たとえすべてが嘘だとしても。
[水平線]
[中央寄せ]『Yo なんだよ急に来やがって
イキがったお前を成敗するぜ
お前は 所詮ただのガキ
俺のラップ聞いて即縮み上がり
俺らThe Takers
シブヤすぐ奪う最強チーム
お前きっと裸足で逃げ出すぜ
革命起こす今すぐそこどけ』[/中央寄せ]
[水平線]
男のラップは、どれだけ耳を塞いでも、鼓膜の中へと入り込んでくる。予想以上の攻撃力に、私は思わず尻餅をつき、たじろいでしまった。
「うっ……。意外と強い……!」
「ビビったか?シブヤは今日から俺たちのものだ!とっととどっか行きな!」
私にとどめを刺そうとしているのか、リーダーの後ろにいる奴らも、ぞろぞろとマイクを取り出して、私の方に歩いてきた。私の方には一般人もたくさん居て、もし彼らがマイクを起動してしまえば……どうなるか。想像するだけでも、とても恐ろしかった。せめて一旦離れ、周りに人が居ないところまで行かなければと、咄嗟に考える。しかし、考えても実行に移すのは難しい。さっき尻餅をついた時、私は足を少しだけ捻挫してしまったのだ。
「うぅっ……」
足に力が入らない。上手く立てない。でも彼らは近づいてくる。二律背反で不都合過ぎる状況に、私はただ呻くしかなかった。
「はっ、さっきまでの威勢は良かったのにな」
「まぁ、所詮そんなもんだろ。ガキなんて」
男たちが笑う。周りの人達も、私と男の方を見ていて、特に私の事を、皆蔑むような、見下すような、どうしようもない目で見てくる。
やめて、見ないで、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
「…………」
周りからの冷たく痛い視線は、私の過去をよく掘り起こすようだった。
[水平線]
__空からは雨が降っていた。土砂降りとも言えなかったが、中々に冷たくて、強い雨だった。でも私は傘を差せなくて、ただそこに居た。
「ねぇ、あの子……」
「なんか不気味ね。ちっとも動かないし。人形?」
周りは私の事を、いたく酷い目で見つめた。私は人形じゃない、本当はそう言いたかったはずなのに。放心状態の私は、声を出して意見を言うという行動を、しないでいた。ただそこに立つだけでも精一杯で、声を出す事を放棄していた。
「…………」
雨は冷たかった。雨粒が私の肌に触れる度、どうしようもない無力感に襲われる。だから一刻も早く、できればそこを去りたかったのに、足は定位置から動かない。まるで立ったままの、金縛りにあっているようだった。
数分すると、少しは動かせるようにもなったが、それでも心が動くようになった訳では無い。私が持つ感情は、悲しみから怒り、失望から[漢字]悲憤[/漢字][ふりがな]ひふん[/ふりがな]へと変わっていた。
「許さない……」
雨は私の体に鞭を打っていた。
「許せない、絶対に」
[水平線]
「…………」
過去の記憶を思い出す。男たちが近づいてくる。
「……嫌だ!」
私は捻挫の痛みなんてとうに忘れて、遠くへと逃げた。出来る限り遠く、遠くへと行くため。地面に足をつけて、踏み込んだ。
[水平線]
「はぁ……はぁ……。こ、ここまで来れば、大丈夫かな……?」
気付けば、とんでもなく遠い場所まで来てしまっていたようだ。乱数さんとの待ち合わせは、もう完全に、果たせそうにない。
「連絡……しなきゃ……」
息切れを起こしながらも、かろうじて持っていたスマホを服のポケットから取り出す。メールアプリを開いて、適当な謝罪文を打って、送信をした。
「はぁ」
体中が暑い。夏の夜のシブヤは暑かった。
「……どうしよう。男たち絶対追ってきてるよね」
足首の捻挫が悪化している事に気付き、もう逃げる体力も気力もない。ヒプノシスマイクは持っているが、果たして一人であの大人数に勝てるだろうか。
「……ダメ。先がない」
このまま果てまで逃げてしまおうか。そんな選択肢が、一瞬頭の中を通りすぎた。だがしかし、私にそんな選択肢は用意されていない。かといって、有効な手だてが見つからない。
どうすればと思い悩んでいた、その時。
