たとえすべてが嘘だとしても。
「ここの珈琲美味しかった……」
彼をチラチラと見ていると、気付けばあっという間に珈琲は無くなっていた。コーヒーカップの中には、何も無い。
まだ時間もかかりそうな気がするし、もう一杯だけでも頼もう。そう思って、私は店員さんを呼ぼうと手を挙げる。だが、その直前。矢先の出来事だった。
「え……」
彼が本を閉じ、はぁと小さくため息を吐くのが聞こえた。咄嗟にバレないよう振り返ると、数秒彼はぼーっとどこかを見つめた後、珈琲を頼んだ。
これはチャンスだ。本能がそう私に語りかける。
心臓が高鳴る。ドク、ドク、ドク。鼓動する度に、体が動く感覚がする。鼓動が目立っているとうか、そんな感覚だった。
それでも私は、彼に声をかけてみた。
「あ……あの!さっき、あの、助けてくれた……人ですよね?」
少しだけしどろもどろになりながらも、必死に言葉を繋げて話しかける。彼は私の方を見ると、少しだけ驚いたような顔をして、その後言った。
「まさか、先程の方ですか」
「は、はい。偶然……ですね」
偶然というより、どちらかといえば必然寄りだが、口に出てしまったので、もう言い直しはできない。
「あぁ、そうですね。まさかこんな所で巡り会えるとは……何かの縁ですかね」
彼は笑みを浮かべながらそう口にする。そしてその後、どうぞ座ってくださいと、彼の向かい側の席の方を向いた。
突然そんな事を言われた私は、一瞬で顔が真っ赤になる。頬を中心に、どんどん顔が熱くなって、きっと今の私の顔は、真っ赤な旬のりんごのようだろう。
「あの、大丈夫ですか?顔が赤いですよ?」
「え?あぁ!これは全然、気にしないでください…」
彼は心配そうな表情で、私の顔を覗いた。それが少し恥ずかしくて、咄嗟にそっぽを向く。
「……」
ずっと立っているわけにもいかない。私はとりあえず、彼と向かい合わせになるよう座った。
そうすると、数秒だけお互い黙りこくる時間があった。何を話せば良いのか分からない、それはお互い様だった。
この状況で、最初に口を開いたのは彼の方。
「あの、よろしければ、互いに自己紹介でもしませんか?さっき言った通り、これも何かの縁ですし」
自己紹介、私にとってかなり幸運な提案だった。私はもともと、彼の事が知りたくてここまでやってきたのだから。
「そ、そうですね。どっちからしましょう?」
「小生からで大丈夫です」
そう言って彼が自己紹介を始めようとすると、同時に珈琲が来てしまった。彼は少しだけ困ったように笑った後、また話を再開させる。
「小生は[漢字]夢野幻太郎[/漢字][ふりがな]ゆめのげんたろう[/ふりがな]といいます。あなたは?」
夢野幻太郎。その名前を聞いた瞬間、頭の中に一つの記憶がよぎった。
そういえばこの名前の作家を、私は知っている。彼は作家だったのか、そう気付いた。確かに言われてみれば、風貌だったり口調がそれらしいような気もする。
私は少しばかりの衝撃を覚えた後、一旦呼吸を整えてから、自分の話を始めた。
「素敵なお名前ですね。私は……○○●●っていいます」
「ほう。あなたも、素敵な名前をしていますね」
彼――夢野さんは、そう言いながら小さく微笑んだ。
彼をチラチラと見ていると、気付けばあっという間に珈琲は無くなっていた。コーヒーカップの中には、何も無い。
まだ時間もかかりそうな気がするし、もう一杯だけでも頼もう。そう思って、私は店員さんを呼ぼうと手を挙げる。だが、その直前。矢先の出来事だった。
「え……」
彼が本を閉じ、はぁと小さくため息を吐くのが聞こえた。咄嗟にバレないよう振り返ると、数秒彼はぼーっとどこかを見つめた後、珈琲を頼んだ。
これはチャンスだ。本能がそう私に語りかける。
心臓が高鳴る。ドク、ドク、ドク。鼓動する度に、体が動く感覚がする。鼓動が目立っているとうか、そんな感覚だった。
それでも私は、彼に声をかけてみた。
「あ……あの!さっき、あの、助けてくれた……人ですよね?」
少しだけしどろもどろになりながらも、必死に言葉を繋げて話しかける。彼は私の方を見ると、少しだけ驚いたような顔をして、その後言った。
「まさか、先程の方ですか」
「は、はい。偶然……ですね」
偶然というより、どちらかといえば必然寄りだが、口に出てしまったので、もう言い直しはできない。
「あぁ、そうですね。まさかこんな所で巡り会えるとは……何かの縁ですかね」
彼は笑みを浮かべながらそう口にする。そしてその後、どうぞ座ってくださいと、彼の向かい側の席の方を向いた。
突然そんな事を言われた私は、一瞬で顔が真っ赤になる。頬を中心に、どんどん顔が熱くなって、きっと今の私の顔は、真っ赤な旬のりんごのようだろう。
「あの、大丈夫ですか?顔が赤いですよ?」
「え?あぁ!これは全然、気にしないでください…」
彼は心配そうな表情で、私の顔を覗いた。それが少し恥ずかしくて、咄嗟にそっぽを向く。
「……」
ずっと立っているわけにもいかない。私はとりあえず、彼と向かい合わせになるよう座った。
そうすると、数秒だけお互い黙りこくる時間があった。何を話せば良いのか分からない、それはお互い様だった。
この状況で、最初に口を開いたのは彼の方。
「あの、よろしければ、互いに自己紹介でもしませんか?さっき言った通り、これも何かの縁ですし」
自己紹介、私にとってかなり幸運な提案だった。私はもともと、彼の事が知りたくてここまでやってきたのだから。
「そ、そうですね。どっちからしましょう?」
「小生からで大丈夫です」
そう言って彼が自己紹介を始めようとすると、同時に珈琲が来てしまった。彼は少しだけ困ったように笑った後、また話を再開させる。
「小生は[漢字]夢野幻太郎[/漢字][ふりがな]ゆめのげんたろう[/ふりがな]といいます。あなたは?」
夢野幻太郎。その名前を聞いた瞬間、頭の中に一つの記憶がよぎった。
そういえばこの名前の作家を、私は知っている。彼は作家だったのか、そう気付いた。確かに言われてみれば、風貌だったり口調がそれらしいような気もする。
私は少しばかりの衝撃を覚えた後、一旦呼吸を整えてから、自分の話を始めた。
「素敵なお名前ですね。私は……○○●●っていいます」
「ほう。あなたも、素敵な名前をしていますね」
彼――夢野さんは、そう言いながら小さく微笑んだ。
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