全部上書きして【Lier's world】
...............小さく血の湖ができている。
すぐそばにいる自分の足元まで広がっている。
足元と地面がヘモグロビンの赤色に浸っていく。
その日初めて、両手を天に掲げたと思う。
[太字]『 カミサマ 後悔したこの時間を戻して______ 』[/太字]
[水平線]
確かに初めて会ったのはあの日で間違いない。
もっとも、彼にとっての初めましては昔の話のようだったが。
彼に会うまでの俺はどこまでも卑屈だった。
家に帰っても、待っているのは俺を蔑む金切り声。
あと、ただの現実。
それでも、母のことは憎めなかった。
これでも、少しの時間は愛して育ててくれていたのを知っているから。
知っている、だからこそ前のような優しい母の姿に戻ってほしくて、
また前のように見てもらおうと、必死で努力していた。
.........ただ努力と言っても、その中身は勉強の2文字以外存在していない。
[太字]『 どうしてこんな事もできないの 』[/太字]
そんな壊れたスピーカーから毎度毎度発せられるハウリングの決まり文句を黙らせるためだった。
「まだ明るいな......」
外は明るい。
夏の事だったのを覚えているからどうしてなんて事は思わなかった。
「勉強してたとはいえ、流石にそろそろ怒られそうだし」
[小文字]「......帰らなきゃ」[/小文字]
独り言をぼやく。
多分どう足掻いても『怒られる』のは決まっているのを知っていたのに、『怒られそう』なんて言ったのは現実逃避の1つなんだろうか。
.........その時急に耳に入った足音に驚きが隠せなくて、
「......!?」
振り向いた。
「.........」
そこにお前がいた。
正直なところ、怖い以外に何も思い浮かばなかった。
父が置かれた環境に触れていたせいもあって、ガラの悪い見た目をした人ってのには、苦手意識があったから。
「.........ッッッ」
一瞬の静寂の時間で恐怖が俺の頭の中を支配して、とっくに俺の身体は動いていた。
聞こえるものは心臓の音と夏になびく少しの風の音と彼の荒がった声、
[太字]微かな理性の先で聞こえた、何回もの打撃音。[/太字]
次第にその音はすべてが歪み始め、
ぐわんぐわんと不安定な旋律を奏でて、.........
[太字]何も考えられないし、感覚もままならない。[/太字]
ただ何かに強く引っ張られる感覚と大きな衝撃が自分を伝っている事だけわかる。
誰
何
一体全体何が起こっているんだ
パニックになる
呼吸が浅くなる
足元に赤が伝う
何か物が落ちた
[小文字]何も見えない
全部真っ暗だ
腹中も足元も
何の音もない
聞こえないよ
音も話し声も
今俺何したの
赤いそれは何
嫌だ嫌だ嫌だ[/小文字]
[太字]いやだ、まただ。[/太字]
やばいやばい
おこられるよ
おこられるよ
おこられるよ
また怒られる
怒られるの嫌
おこられるのいや.........
[水平線]
............。
はっとすると、足元に分厚い国語の教科書が落ちている。
教科書の表紙は落ちた拍子に折れ曲がってしまって取り返しもつかなくなっていた。
[太字]眼前の風景と同じように。
何で、俺はこんな事したんだ?[/太字]
咄嗟で恐怖に支配されて動いた身体は、目の前の彼を教科書で殴って、[太字]彼は倒れているんだ。[/太字]
______。
[太字]______俺、人殺した.........?[/太字]
殴られるとか蹴られるとか、考えたから......?
生存本能とやら......?
考えることもままならぬ状態で、また頭がぐるぐるする。
両手を見る。
別にそこに血がついてるわけじゃないが、この手で殺したことを考えたらその形が歪み始めるのを確かにこの目で見た。
荒くなる呼吸音、無視しようとしてもうるさくなる心臓の音、どこかで薄く聞こえるチャイムの音。
神様に縋ったのはその日が初めてだった。
[太字]『 カミサマ 後悔したこの時間を戻して______ 』[/太字]
何よりも小さな声で、それでも骨を伝って聞こえる声。
呼吸は声に止められ、心臓の音がかき消される。
チャイムの音だけが、切なく自分の耳に届いていた。
[水平線]
______目が覚めると、さっきとは対して変わらない風景。
違ったのは、[太字]目の前に確かに生きている彼がいたことだった。[/太字]
[太字]............自分の罪を、俺はやり直した。[/太字]
選択を間違えてしまったなら、保存済みセーブデータから正しい方を選り好みして進めるのと同じ。
分岐点の先で耳に入れた「友達になろう」の言葉に心が傷んだ。
時間が元に戻ることを望んだのは最初から、白日の下晒されてる事だった。
[水平線]
______魔法使いは疲れていました。
愛を求めて、そのために存在もしない正解を求めて、方程式の解も求めて。
666は悪魔の数字だとかいう、どうでもいい事ですらも求めて。
魔法使いは、考えるのをやめました。
目の前の貴方は貴方ではなくて。
一度殺して、戻った分岐点から見た貴方は、本物の貴方ではないような気がして。
でも、映っているのは確かに貴方でした。
魔法使いには分かりませんでした。
貴方が言っている事は本当に貴方の言いたいことなのか、
貴方はもしかしたら偽物だったりしないのか、
そんな事ばかり考えていました。
魔法使いには望むものがありました。
先生。
誰かの手本になることは、魔法使いには重かった。
魔法使いにだって、お手本が欲しかった。
分からないならすべてを聞けるようなお手本が。
『お手本通り』でいれば、______