「…………おい、そこのお前」
「え?」
突然、一人の男が声をかけてきた。青い髪に緑の上着を着ていて、見覚えがあるような無いような、そんな感じだった。
確かこの人は、あの男たちの中には居なかった……。しかし、もしかしたら臨時の刺客かもしれない。相手をじっくりと、悟られないように見定めながら、話をする。
「なんですか」
「お前さっき、男どもと揉めてただろ。大丈夫だったのかよ」
彼はとぼけたような顔で、そんな事を言ってきた。心配するという事は、刺客じゃないのかもしれない。いや、油断させた所を襲う手口だってある。ここは慎重にいきたい所だ。
だったのだが。
「ああ……。あれは__」
「おい!お前ぇ!しっぽ巻いて逃げんじゃねぇよ!」
なんとこのタイミングで、彼らが私に追い付いてしまったのだ。
「あ!お前らさっきの!」
「あぁん?」
「さっきこの女と揉めてたろ!ってか、その前からか。お前ら道塞いでただろ。あれ、めちゃくちゃ迷惑だったんだからな!あれのせいで、お目当てだった賭場にも行けなかったし……」
最後に少し変な言葉が聞こえてきたが、この反応を見ていると、彼が男たちの仕込んだ奴である可能性はぐんと減ったように思えてくる。彼はきっと、本当にただの目撃者、あるいは被害者なのだろう。
「なんだよ、テメェ!今から俺らはこの女をぶっ倒すトコなんだよ!邪魔すんじゃねぇ!」
「それはこっちのセリフだ!道塞いで周りの邪魔してんじゃねぇよ。あと、悪くねぇ女子供に手出すなよ!」
「ちょっと、二人とも……」
気付けば私と男たちの話ではなく、知らない彼と男たちの喧嘩となっていた。私はそこをなんとかなだめてみる。
「ケッ。……まぁ、いいぜ。二人まとめて倒されるのがお好みって事だろぉ!」
男たちは即座にマイクを起動する。まずい、今度こそ一巻の終わりとなるかもしれない。そう思った時。
「……しょうがねぇ。おいアンタ。マイク使えるか」
「は、はい」
「分かった。……二人でいくぞ」
「……え?」
[中央寄せ]『Yo なんだよ急に来やがって
イキがったお前を成敗するぜ
お前は 所詮ただのガキ
俺のラップ聞いて即縮み上がり
俺らThe Takers
シブヤすぐ奪う最強チーム
お前きっと裸足で逃げ出すぜ
革命起こす今すぐそこどけ』[/中央寄せ]
[水平線]
男のラップは、どれだけ耳を塞いでも、鼓膜の中へと入り込んでくる。予想以上の攻撃力に、私は思わず尻餅をつき、たじろいでしまった。
「うっ……。意外と強い……!」
「ビビったか?シブヤは今日から俺たちのものだ!とっととどっか行きな!」
私にとどめを刺そうとしているのか、リーダーの後ろにいる奴らも、ぞろぞろとマイクを取り出して、私の方に歩いてきた。私の方には一般人もたくさん居て、もし彼らがマイクを起動してしまえば……どうなるか。想像するだけでも、とても恐ろしかった。せめて一旦離れ、周りに人が居ないところまで行かなければと、咄嗟に考える。しかし、考えても実行に移すのは難しい。さっき尻餅をついた時、私は足を少しだけ捻挫してしまったのだ。
「うぅっ……」
足に力が入らない。上手く立てない。でも彼らは近づいてくる。二律背反で不都合過ぎる状況に、私はただ呻くしかなかった。
「はっ、さっきまでの威勢は良かったのにな」
「まぁ、所詮そんなもんだろ。ガキなんて」
男たちが笑う。周りの人達も、私と男の方を見ていて、特に私の事を、皆蔑むような、見下すような、どうしようもない目で見てくる。
やめて、見ないで、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
「…………」
周りからの冷たく痛い視線は、私の過去をよく掘り起こすようだった。
[水平線]
__空からは雨が降っていた。土砂降りとも言えなかったが、中々に冷たくて、強い雨だった。でも私は傘を差せなくて、ただそこに居た。
「ねぇ、あの子……」
「なんか不気味ね。ちっとも動かないし。人形?」
