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車に、感謝を。

#1

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「この車、今週には売る。」
母から意外な言葉が出た。
売る……
私は困惑した。
だって急に言われたから。

私の家には10年以上乗っている車がある。

前から売るという話はしていたが、まさか今週に売るなんて思っていなかった。
まだ心の準備ができていない。

私は悲しくなった。
今まで一緒だった車。だけどもう、一緒にいられなくなるなんて。
ものすごく遠くまで行った。車の中で寝たり、検定の会場に行ったり……
そんな思い出がぎゅっと詰まった車。

家族は何とも思わないのだろうか。
普通に生活している。



「行ってきます」
今日は学校だ。家を出て、車に目をやった。
そこにはボロボロになった車がある。その傷跡は10年間乗り続けた証だと私は思った。
今日はいつもと違う。
明日であの車を売ってしまうからだ。
少し悲しい。

だけどそんなことはどうでもいい。あの1日残っているのだから。
私はそう思い、ゲームをした。


寝る前、私は仰向けになり、ぼーっとしていた。
あの車を売る……
実感できない。
だけど悲しいことは分かっている。


思い出が蘇ってくる。

「緊張する……」
私は後部座席に座っている。
「大丈夫。きっとできるよ。頑張れ!」
母が応援してくれる。

雨の中、試験会場に向かった。

「ただいま……」
まだ雨は止んでいない。
「お疲れ様。どうだった?」
「難しかった。」
私が落ち込んでる。
すると、
「はい、ご褒美。」
父が言った。
もらったのは私が好きなお菓子だった。
「ありがとう。」




「うわ、危なっ」
咄嗟にハンドルを切る。
キキーッ!
映画で車のハンドルを切る時でよく聞く音がした。
「え……」
私は驚いた。
私の身体はとても震えていて、涙が頬を伝っていた。
車も私達も無傷だった。
あの時、ハンドルを切っていなかったら……
その時、私はそう思った。



楽しいことも、不安なことも、怖かったことも沢山あった。
その車に深く刻まれている。
私にとっては宝物だ。

深く考えるととても悲しくなる。
涙が出てくる。

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2024/09/16 22:57

貴志柚夏 ID:≫96wmVG3mf6twQ
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