。
さすが神格者選定試験まで残った男というべきか、レインの表情は凶悪犯罪者も泣いて逃げ出しそうな顔と貫禄があった。
だが、二人の男女の内、男の方はレインの様子も気にせずに「今日天気は?」と聞かれて「晴れだね」と言うような調子で答えた。その間に視線は一ミリも焼肉から動いていない。その執念はどこから来ているのだろうか……
「そうじゃない。オレが言いたいのはなぜ中庭で焼肉をしているかだ」
「だって室内でやったら二酸化炭素が籠っちゃうじゃん。あと、ただの焼肉じゃないぜ。これはこの俺ちゃんが遥々北の山脈まで行って狩ってきたアイスドラゴンの肉だぜ?とろけるような脂が乗ったかみごたえのある肉……おすすめの食べ方は王道の焼肉とステーキ。俺は食べたことないけど、クロちゃんはすき焼きにして食べても美味しいって言ってた。レインもどうよ?」
「いや、オレは……」
「別にレインが食べなくても弟くんにあげたら?」
「……弟には学食がある」
「確か中等部でしょ?そのぐらいの子にはもっと肉食べさせないと。肉だよ肉」
「(確かに、遠目で見てもフィンは痩せていたな……アイスドラゴンの肉は滋養にいいと聞くし、少し貰った方が……)」
「押されないでレイン。こいつは貴方を焼肉パーティー in 中庭に引き摺り込んで共犯にするつもりよ」
「あーっちょっと!言わないでよ!」
銀のトングを持った女の一言で、男のマシンガントークに押され気味だったレインの思考は元に戻った。なので、中庭で焼肉を頬張る二人の異常性を改めて認識し、またひとつ質問を投げかけた。
「イーストンは実験室、調理室などの部屋を除いて火器の取扱が禁止だ。それについてどう思うか、それぞれ答えろ」
「決められたものってなぜか破ってみたくなるよね☆」
「自室で耐火実験してるオルカ寮に言ってくださいな」
男の論外、女の主張は正しいが、中庭で焼肉パーティーをしていい理由にはならない。そう、ここは魔法界最高峰の魔法教育機関、イーストン魔法学校学校の中庭。間違っても肉を焼いて食べていい場所ではない。(2回目)
言うまでもないが、数秒後にパルチザンの雨が中庭に降った。
[中央寄せ]・
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「やっぱり焼肉の後はデザートがないとね」
アイスの乗ったグラスとスプーンを持って、女。もといい、クローネ・マドルは中庭が一直線上に見える東塔の窓枠に腰掛けていた。
焼肉パーティーin中庭をしている最中に[漢字]通り雨[/漢字][ふりがな]パルチザン[/ふりがな]にあったのは残念だったけど、正規のルートで買えば家ひとつ立つ程高級なアイスドラゴンの肉はしっかり回周済み。レインには見破られたが、クローネには認識阻害の魔法を掛けていたのでクローネが中庭で焼肉していたところは見られていない。精々、トキ色に髪の男が一人で焼肉そていたようにしか見えないはずだ。
それに、トキ色の髪の男____まぁクローネの悪友と言えるメロ・キュートとレイン・エイムズがアレだけ暴れているんだ。焼肉の件もあやふやになってお説教&反省文コースは避けられるので、結果は上々だろう。
ドッタン、バッタン、ドドドド、ガガガガ
擬音にするならこの辺だろうか?ともかく中庭からは凄まじい音と煙が上がっていた。レインとメロは去年の神格者選定試験の最後まで残った実力者達だ。そんな二人の喧嘩を並の教職員が止められる訳もなく、争いはドンドン激しくなっていく。
「さて、いつまでつづくのかしら」っと、他人事のように呟いてから、クローネは金のスプーンでアイスを掬って口の中に入れた。
冷たさと、ミルク由来の優しい甘さが口内に残った肉の脂を攫っていく。やっぱり焼肉の後にはデザートがないと。
アイスクリーム片手に去年の神格者候補者たちの戦いを観戦していると、足音が響いた。
クローネは足音でその人物が誰なのか判別出来るというルパ⚫︎三世のようなことが出来るので、誰が来たかを考える必要はない。考えなければいけないのは何故来たのか。
西塔はあまり使われておらず、最近は物置きと化していたので人通りは殆どない。
じゃあ、物置きにある道具を取りに来た?
違う、違う。物置きになっているのは西塔の1〜2階まで。クローネがいるのは4階。ここまで来る必要はないし、この足音の持ち主はレアン寮で幅を利かせてると噂のアベル・ウォーカー(2年生のすがた)のもの。そんな雑用を任されていい人間ではない。
では、何故?
