全部上書きして【Lier's world】
ツンとするその異臭すらも気に留めず、変わり果てた彼の姿を見ている。
肉塊、と呼んでも、見るからにその身体に肉体と呼べるものはないに等しかった。
添えられた程度にしかついていない肉体から骨の形がクッキリと目に見えている。
その痛々しい現実から目が離せなかった。
[太字]こちらに必死で伸ばすその左手を前にして、何も思わないなんてできなかった。[/太字]
胸が痛む。
視界が滲む。
『現実』というどうしようもない刃物が心を貫く。
目の当たりにした現実に吐き気すらする。
あぁ、違うんだ。
泣きたいんじゃない。
そう思っても、涙は止まることを知らない。
それでも、頭の中で見つけた言葉に動かされて、
[太字]その日の一生懸命で笑った。[/太字]
夕凪「[太字]______ただいま。[漢字]帰ってきたよ[/漢字][ふりがな]迎えに来たよ[/ふりがな]。[/太字]」
[太字]______今度こそ、その場から『おかえり』が帰ってくることはなかった。[/太字]
[水平線]
朝露「............」
開けっぱなしの窓から風が吹き込む。
伸びている右目側の髪がなびいて、そろそろ腰まで伸びる三つ編みがなびく。
[太字]............まるで昼空が夕焼け空を呼ぶように。[/太字]
朝露「.........もう夕方か」
ゴーン、ゴーンと壁掛けのアンティーク時計が音を鳴らす。
時間は夕方時と言うには少し早く、昼時と言うにも少し遅く、そんな時間だった。
おやつ時だと自己詠唱してラムネ味の棒付きキャンディーを口に突っ込む。
............何だかカルピスの味がした。
多分見た目が白いからだろう。
それを身体の手前の歯で噛んだ。
[太字]______いつかこの[漢字]縁[/漢字][ふりがな]えにし[/ふりがな]に『友情』なんて名前で呼べなくなると分かっているから。[/太字]
...............ポケットに入っていると分かっている、ぶどう味のキャンディーに手をかけた。
[水平線]
夕凪「.........待った?」
朝露「そりゃもちろん待った。今来たわけじゃあるまいし。」
夕凪「分かってるよそんなん。冗談冗談」
目の辺りは赤くなっていた。どうせ泣いたんだろうな。
朝露「ティッシュいる?」
夕凪「いらない、出たの涙だけだしもう出ねーよ」
右手を胸元に添えて、控えめに笑っている彼に未練はもう残っていないようだった。
朝露「............開けるよ」
夕凪「ん、分かった」
ギィ......と黒板を引っ掻くような音に似た、少し耳障りな音が一瞬鳴ったと同時に、
[太字]『 ありがとう 』[/太字]
[太字]確かにそこに、終わりの言葉が聞こえた気がした。[/太字]