ワンダフル・タイムズ!
side 梶谷 知利
オレは教室でぼーっとしていた。今は休憩時間。騒いで遊んでしまってもいいというのに、なんだか面倒で身体が動かない。あまり感じない感覚で少し興味が湧いていたところに、視界の端にて見慣れた顔が映った。
「なにしてるんだ? 知利。」
茶色の癖毛のマッシュヘアに、翠の瞳。オレの先輩で幼馴染の[漢字]狛犬[/漢字][ふりがな]こまい[/ふりがな] [漢字]如月[/漢字][ふりがな]きさらぎ[/ふりがな]。オレの知る限りで最も知識欲があるが、ビビリでリスクを恐れすぎる。そういう人間は嫌いではないが、面白くはない。
「なんだ? 如月。」
そう質問するが、如月は「うーん。」と考え込んだ直後、自分の机の椅子に座っていたオレに対して笑い飛ばすように見下ろしながら言った。見下ろされる体制というものが、見下されているような気がして、あまり気分は良いものとは言えない。
「だってさ、浮かない顔してるし。お前みたいなポジティブ前向き鬼野心野郎がそんな顔するの似合わねえよ。それこそ心配になるぜ。」
いつものちょっとした毒舌を吐きながらオレの机に腰掛けた。毒を吐かれるごときでは心が傷つきやしないが、多少は不快というもの。
「…いや、何もない。あまり深掘りしないでくれないか。」
「そんなこと言われたら更にボクが気になってしまうこと、お前は知っているだろう? なのに誤魔化すのはなぜだ? 意味のないことだというのに。」
こいつの好奇心を煽ってしまった。まずいと思いつつもこんな面倒くさい状況を切り抜ける術をオレは知らない。如月のことだ、明日にでも独自に調査をしたり聞き回ったりするだろう。オレに関しての変な噂を流されてしまってはたまらない。
「話してやるよ。だが口外禁止だぜ? そこら辺は理解しているよなァ?」
呆れたように言うと、如月は大きく笑ってガッツポーズをしてからオレと目を合わせるように机から降りた。
「わーってるわーってる。さっさと話せよ。うきうきが止まらねえな!」
オレは重い口をなんとか動かして、語り始める。
「…いや、実は…下級生に興味が湧いたんだ。」
「なんだてめー、恋愛相談か? 面白そうだな。早く聞かせろ。」
「違う。」
その一言だけで一瞬で断定してしまう如月は中々に鬱陶しい。決めつけられるのはオレの最も嫌いな事のひとつ。少し頭に来たオレは反抗するように如月に言葉を返す。
「そもそもオレが他人を好きになると思っているのか? 長年一緒にいるが…てめーがそんな感の悪いマヌケだとは思わなかったぜ。」
「ジョーダンだろうが。そこまで頭が回らねえのか? マヌケはきさまの方だ。こんな少し考えれば分かるような冗談に引っかかってしまうのがお前の残念な所だな。」
多少お互いを弄び合った後、仕切り直す為にため息をひとつ吐いてからまたオレは話始めた。怒りは多少残っているが、話が長引くのは嫌いで、だからそれを今の場で発散するべきではないとオレは判断した。
「えーっと…話題…何だったかな…あ、そうか。下級生…そいつの名前は…確か…[太字]青野 清花[/太字]だったかな。確かそいつだ。外見は…女で、ロングヘアの青い髪色をしていた記憶がある。あんまり、気にする事も無かったし…話しかける事もなかったからな。面白くねー奴だと思ってたが…あいつは何だかオレが気にいるような雰囲気を持っているんだ。オレの本性を暴いたのかは知らないが…そーいう事を見抜く力を持ってる気がするんだ。オレの感だぜ? 気にする事はねェと思うが…今度からも話しかけてやろうかな。『自分はいい人です。』みてーなオーラがぷんぷんしやがる。もしかしたらそんな事は無いのかもだが…そんな事無くても面白い奴だぜ。最近オレが気に入ったか気になった奴もう一人目だ。」
話を終わらせ、ひと段落ついたかと思えば如月がまた首を突っ込んでくる。わくわくしたような表情で、「それ誰だ? 話せ。」と身を乗り出しオレに訊いてきた。
「まだそいつの事がよく分かってねえ。すれ違った時に珍しい髪色してやがったから興味が湧いただけだ。まだ話してねえよ。話しかけても無駄な気がしてな。あいつみたいなのは初めて見たぜ。」
そいつの後ろ姿と顔を多少思い出しながら言う。初日に出会ったばかりで、あまり上手く顔も思い出せないが、女性的な顔立ちをしている事だけは覚えている。
