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たとえすべてが嘘だとしても。

#3

「一隻の助け舟」

「……多勢に無勢なんて、卑怯ですね」
「卑怯?そんなん関係ねぇよ。ボコるだけさ」
男の顔は、鬼のような怒り顔から変わり、少しだけにやけていた。自分たちなら、私なんてすぐに倒せる、と思っているのだろう。
彼が浮かべているその笑みが、気持ち悪くて仕方なかった。
「なぜ、なぜ私にそこまで執着するんですか?」
「シンプルな話さ。お前は顔が良い。価値があるんだよ」
価値があるというのは、通常褒め言葉なのだが、この男に言われて私は、嬉しいどころか激しい恐怖に襲われた。
「くっ……」
「おねーさん、素直にこっちに来なよ」
彼はにやけ面でそう言う。
――だがしかし、私だってすぐに引き下がっていられない。
「……でも、私にだってマイクぐらいあります!」
私はそう言うと、手に持っていたバッグの懐を漁る。マイクを取り出せば、きっとこっちのものだ。
ヒプノシスマイクをバッグの中から取り出して、華麗に男たちを倒す。そんな自分の勇姿を想像していた。
それなのに。
「…マイク……マイク………あれ…………マイク……………?」
「ん?マイクはどこにあんだよ?」
「えーっと………………あら…………………おかしいですね」
私のバッグの中。いくら探してみても、そこにヒプノシスマイクはない。
「……忘れた……?」
どうしよう。そんな五文字が脳裏を横切った。
「おうおう、あんなに大口叩いて結局ねぇのかよ…」
男が冷たい視線を私に送る。やめてくれ、分かっている。惨めな事は分かっている。だからそんな目で見ないでくれ。
「いやいつもは持ってるんですけど」
「いつもは、ねぇ…。まぁ、そんな事関係ねぇ、好都合だぜ。おいお前ら!こいつマイクを持ってないぞ!かかれや!」
私が言い訳をしようとすると、彼は私の言葉を遮って、状況を戻した。こっちからしたら、状況を戻されるのはかなり不都合だった。
このままじゃ、きっと私はこの男たちにやられる。
もう、諦めるしか無いのかもしれない。
「………」
「お前ら、やっちまえ!」
目をつむって、負ける覚悟をする。そうだ、マイクを家に置いてきた私の責任なんだ。もう諦めて、これからの蹂躙される人生に身を委ねるしか無い。
私が完全に覚悟を決める一秒前、その時。

「騒がしいですね。何が起きているんですか?」
どこかの方向から、上品な青年の声が聞こえた。この声はきっと、というよりほぼ確実に、男達のものではない。ついに、この状況に助け舟がやってきたのだろうか。
目は閉じながら、耳をすませていると、男たちのどよめきの声が聞こえてきた。
「おい……あいつって…」
「あ、あぁ。やばいんじゃね……」
私はまだ恐怖で目を開けられないので、あまり分からないが、きっと男達にとって、青年は不都合な存在なんだろう。
「女性相手にヒプノシスマイクを起動させている、ですか。ふむ、[漢字]某[/漢字][ふりがな]それがし[/ふりがな]が思うに、お主等はおそらく…彼女を誘拐をしようと企てておるな?」
耳を澄まして、青年の言葉を聞いていると、なぜか口調が急に変わった。なぜなのだろう、悪ふざけでこの状況に入り込んできたのだろうか。だとすると複雑な気持ちになる。
でも、男たちが騒ぎ立てるような人なのだから、きっと何か特別な事情があるのだろう。とりあえず、何か考えるのはやめておく。
「ボス…あいつ…」
「そ、そうだな」
ボス、と呼ばれたあの男の声色は、少し先程より強張っていた。あの青年のせいなのだろう。
「ちっ、クソが…。お前ら、撤退するぞ!…おい、女!今回は見逃してやるが、次会ったらゼッテーやってやるからな!この野郎!」
男はそう言って、急に尻尾を巻いて逃げていった。最後の捨て台詞は脅しのつもりで吐いたのだろうが、あまりにも小物感が強すぎる。ちょっと笑ってしまう程に。
「…逃げた?」
「えぇ、彼らはどこかに走っていきましたよ。ただの小物でしたね」
青年の声が、さっきよりもずっと近い。同時にコンクリートを歩く音も聞こえてくる。こっちに来ているというのは、すぐに分かった。
「もう目を開けても大丈夫ですよ」
「え、あぁ。はい…」
閉じっぱなしだった瞼を開けた。昼頃特有の明るすぎる太陽光が、私の瞳孔をかなりきつく刺してくる。また少しだけ目を細めて、私は青年の方を向いた。
青年は和装をしていて、やはり声通りの上品な容姿をしていた。
「怪我はしていませんか?」
「えぇ、大丈夫です」
陽光に目を細めながらも、青年の顔を見てみる。彼の顔立ちは、非常に端正なものだった。この猛暑のせいか、それとも彼に対し照れているのか、少しだけ、鼓動が体を巡るように大きくなる。
「それなら何よりです」
「あの、助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ、小生が彼らに興味を持っただけです。救おうとは思っていませんでした」
「でも、結果こうして助けてもらって…ありがとうございます」
そう言って、しっかりと彼の目を見ようとする。
でも、どうしてなのだろう。彼の顔を、見ることが出来ない。本能かどこかが、見たら自分が壊れてしまうぞとうるさく警告してくる。なぜなのだろう。
「それでは、小生はこれで」
「あ……はい」
青年は、私に背を向けてどこかに行ってしまった。本当は少しだけ、少しだけ彼を引き止めたかったのだが、無理だった。
彼を見た時から、心臓が早く大きく脈打っている。理由は知らない。これが俗に言う恋に当たるのかも、私は知らない。今まで恋をした事がないから。
この強い鼓動が気になりすぎて――最後、お礼をしたいと、彼に言えなかった。

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作者メッセージ

今回は切り上げるタイミングが分からなくて、思ったより長く書いてしまいました。こうなったら次回は短くなりがちです。

さて、夢野先生との恋愛シーンですが、もう少し先になりそうです。まだ十話以上は余裕でかかりそうな気配がする。恋愛ってタグつけてるのに。
私の作品の中に「ギャンブラー、あなたに賭けます。」というものがあるのですが、60話以上かけて今やっと恋愛が進みそう…!って感じになっているんですよね。私ってもしかしたら、恋愛シーン苦手なのかもしれません。

読んでいただいてありがとうございました。良ければ次回もお待ち下さいませ。

2024/09/07 12:29

夢野 シオン@水野志恩SS ID:≫7tLEh4qnMjetA
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