全部上書きして【Lier's world】
自分がおかしい事に気づいたのは物心ついた頃だった。
目の前の新鮮な光景と地面の異様に近い一人称視点に、周りの子どもとはまた違って懐疑の目を向けていた。
どうして俺は『 お母さん 』と手を繋いでいるのか。
どうして俺はまともに喋ることができないのか。
[太字]一度死んだはずだ。[/太字]
______[太字]どうして俺は生きているんだ。[/太字]
[水平線]
子どもの持っていたであろう風船が風に乗って地面を這って動いている。
数秒前、既に聞こえていたそれは風船の破裂音ではない事を知る。
.........第一、破裂音だと思い込んでいただけだが。
当たり前に身の毛がよだつ。
それを知るのはあまりにも突然のことで、当然のこと。
呆然と突っ立っていると、
[太字]『 早く行くぞ! 』[/太字]
ぐいっと、いつもより[漢字]幾分[/漢字][ふりがな]いくぶん[/ふりがな]か強い力でお前が引っ張って。
右腕を引っ張る左腕で目が覚めて駆け足になる。
また生命を天秤にかける日を迎える。
[水平線]
[太字]______何回でも、数十分でこうなるものかと目を疑うものだった。[/太字]
両目に映っている推定180度の視界一面は、殺風景なんてものではない。
[太字]『 惨憺 』そのものであった。[/太字]
地面が火を吹いて、抉られたような深い傷口から生まれる血液の湖があって。
骸の上に立つ人がいて、弱肉強食を謳い蹂躙する人がいて、それに怯えて何もできない人もいて。
[太字]それが、両の目いっぱいに広がっている。[/太字]
真っ先にこれが生き地獄かと思ったが、生憎イヤな事に見慣れてしまっている。
右手に持った、綺麗なままの剣の持ち手を握り直す。
[太字]______血塗れなんて、いくつになってもイヤに決まってる。[/太字]
[水平線]
[太字]意識が戻ると、目の前にいるのは血塗れになったお前だった。[/太字]
心臓の辺りから血が延々と滴り、湖を作り出す。
お前は、後ろから一突きにされてこの様だった。
情けないなぁ。
『 ............なぁ、俺の声、聞こえる.........? 』
「 ............聞こえる、聞こえる......... 」
『 ............最期のワガママ、言っていい.........? 』
「 .........やめて、最期なんて言わないで 」
「 ワガママならいくらでも聞くけどさ.........! 」
『 ............。 』
[太字]『 ______俺の事、殺してくんないかな。 』[/太字]
「 .........は、......? 」
そんなお願い、できるかよ...........!!
「 何、言ってんだよ.........!! 」
「 何勝手に、死のうとしてんだよ!! 」
目の前のお前は何も言わない。
まるで俺の言う事を全部知っていたように、全部聞いているだけだった。
『 ............じゃあお前は 』
『 ___お前は、このまま他の誰かに殺されたまんまでもいいのかよ、お前は 』
「 ............ 」
[太字]『 ............俺はイヤだけどなぁ。 』[/太字]
「 っ............ 」
『 せめてお前に殺されたいんだよ、俺は。 』
『 だから.........お願い聞いて、くれるか 』
[小文字]「 ............っざけんな.........っ 」[/小文字]
震える声と両手で、綺麗な剣を上にかざして。
その時君は、満足そうに笑って。
どうして世界はこんなに残酷なんだって思って。
[太字]______神様を、本気で呪った。[/太字]
[太字][斜体]グチャッ___[/斜体][/太字]
[小文字][太字][中央寄せ]嫌な音がした。[/中央寄せ][/太字][/小文字]
[水平線]
[太字]______初めて、罪の味を知った気がした。[/太字]
両手に持ったままの、刃先の赤く染まった剣。
[太字]確かにこの手で肉体を傷つけて、引き裂いて、傷物にしていた。[/太字]
その手は今、彼の心臓に一振りを入れたばかりで剣と同じように彼の血で赤く、生温かった。
今までにも、そんな事は廃れた砂漠のような平野でいくらでもしてきたはずだった。
ただ、こうやって自分の手を見つめるのは初めてで。
見ているうちに気持ち悪さが込み上げる。
[太字]理由は知っていた。[/太字]