「へえ、お前が第一印象だけでそんな語るような野郎、中々いないだろ? 話しかけて進展あったら教えてくれよ。そうしたらボクもそいつに話しかけに行きたいんだ。」
いつもの好奇心が強い姿を見せた直後、飽きてしまったのかとっとっとっ、と小走りでオレがいる教室を去ってしまった。
「何だか…腑抜けたなァ。」
元気がある背後を見つめながら、オレは不貞寝する為に自分の机に顔を埋める。そして、少し疑問に近い、自分でもよく分からないような想いを抱えながら眠りについた。
side 犬飼 如月
もう放課後。ボクはとある目的があった。それは、あいつが気に入ったと言わせるほどの人間。見ずに時を過ごすのは気になって夜も眠れない。そんな疑問、ボクの性からすればその好奇心を満たさなければいけないのだ。二年二組に向かってみると、窓際に突っ立ってぼーっと外を眺めている少女がいる。彼女の髪色はもちろんのように水色だ。
「…なあ。お前。名前…青野清花か?」
いきなり背後から忍び寄ってきたせいか、青野の肩がびくりと跳ねる。そしてくるりとこちらに振り向き、首を傾げた。
「そうですけど…何でしょうか?」
先ほどまで上の空だったからか、少しまだぽけーっとしている。外を眺めて妄想に耽るのがこいつの趣味かもしれないが、十中八九知利の事であろう。そんな思い悩むほどショックを受けてしまった青野に話すのは気が引けるが、背に腹はかえられない。ボクは青野に訊く。
「多分…知っているとは思うんだが、梶谷知利という名前を知っているか?」
梶谷知利、という名を出した瞬間彼女の血の気が引いていった。明らかに青ざめているだろうと言えるほど。事情を知らないどこかの誰かが見たら病人なんじゃないかと勘違いしてしまうだろう。
「…その様子だと、知っているらしいな。どうだ、愚痴でも何でもいいから話してみろよ。それとも他人には話したくないか?」
暫くの沈黙で、青野は口を開けたり閉めたりしながら話すという行為が出来ずに踏みとどまっているようだ。そして、少しがらがらになった声で青野は話し始める。
「………えっと、彼は…梶谷さんは、私が落としたハンカチを拾ってくれたんです。それが出会いでした…以前まで、あまり交流が無く…お互いに、顔と名前だけは知っているような状況が暫く続いていました。」
「それで…梶谷さんの裏の顔を見てしまったんです。ショック、というか…傷ついたというか…あの一言、今でも鮮明に思い出せます。彼は『チッ、面倒だなァ…。』と言ったんです。前までは、いい人、というか爽やかな人だなと思っていたんですが、そんな一面を持っていたと知らず、ショックを受けてしまったんです。」
青野は目を伏せ俯き、制服のスカートをぎゅっと握りながら息苦しそうにそう話す。これが事の顛末だったのか、もう青野は口を開く事が無かった。これ以上話の続きを待つ事無くボクは賛同する為に口を開く。
「あー…あいつ、いい人を演じるのは得意なんだ。あいつそういうとこあるよな。分かるぜあの万年反抗期野郎。」
「…あなたも、被害者ですか?」
「ンー…被害者、というよりはいつも小突き合ってる幼馴染に近いかな。あいつは昔っからそうだったんだ。小学生の頃から暴力沙汰起こして怒られてばっかだったな。だけど、高学年頃になるともうそれはやめたんだ。先生も親も喜んだらしい。だが、あの芯がありすぎるあいつがアッサリと改心する事はなかった。まだあんなどす黒い精神は健在だったんだよ。それが今も続いてる。あの恐ろしい程のハングリー精神と強靭なメンタル…余程の物好きかボクじゃねーとあいつと友達やら親友になんてなれねえよ。」
暫く語った後、青野の顔が少し明るくなった。ボクは更に言葉を続ける。青野を安心させる為、というよりかは[太字]より、もっと知利の謎に包まれたベールを剥がす為。[/太字]
「よかったら…これからもあいつに関してのお悩み相談教室になってやろうか? あいつとは幼馴染なんでな…好き嫌いとかならだいぶ握ってるぜ。まあ、弱点はそれでも見せてくれないんだがな…威風堂々としてるし、隙とかが全くねえ。そういうのを徹底してるからこそあいつの闇は隠し通せてる、つまりいい人を演じ続けられているって事だ。お前も、あの時にあいつの独り言を聞かなけりゃああいつの一面を知らないままだっただろう?」