その答えが出る前にアベルは窓枠に腰掛けたままのクローネに現れた。
「ごきげんようアベル。どうしてまた貴方みたいな人がこんな埃っぽい所いるのかいしら」
「ご機嫌ようクローネ。その言葉はそっくりそのまま君に返そう」
「あら、私はあの戦いの野次をしてるだけよ。で、貴方は?」
癖のある黒髪を後ろに流し、職人が丹精込めて作った美しい顔に微笑みを浮かべる様子は上流階級特有の気品がある。しかし、口にした言葉は案外俗っぽい。
普通の令嬢なら決闘などの血が出る争いごとは見ることすら避けるのに、クローネは貴族の中でもそれなりの地位にあるマドル家の令嬢でありながら戦いを好む。
戦闘狂のような言い方だが、実際そうだった。無益な争いこそ避けるが、必要もしくは面白そうな争いなら嬉々と杖と箒を持って参戦しに行くのがクローネ・マドルという人物だった。
過去に行われた血で血を洗う校内抗争、別名「チキチキ☆イーストンバトルロワイアル」でクローネ(と、メロ)に振り回されたアベルとアビスが言うんだ、間違いない。
「僕は野次をしている君を勧誘しに来ただけだ」
「ああ、この前お会いした時も言ってましたわね……確か、マギー一門だったかしら」
「[漢字]七魔牙[/漢字][ふりがな]マギアルプス[/ふりがな]だ。最初の2文字しか合ってないね」
「失礼、興味がないものは覚えられない[漢字]質[/漢字][ふりがな]たち[/ふりがな]でして。前にも言ったと思いますが、私は」
「“特に現状に不満はない。それに、誰にも縛られずに自由で居たい”、だったかな」
「覚えてるのね。なら尚更勧誘する意味が無いわ」
「意味はあるさ。君の力があれば神格者となり、世界を変えるのは容易い」
「だから私を勧誘するって?」
アベルの野望は神格者となり、魔法が使えない者やその他落ちこぼれといった「劣等遺伝子」と称する者たちや、彼らを庇う人間全て処分し切り捨て、弱き者は淘汰され、強き者は栄える弱肉強食の魔法社会を作ること。
その根底には自身の母の死が絡んでいることをクローネは見抜いていたが、同情で力を貸すほど甘くは無い。
クローネは現状に不満はないし、一つの場所に留まるのは嫌だった。
それに、世界を変えるには自分を変えなければならない。と、いうのがクローネの自論なので、自分を変えずに他者の力で世界を変えようなどと考えるアベルはどうも________
「理解できないわ」
「なんだって?」
「理解できないと言ったのよ。私と貴方とでは価値観がまるで違うの。だから理解できない。いくら寄り添い合いが大事だと言っても、無理したらダメだと私は思ってるの」
礼儀作法など知らないと、言うばかりにスプーンに付いたアイスをペロリと舐める仕草は、乱雑なものなのに妙に艶めかしく、色っぽかった。
「それに、貴方には特に魅力は感じないの」
「それは……………………困ったね。どうしたら魅力を感じて貰えるだろうか」
「これでも諦めなかったのは貴方で二人目よ。おめでとう」
「ありがとう?」
「褒めてないわ。しつこいって言ってるの」
天然なのか、嫌味が通じないアベルにクローネはため息を吐いた。
そしていつの間にか取り出した真紅の杖を一振り。クローネの持っていたアイスクリームとスプーンは消えた。
「何度も言っているけど、私は[漢字]七魔牙[/漢字][ふりがな]マギアルプス[/ふりがな]には入らないわ。他をあたりなさい」
顔に掛かった髪をかき上げ、クローネはするりとアベルの横を通り過ぎた。
アベルもクローネの後を追うことはない。なぜなら中等部のときに居たクローネのストーカーの末路を知っているから。
あれは本当に酷かった………
なんせストーカーは胴体を樽に変えて高速で転がし続けた後に、樽に爆薬を詰められて黒髭危機一髪(人間版)をされたんだから。幸い、ストーカーは体は元に戻ったし、傷一つ無かった。が、代わりに服を吹っ飛ばされて全裸で湖に放り込まれていた。しかも、その写真を校外にばら撒かれたせいで学校は退学、家は没落という散々な末路だ。
それから彼女を必要以上に追いかけることは生徒どころか教師もしない。いわゆる、イーストンの暗黙の了解となった。
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