周りは私の事を、いたく酷い目で見つめた。私は人形じゃない、本当はそう言いたかったはずなのに。放心状態の私は、声を出して意見を言うという行動を、しないでいた。ただそこに立つだけでも精一杯で、声を出す事を放棄していた。
「…………」
雨は冷たかった。雨粒が私の肌に触れる度、どうしようもない無力感に襲われる。だから一刻も早く、できればそこを去りたかったのに、足は定位置から動かない。まるで立ったままの、金縛りにあっているようだった。
数分すると、少しは動かせるようにもなったが、それでも心が動くようになった訳では無い。私が持つ感情は、悲しみから怒り、失望から[漢字]悲憤[/漢字][ふりがな]ひふん[/ふりがな]へと変わっていた。
「許さない……」
雨は私の体に鞭を打っていた。
「許せない、絶対に」
[水平線]
「…………」
過去の記憶を思い出す。男たちが近づいてくる。
「……嫌だ!」
私は捻挫の痛みなんてとうに忘れて、遠くへと逃げた。出来る限り遠く、遠くへと行くため。地面に足をつけて、踏み込んだ。
[水平線]
「はぁ……はぁ……。こ、ここまで来れば、大丈夫かな……?」
気付けば、とんでもなく遠い場所まで来てしまっていたようだ。乱数さんとの待ち合わせは、もう完全に、果たせそうにない。
「連絡……しなきゃ……」
息切れを起こしながらも、かろうじて持っていたスマホを服のポケットから取り出す。メールアプリを開いて、適当な謝罪文を打って、送信をした。
「はぁ」
体中が暑い。夏の夜のシブヤは暑かった。
「……どうしよう。男たち絶対追ってきてるよね」
足首の捻挫が悪化している事に気付き、もう逃げる体力も気力もない。ヒプノシスマイクは持っているが、果たして一人であの大人数に勝てるだろうか。
「……ダメ。先がない」
このまま果てまで逃げてしまおうか。そんな選択肢が、一瞬頭の中を通りすぎた。だがしかし、私にそんな選択肢は用意されていない。かといって、有効な手だてが見つからない。
どうすればと思い悩んでいた、その時。
「…………おい、そこのお前」
「え?」
突然、一人の男が声をかけてきた。青い髪に緑の上着を着ていて、見覚えがあるような無いような、そんな感じだった。
確かこの人は、あの男たちの中には居なかった……。しかし、もしかしたら臨時の刺客かもしれない。相手をじっくりと、悟られないように見定めながら、話をする。
「なんですか」
「お前さっき、男どもと揉めてただろ。大丈夫だったのかよ」
彼はとぼけたような顔で、そんな事を言ってきた。心配するという事は、刺客じゃないのかもしれない。いや、油断させた所を襲う手口だってある。ここは慎重にいきたい所だ。
だったのだが。
「ああ……。あれは__」
「おい!お前ぇ!しっぽ巻いて逃げんじゃねぇよ!」
なんとこのタイミングで、彼らが私に追い付いてしまったのだ。
「あ!お前らさっきの!」
「あぁん?」
「さっきこの女と揉めてたろ!ってか、その前からか。お前ら道塞いでただろ。あれ、めちゃくちゃ迷惑だったんだからな!あれのせいで、お目当てだった賭場にも行けなかったし……」
最後に少し変な言葉が聞こえてきたが、この反応を見ていると、彼が男たちの仕込んだ奴である可能性はぐんと減ったように思えてくる。彼はきっと、本当にただの目撃者、あるいは被害者なのだろう。
「なんだよ、テメェ!今から俺らはこの女をぶっ倒すトコなんだよ!邪魔すんじゃねぇ!」
「それはこっちのセリフだ!道塞いで周りの邪魔してんじゃねぇよ。あと、悪くねぇ女子供に手出すなよ!」
「ちょっと、二人とも……」
気付けば私と男たちの話ではなく、知らない彼と男たちの喧嘩となっていた。私はそこをなんとかなだめてみる。
「ケッ。……まぁ、いいぜ。二人まとめて倒されるのがお好みって事だろぉ!」
男たちは即座にマイクを起動する。まずい、今度こそ一巻の終わりとなるかもしれない。そう思った時。
「……しょうがねぇ。おいアンタ。マイク使えるか」
「は、はい」
「分かった。……二人でいくぞ」
「……え?」
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