「…確かに、そうですね。私…あの時、ハンカチを拾ってくれなかったら、もっと周囲がうるさかったら、私の耳が悪かったら…こんな悩まず、梶谷さんへの認識がいい人止まりだったかもしれません。」
「そうだろ? それほどあいつは演じるのが得意なんだ。誰よりも得意。あいつにわざとらしさっつーものは微塵も感じられない。折角活かせるような演劇部に入ればいいのに、あいつ自体は美術部なんだからびっくりしちまうよな。まァ、その演技力を見せる事すら弱点を晒したと感じちまうんだろうよ。誰もそんな事、思いやしねえのにな。それにしてもあいつ、ハングリー精神はえげつないし、目立つ事も嫌いじゃないはずなんだが…それはあいつともっと友好関係を深めてからだな。」
一通り話終わった直後、一番大切な事を伝えるのを忘れてしまっていた。この約束を取り決めなければ。下手したら生命活動に支障が出てしまうか生命活動が終わってしまうようなほどの事だというのに、忘れてしまっては本末転倒になる。
「あ、この事は口外禁止だぜ? 口外しちまったら、知利が聞きつけてしまえばお前もボクもどんな目に遭わされるか分からないしな。」
「はいっ!」
話が始まり最初の頃よりは明るい顔になった青野は、まだ少し不器用で不自然でもあるが、だがほんのりとした微笑んだ顔を見せてくれた。
「おっ、生きてるって感じの顔してんじゃねーか。だいぶいい顔になったぜ。」
「ありがとうございます! 狛犬先輩!!」
「声も張れるようになってる。気を取り戻せたようだなァ。」
更に嬉しそうに笑顔になった清花はそうボクに言葉を投げかける。ボクはけらけらと笑って青野に反応を返す。こんな事で連絡先を教えてくれるだなんて、中々にチョロいのかそれほど悩んでいたのだろう。友好関係は広く浅く、そう保つのは得意だ。誰かひとりのNo.1じゃなくみんなのNo.2No.3。知利は依存せず一匹狼の姿勢を保っているからいいのだが、元々依存気質の野郎に依存され自由を奪われるのは大嫌いで、こいつのNo.1にならぬよう適度な距離感を掴み距離を置いておかなければならない。そうでなければ、このボクの自由と一人の時間が制限されてしまう。
オレは教室でぼーっとしていた。今は休憩時間。騒いで遊んでしまってもいいというのに、なんだか面倒で身体が動かない。あまり感じない感覚で少し興味が湧いていたところに、視界の端にて見慣れた顔が映った。
「なにしてるんだ? 知利。」
茶色の癖毛のマッシュヘアに、翠の瞳。オレの先輩で幼馴染の[漢字]狛犬[/漢字][ふりがな]こまい[/ふりがな] [漢字]如月[/漢字][ふりがな]きさらぎ[/ふりがな]。オレの知る限りで最も知識欲があるが、ビビリでリスクを恐れすぎる。そういう人間は嫌いではないが、面白くはない。
「なんだ? 如月。」
そう質問するが、如月は「うーん。」と考え込んだ直後、自分の机の椅子に座っていたオレに対して笑い飛ばすように見下ろしながら言った。見下ろされる体制というものが、見下されているような気がして、あまり気分は良いものとは言えない。
「だってさ、浮かない顔してるし。お前みたいなポジティブ前向き鬼野心野郎がそんな顔するの似合わねえよ。それこそ心配になるぜ。」
いつものちょっとした毒舌を吐きながらオレの机に腰掛けた。毒を吐かれるごときでは心が傷つきやしないが、多少は不快というもの。
「…いや、何もない。あまり深掘りしないでくれないか。」
「そんなこと言われたら更にボクが気になってしまうこと、お前は知っているだろう? なのに誤魔化すのはなぜだ? 意味のないことだというのに。」
こいつの好奇心を煽ってしまった。まずいと思いつつもこんな面倒くさい状況を切り抜ける術をオレは知らない。如月のことだ、明日にでも独自に調査をしたり聞き回ったりするだろう。オレに関しての変な噂を流されてしまってはたまらない。
「話してやるよ。だが口外禁止だぜ? そこら辺は理解しているよなァ?」
呆れたように言うと、如月は大きく笑ってガッツポーズをしてからオレと目を合わせるように机から降りた。
「わーってるわーってる。さっさと話せよ。うきうきが止まらねえな!」
オレは重い口をなんとか動かして、語り始める。
「…いや、実は…下級生に興味が湧いたんだ。」
「なんだてめー、恋愛相談か? 面白そうだな。早く聞かせろ。」
