「えぇ、久しぶりですね。どうしましたか？」
私に電話をかけてきたのは、服飾デザイナーの[漢字]飴村乱数[/漢字][ふりがな]あめむららむだ[/ふりがな]。「Empty Candy」というブランドを立ち上げていて、とんでもない人気を誇っている。まぁ、デザイン性だけでなく、彼自身が魅力的なのも、人気が出た理由の一つだと思うが。
「今度さぁ、一緒にごはん行かない？」
その誘いは、まさに青天の霹靂だった。ままならないほどの衝撃を感じて、思わずずっと前へ前へと進み続けていた足の歩みが止まる。
「え？あ、えーっと……どうしていきなり？」
とりあえず思った事をそのまま話すと、彼からはこんな言葉が出てきた。
「ボクたち、最近会ってないしお話もしてないでしょ？暇ができたから、久しぶりに会っちゃおー♪って思ってさ！どうかな？もちろん、●●が行けないかもって思ったら大丈夫だよ！」
満面の笑顔で話している彼が用意に想像できる程の声色で、彼はそう言った。
確かに、最近は彼と全く会っていない。前は中々に親密な関係を築けていたのだが、私の仕事が本格的に忙しくなった時から、めっきり顔を合わせなくなった。いや、もはや連絡すらもできていたかどうか怪しいほど。
久しぶりに会うのも悪くはないかも、そう思った私は、彼からの誘いを受け入れておいた。
「うーん…分かりました。お互いに予定が空いている日があったら、行きましょうか」
「うん！あ、じゃあボクは用事があるから、日にちとかは今度ね！じゃあまたねー！」
電話口からそう聞こえた数秒後、何も言えず無言の時間が流れた後に、プツリと電話が切れた音が耳の中に入ってきた。
「やっぱり早い人だなー…」
彼な性格にほんのり呆れながら、私はちょっと前＿＿まだ学生の頃を思い出した。

[水平線]
学生の頃といっても、大体一年前の事。デザイナーになりたいという事だけ決めていた私は、大学のインターンシップはデザイン系の会社にするという所まで決めていた。
何のデザインまでは決められていなかったので、とりあえず数が多い服飾系の会社に行く事を決めた。その時に私が選んだところが、乱数さんのブランド「Empty Candy」だったのだ。彼と付き合いがあるのはそういう事。
「一応、色々教えてくれた人だもんね…」
私より身長は低いし、体重も軽いし、なんなら私より可愛いとも言えてしまう彼だけど、仕事に関しては尊敬している。
久しぶりに会えるのは、嬉しい事ではあった。
「……ん？あれ、そういえば乱数さんって」
だが、ふと思い出す事があった。
「夢野先生も、確か…………！」