全部上書きして【Lier's world】
今日も夢を見る。
夢の中にいれば、今までの苦しかったことを思い出すが、すぐそれは忘れられる。
prrrr.........
「______お兄ちゃん今日も来てくれたんだね! 何して遊ぶ?」
「............別に、お前が遊びたいことなら何でもいいよ。」
「本当!?じゃあ............」
願うことならば、ここからずっと覚めないでほしい。
prrrr.........
「お兄ちゃん!」
「どうした?」
「今日はヒーローごっこしたいな!」
「ん、いいよ」
赤い扉の向こう側の音が強くなる。
嫌だ、覚めたくない。
prrrr.........
prrrr.........
「っは、!?」
バサッ
prrrr..........
「............電話、」
着信した電話の画面。電波の届け先には『生階 朱肉』と出ている。
多分、何分も前から電話をかけ続けているだろう。
これがありがた迷惑......なのだろうか。
その電波受信に応答する。
「______もしもし、」
『あ、やっと出た.........夕凪先生、......だよね』
いつものような肯定感のなさそうな少し弱気な声が、確かに電子板から聞こえる。
「.........あぁ......何かあったか?」
『えっと.........夏祭さんがこっちに来てるんですよ。いつもの所。』
夏祭と言うと、春喰の義理のお兄さん的な和服の人............。
「.........夏祭が?」
俺はその人のことを、よく覚えている。
『はい。"水晶体事変" の事も含めて話がしたいって.........』
水晶体事変...........独自に何かしら調べていたんだろうか。
そうだとしたらそれはこちらとしても聞いておきたいというのはある。
「.........分かった。ただそっちに着くまでに時間はかかるってのは伝えといてくれ」
『......分かりました。でも別に焦らなくてもいいですからね、僕ら逃げたりするわけじゃないし』
「.........分かった。」
『......じゃあ、切りますね』
そう言われた2、3秒の余白の後に、
ピッ
と音が鳴って通話が切れた。
ちょっとだけ待って電話を切るのが何とも朱肉らしかった。
朝露なら速攻で切ってる。
余計なことを考えて本音をごまかす。
「...............」
「.........そんな事くらいなら、もう少しは夢見させてくれよ」
ただ意味はない。
自分の本音を、無視して生きるなんてできないんだ。
『 夢を見たい 』と言うのも嘘じゃない。
でも何より『 自分だけ何も変わっていない 』のを目の当たりにするのが怖い、という方が言葉としては当てはまっていた。
「ニャーン.........」
「............ごめんなわさび、俺準備しなきゃいけないんだ」
「............心の準備」
「.........ニャーン」
猫は寂しげに瞳を揺らした。
第6章「扉の向こう側の夢」 開幕