「違う。」
その一言だけで一瞬で断定してしまう如月は中々に鬱陶しい。決めつけられるのはオレの最も嫌いな事のひとつ。少し頭に来たオレは反抗するように如月に言葉を返す。
「そもそもオレが他人を好きになると思っているのか? 長年一緒にいるが…てめーがそんな感の悪いマヌケだとは思わなかったぜ。」
「ジョーダンだろうが。そこまで頭が回らねえのか? マヌケはきさまの方だ。こんな少し考えれば分かるような冗談に引っかかってしまうのがお前の残念な所だな。」
多少お互いを弄び合った後、仕切り直す為にため息をひとつ吐いてからまたオレは話始めた。怒りは多少残っているが、話が長引くのは嫌いで、だからそれを今の場で発散するべきではないとオレは判断した。
「えーっと…話題…何だったかな…あ、そうか。下級生…そいつの名前は…確か…[太字]青野 清花[/太字]だったかな。確かそいつだ。外見は…女で、ロングヘアの青い髪色をしていた記憶がある。あんまり、気にする事も無かったし…話しかける事もなかったからな。面白くねー奴だと思ってたが…あいつは何だかオレが気にいるような雰囲気を持っているんだ。オレの本性を暴いたのかは知らないが…そーいう事を見抜く力を持ってる気がするんだ。オレの感だぜ? 気にする事はねェと思うが…今度からも話しかけてやろうかな。『自分はいい人です。』みてーなオーラがぷんぷんしやがる。もしかしたらそんな事は無いのかもだが…そんな事無くても面白い奴だぜ。最近オレが気に入ったか気になった奴もう一人目だ。」
話を終わらせ、ひと段落ついたかと思えば如月がまた首を突っ込んでくる。わくわくしたような表情で、「それ誰だ? 話せ。」と身を乗り出しオレに訊いてきた。
「まだそいつの事がよく分かってねえ。すれ違った時に珍しい髪色してやがったから興味が湧いただけだ。まだ話してねえよ。話しかけても無駄な気がしてな。あいつみたいなのは初めて見たぜ。」
そいつの後ろ姿と顔を多少思い出しながら言う。初日に出会ったばかりで、あまり上手く顔も思い出せないが、女性的な顔立ちをしている事だけは覚えている。
「へえ、お前が第一印象だけでそんな語るような野郎、中々いないだろ? 話しかけて進展あったら教えてくれよ。そうしたらボクもそいつに話しかけに行きたいんだ。」
いつもの好奇心が強い姿を見せた直後、飽きてしまったのかとっとっとっ、と小走りでオレがいる教室を去ってしまった。
「何だか…腑抜けたなァ。」
元気がある背後を見つめながら、オレは不貞寝する為に自分の机に顔を埋める。そして、少し疑問に近い、自分でもよく分からないような想いを抱えながら眠りについた。
side 犬飼 如月
もう放課後。ボクはとある目的があった。それは、あいつが気に入ったと言わせるほどの人間。見ずに時を過ごすのは気になって夜も眠れない。そんな疑問、ボクの性からすればその好奇心を満たさなければいけないのだ。二年二組に向かってみると、窓際に突っ立ってぼーっと外を眺めている少女がいる。彼女の髪色はもちろんのように水色だ。
「…なあ。お前。名前…青野清花か?」
いきなり背後から忍び寄ってきたせいか、青野の肩がびくりと跳ねる。そしてくるりとこちらに振り向き、首を傾げた。
「そうですけど…何でしょうか?」
先ほどまで上の空だったからか、少しまだぽけーっとしている。外を眺めて妄想に耽るのがこいつの趣味かもしれないが、十中八九知利の事であろう。そんな思い悩むほどショックを受けてしまった青野に話すのは気が引けるが、背に腹はかえられない。ボクは青野に訊く。
「多分…知っているとは思うんだが、梶谷知利という名前を知っているか?」
梶谷知利、という名を出した瞬間彼女の血の気が引いていった。明らかに青ざめているだろうと言えるほど。事情を知らないどこかの誰かが見たら病人なんじゃないかと勘違いしてしまうだろう。
「…その様子だと、知っているらしいな。どうだ、愚痴でも何でもいいから話してみろよ。それとも他人には話したくないか?」
暫くの沈黙で、青野は口を開けたり閉めたりしながら話すという行為が出来ずに踏みとどまっているようだ。そして、少しがらがらになった声で青野は話し始める。
