全部上書きして【Lier's world】
夕凪「............。」
着いた扉の内側、もう何もない[漢字]亡骸[/漢字][ふりがな]なきがら[/ふりがな]のそばに彼は花束を置いた。
夕凪「.............」
[小文字]夕凪「[太字]______来世は幸せに生きてくれますように[/太字]」[/小文字]
『来世』.........そもそもそれが存在するかすらも分からないのに。
やはりヒトと言うものは、そう言った迷信を都合よく信じて醜く生きる、人格を宿すだけの『器』に過ぎないと感じる。
夕凪「..........」
ぴったりと合わせていた2つの手のひら、それと5本ずつの指。
それらをゆっくりと抱きしめるように両手を組んだ。
その後ろ姿は、何かを背負っているようでどうも切なくて。
その瞳は、曲がることのない意志を美しく、鮮明に映していて。
その心には、胸の内に秘めた彼なりの正義の形が[漢字]象[/漢字][ふりがな]かたど[/ふりがな]られていた。
[太字]______彼は変わっていた。[/太字]
彼の[漢字]それ[/漢字][ふりがな]器[/ふりがな]に注がれていくモノが変わっていた。
どこか憑き物でも落ちたようだった。
[太字]彼の小さく発した言葉に俺は、『知らないという幸せ』を知った気がした。[/太字]
[水平線]
夕凪「......そう言えば、その花束どこにやるんだよ」
朝露「.........そいつの墓に置いとく。本当はそいつが死んだ場所にでも置いときたかったけど、生憎場所が分かんなくてさ」
夕凪「.........そいつ、名前とかは?」
朝露「名前............何だったかなぁ。」
本当は知ってる。
今まで生きてきて忘れたことなんて1秒たりともない。
............いや、さっきのはやっぱり嘘かもしれない。
忘れたことの一度くらい、きっとどこかにあるはずだ。
朝露「............もう随分と名前聞いてないから覚えてないかもしんないわ。」
だから伝えたって『どうしようもない』からこうやってヘラヘラして取り繕ってる。
[太字]『今』が壊れさえしなければ、俺はそれだけで良かったから。[/太字]
火花散る剣戟、飛び交う魔法。
命すら蘇らせる神秘の霊薬。
人間同士の闘争がどこかで起きていて、もしかしたら中には種族を超えた友情もあるかもしれない。
俺も夕凪も、どこかの人にとってなら決して体験し得ないであろう世界観の中で生きている、れっきとした一人の人間だ。
[太字]______だからこそ、『[漢字]こんな世界[/漢字][ふりがな]ファンタジー[/ふりがな]』で済ませられる話ではなかったんだ。[/太字]
朝露「...............」
俺は[太字]『朝露 庵』[/太字]なんだ。
ただ、一面に広がる殺風景な墓地の世界を前に、その意思は歪んでいくのだった。