誓った忠誠のためだけに盲目に生きていて、気付けなかった大切なもの。
傷つけて、引き裂いて、傷物にして、
[太字]そうやって今までに自分がたくさんしてきた事は全部罪でしかなくて、[/太字]
剣を振るって、
その都度鮮血が飛び散って、
土に還る度に、
俺は、
[太字]誰かの心を傷つけて、誰かの絆やらを引き裂いて、見えもしない何かを傷物にしていた気がして.........。[/太字]
罪に染まったその手は今、彼の心臓に一振りを入れて時間も経っていて、
剣と同じように彼の血で赤く、それはすでに乾き始めていた。
傷口から流れる血液は、動きを止めることを知らない。
血に染まった部分から目が産まれては、今にもこちらを恨めしい目で見てくる幻覚にどうしようもない吐き気が襲って頭を撹拌する。
[太字]もう[漢字]操り人形[/漢字][ふりがな]マリオネット[/ふりがな]の操り糸は切れていた。[/太字]
「 ............... 」
[太字]ただ一つ、両手に繋がれた[漢字]糸[/漢字][ふりがな]オモイ[/ふりがな]を除いて。[/太字]
............冷たくなり始めた、彼のカラダに馬乗りになったまま、真っすぐに後ろから伸びる罪悪と恐怖から逃げるために俺は、
俺は自分の首元に剣の鋭い刃先を向けて、
笑って、
泣いて、
泣いて、
泣いて、
それでも、やっぱり笑って。
[太字]______贖罪からも懺悔からも勝手に逃げてやった。[/太字]
首を切りつけた瞬間の一瞬の静寂と、倒れるまでの滲んだり歪んだり遅くなったりと忙しい視界、
そして瞬きするくらいの一瞬の時間で走馬灯を見て、
[太字]______最期に、隣で彼の作った血の湖に俺が混ざっていくのを見て、記録は途絶えた。[/太字]
[水平線]
次にビデオテープの記録が始まった時の違和感は鮮明に覚えている。
あからさまに低い一人称視点。
喋ろうとしても呂律はまともな仕事もしてくれず、
隣で本能が安心すると訴える、優しい瞳が上から俺を見ている。
その時初めて気づいたんだ。
[太字]逃げた俺だけ勝手に、記憶のある限りで人生2周目始められたんだって。[/太字]
幼心を捨てて、空に向かって、
[太字]『 神様のくそったれ 』[/太字]って全力で、心の中で叫んだ。
神様を呪ったのは2回目だった。
反応したかは知らないが、遠くの街路樹に停まっていたスズメが一斉にどこかへ飛び立っていった。
[太字]______お前が俺のことも何も知らないで生きているのを知ったのは、一生のお願いを使ってから2年半経った頃だった。[/太字]
[水平線]
夕凪「.........」
いつも教室の隅の方でハム太郎みたいに縮こまって、鉛筆を走らせている。
放課後先生に声をかけられるまでの時間、いつ俺が見てもその姿は静止画状態。
そしてかく言う俺はハム太郎がどんなやつか、詳しいことを知らない。
朝露「............」
前の人生とはまた違い、否定ばかりされて生きてきた今世に苛立ちばかり覚えた俺とは程遠い存在に見えた。
[太字]............中身は、一緒なのに。[/太字]
[太字]...............俺の目から視えるお前の色は、間違いなく彼と寸分の狂いもなくて。
______だから、いっそ勘違いでもいいから、運命みたいなもんだと割り切って信じてみたんだ。[/太字]
夕凪「っ.........さっきから僕のこと、見て......ますか?」
朝露「、!......わりぃな、考え事してたんだよ。文句あるか」
[小文字]夕凪「............すいません」[/小文字]
朝露「............」
機械的に教科書とノートを交互に見るだけの虚しい蜜柑色の瞳のままこちらを見ていたのが、今じゃ想像もできない。
あの日唐突に「友達になる」なんて言葉をかけた時、初めて君は驚いた顔でこっちを見てくれた。
驚嘆と恐怖の混じった表情でこちらを見て固まっている。
______お前は鳩かよ。
............瞬き一つ、少し長めに目を瞑って開いた後の視界220度は一面どこを見ても眩しい。
[太字]そして、色鮮やかだった。[/太字]
目の前の、何も知らない君と、君の目の前の、虚しいほどに全部知ってる俺。
______もちろん、俺は神様が大嫌いだ。
______そして神様は、俺の事をお気に入り登録してやがる。
[太字]______清々しいまでにもう、『 神様のくそったれ 』って感じだった。[/太字]