「………えっと、彼は…梶谷さんは、私が落としたハンカチを拾ってくれたんです。それが出会いでした…以前まで、あまり交流が無く…お互いに、顔と名前だけは知っているような状況が暫く続いていました。」
「それで…梶谷さんの裏の顔を見てしまったんです。ショック、というか…傷ついたというか…あの一言、今でも鮮明に思い出せます。彼は『チッ、面倒だなァ…。』と言ったんです。前までは、いい人、というか爽やかな人だなと思っていたんですが、そんな一面を持っていたと知らず、ショックを受けてしまったんです。」
青野は目を伏せ俯き、制服のスカートをぎゅっと握りながら息苦しそうにそう話す。これが事の顛末だったのか、もう青野は口を開く事が無かった。これ以上話の続きを待つ事無くボクは賛同する為に口を開く。
「あー…あいつ、いい人を演じるのは得意なんだ。あいつそういうとこあるよな。分かるぜあの万年反抗期野郎。」
「…あなたも、被害者ですか?」
「ンー…被害者、というよりはいつも小突き合ってる幼馴染に近いかな。あいつは昔っからそうだったんだ。小学生の頃から暴力沙汰起こして怒られてばっかだったな。だけど、高学年頃になるともうそれはやめたんだ。先生も親も喜んだらしい。だが、あの芯がありすぎるあいつがアッサリと改心する事はなかった。まだあんなどす黒い精神は健在だったんだよ。それが今も続いてる。あの恐ろしい程のハングリー精神と強靭なメンタル…余程の物好きかボクじゃねーとあいつと友達やら親友になんてなれねえよ。」
暫く語った後、青野の顔が少し明るくなった。ボクは更に言葉を続ける。青野を安心させる為、というよりかは[太字]より、もっと知利の謎に包まれたベールを剥がす為。[/太字]
「よかったら…これからもあいつに関してのお悩み相談教室になってやろうか? あいつとは幼馴染なんでな…好き嫌いとかならだいぶ握ってるぜ。まあ、弱点はそれでも見せてくれないんだがな…威風堂々としてるし、隙とかが全くねえ。そういうのを徹底してるからこそあいつの闇は隠し通せてる、つまりいい人を演じ続けられているって事だ。お前も、あの時にあいつの独り言を聞かなけりゃああいつの一面を知らないままだっただろう?」
「…確かに、そうですね。私…あの時、ハンカチを拾ってくれなかったら、もっと周囲がうるさかったら、私の耳が悪かったら…こんな悩まず、梶谷さんへの認識がいい人止まりだったかもしれません。」
「そうだろ? それほどあいつは演じるのが得意なんだ。誰よりも得意。あいつにわざとらしさっつーものは微塵も感じられない。折角活かせるような演劇部に入ればいいのに、あいつ自体は美術部なんだからびっくりしちまうよな。まァ、その演技力を見せる事すら弱点を晒したと感じちまうんだろうよ。誰もそんな事、思いやしねえのにな。それにしてもあいつ、ハングリー精神はえげつないし、目立つ事も嫌いじゃないはずなんだが…それはあいつともっと友好関係を深めてからだな。」
一通り話終わった直後、一番大切な事を伝えるのを忘れてしまっていた。この約束を取り決めなければ。下手したら生命活動に支障が出てしまうか生命活動が終わってしまうようなほどの事だというのに、忘れてしまっては本末転倒になる。
「あ、この事は口外禁止だぜ? 口外しちまったら、知利が聞きつけてしまえばお前もボクもどんな目に遭わされるか分からないしな。」
「はいっ!」
話が始まり最初の頃よりは明るい顔になった青野は、まだ少し不器用で不自然でもあるが、だがほんのりとした微笑んだ顔を見せてくれた。
「おっ、生きてるって感じの顔してんじゃねーか。だいぶいい顔になったぜ。」
「ありがとうございます! 狛犬先輩!!」
「声も張れるようになってる。気を取り戻せたようだなァ。」
更に嬉しそうに笑顔になった清花はそうボクに言葉を投げかける。ボクはけらけらと笑って青野に反応を返す。こんな事で連絡先を教えてくれるだなんて、中々にチョロいのかそれほど悩んでいたのだろう。友好関係は広く浅く、そう保つのは得意だ。誰かひとりのNo.1じゃなくみんなのNo.2No.3。知利は依存せず一匹狼の姿勢を保っているからいいのだが、元々依存気質の野郎に依存され自由を奪われるのは大嫌いで、こいつのNo.1にならぬよう適度な距離感を掴み距離を置いておかなければならない。そうでなければ、このボクの自由と一人の時間が制限されてしまう。
このボタンは廃止予定です